タイムリープ!?異世界転移したと思ったら、魔法都市とAIサイバーパンク都市の戦争に巻き込まれちゃった

ロズロズ

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第1章:全てを司りし時計の行く末

1章7話 ワールドクロック

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「世界を救ってほしい、か」

先程までとは異なり、なぜかマーニャは神妙な顔つきへと変わり、湊に世界を救ってほしいと懇願する。急な発言に湊は困惑するも、それを悟ったかのようにミーニャが続ける。

「湊。君の左目の魔眼、それは僕自身とも言えるこのワールドクロック、その長針が入ったことにより発現したものなんだ」

「ワールドクロックの長針?」

「湊。この魔法女学院の地下深くにあるこの空間。何のためにあると思う?」

「いや、分かる訳……」

「この空間に存在する1つ1つの時計をワールドクロックと言う。この時計が、並行世界のそれぞれの時空間を司り制御しているんだよ」

湊はマーニャがワールドクロックと表現したその時計達に再び目線を移す。マーニャはこの時計1つ1つが並行世界の各時空間を維持していると言った。

「つまり、この時計1つ1つがある世界と対応していて、その時空間の維持の役割を担っていると?」

「そうだよ湊」

湊は状況の整理に思考を移す。この無数に存在する時計は、それぞれある1つの世界の時空間を管理している。つまり、並行に存在するらしい複数の世界がこの時計、つまりはワールドクロックに制御されていることになる。しかし、不可解に思うことも存在し……

「ワールドクロックが並行世界それぞれに割り当てられていてるのは分かった。だけど、さっきの短針と長針のない時計は一体なんなんだ?」

先程の短針と長針のない時計。言わば壊れたワールドクロックということになるが、ここで自然な疑問が生じることになる。

「このワールドクロックが仮に壊れているなら、それに管理されているはずの世界はどうなっているんだ?」

ワールドクロックには並行世界がそれぞれ割り当てられており、各時空間を制御している。しかし、湊達が見た壊れたワールドクロックと、その管理する世界の関係性が見えない。そんなことを考えていると、クイーンハートの方が話しかけてきた。

「湊きゅん。君、この魔法の世界がどのワールドクロックに制御されている、いや、されていたか予想がつくかい?」

この魔法の世界もまたワールドクロックに制御されているはずであり、クイーンハートはそのことに関して湊に質問した。

「この話の流れから行くと、この壊れたワールドクロックが、本来俺の今いる魔法の世界を制御していた時計になるのか?」

「大正解だよ、湊きゅん」

湊の予想は当たったらしい。一方で、クイーンハートは何か悲しそうにその壊れた愛おしい時計に触れ、再び湊を見つめ返す。

「湊きゅん。端的に表現するなら、私達の魔法の世界を司るワールドクロックは何者かに壊されたんだ」

「壊された、のか……」

「あれは30年前。私とマーニャ様が別れ離れになった日。あの日、悲劇が起こったんだ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「魔法女学院にこんな場所が!」

当時25歳のクイーンハートは、魔法女学院が優秀な成績で卒業し、数年の旅に出た後、早くもその秘密と秩序を守る守護者として仕事を任された。

「ワールドクロック、と言うのですか」

「そうです、クイーンハート」

クイーンハートが25歳だった頃、魔法女学院の校長はミネルバと言う人物であった。そう、このミネルバこそが、クイーンハートの前校長にして、先代のワールドクロック守護者であった。

「魔法女学院。表向きは魔法使いの育成学校である一方で、この地下深くに秘匿されているワールドクロックの守護を担う場所なのです」

ミネルバがクイーンハートに、この魔法女学院の真の目的を伝える。

「ミネルバ校長。私達の世界は、どのワールドクロックに管理されているのですか?」

「丁度そのことについて話そうと思っていました。出てきなさい、マーニャ、フロスト」

「にゃるる!」

「はいい!」

ミネルバが出てきなさいと呟くと、マーニャとフロストと呼ばれた人物が急に現れ、クイーンハートを驚かす。

「こいつが新たなワールドクロックの管理者かにゃあ。よろしくにゃる」

「にゃる?」

マーニャは初対面のクイーンハートにもかなり馴れ馴れしい。しかし当の彼女は急に現れたそれが何者か分からずに困惑するばかり。

「クイーンハート。このマーニャとフロストは、この私達の世界を司るワールドクロックに宿る魔神達なのです」

「ワールドクロックに宿る、魔神?」

「そうです。マーニャは時計の長針、フロストは時計の短針であり、2人でこの世界を守ってくれているのですよ」

このマーニャとフロスト。この2人がクイーンハートの住まう魔法の世界、そのワールドクロックを司っているとミネルバは説明する。意外にもクイーンハートの理解は早く、さすが優等生といった一面を見せる。

「ミネルバ校長。ワールドクロックの長針と短針には、それぞれ違う魔神が宿っているんですか?」

「そうです。長針は根本的な時空間の制御を行い、短針はその力を増幅する土台なのです」

ワールドクロックには通常の時計と同じく、長針と短針の2つが存在する。魔神もそれぞれに1人ずつ宿っているようであり、役割が違うと言う。

「クイーンハート。もしもこのワールドクロックが壊れたのなら、その世界もまた時空間の消滅が生じて死んでしまいます。世界もろとも」

「はい、ミネルバ校長」

「この魔法女学院に厄災が生じたならば、命を掛けて、この学院の生徒・先生らと共に、このワールドクロック全てを死守するのです。それが私達の務め」

「はい。命を掛けてでも務めを果たします」

クイーンハートは重い任務を任されたことを意識し、自分を戒め、このワールドクロックを死守することを約束する。しかし、当の彼女はなぜ今なのかと疑問に思うところがあった。

「ミネルバ校長。私は学院を卒業して、しばらく旅をしていました。なぜ急に、今、このようなワールドクロックの存在を私に明かすのですか?」

「それは、端的に言うならば、私の魔力が日々弱まりつつあるからです」

「魔力が弱まりつつある?」

魔力の減衰。その現象が生じるパターンはいくつか存在するが、最も一般的なのは老化である。人間は老いると体が弱くなる。それと同じで、魔力自体も次第に減少していく場合が多い。
この偉大な魔法女学院の校長であるミネルバでさえ、老いには敵わず、魔力の減衰が顕著に現れるよになったということだろう。

「このワールドクロックの存在を知ることは一部の人間にしか許されません。そして、その中で最も大きな権力を持つのが魔法女学院の校長です。しかし、そんな私は高齢になりすぎた」

ミネルバはその老いてしわしわになった自身の身体に触れてそう呟く。

「若者として優秀なワールドクロックの守護者を、今から育成しなければいけません。私の命も長くはない。私が生きている内に、優秀な貴方をこの手で育てておきたい。守護者としての貴方を」

「嬉しい限りです」

最優秀の成績で魔法女学院を卒業したクイーンハート。ミネルバが自身の老いを認識し、新たなワールドクロックの守護者として彼女を加えることを選んだ。
クイーンハートも自身の能力が認められたような気がして嬉しかった。


クイーンハートがミネルバ一行 ―― ワールドクロックの守護者に選出されて数ヶ月がたった。守護者に選出されてと言っても、大きく日常が変わることはない。基本的にはこの魔法の世界のワールドクロック、その長針を担うマーニャと、短針を担うフロストとコミュニケーションを取ること、機嫌を損ねないことが主な仕事であった。

「ねえねえ、マーニャ様。マーニャ様って、なんで猫耳なんて生えているの?」

「それは僕にも分からんにゃる。生まれてからずっとこの姿にゃる」

クイーンハートはマーニャがなぜ猫耳を有しているのか理解できず質問してしまった。
他にも疑問に思うことはあるようで、好奇心からか、他にも疑問を口にする。

「マーニャ様あ。他にも沢山のワールドクロックがあるけど、どんな並行世界があるのお?」

「おお、いい質問だにゃる。例えば、地獄道なんて世界もあるぞ」

「地獄道?」

「そう。この世界に生まれたものは123873849873984798年程度の寿命を持つ。そして、生まれてすぐに熱々の油風呂に落とされ、洗礼をうけ、全身に火傷をおうんじゃ。その後も死ぬまであやゆる苦痛を受けることになる」

「げ!絶対に生まれたくない……」

マーニャの言う地獄道という世界。そんな世界があることに恐怖しつつ、しかしその世界に生まれた生物は可哀想だと感じて悲しくなった。

「ねえマーニャ様。そんな地獄道に生まるなんて可哀想だよお。なんとか助けられないの?」

「無理じゃな。他世界に干渉するなど、僕でも許されぬ禁忌じゃ。僕、そしてフロストだってそんなことできないにゃる。あくまで僕たちは時空間の制御を行う存在にすぎないのにゃる」

「じゃあさ、その地獄道を司どるワールドクロックの魔神に頼んだらどうなの?」

「魔神に頼む?あくまでこの魔法の世界は他のワールドクロックを総じて守護する特別な世界だから、僕やマーニャはこのように精神が目に見える形になってるにゃる」

「じゃあ、他のワールドクロックの魔神さんはマーニャ様やフロスト様のように喋れないの?」

「そうにゃる。他の世界の魔神はあくまで、そのワールドクロックに宿る精神。そいつらは身体も持たず、ただ時空間の管理を任されたシステムのような存在にゃる」

地獄道に生まれた生物は何て可哀想なのだろうかとクイーンハートは思った。この魔法の世界は他のワールドクロックをこの魔法女学院の地下に隠し、守護する特別枠。マーニャとフロストもそんな世界の魔神だからこのように擬人化されて喋れる訳で、非常に特別な存在のようであった。

「クイーンハート。ただただ苦しい世界ばかりじゃないにゃる。楽しい世界、美しい世界も星の数ほどあるのじゃ。だから、ワールドクロックの守護者としてこの世界を守って欲しいにゃる」

「分かってるよマーニャ様」

クイーンハートはこのように、マーニャと一緒におしゃべりすることが多い。どうもマーニャとフロストはこの魔法女学院の地下より出ることはできないようで、美しい、しかし孤独なこの場所で一緒に話すことが多い。

「それにしても、フロスト様はあまり姿を現さないけど……」

「フロストは力の強化、増幅を担う。僕の時空間を管理する能力は、実は弱く、さらにはリミットが掛けられているのじゃ」

「そうなの」

「そうにゃる。僕はフロストから常に力の強化を行われてる。当のフロストは大忙しだから、僕みたいにクイーンハートとお喋りばかりする時間はないのじゃ」

マーニャは時空間を管理する能力、その中枢であるが、そのエネルギーとなる力の強化と増幅はフロストがになっているようであった。当のマーニャはフロストから力の強化を得てその能力を思う存分に発揮できるようであった。そのため、フロストは力の基盤となりながら、マーニャよりも多忙のようであった。

「恐らく、フロストも僕とクイーンハートが楽しそうに喋っているのを聞いて嫉妬してるにゃる」

「えへへ、フロスト様には悪いかも。だけど私はフロスト様も大好き。喋りたい時は出てきていいんだから」

クイーンハートはその場に顕現していないフロストに向けて、気持ちだけは伝わるように1人呟いた。

クイーンハートはワールドクロックの守護者の1人に加わり、その重大な責務に応えようと張り切っていたが、しかし蓋を開けてみれば時空間の管理は働き者のフロストとマーニャ、そして他の時計に宿る魔神達が行ってくれている。

守護者というのは名ばかりで、ただただマーニャとお喋りをし、世界の行末を眺めて過ごす。
彼女には、守護者という役割がだんだんと、ゆったりとした、楽しいマーニャ達との幸せを紡ぐ家族となるような仕事に感じたのだった。

時間が流れて行く。半年が過ぎた。

幸せでゆったりとした空間だった。幸せな魔法女学院の地下世界。時計の世界。

目の前のワールドクロック――それぞれに物語が紡がれ、時が支配され、世界が成長して行く。

クイーンハートはそんな、幸せで、夢のような、と言っても理想が体現されている状態という意味ではなく……
ただただそのワールドクロックに対する、何かロマンチックな心のときめきが心地良かった。ゆったりとした秘密基地、魔法女学院の地下世界、マーニャ、フロスト、それらが好きだった。

「今日も皆んなと一緒に……」

クイーンハートはその日も、日常となったロマンチックな非日常を求て――

「ミネルバ様!……え?」

珍しくフロストも顕現し、マーニャ、クイーンハートが集まる魔法女学院の地下世界。
そこに続く、校長室に隠れた大神殿の裏階段。
地下へ続くそれより現れた人物。しかしそれは、もう人の原型を留めておらず……

「きゃあああああ!」

「ミネルバ、お前!」

「な、なにが起きてる!?」

ミネルバの身体が粉砕され、ぐちゃぐちゃとなった肉塊が階段よりクイーンハート達の元に転がって来た。
一同はそれに悲鳴をあげ、何かを察して臨戦体勢をとる。

「誰だお前!」

黒いローブを羽織った人物。恐らくはミネルバを殺害したと思われるそいつは、堂々とこのワールドクロックに占められた地下世界に降りて来たのだった。


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