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第1章:全てを司りし時計の行く末
1章4話 死んだミミとの再会
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「はあ。俺はこんな得体の知れない魔眼より、魔法の方が使えるようになりたいのに」
「ん?どうしたのお兄さん」
ミミはがっくり落ち込む湊に対してそう呟く。湊はミミの可愛らしいピンクの髪が、自身の血でドス黒い赤色に塗られるのを目撃した。死んだのだ。ミミを含め、この場にいる2人は突然現れた女に殺された。
「にしても、もしもこの魔眼の能力がタイムリープだとしたら、アクションをすぐに起こさなければいけないな」
あんな惨劇を目撃した湊であったが、意外と冷静な気持ちで盤面を俯瞰する。
「現在の状況を見るに、恐らく魔眼の力でタイムリープしたと仮定して、記憶を引き継げるのは自分だけか」
ミミと湊が殺され、今に至る。湊は殺される前の記憶を完全に覚えているが、当のミミにはその記憶がない。これは今回初めてのタイムリープで得られた情報の1つ。
「後、俺が気をつけなければいけないことは……」
湊は前回、ミミに地球生まれであること、異世界転移してきたことを伝えた。一方、ミミは地球という言葉に過剰に反応したのだ。さらには湊が異世界転移する前の地球、その星でしか聞き慣れないであろうAIオートマトンという言葉も彼女の口から出てきたのだ。
「整理するべき事実は多いが、今は時間がねえ」
湊はミミとの数分の会話を得て、殺される体験をした。猶予はそれほど残っていないのだ。
「ミミ、突然見知らぬ俺が積極的に喋りかけて悪かった。でも、確かめたいことがあるんだ」
「なにか気になるの、お兄さん……?」
「直球に聞く。君はどれくらい強い?」
今この場で乗り切るべきは、窓をぶち破って侵入してくる気狂い女。前回タイムリープ前、ミミはあっさり首を切断されて殺された。戦えなかった、反撃できなかったのだ。ここで湊が1番不安なこと、それは争うすべなく女に殺され続けることだ。しかし、当の湊には戦う術がない。
「私の……強さ?」
「そうだ、ミミの強さを知りたい。そもそも、その、魔法なんか使えたりするのか?」
「うん、私は魔法使いだから勿論使えるよ」
一先ず一安心。ミミがただの一般人ではなく、力量は分からないが、少なくとも魔法使いであることを確認できた。問題はその力量で……
「ミミ、攻撃魔法なんか使えたりするのか?」
「勿論。私は攻撃魔法が得意だから」
攻撃魔法が使用可能、これは大きな情報であった。しかし、湊はミミの力量に関する不安を拭えない。前回のあっさり首を落とされたミミの姿を見たため、あの殺人鬼とやり合うことが可能か疑問だったのだ。
「例えば今この瞬間、誰かがこの部屋にミミを殺しにきたとしたらどうだ」
「怖いこと言うのね、お兄さんは」
「ちょっと変な発言だったか」
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫。その答えだけど、少なくとも詠唱する時間があれば対処できるんじゃないかな」
「詠唱時間……そうか!」
湊はミミの発言、即ち詠唱時間というワードにピンときた。前回ミミが殺された場面。それは唐突に窓から殺人鬼が侵入した現場であるが、あの瞬間、ミミは何も呟く暇なく殺された。そう。何も呟く暇もなく、唐突の出来事に対応できなかったのだ。
それを理解した湊はすぐさま行動に出る。
「ミミ、端的に言う。俺は魔眼持ちだ」
「やっぱりその左目は魔眼なんだね」
「そうだ。そして今俺が君の可愛いベッドで寝ているのは、気絶して道に倒れていたからだよな」
「あれ、お兄さん、自分で気絶してたこと覚えてるの?」
「ああ、まあ、それは後回しだ。そして重要なこと。俺はあの瞬間、この魔眼を狙われて逃げている最中だった」
「え?」
嘘である。しかし、効果的な嘘なのだ。
湊はミミにタイムリープのことを話してもよいと考えていた。前回、この場にいる2人はとある殺人鬼に殺されたのだと。しかし、湊は急にそれを打ち明けてもミミが信じず、ただただ時間の浪費になることを危惧した。
しかし気絶した湊がその時その場所で、実は魔眼を狙われて逃げていたと嘘を付いたらどうだろうか。この後現れる殺人鬼、その存在の整合性を簡単に理解させることができる。
「お兄さん、追われてる最中だったの?」
「そうだ。さらに、今この瞬間、窓の外。その家の裏路地から俺を覗き込む奴が、その追ってきた殺人鬼やろうだ」
「え!?今その窓の向こうにいるの?どこ……」
「待て、窓の外を見るな!勘付かれる!」
嘘である。窓の外に広がる景色、そのどこに殺人鬼が潜んでいるのか分からない。しかし、このように臨場感を出しつつ、演技し、外に殺人鬼がいるとミミに納得させることができれば話が早い。
「ミミに頼みたいこと。今この瞬間襲ってくる可能性のある殺人鬼を撃退して欲しいんだ」
「なるほど。そういう事情があるんだね。ミミに任せて」
ミミは湊の方を見て呟く。助けてあげると。その後、ミミは至って冷静な顔付きに戻る。湊の言う、窓の向こうからこちらを伺う殺人鬼とやらに気づかれないために。ミミなりの、殺人鬼、君に気づいていませんよという演技のつもりであった。
「いつ襲ってくるかは分からない。しかし、もうすぐ、瞬間的にこちらを襲撃しに来ると思う」
「分かった、お兄さん。魔法の詠唱は任せて」
「ミミ、心配があるとすれば、その攻撃魔法の詠唱は間に合うのか」
「お兄さん。準備ができていれば、使う魔法も選べるよ。詠唱時間が短い魔法を使う。だから……」
ミミが湊に話しかけている最中、窓ガラスが爆ぜた。窓を突き破り侵入してきた女。その殺人鬼はすぐさま短剣をミミの首元に振りかざし、その命を奪い去ろうとして……
「レルム」
「あん?」
殺人鬼の短剣がミミの命に届く瞬間、3文字詠唱の魔法を使用したミミの攻撃が炸裂する。魔法の詠唱と共に、その殺人鬼の足元から凄まじい水が噴射、それが水柱となり天高くまで貫く。それに伴い、当の殺人鬼は天井を突き破り空高くまで飛ばされた。
「やったか、ミミ!」
「いや、まだ」
殺人鬼が空から降ってくる。それを追撃しようとミミが詠唱するや否や、凄まじい身のこなしでそれを回避した。
「やばい、このままじゃ!」
天井を蹴り、殺人鬼が再び室内へ侵入した。そしてミミと湊の前に立つと、突然湊を凝視した。
「はあ。最初の攻撃が防がれたのはそういうことね」
湊を凝視したその女。彼女がそう湊に呟くと、なぜかパタリと攻撃をやめて再び窓外へ飛び出した。
「少々騒がしくしすぎたのもある。一旦引きましょうかね」
ミミの家の天井を突き破った水柱、並びに窓がバリバリに割れる音を聞きつけ、周りにいた人間が注目を湊達に集めた。それを嫌がったからなのかどうかは分からないが、当の殺人鬼はすぐさま場を離れ、再び闇の中に消えて行く。
「はあ、はあ。ひとまず、命は繋ぎ止めたか」
「大丈夫、お兄さん?」
「ああ、俺は大丈夫。それにしても、ミミの攻撃凄かったなおい」
「えへ、そうかな」
ミミは恥ずかしそうに頬を赤染める。湊は最初ミミの攻撃能力を心配していたが、それは徒労に終わった。殺人鬼が自分らを襲うと事前に分かった状態であれば、ミミも敵に一矢報いることができるのだ。
「それにしても、こんなに人が集まっちゃって。とんだ騒ぎになっちゃったな」
「ああ、私の天井があ」
幾分棒読みでミミが呟く。いや、相当落ち込んでいるのだろうか。ミミが自分の詠唱魔法で開けた天井の穴を凝視して、悲しそうな表情をして見つめている。
「でも、お兄さんが無事ならいいかな。無事で良かった」
「ミミの家をこんなにしてごめんな。あの女の狙いは俺の魔眼だ。ミミを巻き込んでしまって、本当にすまない」
湊はあの殺人鬼女から生き延びることができた一方で、ミミに迷惑を掛けてしまったことを心から侘びた。しかし、当のミミはそれを否定するように、湊は悪くないよと擁護する。
「それにしても、今は殺人鬼が去ってくれたからいいけど。また、いつ襲われるか分からないな」
湊が今この瞬間を生き延び、しかしまた襲われる可能性があることに恐怖する。魔眼を有する者はそれを秘密にすることが多いと前回ミミより教わった湊は、その意味を痛感することになった。
「どうする、俺。どうすればいいんだよ、これから」
「お兄さん。不安なの?」
「ああ、とても不安だよ」
湊が動揺して、これからどうすれば良いか悩んでいることにミミは言及する。しかし、そんな湊にミミは必死に寄り添うように、とある提案をする。
「ミミにいい考えがある」
「いい考え?」
「今襲ってきた女性の素性は掴めない。家もめちゃくちゃになったし、これは一種の大事件だよ。この事態に野次馬が集まってきているし、もうすぐ魔法女学院の方も騒動を聞きつけてやって来る」
「魔法女学院?」
「そう。この水の都ウンディーネ。この大都市を魔法都市たらしめる、魔法女学院。私の通う学校、その先生に相談しようよ、お兄さん」
ミミの口から出たキーワード。魔法女学院と呼ばれたそれは、ミミの通う学校であるらしい。
「ほら、喋っている間にも、魔法女学院の先生達が集まってきた」
湊はぶっ壊れた窓の奥、何やら如何にも魔法使いらしい服装をした何人かの人間がこちらに向かって来るのを見た。
「お兄さん。一旦先生達と合流して、魔法女学院の校長と話そうよ。魔眼使いは一部の人間からはその希少性から命を狙われる。だけど、魔法女学院ならそんなお兄さんも匿ってくれるはずだよ」
「魔法女学院なら俺を匿ってくれる……」
湊はミミの魔法女学院という言葉に注目する。ミミはこの水の都をウンディーネと表現した。その魔法に満ちた大都市に、魔法学校なるものが存在しても不思議ではなかった。しかし、ミミの言ったそれは魔法学校ではなく魔法女学院であり、湊には女子校的な類のなにかではないかと感じた。
「ミミ、俺は一応男なんだが」
「そのことなんだけど、お兄さん、やっぱりどう見ても男の子だよね」
「ああ、そうだけど……それがどうしたんだ」
「歴代、魔眼使いに男はいない。だから、魔眼使いの受け入れに積極的な魔法女学院だから校長に相談しようって提案したけど、あくまで名前の通り、女の子が通う学校なんだよね」
「魔眼使いは、歴史を見ても女しかいないってのか」
湊は状況を頭の中で整理する。魔眼使いは歴代女しか確認されておらず、その受け入れに積極的な学校もまた魔法女学院となる。魔眼使いを匿ってくれるという意味で安全な魔法女学院だが、女が通う学校であり、それが障害となって受け入れの保証が取れない。
「ちなみに、男の魔法使いはどんな学校に行くんだ?」
「魔法騎士団」
「じゃあ、俺が魔法女学院に入りたいなんて言ったら、ただの変態の扱いを受けることに?」
「お兄さんは変態さんなの?」
「なわけあるか!」
湊はかなり真剣な質問をミミに投げかけたのだが、当のミミはかなり呆けている。
「はあ。本当にこれからどうすればいいんだよ俺は。まあ、その魔法女学院の校長とやらに一旦話を聞いてみるのもありかもな。少なくとも話し合いだけで終わりそうだけどな」
「入学しないの?」
「できるならしても……いや、女の子ばっかだし。しかも、その魔法女学院って学校だろ。俺は博士卒で、もう37歳になるんだぞ」
「博士って何なのお兄さん?後、お兄さんが37歳なんて、冗談言って変なの」
湊は冗談なんてつもりはなかった。魔法女学院は、あくまで学校という認識だろうから、もう37歳にもなる湊が通うなんて考えられなかった。
「本当に37歳なんだぜ、俺」
「ふふ、お兄さんの変な冗談。鏡をじっとよく見てよ、お兄さん。どう見たって、若い18歳前後の青少年じゃない」
「なにを言って……へ?」
湊はミミに渡された鏡を見つめる。タイムリープ前にも魔眼を確認するためにミミから鏡を貰ったが、目にしか注意が向かず、それに気づかなかった。明らかに、今の湊は肌がピチピチであり、30代後半には到底考えられない風貌をしていた。
「嘘だろ、何の冗談だよ」
「ふふ、お兄さん面白いね。変な冗談なんか言って」
何が起きているのか到底理解できなかった。
「ちなみに聞くんだが、魔法女学院は何歳から何歳まで通うんだ?」
「通常は18歳から22歳かな」
「つまり大学みたいな所か。じゃあ、ミミの年齢?」
「私は19歳。魔法女学院の2年生だよ」
湊から見てミミはむしろ幼い見た目をしていると感じた。中学生か高校生ぐらいと思っていた湊だが、実年齢は19歳のようであった。
「お兄さんもどうせ私と同い年くらいでしょ。魔法女学院に来なよ、お兄さん」
「頭の整理がつかねえなこれ」
これからどうしたものかと湊が頭を抱えたのと同時、ミミの言う魔法女学院の先生らしき人物が到着する。
「ミミ、大丈夫か」
「あ、ハーギル先生」
「む、その男は。まさか!ミミを襲ったのはそいつか」
「ちげえよ、気がはええよそれは」
「ちっ、今助けるからなミミ。離れろ、穢らわしき獣風情が!」
「ミミ、あの先生頼りになるのか。俺、不安でしかないんだが……」
「ふふ。ハーギル先生はちょっとああいう所があるから。これから楽しくなりそうだね、お兄さん」
「はあ、勘弁してくれよ、全く」
当初ミミを襲った犯人と勘違いされた湊。その誤解が解け、事情が理解されたのは、20分の誤解を解くための会話がなされた後のことだった。
「ん?どうしたのお兄さん」
ミミはがっくり落ち込む湊に対してそう呟く。湊はミミの可愛らしいピンクの髪が、自身の血でドス黒い赤色に塗られるのを目撃した。死んだのだ。ミミを含め、この場にいる2人は突然現れた女に殺された。
「にしても、もしもこの魔眼の能力がタイムリープだとしたら、アクションをすぐに起こさなければいけないな」
あんな惨劇を目撃した湊であったが、意外と冷静な気持ちで盤面を俯瞰する。
「現在の状況を見るに、恐らく魔眼の力でタイムリープしたと仮定して、記憶を引き継げるのは自分だけか」
ミミと湊が殺され、今に至る。湊は殺される前の記憶を完全に覚えているが、当のミミにはその記憶がない。これは今回初めてのタイムリープで得られた情報の1つ。
「後、俺が気をつけなければいけないことは……」
湊は前回、ミミに地球生まれであること、異世界転移してきたことを伝えた。一方、ミミは地球という言葉に過剰に反応したのだ。さらには湊が異世界転移する前の地球、その星でしか聞き慣れないであろうAIオートマトンという言葉も彼女の口から出てきたのだ。
「整理するべき事実は多いが、今は時間がねえ」
湊はミミとの数分の会話を得て、殺される体験をした。猶予はそれほど残っていないのだ。
「ミミ、突然見知らぬ俺が積極的に喋りかけて悪かった。でも、確かめたいことがあるんだ」
「なにか気になるの、お兄さん……?」
「直球に聞く。君はどれくらい強い?」
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「私の……強さ?」
「そうだ、ミミの強さを知りたい。そもそも、その、魔法なんか使えたりするのか?」
「うん、私は魔法使いだから勿論使えるよ」
一先ず一安心。ミミがただの一般人ではなく、力量は分からないが、少なくとも魔法使いであることを確認できた。問題はその力量で……
「ミミ、攻撃魔法なんか使えたりするのか?」
「勿論。私は攻撃魔法が得意だから」
攻撃魔法が使用可能、これは大きな情報であった。しかし、湊はミミの力量に関する不安を拭えない。前回のあっさり首を落とされたミミの姿を見たため、あの殺人鬼とやり合うことが可能か疑問だったのだ。
「例えば今この瞬間、誰かがこの部屋にミミを殺しにきたとしたらどうだ」
「怖いこと言うのね、お兄さんは」
「ちょっと変な発言だったか」
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫。その答えだけど、少なくとも詠唱する時間があれば対処できるんじゃないかな」
「詠唱時間……そうか!」
湊はミミの発言、即ち詠唱時間というワードにピンときた。前回ミミが殺された場面。それは唐突に窓から殺人鬼が侵入した現場であるが、あの瞬間、ミミは何も呟く暇なく殺された。そう。何も呟く暇もなく、唐突の出来事に対応できなかったのだ。
それを理解した湊はすぐさま行動に出る。
「ミミ、端的に言う。俺は魔眼持ちだ」
「やっぱりその左目は魔眼なんだね」
「そうだ。そして今俺が君の可愛いベッドで寝ているのは、気絶して道に倒れていたからだよな」
「あれ、お兄さん、自分で気絶してたこと覚えてるの?」
「ああ、まあ、それは後回しだ。そして重要なこと。俺はあの瞬間、この魔眼を狙われて逃げている最中だった」
「え?」
嘘である。しかし、効果的な嘘なのだ。
湊はミミにタイムリープのことを話してもよいと考えていた。前回、この場にいる2人はとある殺人鬼に殺されたのだと。しかし、湊は急にそれを打ち明けてもミミが信じず、ただただ時間の浪費になることを危惧した。
しかし気絶した湊がその時その場所で、実は魔眼を狙われて逃げていたと嘘を付いたらどうだろうか。この後現れる殺人鬼、その存在の整合性を簡単に理解させることができる。
「お兄さん、追われてる最中だったの?」
「そうだ。さらに、今この瞬間、窓の外。その家の裏路地から俺を覗き込む奴が、その追ってきた殺人鬼やろうだ」
「え!?今その窓の向こうにいるの?どこ……」
「待て、窓の外を見るな!勘付かれる!」
嘘である。窓の外に広がる景色、そのどこに殺人鬼が潜んでいるのか分からない。しかし、このように臨場感を出しつつ、演技し、外に殺人鬼がいるとミミに納得させることができれば話が早い。
「ミミに頼みたいこと。今この瞬間襲ってくる可能性のある殺人鬼を撃退して欲しいんだ」
「なるほど。そういう事情があるんだね。ミミに任せて」
ミミは湊の方を見て呟く。助けてあげると。その後、ミミは至って冷静な顔付きに戻る。湊の言う、窓の向こうからこちらを伺う殺人鬼とやらに気づかれないために。ミミなりの、殺人鬼、君に気づいていませんよという演技のつもりであった。
「いつ襲ってくるかは分からない。しかし、もうすぐ、瞬間的にこちらを襲撃しに来ると思う」
「分かった、お兄さん。魔法の詠唱は任せて」
「ミミ、心配があるとすれば、その攻撃魔法の詠唱は間に合うのか」
「お兄さん。準備ができていれば、使う魔法も選べるよ。詠唱時間が短い魔法を使う。だから……」
ミミが湊に話しかけている最中、窓ガラスが爆ぜた。窓を突き破り侵入してきた女。その殺人鬼はすぐさま短剣をミミの首元に振りかざし、その命を奪い去ろうとして……
「レルム」
「あん?」
殺人鬼の短剣がミミの命に届く瞬間、3文字詠唱の魔法を使用したミミの攻撃が炸裂する。魔法の詠唱と共に、その殺人鬼の足元から凄まじい水が噴射、それが水柱となり天高くまで貫く。それに伴い、当の殺人鬼は天井を突き破り空高くまで飛ばされた。
「やったか、ミミ!」
「いや、まだ」
殺人鬼が空から降ってくる。それを追撃しようとミミが詠唱するや否や、凄まじい身のこなしでそれを回避した。
「やばい、このままじゃ!」
天井を蹴り、殺人鬼が再び室内へ侵入した。そしてミミと湊の前に立つと、突然湊を凝視した。
「はあ。最初の攻撃が防がれたのはそういうことね」
湊を凝視したその女。彼女がそう湊に呟くと、なぜかパタリと攻撃をやめて再び窓外へ飛び出した。
「少々騒がしくしすぎたのもある。一旦引きましょうかね」
ミミの家の天井を突き破った水柱、並びに窓がバリバリに割れる音を聞きつけ、周りにいた人間が注目を湊達に集めた。それを嫌がったからなのかどうかは分からないが、当の殺人鬼はすぐさま場を離れ、再び闇の中に消えて行く。
「はあ、はあ。ひとまず、命は繋ぎ止めたか」
「大丈夫、お兄さん?」
「ああ、俺は大丈夫。それにしても、ミミの攻撃凄かったなおい」
「えへ、そうかな」
ミミは恥ずかしそうに頬を赤染める。湊は最初ミミの攻撃能力を心配していたが、それは徒労に終わった。殺人鬼が自分らを襲うと事前に分かった状態であれば、ミミも敵に一矢報いることができるのだ。
「それにしても、こんなに人が集まっちゃって。とんだ騒ぎになっちゃったな」
「ああ、私の天井があ」
幾分棒読みでミミが呟く。いや、相当落ち込んでいるのだろうか。ミミが自分の詠唱魔法で開けた天井の穴を凝視して、悲しそうな表情をして見つめている。
「でも、お兄さんが無事ならいいかな。無事で良かった」
「ミミの家をこんなにしてごめんな。あの女の狙いは俺の魔眼だ。ミミを巻き込んでしまって、本当にすまない」
湊はあの殺人鬼女から生き延びることができた一方で、ミミに迷惑を掛けてしまったことを心から侘びた。しかし、当のミミはそれを否定するように、湊は悪くないよと擁護する。
「それにしても、今は殺人鬼が去ってくれたからいいけど。また、いつ襲われるか分からないな」
湊が今この瞬間を生き延び、しかしまた襲われる可能性があることに恐怖する。魔眼を有する者はそれを秘密にすることが多いと前回ミミより教わった湊は、その意味を痛感することになった。
「どうする、俺。どうすればいいんだよ、これから」
「お兄さん。不安なの?」
「ああ、とても不安だよ」
湊が動揺して、これからどうすれば良いか悩んでいることにミミは言及する。しかし、そんな湊にミミは必死に寄り添うように、とある提案をする。
「ミミにいい考えがある」
「いい考え?」
「今襲ってきた女性の素性は掴めない。家もめちゃくちゃになったし、これは一種の大事件だよ。この事態に野次馬が集まってきているし、もうすぐ魔法女学院の方も騒動を聞きつけてやって来る」
「魔法女学院?」
「そう。この水の都ウンディーネ。この大都市を魔法都市たらしめる、魔法女学院。私の通う学校、その先生に相談しようよ、お兄さん」
ミミの口から出たキーワード。魔法女学院と呼ばれたそれは、ミミの通う学校であるらしい。
「ほら、喋っている間にも、魔法女学院の先生達が集まってきた」
湊はぶっ壊れた窓の奥、何やら如何にも魔法使いらしい服装をした何人かの人間がこちらに向かって来るのを見た。
「お兄さん。一旦先生達と合流して、魔法女学院の校長と話そうよ。魔眼使いは一部の人間からはその希少性から命を狙われる。だけど、魔法女学院ならそんなお兄さんも匿ってくれるはずだよ」
「魔法女学院なら俺を匿ってくれる……」
湊はミミの魔法女学院という言葉に注目する。ミミはこの水の都をウンディーネと表現した。その魔法に満ちた大都市に、魔法学校なるものが存在しても不思議ではなかった。しかし、ミミの言ったそれは魔法学校ではなく魔法女学院であり、湊には女子校的な類のなにかではないかと感じた。
「ミミ、俺は一応男なんだが」
「そのことなんだけど、お兄さん、やっぱりどう見ても男の子だよね」
「ああ、そうだけど……それがどうしたんだ」
「歴代、魔眼使いに男はいない。だから、魔眼使いの受け入れに積極的な魔法女学院だから校長に相談しようって提案したけど、あくまで名前の通り、女の子が通う学校なんだよね」
「魔眼使いは、歴史を見ても女しかいないってのか」
湊は状況を頭の中で整理する。魔眼使いは歴代女しか確認されておらず、その受け入れに積極的な学校もまた魔法女学院となる。魔眼使いを匿ってくれるという意味で安全な魔法女学院だが、女が通う学校であり、それが障害となって受け入れの保証が取れない。
「ちなみに、男の魔法使いはどんな学校に行くんだ?」
「魔法騎士団」
「じゃあ、俺が魔法女学院に入りたいなんて言ったら、ただの変態の扱いを受けることに?」
「お兄さんは変態さんなの?」
「なわけあるか!」
湊はかなり真剣な質問をミミに投げかけたのだが、当のミミはかなり呆けている。
「はあ。本当にこれからどうすればいいんだよ俺は。まあ、その魔法女学院の校長とやらに一旦話を聞いてみるのもありかもな。少なくとも話し合いだけで終わりそうだけどな」
「入学しないの?」
「できるならしても……いや、女の子ばっかだし。しかも、その魔法女学院って学校だろ。俺は博士卒で、もう37歳になるんだぞ」
「博士って何なのお兄さん?後、お兄さんが37歳なんて、冗談言って変なの」
湊は冗談なんてつもりはなかった。魔法女学院は、あくまで学校という認識だろうから、もう37歳にもなる湊が通うなんて考えられなかった。
「本当に37歳なんだぜ、俺」
「ふふ、お兄さんの変な冗談。鏡をじっとよく見てよ、お兄さん。どう見たって、若い18歳前後の青少年じゃない」
「なにを言って……へ?」
湊はミミに渡された鏡を見つめる。タイムリープ前にも魔眼を確認するためにミミから鏡を貰ったが、目にしか注意が向かず、それに気づかなかった。明らかに、今の湊は肌がピチピチであり、30代後半には到底考えられない風貌をしていた。
「嘘だろ、何の冗談だよ」
「ふふ、お兄さん面白いね。変な冗談なんか言って」
何が起きているのか到底理解できなかった。
「ちなみに聞くんだが、魔法女学院は何歳から何歳まで通うんだ?」
「通常は18歳から22歳かな」
「つまり大学みたいな所か。じゃあ、ミミの年齢?」
「私は19歳。魔法女学院の2年生だよ」
湊から見てミミはむしろ幼い見た目をしていると感じた。中学生か高校生ぐらいと思っていた湊だが、実年齢は19歳のようであった。
「お兄さんもどうせ私と同い年くらいでしょ。魔法女学院に来なよ、お兄さん」
「頭の整理がつかねえなこれ」
これからどうしたものかと湊が頭を抱えたのと同時、ミミの言う魔法女学院の先生らしき人物が到着する。
「ミミ、大丈夫か」
「あ、ハーギル先生」
「む、その男は。まさか!ミミを襲ったのはそいつか」
「ちげえよ、気がはええよそれは」
「ちっ、今助けるからなミミ。離れろ、穢らわしき獣風情が!」
「ミミ、あの先生頼りになるのか。俺、不安でしかないんだが……」
「ふふ。ハーギル先生はちょっとああいう所があるから。これから楽しくなりそうだね、お兄さん」
「はあ、勘弁してくれよ、全く」
当初ミミを襲った犯人と勘違いされた湊。その誤解が解け、事情が理解されたのは、20分の誤解を解くための会話がなされた後のことだった。
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彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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