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一章 リアーデ編

24 昇格祝 と 急な決意

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 クリスパさんが居ないなんて珍しい。
 ギルドの仕事で出てるのか、それともココット亭に行ったのかな? ココット亭に戻って、キッシュに聞いてみようと思う。

「お帰りカズ。今日の依頼は、終わったのかい」

 店に入って居たのは、女将のココット一人だけで、キッシュが見あたらなかった。

「女将さん、ただいま帰りました。キッシュは居ないんですか?」

「ああ。ちょっと忘れた物を、買いに行ってもらってるのさ」

「夕方に居ないなんて、変な感じですね」

「なんだい、キッシュが居ないと寂しいのかい」

「そうかも知れないですね。あの元気な声で挨拶されると、こっちも元気になりますから」

「そいつは店としても、母親としても嬉しいよ。キッシュにも、伝えておかないと」

「俺が言ったとは、言わないでください」

「なんで、良いじゃないか。キッシュだって喜ぶよ」

「恥ずかしいので、内緒にしてください」

「恥ずかしいって、そんなんじゃあいつまで経っても、独り身のまんまだよ」

 ぐはッ! 女将さん痛いところを、思いっきり突くな! たしかに今は24歳だけど、実際の中身は39歳だからな。

「女将さん、キツいなー」

「夕食までは部屋で休んでな。時間になったら呼びに行ってやるよ」

「はい。お願いします」

 俺は部屋に行き、夕食までのんびりすることにした。
 クリスパさんも、ブレンデッドさんも、魔法は『想像して創造する』とか言っていたけど、俺の場合は魔法だけとは限らないんだよな。
 自分自身の能力が予想以上だと、訓練場でわかったからな。
 これは、Dランクになるまでここに居ると、皆に甘えてばかりになってしまう。
 クリスパさんに、もう街を出ようかと考えてると話すか。

 そのとき部屋の扉が叩かれてれた。

「カズさん居ますか?」

 呼ばれたので扉を開けると、そこにはキッシュが居た。

「あれ、キッシュ帰ってきたんだ」

「はい。ついさっき戻って来たんです。もうすぐ夕食なので、食堂に来てください」

「分かった。すぐ行くよ」

 食堂に行くと、そこにはクリスパも居た。

「クリスパさんも居たんですか。ギルドの受付に居なかったから、どこかに出掛けたのかと」

「今日はキッシュとお買い物してたの」

「ああそれでキッシュも居なかったのか」

「えへへ、お母さんにも言って、内緒にしてもらったの」

「内緒?」

「それじゃあ、始めましょうか。キッシュ」

「うん。始めようクリ姉」

「二人とも何を始めるの?」

「カズさん、Eランクへの昇格おめでとう!」

「カズさん、おめでとう!」

「え! その為に買い物に行ってたの」

「そう。昨日クリ姉が来た時に、カズさんが、Eランクに昇格するって聞いたもんで、お祝いしようって言ったの」

「わ、私は、Eランクに昇格するぐらい誰でもなれるから、しなくてもいいって言ったんだけど、キッシュがどうしてもって」

「クリ姉だって最近迷惑かけてるから、お詫びもしたいって、言ってたじゃん」

「キ、キッシュ。余計なことは言わなくていいの! わ、私はただ師匠に言われたから、別に良いかと思っただけよ」

 クリスパさんは、ツンデレ属性でもあるのか。

「ブレンデッドさんが、なんか言ってたんですか?」

「カズさんが急ぎの依頼や、追加依頼を引き受けてくれたから、ギルドの印象が良くなったから、何かお礼してやれって」

「新人ですから、頼まれたことをやっただけですけど」

「前も言ったけど、冒険者なんて実力が有ってもなくても、態度が大きいだけの連中ばかりだから、評判は良くないのよ。カズさんはどんな相手でも、丁寧に相手してくれるから良いの」

 ただ臆病だから、怒らせない様に受け答えしてるだけなんだけどな。

「大したことはやってないと、思ったんですが」

「カズさんは、もうちょっと欲を出しても良いと思うの。だから強気でどんどん行きなさいよ!」

「まぁまぁクリ姉、今日はカズさんのお祝いなんだから」

「そうだったわね。今日は私の奢りよ、遠慮しないで飲んで食べて」

「ありがとうございます。キッシュもありがとう」

 今夜はいつも以上に楽しい食事だった。
 さすがに、こんな楽しい最中街を出る話なんかできないな。
 こんなことをしてくれるから、より一層急いで街を出ようと俺は決意した。


 ◇◆◇◆◇


 翌日もキッシュと女将さんに挨拶をして、朝食をすませたら、ギルドへと向かう日常。
 ギルドに着き、受付が多少混んでいたので、壁に貼ってある依頼書見に行き、Eランクへの昇格を果たしたので、一つ上のDランク依頼を見ていると、気になるのを見つけた。


ーーーーーーーーーー


『シャルヴィネ商会』
・長距離の運搬 目的地『大都市アヴァランチェ』 出発日 二日後  金貨二枚

『シャルヴィネ商会』 
・長距離の護衛 目的地『大都市アヴァランチェ』 出発日 二日後  金貨四枚


ーーーーーーーーーー


 シャルヴィネ商会……!? あ! この街に来た時に、着ていた服を買い取って、この服を売ってくれた人の店か! これは渡りに船だな、さてどうするか……。
 先に話を聞きに『シャルヴィネさんの服屋』に行って見るか。
 また『相談もしないで』ってクリスパさんに怒られそうだな。
 シャルヴィネさん、俺のこと覚えるかな?


 カズはさっそくギルドを出て、以前行った服屋へと向かう。
 服屋に着くと中に入り、店員の人にシャルヴィネを訪ねた。

「いらっしゃいませ。今日は、どのような服をお探しで?」

 挨拶してきたのは、女性の店員だ。

「いえ、服ではないんです。突然申し訳ない、シャルヴィネさんは居ますでしょうか? 以前に服を買い取ってもらった、カズと申しますが」

「カズさまですか。少々お待ちください」

 女性の定員が、店の奥へと入って行った。

「これはカズさん、お久し振りです」

 店の奥から、シャルヴィネが出てきた。

「突然で申し訳ないです」

「今日はどうしましたか? また珍しい服を、持って来てくれたのですか?」

 服か……まだあるがどうする、話の流れで出して印章付けるか……いや、やめておこう。

「実は冒険者ギルドで、依頼を見たんですが、可能であれば、依頼の内容を聞ければと」

「カズさんは、その依頼を受けたのですか?」

「今はまだ受けていませんが、俺も大都市へ行くつもりでして、それで依頼を受けようかと思ってます」

「なるほど。申し訳ないですが、依頼を受けていない方に、内容を話すことはできません」

「やはりそうですか。ただ依頼書に書いてあった依頼人を見て、人違いじゃないか気になりましたもんで。突然申し訳ありませんでした」

「カズさんの噂は聞いていますから、怪しいことを考えてるとは思っていません。しかしお話しできないのは、決まりですから」

「分かっています。無理を言ったのは、こちらですから。ご迷惑をおかけしました。あと、噂とは何ですか?」

「おや、ご存じないんですか? 謙虚な新人の冒険者が、急な依頼や追加の依頼を、嫌な顔をせずに対応してくれて、冒険者ギルドの評判が上がっていると」

「そんな噂があるんですか!」

「そうなんですよ。なので、カズさんが、私の依頼を受けて頂ければ、こちらとしてもありがたいです」

「ギルドに戻って、依頼を受けることができましたら、そのときはよろしくお願いします」

「はい。ではまた、ご縁がありましたら」

 シャルヴィネの服屋を出て、ギルドへと向かう。
 ギルド近くで、ギルマスのブレンデッドが居たので、話をすることにした。

「ブレンデッドさん、こんにちは」

「やぁカズ君。元気かい」

「はい元気ですよ。それでブレンデッドさんに、聞きたいことがあるんですけど」

「オレにか。分かることなら、答えようじゃないか」

 それからブレンデッドに『大都市アヴァランチェ』のことを聞いた。
 都市の大きさは? 都市の冒険者はどんなものなのか? ここから距離は? 街の物価は、などを聞いた。
 そうすると、不思議そうに聞き返してきた。

「なんだカズ君は、アヴァランチェに行きたいのか?」

「実は今アヴァランチェに行く依頼が出てまして、それを受けようかと。そして丁度良いので、このまま街を出ようと思いまして」

「急だな。なぜだ? Eランクに上がったばかりで、これからじゃないのか?」

「この街に居ると、皆に甘えてしまい、目的から遠退きそうで」

「そうか、カズ君自身が決めたことなら、オレは良いと思うが、クリスパには言ったのか?」

「いいえ。昨日の夜に決心したばかりで、クリスパさんにはこれから話すつもりです」

「ならばクリスパが承知したら、もう一度オレの所へ来てくれ」

「分かりました。報告に伺います」

 ブレンデッドと話を終えて、ギルドに戻どる。
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