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第1章:全てを司りし時計の行く末
1章16話 貴方に惹かれて[挿絵あり]
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「はあ、はあ、はあ」
死んだ――いや、死に掛けたと言う方が正しいかもしれない。湊はあの一瞬で、背後より現れた敵の男に雷刀を腹部に突き立てら、身体を真っ二つにされた、
時間系魔法リバレットで5秒時間を巻き戻し、敵が背後から出現することをミミに伝えて何とか死を回避した。
「魔眼持ちの貴様。攻撃はそこの女に任せているが、俺の瞬間的な位置把握といい、やりおるな」
湊は瞬間的に敵の位置を把握した訳ではなかった。ただ、未来で背後から殺されて、それを見てきたために成せる行動であっただけだ。
「さてどうするかな……」
湊は時間系魔法リバレットと空間系魔法残消転移の2つしか使用できない。そのどちらも攻撃系魔法ではなく、主たる攻防はミミに任せる形となる。その状況に不甲斐なさを感じながら、敵攻略のための戦略を練る。
「ミミ、奴を倒すにはお前の力が必要だ……」
「わ、私の力……」
主力はミミの攻撃魔法となる。しかし敵の男もかなりの手だれ――恐らくは通常通り真っ向から戦ってもミミは負けてしまうであろう。
「次はどう出る、魔眼持ち!!」
「くっ、次から次へと!」
どうも敵は悠長に考える暇を与えくれないらしい。考える暇もなく、敵の男は雷刀を持って湊とミミの元に突っ込んできた。
「喰らえ!!」
ミミが魔法を詠唱し、火球を敵にぶつけようと放ったが、男はそれを避けながら円状に回避し逃げ回る。
「リバレット使用可能まで、後45秒!」
時間系魔法リバレットは一度使用すると、1分間待たなければ再度使用できない。1分のインターバルがあり、もしもその間に殺されそうになった場合、タイムリープで再び一からやり直す必要がある。
そのためリバレットのインターバル管理は非常に大切であり、湊はその秒数を心の中で数えていた。
「ここか!!」
敵はミミの火球の隙間を見つけ、そこに身体を捩じ込んだ。雷刀を右手に握り、湊とミミの位置までの安全なルートを判断するや否や突っ込んで来た。
「お、マジか!!」
「やばいお兄さん!!逃げて!」
どうやら狙いは火球を生み出したミミではなく、湊のようであった。男は湊を見つめて一直線に走って近づく。それに合わせて、ミミが負けじと火球を生成した。しかし、男はその火球が当たる寸前で雷刀を湊に投げつけた。
「くそ!これでも喰らええ!!」
湊は反射的にポッケにストックした残消符の刻まれた石ころを敵に投げ付けた。敵はその行動を何のつもりだと意味が分からないと切り捨て、気にも留めなかった。雷刀は湊の腹部に突き刺さる軌道で発射され、もうすぐ湊の命を奪おうとして――
「残消転移!!」
「!!なんだ貴様、いつの間に!?」
放たれた雷刀は湊に当たることはなく、代わりに彼の投げたはずの石ころに突き刺さっていた。当の湊は男の近くに放たれた石ころと位置交換を行うように転移し、そのままの勢いで男の顔面を本気で殴った。
「ごほっ!!」
石ころの投げられた速度と湊のパンチの勢いが重なり、男はバックに吹き飛ばされるように吹き飛んだ。
「す……凄い……お兄いさん」
ミミはその光景に感心したのか、口から賞賛が漏れ出した。しかし一方で、男を殺す決定打にはならなかったようで、男はすぐさま身体を起こして湊達から距離を取った。
「はあ、はあ、はあ」
湊は必死に考える。今はまぐれで敵を殴ることに成功したが、恐らくは何度も上手くいく類のものではない。
急いでミミの側に駆け寄った湊。石ころに刺さって落ちていた雷刀からは魔力が消え、今はただの鉄の刀へと変化している。
「敵はこの投げた刀で俺を仕留められると勘違いしたようだが、危ねえ、本当に死ぬところだった」
敵はどうも戦闘経験からか、あの瞬間に湊に刀を発射すれば殺せると考えて、武器放棄の元でそれを投げ込んで来たようであった。しかし、それは湊という例外的な魔法使用者には的外れだったようで、何とか生き延びることができる結果となった。
「この刀、使わせて貰うぜ!!って重!!」
湊は刀を抜き取り、これで武器が手に入ったとひとまず一安心した。かと思えば、刀身はかなり重く、恐らくは刀として平均的な重量なのであろうが、それを使用したことのない湊にとってはかなりの重量物だった。
「貴様、先程から空間転移のような魔法を使うな。つまりはその魔眼の能力という訳か」
敵も馬鹿ではない。さっきから湊の行う石ころアタックの真意を悟り呟く。湊は流石にバレるよねと思いながら、石ころアタックが敵に通じ難くなったことに困惑した。
「さて、次はどう戦えばいいかな……。リバレットは再び使用可能になったが……」
リバレットの1分間のインターバルが過ぎ、再び時間魔法を使用可能になった湊。現在ポッケにはいくつかの石ころストックがあるものの、空間転移能力は相手にもその存在がバレている。
そのため、次なる方策は相手の考えを上回る必要があった。湊は敵から奪った刀に注目する。今はこの刀があるため、攻撃魔法を使用は不可能であるものの、何か役に立てられるのではないかと考える。
「いや、戦闘経験がない俺がこの刀を使っても、相手を殺せるとは思えねえ……」
あくまでも刀は修練を積んだ者が使用して、初めてその真価が発揮される。鍛錬を積んでいない湊は、先程この刀を手にした時に重いと感じてしまった。筋肉質である訳でもなく、上手にこの武器を扱えるような気がしなかったのだ。
すると突然、湊はリバレットの回復した今、ある作戦を思いつく。
「ミミ、耳を貸して」
湊はミミに近づいて、そっと耳元で作成を呟いた。しかしミミはその作戦に真っ向から反対だったようで、その案を拒絶するように否定した。
「ダメよお兄さん!許さない、そんな作戦!」
ミミは湊の作戦を否定するものの、当の湊は無理やりそれを押し通そうとした。
「ミミ、俺を信じてくれ」
「信じてなんて、そんな……」
「信じられれないかミミ?でも、確かにそうかもな。ミミを失望させちゃった男だもんな俺は……あの温泉で」
「え……」
ミミが温泉で受けたショックは計り知れないことを湊は知っている。彼女は少々温泉に乗り込むという乱暴な方法であったが、恐らくは自身の身体について湊に認めて欲しかったのだ。
「私は、湊に認めて貰いたくて……」
偶然街で出会った湊とミミ。彼女は湊の魔眼に最初は惹かれて、さらにはその人柄も魅力に感じて、一目惚れに近いような形で心が湊を見るようになっていった。
まるで物語の主人公のような力を持ったマーニャと湊。その彼を初日助けたのはミミであり、クイーンハートからワールドクロックの秘密を明かされ、それは少人数しか知り得ない秘匿された事実であった。
ミミと湊はその秘密を共有し、タッグを組まされた。
この展開に、彼女は運命的な何かを感じていた。
「私はヒロインになりたくて……」
ヒロインになれるかな――そんな発言をしたミミ。湊という地球人との運命的な接触は勿論のこと、ワールドクロックという魔法女学院の地下に存在した秘匿された事実の共有も踏まえ、自身がまるで、物語の主人公のヒロインになったように感じたのだった。
しかし、心の片隅にある自身への疑念は彼女を蝕んだ。
「私は女子なのに、時折男性的になって……」
両性の呪い――何のために、誰が仕掛けた魔法かも分からないその呪縛符に、ミミは悩まされた。女性として生まれたミミは、美しいピンク色の髪を持ち、本来は大人しく、可憐な少女なのだ。
一方で、状況により身体が変化して、下半身には男性的な物が発現してくる。さらには口調が自然と変化し、より積極的な性格へと自分が変わっていく。髪は真っ赤へと変貌する。
「そんな私がヒロインには相応しくなくて……」
折角手に入れたこの状況。まるで物語のヒロイン的立ち位置の自分に興奮したが、この両性の呪いに身体は蝕まれ、自分が相応しい存在なのかとの疑念を生じさせる。
何故ならば物語のヒロインに、こんなヘンテコな身体を持った者なんて存在する訳がないからである。
「違うよ、ミミ」
「え……」
もしかしたら受け入れてくれるかもしれない。打ち明けるなら早い方が良いと、温泉ではやや乱暴ではあるが、ミミは湊の入る温泉に突撃した。
しかし、やはり湊とマーニャは困惑していたようだった。それもそうかと、ミミは自分にがっかりした。やはり自分は何者にもなれないのかと――
「確かに温泉での一幕には俺もびっくりした。ミミの身体のことも含めて」
「やっぱり私なんか……!!」
「でも――あの日襲われた俺を助けてくれたのは、他でもないミミなんだよ」
湊がこの世界にやって来て、襲われたあの日――そこにいたのは誰か。そう、ミミなのだ。
「俺はミミの全てを受け入れたい。今は本心からそう思っている」
「お兄さん……」
「俺はミミを信じている。ち⚪︎ぽがなんだ。そんなの、ち⚪︎ぽごと受け入れて見せる!!」
ミミは湊の発言にやや恥ずかしがった様子で気まずそうに俯いた。一方、先程からこちらの出方を伺っている敵の男は、湊の卑猥な発言を聞いてただただ困惑している様子であった。
「貴様、何をふざけたことを!!」
「ふざけてなんかいない!俺は、ミミの全てを受け入れると決めたんだ!!だから――」
湊達の出方を出方を伺っていた男。しかし、男は呆けたような表情を浮かべ、再び湊達を見つめた後に宣言する。
「貴様は余程その女が大事なようだな」
「勿論さ」
「ならば殺してやる。お前らまとめて――」
敵が湊とミミの元へと突っ込む。それと同時に、湊は魔法を詠唱する。
「残消符」
湊は詠唱後に刀を握りしめて敵の元へと走りだした。上手く扱える自身なんて勿論なかった。しかし、大事なミミを守るために、1人の男として覚悟を決めて敵に切り掛かる。
「何!短剣か!?」
「死ね!!」
ミミは後方援護で火球を繰り出した。それを敵は避け、腰に携えてあった隠された短剣を抜き取った。
敵はその短剣を湊の心臓目掛けて突き出した。素早い敵の攻撃に反応できるはずもなく、心臓を貫かれる。ミミは湊が敵に刀を持って突っ込むという提案に対して拒絶していた。なぜならば、このように戦闘経験のない湊は、簡単にその命がこぼれ落ちてしまう、そんな男の子だからである。
「終わったな」
敵は湊の確定された死を悟りそう呟く。しかし当の湊の闘争心は衰えていないかった。何故ならば――
「リバレット!!」
心臓を突かれて血流が消滅し、湊の意識が持っていかれる瞬間――時間系魔法リバレットが発現する。胸から溢れるおびただしい血の噴水。心臓の空間に蓄えられた血液がざぱっとバケツをひっくり返したように溢れる中、その血液が再び心臓へと収束し、鼓動を始める。
時間は巻き戻され、3秒前――敵が腰の短剣に手を伸ばして引き抜く所で時間は再生する。
「死ね……何!行動を読んだだと!?」
短剣が引き抜かれ、湊の心臓へと突き出された。しかし、それを予期した湊はしゃがみ込み回避。
さらには扱いなれない刀を全力で振りかざし、敵の肘から先を一刀両断する。
「ああああああ!!」
敵は短剣を掴んでいた右手を失った。さらに追撃しようと刀をもう一度振りかざすも、流石戦闘慣れをしているためか、湊の攻撃を避けた。
ここまでしても湊は敵の倒すことはできなかった。しかしそれは、戦闘慣れしていない「湊」の話であって――
「残消転移!!」
湊は空間系魔法残消転移を詠唱する。すると、残消符が刻まれた物体――後方にいたミミと位置が交換された。敵の倒す最終打になれなかった湊。しかし、彼は自身のポテンシャルをわきまえている。
だから――
「ミミ、お前が俺のヒロインだあああ!!」
「フレアプロミネンス!!」
「貴様ああああ!!」
敵の懐に転移したミミが、火属性魔法フレアプロミネンスを詠唱した。すると、前方一杯に爆発的に展開された業火は、敵を包み込み、水を多分に含んだ身体でさえも炭に成り果てる威力を持ってして、敵を鎮圧した。
敵は消滅し、周囲は夜特有の静けさに包まれていた。
「お兄さん……私やったよ」
「ありがとう、ミミ」
「私、お兄さんの役に立てたかな……」
「ミミがいなかったら、俺は死んでいたさ」
「私はその……お兄さんの……貴方のヒロインになれましたか?」
急にかしこまって敬語を使うミミ。凛とした表情で、湊の目を見つめて、やや唇を震わせながらそう質問した。しかし、湊の返答は勿論決まっていて――
「ミミは俺のヒロインだよ。今日から2人で物語を紡ぐんだ。そう、2人で――」
お前は俺のヒロインだ――湊はミミにそう呟いて、彼女もまた今までの自身への違和感・疑念が消失したように感じて、2人は安堵し抱きしめ合った。
そして彼女の赤い髪はピンク色へと元に戻り、彼女は涙を浮かべながら、湊を見つめて感謝を伝えるのであった。
「ありがとう、私を認めてくれて」
死んだ――いや、死に掛けたと言う方が正しいかもしれない。湊はあの一瞬で、背後より現れた敵の男に雷刀を腹部に突き立てら、身体を真っ二つにされた、
時間系魔法リバレットで5秒時間を巻き戻し、敵が背後から出現することをミミに伝えて何とか死を回避した。
「魔眼持ちの貴様。攻撃はそこの女に任せているが、俺の瞬間的な位置把握といい、やりおるな」
湊は瞬間的に敵の位置を把握した訳ではなかった。ただ、未来で背後から殺されて、それを見てきたために成せる行動であっただけだ。
「さてどうするかな……」
湊は時間系魔法リバレットと空間系魔法残消転移の2つしか使用できない。そのどちらも攻撃系魔法ではなく、主たる攻防はミミに任せる形となる。その状況に不甲斐なさを感じながら、敵攻略のための戦略を練る。
「ミミ、奴を倒すにはお前の力が必要だ……」
「わ、私の力……」
主力はミミの攻撃魔法となる。しかし敵の男もかなりの手だれ――恐らくは通常通り真っ向から戦ってもミミは負けてしまうであろう。
「次はどう出る、魔眼持ち!!」
「くっ、次から次へと!」
どうも敵は悠長に考える暇を与えくれないらしい。考える暇もなく、敵の男は雷刀を持って湊とミミの元に突っ込んできた。
「喰らえ!!」
ミミが魔法を詠唱し、火球を敵にぶつけようと放ったが、男はそれを避けながら円状に回避し逃げ回る。
「リバレット使用可能まで、後45秒!」
時間系魔法リバレットは一度使用すると、1分間待たなければ再度使用できない。1分のインターバルがあり、もしもその間に殺されそうになった場合、タイムリープで再び一からやり直す必要がある。
そのためリバレットのインターバル管理は非常に大切であり、湊はその秒数を心の中で数えていた。
「ここか!!」
敵はミミの火球の隙間を見つけ、そこに身体を捩じ込んだ。雷刀を右手に握り、湊とミミの位置までの安全なルートを判断するや否や突っ込んで来た。
「お、マジか!!」
「やばいお兄さん!!逃げて!」
どうやら狙いは火球を生み出したミミではなく、湊のようであった。男は湊を見つめて一直線に走って近づく。それに合わせて、ミミが負けじと火球を生成した。しかし、男はその火球が当たる寸前で雷刀を湊に投げつけた。
「くそ!これでも喰らええ!!」
湊は反射的にポッケにストックした残消符の刻まれた石ころを敵に投げ付けた。敵はその行動を何のつもりだと意味が分からないと切り捨て、気にも留めなかった。雷刀は湊の腹部に突き刺さる軌道で発射され、もうすぐ湊の命を奪おうとして――
「残消転移!!」
「!!なんだ貴様、いつの間に!?」
放たれた雷刀は湊に当たることはなく、代わりに彼の投げたはずの石ころに突き刺さっていた。当の湊は男の近くに放たれた石ころと位置交換を行うように転移し、そのままの勢いで男の顔面を本気で殴った。
「ごほっ!!」
石ころの投げられた速度と湊のパンチの勢いが重なり、男はバックに吹き飛ばされるように吹き飛んだ。
「す……凄い……お兄いさん」
ミミはその光景に感心したのか、口から賞賛が漏れ出した。しかし一方で、男を殺す決定打にはならなかったようで、男はすぐさま身体を起こして湊達から距離を取った。
「はあ、はあ、はあ」
湊は必死に考える。今はまぐれで敵を殴ることに成功したが、恐らくは何度も上手くいく類のものではない。
急いでミミの側に駆け寄った湊。石ころに刺さって落ちていた雷刀からは魔力が消え、今はただの鉄の刀へと変化している。
「敵はこの投げた刀で俺を仕留められると勘違いしたようだが、危ねえ、本当に死ぬところだった」
敵はどうも戦闘経験からか、あの瞬間に湊に刀を発射すれば殺せると考えて、武器放棄の元でそれを投げ込んで来たようであった。しかし、それは湊という例外的な魔法使用者には的外れだったようで、何とか生き延びることができる結果となった。
「この刀、使わせて貰うぜ!!って重!!」
湊は刀を抜き取り、これで武器が手に入ったとひとまず一安心した。かと思えば、刀身はかなり重く、恐らくは刀として平均的な重量なのであろうが、それを使用したことのない湊にとってはかなりの重量物だった。
「貴様、先程から空間転移のような魔法を使うな。つまりはその魔眼の能力という訳か」
敵も馬鹿ではない。さっきから湊の行う石ころアタックの真意を悟り呟く。湊は流石にバレるよねと思いながら、石ころアタックが敵に通じ難くなったことに困惑した。
「さて、次はどう戦えばいいかな……。リバレットは再び使用可能になったが……」
リバレットの1分間のインターバルが過ぎ、再び時間魔法を使用可能になった湊。現在ポッケにはいくつかの石ころストックがあるものの、空間転移能力は相手にもその存在がバレている。
そのため、次なる方策は相手の考えを上回る必要があった。湊は敵から奪った刀に注目する。今はこの刀があるため、攻撃魔法を使用は不可能であるものの、何か役に立てられるのではないかと考える。
「いや、戦闘経験がない俺がこの刀を使っても、相手を殺せるとは思えねえ……」
あくまでも刀は修練を積んだ者が使用して、初めてその真価が発揮される。鍛錬を積んでいない湊は、先程この刀を手にした時に重いと感じてしまった。筋肉質である訳でもなく、上手にこの武器を扱えるような気がしなかったのだ。
すると突然、湊はリバレットの回復した今、ある作戦を思いつく。
「ミミ、耳を貸して」
湊はミミに近づいて、そっと耳元で作成を呟いた。しかしミミはその作戦に真っ向から反対だったようで、その案を拒絶するように否定した。
「ダメよお兄さん!許さない、そんな作戦!」
ミミは湊の作戦を否定するものの、当の湊は無理やりそれを押し通そうとした。
「ミミ、俺を信じてくれ」
「信じてなんて、そんな……」
「信じられれないかミミ?でも、確かにそうかもな。ミミを失望させちゃった男だもんな俺は……あの温泉で」
「え……」
ミミが温泉で受けたショックは計り知れないことを湊は知っている。彼女は少々温泉に乗り込むという乱暴な方法であったが、恐らくは自身の身体について湊に認めて欲しかったのだ。
「私は、湊に認めて貰いたくて……」
偶然街で出会った湊とミミ。彼女は湊の魔眼に最初は惹かれて、さらにはその人柄も魅力に感じて、一目惚れに近いような形で心が湊を見るようになっていった。
まるで物語の主人公のような力を持ったマーニャと湊。その彼を初日助けたのはミミであり、クイーンハートからワールドクロックの秘密を明かされ、それは少人数しか知り得ない秘匿された事実であった。
ミミと湊はその秘密を共有し、タッグを組まされた。
この展開に、彼女は運命的な何かを感じていた。
「私はヒロインになりたくて……」
ヒロインになれるかな――そんな発言をしたミミ。湊という地球人との運命的な接触は勿論のこと、ワールドクロックという魔法女学院の地下に存在した秘匿された事実の共有も踏まえ、自身がまるで、物語の主人公のヒロインになったように感じたのだった。
しかし、心の片隅にある自身への疑念は彼女を蝕んだ。
「私は女子なのに、時折男性的になって……」
両性の呪い――何のために、誰が仕掛けた魔法かも分からないその呪縛符に、ミミは悩まされた。女性として生まれたミミは、美しいピンク色の髪を持ち、本来は大人しく、可憐な少女なのだ。
一方で、状況により身体が変化して、下半身には男性的な物が発現してくる。さらには口調が自然と変化し、より積極的な性格へと自分が変わっていく。髪は真っ赤へと変貌する。
「そんな私がヒロインには相応しくなくて……」
折角手に入れたこの状況。まるで物語のヒロイン的立ち位置の自分に興奮したが、この両性の呪いに身体は蝕まれ、自分が相応しい存在なのかとの疑念を生じさせる。
何故ならば物語のヒロインに、こんなヘンテコな身体を持った者なんて存在する訳がないからである。
「違うよ、ミミ」
「え……」
もしかしたら受け入れてくれるかもしれない。打ち明けるなら早い方が良いと、温泉ではやや乱暴ではあるが、ミミは湊の入る温泉に突撃した。
しかし、やはり湊とマーニャは困惑していたようだった。それもそうかと、ミミは自分にがっかりした。やはり自分は何者にもなれないのかと――
「確かに温泉での一幕には俺もびっくりした。ミミの身体のことも含めて」
「やっぱり私なんか……!!」
「でも――あの日襲われた俺を助けてくれたのは、他でもないミミなんだよ」
湊がこの世界にやって来て、襲われたあの日――そこにいたのは誰か。そう、ミミなのだ。
「俺はミミの全てを受け入れたい。今は本心からそう思っている」
「お兄さん……」
「俺はミミを信じている。ち⚪︎ぽがなんだ。そんなの、ち⚪︎ぽごと受け入れて見せる!!」
ミミは湊の発言にやや恥ずかしがった様子で気まずそうに俯いた。一方、先程からこちらの出方を伺っている敵の男は、湊の卑猥な発言を聞いてただただ困惑している様子であった。
「貴様、何をふざけたことを!!」
「ふざけてなんかいない!俺は、ミミの全てを受け入れると決めたんだ!!だから――」
湊達の出方を出方を伺っていた男。しかし、男は呆けたような表情を浮かべ、再び湊達を見つめた後に宣言する。
「貴様は余程その女が大事なようだな」
「勿論さ」
「ならば殺してやる。お前らまとめて――」
敵が湊とミミの元へと突っ込む。それと同時に、湊は魔法を詠唱する。
「残消符」
湊は詠唱後に刀を握りしめて敵の元へと走りだした。上手く扱える自身なんて勿論なかった。しかし、大事なミミを守るために、1人の男として覚悟を決めて敵に切り掛かる。
「何!短剣か!?」
「死ね!!」
ミミは後方援護で火球を繰り出した。それを敵は避け、腰に携えてあった隠された短剣を抜き取った。
敵はその短剣を湊の心臓目掛けて突き出した。素早い敵の攻撃に反応できるはずもなく、心臓を貫かれる。ミミは湊が敵に刀を持って突っ込むという提案に対して拒絶していた。なぜならば、このように戦闘経験のない湊は、簡単にその命がこぼれ落ちてしまう、そんな男の子だからである。
「終わったな」
敵は湊の確定された死を悟りそう呟く。しかし当の湊の闘争心は衰えていないかった。何故ならば――
「リバレット!!」
心臓を突かれて血流が消滅し、湊の意識が持っていかれる瞬間――時間系魔法リバレットが発現する。胸から溢れるおびただしい血の噴水。心臓の空間に蓄えられた血液がざぱっとバケツをひっくり返したように溢れる中、その血液が再び心臓へと収束し、鼓動を始める。
時間は巻き戻され、3秒前――敵が腰の短剣に手を伸ばして引き抜く所で時間は再生する。
「死ね……何!行動を読んだだと!?」
短剣が引き抜かれ、湊の心臓へと突き出された。しかし、それを予期した湊はしゃがみ込み回避。
さらには扱いなれない刀を全力で振りかざし、敵の肘から先を一刀両断する。
「ああああああ!!」
敵は短剣を掴んでいた右手を失った。さらに追撃しようと刀をもう一度振りかざすも、流石戦闘慣れをしているためか、湊の攻撃を避けた。
ここまでしても湊は敵の倒すことはできなかった。しかしそれは、戦闘慣れしていない「湊」の話であって――
「残消転移!!」
湊は空間系魔法残消転移を詠唱する。すると、残消符が刻まれた物体――後方にいたミミと位置が交換された。敵の倒す最終打になれなかった湊。しかし、彼は自身のポテンシャルをわきまえている。
だから――
「ミミ、お前が俺のヒロインだあああ!!」
「フレアプロミネンス!!」
「貴様ああああ!!」
敵の懐に転移したミミが、火属性魔法フレアプロミネンスを詠唱した。すると、前方一杯に爆発的に展開された業火は、敵を包み込み、水を多分に含んだ身体でさえも炭に成り果てる威力を持ってして、敵を鎮圧した。
敵は消滅し、周囲は夜特有の静けさに包まれていた。
「お兄さん……私やったよ」
「ありがとう、ミミ」
「私、お兄さんの役に立てたかな……」
「ミミがいなかったら、俺は死んでいたさ」
「私はその……お兄さんの……貴方のヒロインになれましたか?」
急にかしこまって敬語を使うミミ。凛とした表情で、湊の目を見つめて、やや唇を震わせながらそう質問した。しかし、湊の返答は勿論決まっていて――
「ミミは俺のヒロインだよ。今日から2人で物語を紡ぐんだ。そう、2人で――」
お前は俺のヒロインだ――湊はミミにそう呟いて、彼女もまた今までの自身への違和感・疑念が消失したように感じて、2人は安堵し抱きしめ合った。
そして彼女の赤い髪はピンク色へと元に戻り、彼女は涙を浮かべながら、湊を見つめて感謝を伝えるのであった。
「ありがとう、私を認めてくれて」
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
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