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一章 リアーデ編

11 訓練 1  魔力操作 と ソーサリーカード

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 ◇◆◇◆◇


 コンコンコンと扉を叩く音がして、俺は目を覚ました。

「カズさん起きてますか? 入りますよ」

「どうぞ」

 キッシュが元気良く部屋に入ってきた。

「おはようございま~す。今お目覚めですか」

「おはよう。朝から元気だね。どうしたの?」

「どうしたはこっちですよ。もう朝食の時間過ぎてるのに、降りてこないから見に来たんですよ。お寝坊さん」

「もうそんな時間なの。ちょっと寝すぎちゃったな」

「朝食はカズさんの分とってありますから、食堂に下りて来てください」

「分かったすぐ行くよ」

 久しぶりに良く寝たなぁ、こっちに来てから早寝早起きで、今までは深夜アニメ見た後で寝たから、いつも起きるの昼近くだったしな。


 起きて食堂に行くと、朝食を用意してくれてあったので、一人で食事をしていたら、キッシュが向かいの席に座って話しかけてきた。

「カズさん今日もギルドに行くんですか?」

「うん。午後からちょっと用事があってね」

「じゃあ、お昼まで時間あるんですね」

「あるけど、また買い出しの手伝い?」

「お買い物じゃなくて、家(宿)で使ってるお鍋に穴があいて、お母さんに『鍛冶屋さん』に持って行って、直してもらってきてって言われたんですよ」

「それで、その鍋を持っていくのを手伝ってほしいと」

「えへへ。だって鍛冶屋さん西門の近くにあるんですよ。それにお鍋けっこう重くて。お母さんが自分で行けばいいのに」

 西門の近くか、ココット亭は中央広場より東にあるから、女の子がお鍋持って行くには距離があるか。

「まあそう言わないで、女将さんだって忙しいんでしょ」

「それはそうだけど……」

「そうだけど、なんだい」

「お母さん!」

 いつの間にか、女将のココットが食堂の入り口にいた。

「早く行かないと今日中に直らないよ」

「だって、お鍋重いんだもん」

「昨日あれだけイノボアの肉を食べたんだから、力出るだろ。お鍋直してこないと、今日の夕食用にとっておいたイノボアの肉は、あんたの分だけ無しにするよ」

「ひどーい! 私の楽しみが……」

「まぁまぁお二人とも、お鍋運ぶの手伝いますから」

「カズ甘やかさないでいいよ」

「いや、でも宿のお手伝いするって言いましたし、時間もありますから」

 食事を終えた俺は、キッシュと鍛冶屋に向かうことにした。

「さあキッシュ行こうか。鍛冶屋の場所しらないから案内してよ」

「行きましょ行きましょ。はい、これお鍋」

 テーブルに置かれた大きめの鍋を【アイテムボックス】に入れて、キッシュと一緒にココット亭を出る。

「アイテムボックスって、本当に便利ですね。カズさんが居てくれて良かった」

「キッシュ、そのことはナイショ」

「分かってます。これでも口は堅いんですよ」

 カズとキッシュは中央広場を抜けて西門に行き、壁沿いの細い道を入って行くと『トンカン』と音が聞こえてきた。

「あそこですよ。こんにちは。お鍋直してください」

 キッシュが鍛冶屋に入って行ったので、人に見られないように【アイテムボックス】から鍋を出して持っていく。

「カズさん、お鍋を」

「はいよ」

「これです。直りそうですか?」

 奥から背の低い髭モジャの人が出てきて、鍋を受け取りじっと見ている。


 あれドワーフだよな? やっぱり異世界で鍛冶仕事といえばドワーフか。(偏見かな)

「夕方にはできるから、その頃受け取りにおいで」

「それで、幾らくらいですか?」

「大したことないから、銀貨二枚(2,000GL)だな」

「もうちょっと安くなりませんか?」

「姉ちゃんしっかりしてんな。じゃあ銀貨一枚と銅貨八枚(1,800GL)でいいぞ」

「ありがとう。おじさん」

「キッシュもちゃっかり値引きするんだね」

「言うだけはタダですから、言ってみないと。それじゃ私は店に戻りますね。カズさんまた夕方お願いしますね」

「了解。その頃ここに来るよ(そろそろクリスパさんと、約束した頃か)」

 カズはキッシュと別れて、冒険者ギルドに向かった。
 冒険者ギルドも街の西側にあるため、鍛冶屋を出てからギルドに着くまで、大して時間はかからなかった。
 中に入ると、クリスパが受付に居たのでそこへ向かった。

「こんにちは」

「カズさん、来られましたか」

「お待たせしましたか?」

「いいえ、来るまでは受付の仕事をしているつもりでしたから」

「わざわざ時間をとってもらって、申し訳ないです」

「頼まれれば新人の方を鍛えるのも、ギルドのお仕事ですから」

「そうなんですか? 確か貸しにするとか言ってたような……」(ボソッ)

言いましたか?」

「い、いいえ。なんでもないです(まずい、声に出てたか)」

「ではここを入り、先にある扉の奥に行ってください。私は支度をしてきますから」

 言われたとおり進んで行くと、扉がありその奥は外だった。
 裏庭のようで、周囲は4mぐらいの塀にかこまれてる。

「お待たせしました」

「クリスパさんここは?」

「ギルドの訓練場です。と言っても、そんなに広くないですから、簡単な訓練しかできないですけど。では、始めましょうか」

「はい。お願いします」

 今日はいつもと違うな。
 受付に居る時は、眼鏡をかけて、肩より少し長い髪を下ろしてるから清楚に見えるし、でも今は眼鏡を外し、髪を後ろで束ねていて新鮮だ!

「カズさん、聞いてますか!?」

「あ、はい。なんですか?」

「もう、しっかりしてくださいよ! カズさんが頼んで来たんですから!」

「……はい。すいません」

「では、魔力操作の訓練をします。とは言っても、大抵は子供でもできることですから、難しくはないですよ。まずは『魔力を感じる』ところからやります」

「魔力を感じるですか?」

「気を楽にして、目を閉じて想像してください。体内をめぐる血液を、それに寄り添う『爽やかなに吹く風のような』又は『熱く燃え盛る炎のように』はた又『静に流れる清流の如く』」

 クリスパさん、その表現は詩人なの!?
 そんな風に言われると、逆に難しくなるよ。
 ……でも『気、潜在エネルギー、チャクラ、未知の力』を妄想…じゃなくて想像するのは得意だ! 中二病的な感じで、わくわくする。

「手で水を掬うようにして、そこから『魔力』が涌き出てくることを、想像してください」

 いつもはただの妄想なのに、今回は体の内側から『魔力』が涌き出てて来るのが分かる! 妄想じゃなく現実で。

「はい。ゆっくり目を開けて下さい」

 カズは言われたとおり、ゆっくりと目を開ける。

「どうですか、ご自分の魔力は感じることができましたか?」

「はい感じました。これが魔力ですか」

「魔力を感じることができたら、次は魔力の出力を操作しましょう。はい、これを」

 クリスパが折り畳んだ紙を、カズに渡してきた。

「それを開いて膨らめてください。割れてしまわないように、優しく息を入れてね」

 ……ゴクリ。いかん、生唾飲み込んでしまった。
 指を唇にあてて『優しく息を』なんて言うから。

「どうしたんですか? 早く紙を開いて膨らめてください」

 膨らませるって、これ……紙風船? こんな物もあるんだ。

「この紙風船を、何に使うんですか?」

「両手の手の平を上にして、紙風船を乗っけてください」

 言われた通り両手の手の平を上にして、紙風船を乗っけた。

「そのまま紙風船に向けて、ゆっくり魔力を出してください」

 魔力を出すと紙風船が動き出し、ゆっくりと浮かんだ。

「大丈夫そうですね。では、そのまま屋根の辺りまで上げてみましょう」

 出す魔力を増やし紙風船を高く上げていくが、1m程上がったところで止まり、それ以上は上らなかった。

「もう大丈夫ですから、ゆっくり下ろして、顔の前で高さを保ってみて下さい」

 今度は出す魔力を減らして、ゆっくりと下ろす。
 手から20㎝くらいの高さで浮いている紙風船を、維持するため集中する。
 高くなったり低くなったりと安定しない。

「落ち着いて。魔力をずっと出して当て続けるより、手に箱を持ち、その上に紙風船が乗っかっているように、想像してみてください」

 持っている箱に、紙風船が乗っかってる……だんだん安定してきたぞ!

「良いですね。今度は手の平を内側に向けて間隔を広げ、その間に紙風船を留めてください」

 広げてた手の間にか、どうするか……筒の両端を持って、その中に紙風船が入っていると思えば……。


 紙風船がゆっくりと下がり、広げた両手の中央で安定して浮いている。

「今度はご自分でできましたね。ではもういいですよ」

 カズは大きく息を吐き、魔力を出すのを止めた。

「今やってもらったのが『魔力を放出し続ける』と『放出した魔力を操作して固定し続ける』これにあたります」

「この紙風船は、小さい頃より魔力操作を覚えるために作られ、子供の遊び道具として使われてます。ですので、ここ数十年で魔力が微量な方でも、魔力操作ができる人が増えているんです」

「へぇ。それただの紙風船とは違うんですか?」

「使い古した紙で作った、ただの紙風船ですが、これを魔力に反応するように、私の魔力を込めただけですよ」

「そんなことできるんですか!?」

「少しコツが必要ですが、魔力操作に慣れればできます」

「途中で紙風船の上昇が止まったのは、何か原因が……」

「それはですね。見てて下さい」

 先程やったように、クリスパが紙風船を両手に乗っけて上昇させた。
 そのまま屋根よりも高い位置まで上がっていく。

「途中で止まった原因は、魔力が紙風船だけではなく、周り分散して広がってしまい、上昇が止まってしまったと思います」

「クリスパさんは分散せずに、一転集中させていると?」

「はい。でも放出する魔力量を増やし過ぎると」

 パンッと音をたてて紙風船が割れた。

「このように割れてしまいます。カズさんのとき上昇が止まったのを見て、それ以上やり続けると勢い余って同じ様に割れてしまうと思い、次に移ったんです」

「そういうことですか」

「これが基本ですね。魔力を多く出し過ぎず低く過ぎず、使い続けて慣れていくだけです。子供の頃からやっていれば、簡単なんですけど」

「そうですね……精進します」

「すぐに慣れますって。そのおかげて、ソーサリーカードが庶民でも使えるようになったんですから」

「ソーサリーカードって、俺でも使えますか?」

「魔力操作ができましたから、簡単に使えますよ。ちょうどいいので、ソーサリーカードのことも試して見ますか。少し待っててください」

 クリスパが建物の中に入って行き、その手には木板らしき物を持って戻って来た。

「これがこの街で売っているソーサリーカードで、等級はコモンになります。村人から冒険者まで、よく使うカードです」

「まずは試しに、このカードを使ってみましょう」

 クリスパはカズに、1枚のカードを渡した。
 渡されたカードには『火の絵』が書かれている。
 ココット亭で女将のココットが使っていた物と同じ木板のカードだ。(10㎝×8㎝厚さ1㎝程の大きさ)

「カードの下部分に色が付いていますね。そこを持って魔力を流すと」

 カードの上部辺りから火が出て来た。
 『蝋燭の火』くらいの大きさだ。

「このように、カードに込められた効果が現れます。主にノーマル以下のカードは、一般の方でも危なくないように『魔力を流す所』と『効果が現れる所』に印がしてあります」

「本当だ。火が出た所に『丸い印』がしてあるんだ」

「ではカズさんもやってみましょう」

「はい」

 クリスパがやったように、カズはカードの下部分を持って魔力を流す。
 するとカードの上部にある印から火が出たが、クリスパが使ったときより大きな火が出た。

「同じカードでも、物によって火の大きさが違うのですか?」

 カズが質問している間に、持っていたカードは火が消えて『崩れ消滅』してしまった。
 クリスパのカードは、まだ火が出ている。

「カードは同じ物ですが、流した魔力量によって効果が変わったんです」

「カードが同じでも違う?」

「カードに含まれてる魔力量は同じでも、次のようにかわります。流した魔力量が『多い』と、それに応じて強く効果が発揮しますが『短く』すぐに効果が切れます。そして流した魔力量が『少ない』と、効果は弱いですが『長く』続きます」

 ふむふむ『多いと短く』『弱いと長く』か、一枚のカードでも、その時に応じて使い分けれるか。
 だから魔力操作は、子供の頃からやって慣れてた方が良いと。

「ただし『カード自体の耐久力』を越える魔力を流すと消滅しますし、弱すぎると何もおきません」

「クリスパさん、効果を発揮しているカードを、途中で止めて再利用することはできないんですか? 例えば今回の火を出すカードの場合だと、途中で火を消して次また使うとか?」

「一般的に使用されているカードは、ランクが低いノーマル以下なので、カードを使用した時点で消滅は確定してます。例え効果を途中で止めることができても、確定しているので、消滅することは変わりません」

「ランクが高いカードであれば、何度も使えるんですか?」

「どうでしょうか? 素材が稀少な金属等の物でしたら、カード1枚に複数の効果を持たせることができる、と聞いたことはありますが、私は見たことがありません」

 『稀少な金属』に『複数の効果』新たな情報だ!

「遺跡から発掘さるような物であれば、繰り返し使えるかもしれませんが、私は知りません。誰かが持っていたとしても、貴重過ぎて秘密にするでしょうね」

「分かりました。ありがとうございます」

「次は販売されているソーサリーカードについて注意をします。これを」

 クリスパはカズに、新たにソーサリーカードを渡した。
 先程と同じで、火の絵が書かれている。

「先程と同じように、カードに魔力を流してください」

 カズは言われたとおり魔力流すと、出てきた火の大きさが不安定で変だった。
 急に一気に燃え上がり、持っていたカードも燃えだしたので、カズはすぐに放した。

「大丈夫ですが?」

「なんですかこのカードは?」

「驚かせてごめんなさい。実際に体験してもらった方が分かると思いまして、これが粗悪品のカードです」

「粗悪品!? これも売ってるんですか?」

「取り締まってはいるんですが、この街でもたまに見つかります。なので気を付けてください」

 これはカードを買うとき、鑑定して買わないと危ないな。
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