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一章 リアーデ編
12 訓練 2 魔法適性 と 初めての魔法
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「魔力操作とソーサリーカードの使い方は、こんなところですかね。あとは、ご自分で色々なカード試してみてください」
「次は魔法を使ってみましょう。では、こちらに来てください」
クリスパに案内され、塀の一部が頑丈そうになっている前に案内された。
「この水晶玉を持ってください」
「水晶玉? これは何に使うんですか?」
クリスパがゴルフボールくらいの水晶玉を、カズに渡した。
「魔法の適性を調べるための、魔法道具です。『魔道具』などと呼ばれています」
「魔道具……さっきの紙風船も魔道具になるんですか?」
「あれは私の魔力を込めた、ただの紙風船ですから、魔道具とまでは呼べる品物ではないです」
「そうですか。それで、この水晶玉をどうすれば?」
「利き手とは反対の手で水晶玉を持ってください。そうしたら……そうですね、先程使ったソーサリーカードを思い出して『火系統』を使えるかやってみましょう。先ずは先程カードから出た『火』をイメージして……そのまま水晶玉を見てください」
「水晶玉が『赤く』なってる!」
「それは『火系』の魔法適性があるということです」
「今度は利き手を前に出し『火の玉』をイメージして、魔力を込めてみてください」
カズは言われたとおり、利き手である右手を前に出し、火の玉をイメージして魔力放出した。
すると拳大の火の玉が出た。
「えっ……次はその火の玉を、塀に向かって飛ばしてください」
カズは石を投げたときのスピードをイメージして、火の玉を飛ばした。
火の玉は真っ直ぐ飛んで、塀に当たり燃え上がった。
塀には黒く焦げ痕がついた。
「凄いです。ファイヤーボールと言われる基本の攻撃そのままです」
「おぉ! (ファイヤーボール。これぞ魔法の世界に来たって感じだ!)」
「今の要領でイメージして、今度は水を塀に向かって、出し続けてみてください」
カズは高圧洗浄機をイメージして、魔力を放出する。
すると水晶玉は『青く』変わった。
「これはまた凄いです! 若干細いですが、この水の勢いはまさにウォータージェット!」
「あれ? そういえば、魔法を使うときに『魔法名』や『呪文詠唱』は必要ないんですか?」
「そのことなんですが『魔法名』に関しては、魔法を使うときに言葉にしないと、通常は発動しないです。今やってもらったのは『魔法ではありません』適性を見るために、魔力をイメージして、火や水に変化させただけです」
「魔法ではない? イメージして変化?」
「はい。私は魔法適性があるか無いかを調べると言っただけで、これが魔法とは一度も言ってません」
「そういえば……あ! 言ってない」
「本来は『指先ほどの火の玉』に『コップに水をそそぐ程度の水』しか発現しないんですけど……カズさんはかなりの『想像力と魔力量』があると思われます」
妄想力ならある、魔力量は桁が違うからまずい、誤魔化せるか?
「たまたまですよ。加減が分からずに、多く魔力が出ただけですよ」
「……そうでしょうか?」
「それより『呪文詠唱』の方はどうなんですか?」
「『呪文詠唱』に関しては、現在では使われていません。古い書物や文献に書かれていて、数百年前までは、使われていたと聞きます」
「何で使われないようになったんですか?」
「そうですね……一つは『詠唱に時間が掛かってサポートなしでは戦いにくく、連発ができない』もう一つは『強大な威力を必要としなくなった』ですかね」
「強大な威力ですか?」
「呪文を詠唱しますと、大気に満ちている魔力の素となる『魔素』を取り込んで、魔法の威力や、効果を上げることができると聞きます」
「現代では世界の驚異となる『魔王』などの『厄災』はないために、そこまでの威力を必要としたくなったそうです」
「以前に魔王が居たんですか?」
「数百年前に居たそうですが『異世界より勇者を召喚』して、世界中が一団となって『魔王率いる魔族』と戦ったと、おとぎ話にもなっています」
数百年前……『勇者召喚』……あいつ(チャラ神)そんなことを、なんにも言わなかったじゃないか!
この世界を管理する前だからか? 前の管理神から聞いてないのかよ!
遺跡や古代の遺物(アーティファクト)を調べる必要があるな! よし、目的が見えてきた。
「呪文の詠唱のことは分かりました。それより今度は、ちゃんと魔法を教えてください」
「カズさんが聞いてきたんじゃないですか。とりあえず火と水の適性があるのは分かりましたから、あと基本の『風 土 光 闇』を自分で思い浮かべて、やってみてください」
クリスパさんの機嫌を、悪くさせたかな?
「どうしました! さぁ、やってみて!」
「は、はい」
右手から風を吹かせる。
土? 土は……砂でいいか、手から砂を出す。
光は、光玉を出して辺りを照らす。(昼間だから意味がない)
最後に闇……黒い靄でも出してみるか。
それに応じて、カズが持つ水晶玉が『風=緑、土=茶色、光=白、闇=黒』と色を変えた。
何だかんだと一通りできたので、クリスパさんに尋ねた。
「どうですか?」
「カズさん……本当に魔法使ったことないんですよね?」
「ないですよ。ないから教わってるんですが、何か変ですか?」
「変です! どうしてそんな簡単にできるの? しかも全部! 通常以上に!」
クリスパがカズに凄い詰め寄る。
「と、言われましても……ち、近いです」
「は! 失礼しました。まぁいいです。この話は、今度ゆっくり聞かせてもらいます」
聞かせられる訳がないよ。
どうする? どうする……何も思いつかない。
「では、標的を塀から向こうの岩に代えて、魔法を使ってもらいます。水晶玉はもういいので預かります」
少し離れた塀の近くに、2mほどの岩が置いてある。
「あの岩に向かって、カズさんの思うようなファイヤーボールを使ってみてください。あれなら欠けても問題ないですから。本当は初心者の場合、的がさっきの塀でも十分なんですが」
「はい(試されてるよ明らかに。……手じゃなくて、指先から放てば威力が落ちるだろう)」
「的を見据えて、ファイヤーボールと唱えてください。さぁどうぞ!」
「分かりました(仕方ない当たって砕けろだ!)」
カズは右手を軽く開いて前に出し、手から放つと見せかけて、人差し指から火の玉を放つイメージをした。
「〈ファイヤーボール〉」
指先から出た火の玉は、もの凄い勢いで標的にぶつかった。
ドッカァーンと激しい音とともに、ぶつかった岩の上部が、粉々に吹き飛んだ。
「うわっ! (なんじゃこりゃ本当に砕けてどうすんだよ! さっきの魔力だけのときと、威力が段違いじゃないか。指先から軽く放っただけなのに『魔法名』を唱えると、こんなに違うのか?)」
「ちょっとカズさん! どれだけ魔力を込めたんですか! 岩が粉々になるなんて」
「あ、いや、その……初めて魔法だったので、つい力が入ってしまったと言うか……」
「本当ですか? その割りには、なんともなさそうですが!」
「へ?」
「初めての人が、あれだけ高威力の魔法を使ったのに、魔力切れも起こさず、ふらつきもしないなんて……な・に・か隠してますね!!」
まずい! スキルいや、伝説のスキル『女の勘』が出た!!
「ほらほらどうしますかカズさん。今の大きな音で、他の職員達も来てしまいますよ。もしかしたらギルマスも来るかも」
「うぅあぁいやぁその……分かりました! お話ししますから、なんとか誤魔化してください。お願いします」
「フフフっ。良いでしょう『言質』取りましたよ」
「はっ(やられた!)」
カズは膝から崩れ落ちた。
そのとき扉から数人の職員が様子を見に出て来た。
「どうしたの?」
「凄い音したけど?」
「何かあったの?」
「暴発? 事故?」
「ああ大丈夫。私がちょっと本気で魔法を放っちゃって、岩を壊しちゃただけだから」
「もうクリスパったら、訓練に気合い入れ過ぎ」
「気を付けてよ」
「ごめんね。みんな仕事に戻って」
クリスパがなんとか誤魔化してたので、大事にならなくてすんだ。
「まったく、この貸しは大きいですよ! 訓練用の岩も、また用意しとかないと」
また、貸しが増えたよ。
「さて、ここを片付けたら、色々とお話し聞かせてもらいましょうか!」
「それがこのあと、ちょっと用事がありまして…」
「逃げますか!?」
「そうではないんですが、今泊まっているココット亭という宿の、手伝いを頼まれてまして」
「……ココット亭…すぐに終わるんですよね」
「終わります。荷物を運ぶだけですから」
「では私もその宿で一緒に夕食も頂いて、その後で、お話しを聞かせてもらうことにしますか」
「えっ!」
「今日の訓練をしてあげた分の貸しです。もちろんカズさんの奢りで」
「宿の人に、かくに…ん…」
「な・に・か?」
「わ、分かりました」
「それでは、私は仕事がありますから、終わったら宿の方に行きますね」
そう言い終わると、クリスパはギルドの奥に入って行き、カズはギルドを出て、約束の鍛冶屋へと向かった。
クリスパさん強引だな。
さて、どうしよう? ステータスをそのまんま見せるわけにもいかないし。
いや、これは賭けでクリスパさんにだけは教えて、情報をこちらに流してもらうってのはどうかな?
う~ん、そこまで信用して良いのか? サブマスだからギルドを通じて、ステータスが各街のギルマスに、漏洩するかも知れないし……どうしよう。
「おーい。おぉーい。カズさーん」
「ん!」
カズは考え事をしながら歩いていたら、鍛冶屋を通り過ぎていた。
先に来ていたキッシュが、カズを呼び止める。
「どこまで行くつもりなの?」
「ごめんごめん。考えごとしてたもんで」
「お鍋直ったみたいだから、宿までお願い」
カズは鍛冶屋に入り鍋を受け取ると、人に見つからないように【アイテムボックス】に入れた。
「それで、何をそんなに考えてたの?」
「あ、ちょっとね。そうだ! 今日の夕食もう一人分用意できるかな? 食材が足りないなら買って行くけど」
「それは大丈夫だと思いうけど、誰か来るの? お友達?」
「今日ギルドで訓練をしてくれた人に、お礼に食事をご馳走するんだけどさ」
「それなら、どこかのレストランか、酒場の方が良いんじゃないかな?」
「相手の人がさ、宿の食堂で良いって言ってたから。それに俺この辺のことまだ知らないし」
「そうか。なら早く宿に戻って、お母さんに伝えないと」
キッシュにそう言われ、二人は急いでココット亭に戻り、女将のココットに伝えたら引き受けてくれた。
夕食代は、キッシュの手伝いをしたことでチャラになった。
しかも他のお客さんは外で食事をするとのことで、食堂は貸切状態だ。
「女将さん、イノボアの肉が残ってたら、後で来る人に出してもらえますか? 俺はいいので」
「良いのかい?」
「はい。お願いします」
「分かったよ」
「ねぇお母さん、私の分はある?」
キッシュは自分の分があるか、心配している。
「食べ物のことになると、すぐこれだよ。安心しな、あんたの分はしっかりとってあるから」
「プフッ」
「あ! カズさん、何笑ってるんですか!」
「いや、食いしん坊のキッシュらしいなって」
「もぉ、カズさんまで……」
頬を膨らめふてくさって、まったくキッシュは素直でかわいい娘だな。
こんなこと恥ずかしくて、口に出して言えないけど。
そうだ! お礼に夕食をご馳走するなら、お酒を出した方が良いかな? 女将さんに聞いてみるか。
「女将さん、夕食に合うお酒ありますか?」
「イノボアの肉に合いそうなのかい? うちに酒はあまり置いてないんだよ」
「それじゃあ、どこか売ってる所ありますか?」
「少し先に酒屋があるから、そこで買って来ると良い。キッシュ案内してあげな」
「ブー」
「ふてくさってないで、頼むよキッシュ」
「ほれ行っといで仕事だよ!」
「分かりました。行きますよカズさん」
カズはキッシュと一緒に酒屋へ向かう。
思ったより近くにあり、イノボアの肉に合いそうなお酒を店の人に頼んだ。
すると果実酒を持ってきた。
「キッシュ機嫌直して」
「別に私は食いしん坊ですから!」
カズは追加で甘い果実ジュースを買って、帰り道でキッシュにジュースを渡す。
「はいこれ、お詫びと酒屋まで案内してくれたお礼」
「え! 良いの?」
「機嫌直った?」
「物で釣ろうなんて……私は…」
「そうか、物で釣ろうだなんてズルいか。じゃあこれは、追加で作ってもらう夕食のお礼に、女将さんに渡そうかな」
「お母さんもジュース好きだから、一人で全部飲んじゃう。だからそれ私がもらう」
キッシュが慌てて、ジュースの入った紙袋をカズから受け取った。
本当はジュース二本買って、一本だけキッシュに渡したんだけど、ナイショにしたらまた怒るかな。
「慌てなくても大丈夫。ジュースは二本買ったから」
「もぉ、またからかって」
「機嫌直って良かったよ」
キッシュの機嫌が直ったところで、ココット亭に着いたので、食堂にいる女将さんに、お礼のジュースとお酒を渡した。
お酒は料理のときに、一緒に出してもらうことにした。
「わざわざすまないね。ジュースなんて久しぶりたよ」
「気にしないで下さい。追加で一人分作ってもらうお礼です」
果実酒が銀貨二枚で、ジュース二本で銀貨一枚と銅貨六枚と、合計3,600GL思ってたより高い金額じゃなかったな。
これで喜んでもらえれば良いか。
「それじゃあ俺は、一旦部屋に戻ります。夕食の頃に下りて来ますから」
「あいよ。しっかり用意しとくから」
「お願いします」
クリスパさんが来る前に、部屋でステータスを確認しとくかな。
訓練の後でどうなったか。
ステータス確認。
【名前】: ヤマギク カズ
【年齢】: 24
【性別】: 男
【種族】: 人族
【職業】: 旅人、冒険者
【ギルドランク】: F
【レベル】: 160 《MAX 999》
【力】 : 7400 《MAX 9999》
【魔力】 : 4497/4500 《MAX 9999》
【敏捷】 : 4250 《MAX 9999》
【運】 : 46
スキル
【異世界言語】【全魔法&スキル会得】
【アイテムボックス容量無限】《停止中》
【万物ノ眼】《OFF》
【ステータス画面の表示簡略化】《ON》
【気配感知】【探索 調査】【マップ】《ON》
【魔力操作】: 自分の魔力を自在に操る事が出来る。
【魔力変化】: 魔力が続く限り、あらゆる物に変化可能(但し、この世界に存在しない物と、生物は不可)
【魔法】: 【属性《火 水 土 風 光 闇》】
《火》ファイヤーボール
ステータス簡略化しても、新しいく覚えた物は、初見は説明文が出るのか?
『魔力』も使用して減った分が、分かるように表示されてる。
でも魔力操作と魔力変化、それにファイヤーボールを使って、3減っただけだなんて……魔法を使った回数だけかな?
おっと、そろそろ食堂に行って待ってるか。
「次は魔法を使ってみましょう。では、こちらに来てください」
クリスパに案内され、塀の一部が頑丈そうになっている前に案内された。
「この水晶玉を持ってください」
「水晶玉? これは何に使うんですか?」
クリスパがゴルフボールくらいの水晶玉を、カズに渡した。
「魔法の適性を調べるための、魔法道具です。『魔道具』などと呼ばれています」
「魔道具……さっきの紙風船も魔道具になるんですか?」
「あれは私の魔力を込めた、ただの紙風船ですから、魔道具とまでは呼べる品物ではないです」
「そうですか。それで、この水晶玉をどうすれば?」
「利き手とは反対の手で水晶玉を持ってください。そうしたら……そうですね、先程使ったソーサリーカードを思い出して『火系統』を使えるかやってみましょう。先ずは先程カードから出た『火』をイメージして……そのまま水晶玉を見てください」
「水晶玉が『赤く』なってる!」
「それは『火系』の魔法適性があるということです」
「今度は利き手を前に出し『火の玉』をイメージして、魔力を込めてみてください」
カズは言われたとおり、利き手である右手を前に出し、火の玉をイメージして魔力放出した。
すると拳大の火の玉が出た。
「えっ……次はその火の玉を、塀に向かって飛ばしてください」
カズは石を投げたときのスピードをイメージして、火の玉を飛ばした。
火の玉は真っ直ぐ飛んで、塀に当たり燃え上がった。
塀には黒く焦げ痕がついた。
「凄いです。ファイヤーボールと言われる基本の攻撃そのままです」
「おぉ! (ファイヤーボール。これぞ魔法の世界に来たって感じだ!)」
「今の要領でイメージして、今度は水を塀に向かって、出し続けてみてください」
カズは高圧洗浄機をイメージして、魔力を放出する。
すると水晶玉は『青く』変わった。
「これはまた凄いです! 若干細いですが、この水の勢いはまさにウォータージェット!」
「あれ? そういえば、魔法を使うときに『魔法名』や『呪文詠唱』は必要ないんですか?」
「そのことなんですが『魔法名』に関しては、魔法を使うときに言葉にしないと、通常は発動しないです。今やってもらったのは『魔法ではありません』適性を見るために、魔力をイメージして、火や水に変化させただけです」
「魔法ではない? イメージして変化?」
「はい。私は魔法適性があるか無いかを調べると言っただけで、これが魔法とは一度も言ってません」
「そういえば……あ! 言ってない」
「本来は『指先ほどの火の玉』に『コップに水をそそぐ程度の水』しか発現しないんですけど……カズさんはかなりの『想像力と魔力量』があると思われます」
妄想力ならある、魔力量は桁が違うからまずい、誤魔化せるか?
「たまたまですよ。加減が分からずに、多く魔力が出ただけですよ」
「……そうでしょうか?」
「それより『呪文詠唱』の方はどうなんですか?」
「『呪文詠唱』に関しては、現在では使われていません。古い書物や文献に書かれていて、数百年前までは、使われていたと聞きます」
「何で使われないようになったんですか?」
「そうですね……一つは『詠唱に時間が掛かってサポートなしでは戦いにくく、連発ができない』もう一つは『強大な威力を必要としなくなった』ですかね」
「強大な威力ですか?」
「呪文を詠唱しますと、大気に満ちている魔力の素となる『魔素』を取り込んで、魔法の威力や、効果を上げることができると聞きます」
「現代では世界の驚異となる『魔王』などの『厄災』はないために、そこまでの威力を必要としたくなったそうです」
「以前に魔王が居たんですか?」
「数百年前に居たそうですが『異世界より勇者を召喚』して、世界中が一団となって『魔王率いる魔族』と戦ったと、おとぎ話にもなっています」
数百年前……『勇者召喚』……あいつ(チャラ神)そんなことを、なんにも言わなかったじゃないか!
この世界を管理する前だからか? 前の管理神から聞いてないのかよ!
遺跡や古代の遺物(アーティファクト)を調べる必要があるな! よし、目的が見えてきた。
「呪文の詠唱のことは分かりました。それより今度は、ちゃんと魔法を教えてください」
「カズさんが聞いてきたんじゃないですか。とりあえず火と水の適性があるのは分かりましたから、あと基本の『風 土 光 闇』を自分で思い浮かべて、やってみてください」
クリスパさんの機嫌を、悪くさせたかな?
「どうしました! さぁ、やってみて!」
「は、はい」
右手から風を吹かせる。
土? 土は……砂でいいか、手から砂を出す。
光は、光玉を出して辺りを照らす。(昼間だから意味がない)
最後に闇……黒い靄でも出してみるか。
それに応じて、カズが持つ水晶玉が『風=緑、土=茶色、光=白、闇=黒』と色を変えた。
何だかんだと一通りできたので、クリスパさんに尋ねた。
「どうですか?」
「カズさん……本当に魔法使ったことないんですよね?」
「ないですよ。ないから教わってるんですが、何か変ですか?」
「変です! どうしてそんな簡単にできるの? しかも全部! 通常以上に!」
クリスパがカズに凄い詰め寄る。
「と、言われましても……ち、近いです」
「は! 失礼しました。まぁいいです。この話は、今度ゆっくり聞かせてもらいます」
聞かせられる訳がないよ。
どうする? どうする……何も思いつかない。
「では、標的を塀から向こうの岩に代えて、魔法を使ってもらいます。水晶玉はもういいので預かります」
少し離れた塀の近くに、2mほどの岩が置いてある。
「あの岩に向かって、カズさんの思うようなファイヤーボールを使ってみてください。あれなら欠けても問題ないですから。本当は初心者の場合、的がさっきの塀でも十分なんですが」
「はい(試されてるよ明らかに。……手じゃなくて、指先から放てば威力が落ちるだろう)」
「的を見据えて、ファイヤーボールと唱えてください。さぁどうぞ!」
「分かりました(仕方ない当たって砕けろだ!)」
カズは右手を軽く開いて前に出し、手から放つと見せかけて、人差し指から火の玉を放つイメージをした。
「〈ファイヤーボール〉」
指先から出た火の玉は、もの凄い勢いで標的にぶつかった。
ドッカァーンと激しい音とともに、ぶつかった岩の上部が、粉々に吹き飛んだ。
「うわっ! (なんじゃこりゃ本当に砕けてどうすんだよ! さっきの魔力だけのときと、威力が段違いじゃないか。指先から軽く放っただけなのに『魔法名』を唱えると、こんなに違うのか?)」
「ちょっとカズさん! どれだけ魔力を込めたんですか! 岩が粉々になるなんて」
「あ、いや、その……初めて魔法だったので、つい力が入ってしまったと言うか……」
「本当ですか? その割りには、なんともなさそうですが!」
「へ?」
「初めての人が、あれだけ高威力の魔法を使ったのに、魔力切れも起こさず、ふらつきもしないなんて……な・に・か隠してますね!!」
まずい! スキルいや、伝説のスキル『女の勘』が出た!!
「ほらほらどうしますかカズさん。今の大きな音で、他の職員達も来てしまいますよ。もしかしたらギルマスも来るかも」
「うぅあぁいやぁその……分かりました! お話ししますから、なんとか誤魔化してください。お願いします」
「フフフっ。良いでしょう『言質』取りましたよ」
「はっ(やられた!)」
カズは膝から崩れ落ちた。
そのとき扉から数人の職員が様子を見に出て来た。
「どうしたの?」
「凄い音したけど?」
「何かあったの?」
「暴発? 事故?」
「ああ大丈夫。私がちょっと本気で魔法を放っちゃって、岩を壊しちゃただけだから」
「もうクリスパったら、訓練に気合い入れ過ぎ」
「気を付けてよ」
「ごめんね。みんな仕事に戻って」
クリスパがなんとか誤魔化してたので、大事にならなくてすんだ。
「まったく、この貸しは大きいですよ! 訓練用の岩も、また用意しとかないと」
また、貸しが増えたよ。
「さて、ここを片付けたら、色々とお話し聞かせてもらいましょうか!」
「それがこのあと、ちょっと用事がありまして…」
「逃げますか!?」
「そうではないんですが、今泊まっているココット亭という宿の、手伝いを頼まれてまして」
「……ココット亭…すぐに終わるんですよね」
「終わります。荷物を運ぶだけですから」
「では私もその宿で一緒に夕食も頂いて、その後で、お話しを聞かせてもらうことにしますか」
「えっ!」
「今日の訓練をしてあげた分の貸しです。もちろんカズさんの奢りで」
「宿の人に、かくに…ん…」
「な・に・か?」
「わ、分かりました」
「それでは、私は仕事がありますから、終わったら宿の方に行きますね」
そう言い終わると、クリスパはギルドの奥に入って行き、カズはギルドを出て、約束の鍛冶屋へと向かった。
クリスパさん強引だな。
さて、どうしよう? ステータスをそのまんま見せるわけにもいかないし。
いや、これは賭けでクリスパさんにだけは教えて、情報をこちらに流してもらうってのはどうかな?
う~ん、そこまで信用して良いのか? サブマスだからギルドを通じて、ステータスが各街のギルマスに、漏洩するかも知れないし……どうしよう。
「おーい。おぉーい。カズさーん」
「ん!」
カズは考え事をしながら歩いていたら、鍛冶屋を通り過ぎていた。
先に来ていたキッシュが、カズを呼び止める。
「どこまで行くつもりなの?」
「ごめんごめん。考えごとしてたもんで」
「お鍋直ったみたいだから、宿までお願い」
カズは鍛冶屋に入り鍋を受け取ると、人に見つからないように【アイテムボックス】に入れた。
「それで、何をそんなに考えてたの?」
「あ、ちょっとね。そうだ! 今日の夕食もう一人分用意できるかな? 食材が足りないなら買って行くけど」
「それは大丈夫だと思いうけど、誰か来るの? お友達?」
「今日ギルドで訓練をしてくれた人に、お礼に食事をご馳走するんだけどさ」
「それなら、どこかのレストランか、酒場の方が良いんじゃないかな?」
「相手の人がさ、宿の食堂で良いって言ってたから。それに俺この辺のことまだ知らないし」
「そうか。なら早く宿に戻って、お母さんに伝えないと」
キッシュにそう言われ、二人は急いでココット亭に戻り、女将のココットに伝えたら引き受けてくれた。
夕食代は、キッシュの手伝いをしたことでチャラになった。
しかも他のお客さんは外で食事をするとのことで、食堂は貸切状態だ。
「女将さん、イノボアの肉が残ってたら、後で来る人に出してもらえますか? 俺はいいので」
「良いのかい?」
「はい。お願いします」
「分かったよ」
「ねぇお母さん、私の分はある?」
キッシュは自分の分があるか、心配している。
「食べ物のことになると、すぐこれだよ。安心しな、あんたの分はしっかりとってあるから」
「プフッ」
「あ! カズさん、何笑ってるんですか!」
「いや、食いしん坊のキッシュらしいなって」
「もぉ、カズさんまで……」
頬を膨らめふてくさって、まったくキッシュは素直でかわいい娘だな。
こんなこと恥ずかしくて、口に出して言えないけど。
そうだ! お礼に夕食をご馳走するなら、お酒を出した方が良いかな? 女将さんに聞いてみるか。
「女将さん、夕食に合うお酒ありますか?」
「イノボアの肉に合いそうなのかい? うちに酒はあまり置いてないんだよ」
「それじゃあ、どこか売ってる所ありますか?」
「少し先に酒屋があるから、そこで買って来ると良い。キッシュ案内してあげな」
「ブー」
「ふてくさってないで、頼むよキッシュ」
「ほれ行っといで仕事だよ!」
「分かりました。行きますよカズさん」
カズはキッシュと一緒に酒屋へ向かう。
思ったより近くにあり、イノボアの肉に合いそうなお酒を店の人に頼んだ。
すると果実酒を持ってきた。
「キッシュ機嫌直して」
「別に私は食いしん坊ですから!」
カズは追加で甘い果実ジュースを買って、帰り道でキッシュにジュースを渡す。
「はいこれ、お詫びと酒屋まで案内してくれたお礼」
「え! 良いの?」
「機嫌直った?」
「物で釣ろうなんて……私は…」
「そうか、物で釣ろうだなんてズルいか。じゃあこれは、追加で作ってもらう夕食のお礼に、女将さんに渡そうかな」
「お母さんもジュース好きだから、一人で全部飲んじゃう。だからそれ私がもらう」
キッシュが慌てて、ジュースの入った紙袋をカズから受け取った。
本当はジュース二本買って、一本だけキッシュに渡したんだけど、ナイショにしたらまた怒るかな。
「慌てなくても大丈夫。ジュースは二本買ったから」
「もぉ、またからかって」
「機嫌直って良かったよ」
キッシュの機嫌が直ったところで、ココット亭に着いたので、食堂にいる女将さんに、お礼のジュースとお酒を渡した。
お酒は料理のときに、一緒に出してもらうことにした。
「わざわざすまないね。ジュースなんて久しぶりたよ」
「気にしないで下さい。追加で一人分作ってもらうお礼です」
果実酒が銀貨二枚で、ジュース二本で銀貨一枚と銅貨六枚と、合計3,600GL思ってたより高い金額じゃなかったな。
これで喜んでもらえれば良いか。
「それじゃあ俺は、一旦部屋に戻ります。夕食の頃に下りて来ますから」
「あいよ。しっかり用意しとくから」
「お願いします」
クリスパさんが来る前に、部屋でステータスを確認しとくかな。
訓練の後でどうなったか。
ステータス確認。
【名前】: ヤマギク カズ
【年齢】: 24
【性別】: 男
【種族】: 人族
【職業】: 旅人、冒険者
【ギルドランク】: F
【レベル】: 160 《MAX 999》
【力】 : 7400 《MAX 9999》
【魔力】 : 4497/4500 《MAX 9999》
【敏捷】 : 4250 《MAX 9999》
【運】 : 46
スキル
【異世界言語】【全魔法&スキル会得】
【アイテムボックス容量無限】《停止中》
【万物ノ眼】《OFF》
【ステータス画面の表示簡略化】《ON》
【気配感知】【探索 調査】【マップ】《ON》
【魔力操作】: 自分の魔力を自在に操る事が出来る。
【魔力変化】: 魔力が続く限り、あらゆる物に変化可能(但し、この世界に存在しない物と、生物は不可)
【魔法】: 【属性《火 水 土 風 光 闇》】
《火》ファイヤーボール
ステータス簡略化しても、新しいく覚えた物は、初見は説明文が出るのか?
『魔力』も使用して減った分が、分かるように表示されてる。
でも魔力操作と魔力変化、それにファイヤーボールを使って、3減っただけだなんて……魔法を使った回数だけかな?
おっと、そろそろ食堂に行って待ってるか。
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※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。
※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。
おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
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だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
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罵って蔑ろにしてきやがる...。
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最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
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※小説家になろう様でも掲載しています。
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