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6話ー後悔と決意
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「志村はなんで人を助ける仕事をしてるの?」
僕らは街のホテルで寝泊まりすることになった。安っぽいホテルらしいが、ベットにシャワーに僕にとっては整っている環境である。ぼくは今ベットで横になっている。志村といえば、スマートフォンをいじっている。
「どうしたんだい急に、今日は早くお休み」
「なんとなくだけど」
「そーだね…」
志村は部屋のカーテンを開けると、遠くの方を見つめる。外には街の明かりがあって、綺麗な夜景が映し出されていた。
「由人は街の外の砂漠について、どの程度のことを知っているんだい」
「外のことはなにも知らない」
「そうか」
僕はずっと研究所にいて、親の顔を知らないんだから。
「では私達が持っている加護について、どう思う?」
志村は唐突にそんなことを聞いてくる。加護というと、僕のシャドウだったり、志村のクリエイトだったりか。
「ある人は加護持ちは珍しいって言ってたけど」
「その通りだね。加護持ちは珍しい」
「うん…」
話の趣旨がうまくわからない。外の砂漠と加護に何か関係があるのだろうか。
「ある日、1人の男が、日本で初めて加護を受けたんだ」
「志村?」
僕の呼びかけに志村は目線で応えて、話を続けた。
「その男は最初こそ戸惑ったが、すぐにその力のすごさに気づいた。幸いその男は俗に言う善人だったので、男はその力を困っている人に使えないものかと考えたんだ。
その頃からポツポツと各地で加護を受ける人がいた。加護を受けた人達は皆等しく、誰かを助けるべきだと、そのための力だと主張した。火を使える人も、物凄い馬鹿力を発揮できる人も。
でもね、日本は、世界は平和だったんだよ。そんな大層な力を使わなくても、十分に世界は回っていた。そんな力なんてハナから必要なかったんだ。
当時はもてはやされていた加護持ち達も、だんだんと世界は慣れていった。
その加護持ち達は不満を訴えるようになった。最初は善人ぶっていたが、注目されなくなった途端これだ。当然最初の男も例外ではなかった。
加護持ち達はお互いを傷つけあうようになった。自分の力を誇示したくなったんだ。所詮人間は強欲な生き物だ。力があったら使いたくなる。有り余ってる力を発散したくなるんだ。
その戦いはもはや戦争とも言える苛烈さで、死者多数、都市は半壊と、日本はどんどん壊れていった。
市民の悲鳴も、国の声も、世界の平和も、もうどうでもよかった。その頃の加護持ち達は、自分は恵まれた加護持ちだと、主張したかったんだ。
笑える話だ。恵まれた?違うな…これは一種の呪いだ。自分の意思とは無関係に与えられた、人を破滅へと導く呪いだったんだよ」
男は悔しそうに、近くのテーブルに拳を振り下ろす。僕は話の壮大さに少し戸惑いを感じていた。
「男達はそれに最後まで気づかなかった。生き残った加護持ちはほんの数人。都市は完全に機能しなくなり、建物の影すら残らない。住人のほとんどは避難したか、死んだか。
生き残った加護持ち達は愚かにも達成感を感じていた。男もその1人だった。
自分は強かった。ようやく証明できた。
ただ、それだけだった。あとにはなにも残ってなどいなかった。親しい友達も、好意を寄せていた女性も、親切な親類も。
それでようやく気づいたんだ。そこに立って、なにも残らない世界を見渡して、ようやく、ようやく気づけたのだ。
自分は馬鹿だってことを。
なにが力だ。なにが強いだ。なにが助けたいだ!全部、全部全部、いらなくて、嘘で塗り固められた偽善で。
男は打ちひしがれた。自分の無様さに、滑稽さにただ腹をたてることしかできなかった。
そんな男とは裏腹に日本はその後なんとか回復し、街も復活したところが多かった。でも本当に酷いところは、由人も見た通り、なにも残らない、つまりは砂漠ってわけだ」
「あの砂漠はそういうことだったんだ…」
なにもないあの砂漠は、戦争の爪痕だったってことか。
「そして加護持ちは非難され、処刑したほうがいいなんて声も上がっていた。国民もそれに賛成のようだった。
男はある時、自分と同じ加護持ちの生き残りの噂を聞いた。そいつは自分が一番になるまで殺し合いを続けると。それを恐れた他の加護持ちや過激組織が、最強の兵を作ろうとした」
「それって…」
何か嫌な予感がする。ここから先はなんとなく、聞きたくない。
「その研究は極秘で行われた。加護の発症者は全員そこに集められ、被験者になった。
男はそのことを耳にしていて、また同じ戦争を繰り返してはいけないと思った。同じ過ちを繰り返してはいけないと。男は知っていた。戦いはなにも生まない。
男は研究所の場所を突き止め、乗り込んだ」
「そうして、僕に出会った…」
話に出てきた男っていうのは、
「そうなるね」
志村だったんだ。
「これが今日本で起きていることの一端だ。僕は最初に由人に言ったね。君を助けにきたって」
「うん…」
「すまない、あれは嘘だ。私は罪滅ぼしで…自己満足で君を助けた。やっぱり私は偽善者だ。多くの民を殺した、罪人だ」
志村は泣いていた。苦しそうに、胸を押さえながら、自責の念に押し潰されそうになりながら、それでも、僕を助けてくれたことは…
「変わらない」
「なんだい?」
「ぼくを…助けてくれたことは変わらない。難しいことはよくわからないけど、僕は志村に救われた。美味しいラーメンも食べれた。そして志村は日本を救おうとしている。ならそれでいいじゃん。1番になりたがってる奴を倒して、全部終わりにしようよ」
僕は思っていることを素直に告げた。男はあっけに取られたような顔で、
「そーか…そーだね。全部…終わりにしよう」
その日はもうそれ以上話すことはなかった。僕はモヤモヤした気持ちで目を閉じ、志村は机に座ったまま、ずっと外を眺めていた。
僕らは街のホテルで寝泊まりすることになった。安っぽいホテルらしいが、ベットにシャワーに僕にとっては整っている環境である。ぼくは今ベットで横になっている。志村といえば、スマートフォンをいじっている。
「どうしたんだい急に、今日は早くお休み」
「なんとなくだけど」
「そーだね…」
志村は部屋のカーテンを開けると、遠くの方を見つめる。外には街の明かりがあって、綺麗な夜景が映し出されていた。
「由人は街の外の砂漠について、どの程度のことを知っているんだい」
「外のことはなにも知らない」
「そうか」
僕はずっと研究所にいて、親の顔を知らないんだから。
「では私達が持っている加護について、どう思う?」
志村は唐突にそんなことを聞いてくる。加護というと、僕のシャドウだったり、志村のクリエイトだったりか。
「ある人は加護持ちは珍しいって言ってたけど」
「その通りだね。加護持ちは珍しい」
「うん…」
話の趣旨がうまくわからない。外の砂漠と加護に何か関係があるのだろうか。
「ある日、1人の男が、日本で初めて加護を受けたんだ」
「志村?」
僕の呼びかけに志村は目線で応えて、話を続けた。
「その男は最初こそ戸惑ったが、すぐにその力のすごさに気づいた。幸いその男は俗に言う善人だったので、男はその力を困っている人に使えないものかと考えたんだ。
その頃からポツポツと各地で加護を受ける人がいた。加護を受けた人達は皆等しく、誰かを助けるべきだと、そのための力だと主張した。火を使える人も、物凄い馬鹿力を発揮できる人も。
でもね、日本は、世界は平和だったんだよ。そんな大層な力を使わなくても、十分に世界は回っていた。そんな力なんてハナから必要なかったんだ。
当時はもてはやされていた加護持ち達も、だんだんと世界は慣れていった。
その加護持ち達は不満を訴えるようになった。最初は善人ぶっていたが、注目されなくなった途端これだ。当然最初の男も例外ではなかった。
加護持ち達はお互いを傷つけあうようになった。自分の力を誇示したくなったんだ。所詮人間は強欲な生き物だ。力があったら使いたくなる。有り余ってる力を発散したくなるんだ。
その戦いはもはや戦争とも言える苛烈さで、死者多数、都市は半壊と、日本はどんどん壊れていった。
市民の悲鳴も、国の声も、世界の平和も、もうどうでもよかった。その頃の加護持ち達は、自分は恵まれた加護持ちだと、主張したかったんだ。
笑える話だ。恵まれた?違うな…これは一種の呪いだ。自分の意思とは無関係に与えられた、人を破滅へと導く呪いだったんだよ」
男は悔しそうに、近くのテーブルに拳を振り下ろす。僕は話の壮大さに少し戸惑いを感じていた。
「男達はそれに最後まで気づかなかった。生き残った加護持ちはほんの数人。都市は完全に機能しなくなり、建物の影すら残らない。住人のほとんどは避難したか、死んだか。
生き残った加護持ち達は愚かにも達成感を感じていた。男もその1人だった。
自分は強かった。ようやく証明できた。
ただ、それだけだった。あとにはなにも残ってなどいなかった。親しい友達も、好意を寄せていた女性も、親切な親類も。
それでようやく気づいたんだ。そこに立って、なにも残らない世界を見渡して、ようやく、ようやく気づけたのだ。
自分は馬鹿だってことを。
なにが力だ。なにが強いだ。なにが助けたいだ!全部、全部全部、いらなくて、嘘で塗り固められた偽善で。
男は打ちひしがれた。自分の無様さに、滑稽さにただ腹をたてることしかできなかった。
そんな男とは裏腹に日本はその後なんとか回復し、街も復活したところが多かった。でも本当に酷いところは、由人も見た通り、なにも残らない、つまりは砂漠ってわけだ」
「あの砂漠はそういうことだったんだ…」
なにもないあの砂漠は、戦争の爪痕だったってことか。
「そして加護持ちは非難され、処刑したほうがいいなんて声も上がっていた。国民もそれに賛成のようだった。
男はある時、自分と同じ加護持ちの生き残りの噂を聞いた。そいつは自分が一番になるまで殺し合いを続けると。それを恐れた他の加護持ちや過激組織が、最強の兵を作ろうとした」
「それって…」
何か嫌な予感がする。ここから先はなんとなく、聞きたくない。
「その研究は極秘で行われた。加護の発症者は全員そこに集められ、被験者になった。
男はそのことを耳にしていて、また同じ戦争を繰り返してはいけないと思った。同じ過ちを繰り返してはいけないと。男は知っていた。戦いはなにも生まない。
男は研究所の場所を突き止め、乗り込んだ」
「そうして、僕に出会った…」
話に出てきた男っていうのは、
「そうなるね」
志村だったんだ。
「これが今日本で起きていることの一端だ。僕は最初に由人に言ったね。君を助けにきたって」
「うん…」
「すまない、あれは嘘だ。私は罪滅ぼしで…自己満足で君を助けた。やっぱり私は偽善者だ。多くの民を殺した、罪人だ」
志村は泣いていた。苦しそうに、胸を押さえながら、自責の念に押し潰されそうになりながら、それでも、僕を助けてくれたことは…
「変わらない」
「なんだい?」
「ぼくを…助けてくれたことは変わらない。難しいことはよくわからないけど、僕は志村に救われた。美味しいラーメンも食べれた。そして志村は日本を救おうとしている。ならそれでいいじゃん。1番になりたがってる奴を倒して、全部終わりにしようよ」
僕は思っていることを素直に告げた。男はあっけに取られたような顔で、
「そーか…そーだね。全部…終わりにしよう」
その日はもうそれ以上話すことはなかった。僕はモヤモヤした気持ちで目を閉じ、志村は机に座ったまま、ずっと外を眺めていた。
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