107 / 136
明治維新編9 辞職とビジネス・政変も
辞職とビジネス・政変も(5)
しおりを挟む
馨は工部省に山尾庸三を訪ねた。
尾去沢鉱山の件の礼を言うためと、弥吉改め井上勝を視察に同行させることを説明するためだった。
「工部大輔様へのお礼の言上のため参りました」
馨は笑いながら言った。
「聞多さん、そのような物言い似合わないですよ」
「そうかの。これからは一商人になるんじゃ。偉そうにしても得はないじゃろ」
「鉱山もですか」
「あぁ鉱山の方は気が進まんのだけれど、すこし資本を出すくらいはええかと思っての」
「視察に行かれるとお聞きしてますが」
「そうじゃ。その件じゃ。弥吉が辞めたちゅうのは本当か」
「本当ですよ。聞多さんも御存知の通り、鉄道敷設工事が大阪に行きましたからね。弥吉が大阪で指揮を取りたいと言うのを、予算のこともあるから我慢するようにと言っていたら、やってられんと言って辞めてしまいました」
「ここでも予算か」
馨は苦笑いを飲み込むようにしていた。
「それで、わしが弥吉を視察に連れて行っても良いのだな」
「はい、本人次第です」
山尾が何かを悟ったような表情をしていた。弥吉の件はかなり振り回されたのだろうと、馨は想像していた。
「そうか、それなら心強いの。弥吉をお借りする」
「木戸さんがそろそろ帰国される頃ですね」
「そうか、もうそういう頃なのじゃな。給金のことはおぬしに任せたし、わしのやることはもう無いはずじゃ。わしは特にはないからの。山尾の方からいっておいてくれればええ」
「お迎えには行かれないのですか」
「あぁ、鉱山の視察もある。色々忙しいんじゃ」
「俊輔さんも、帰国間近と」
「そうらしいの。庸三はやっと、肩の荷がおろせて気が楽になるか」
山尾が仕事の傍ら、木戸家の世話をしているのは周知の事実だったからだ。
「そうですが」
「俊輔には、プライベートビジネスをすると、文を出しておいた。だからふたりとも知っとるはずじゃ。心配することじゃない」
「そうでしょうか」
「だいじょうぶじゃ。あまり長居もわるいから、ここいらでお暇とするかの」
「あぁ、こちらこそ、あまりお話のお相手ができずすいませんでした」
「なんの。じゃまた」
馨は木戸や俊輔のことを、あまり話したがらないまま帰っていった。
木戸とはしっかり、やり取りをし続けていた山尾には、心配なことが多かった。それを解決することができないまま、話し合いも終わってしまった。
馨と渋沢が去ったあと、大蔵省は大隈が予算の再計算の後も取り仕切ることになった。
太政官は西郷隆盛、板垣、大隈、江藤、大木が参議として取り仕切っていた。また、台湾との関係に問題が生じ台湾征伐が検討されていた。
そんな時朝鮮との関係が、日本の政権の交代を認めようとしない、朝鮮王朝との間で悪化していた。
これには西郷隆盛らが、朝鮮に行って話をつけに行くべきだと、征韓論を言い出していた。大久保は相変わらず何も動かず、引きこもったままだった。
尾去沢鉱山の件の礼を言うためと、弥吉改め井上勝を視察に同行させることを説明するためだった。
「工部大輔様へのお礼の言上のため参りました」
馨は笑いながら言った。
「聞多さん、そのような物言い似合わないですよ」
「そうかの。これからは一商人になるんじゃ。偉そうにしても得はないじゃろ」
「鉱山もですか」
「あぁ鉱山の方は気が進まんのだけれど、すこし資本を出すくらいはええかと思っての」
「視察に行かれるとお聞きしてますが」
「そうじゃ。その件じゃ。弥吉が辞めたちゅうのは本当か」
「本当ですよ。聞多さんも御存知の通り、鉄道敷設工事が大阪に行きましたからね。弥吉が大阪で指揮を取りたいと言うのを、予算のこともあるから我慢するようにと言っていたら、やってられんと言って辞めてしまいました」
「ここでも予算か」
馨は苦笑いを飲み込むようにしていた。
「それで、わしが弥吉を視察に連れて行っても良いのだな」
「はい、本人次第です」
山尾が何かを悟ったような表情をしていた。弥吉の件はかなり振り回されたのだろうと、馨は想像していた。
「そうか、それなら心強いの。弥吉をお借りする」
「木戸さんがそろそろ帰国される頃ですね」
「そうか、もうそういう頃なのじゃな。給金のことはおぬしに任せたし、わしのやることはもう無いはずじゃ。わしは特にはないからの。山尾の方からいっておいてくれればええ」
「お迎えには行かれないのですか」
「あぁ、鉱山の視察もある。色々忙しいんじゃ」
「俊輔さんも、帰国間近と」
「そうらしいの。庸三はやっと、肩の荷がおろせて気が楽になるか」
山尾が仕事の傍ら、木戸家の世話をしているのは周知の事実だったからだ。
「そうですが」
「俊輔には、プライベートビジネスをすると、文を出しておいた。だからふたりとも知っとるはずじゃ。心配することじゃない」
「そうでしょうか」
「だいじょうぶじゃ。あまり長居もわるいから、ここいらでお暇とするかの」
「あぁ、こちらこそ、あまりお話のお相手ができずすいませんでした」
「なんの。じゃまた」
馨は木戸や俊輔のことを、あまり話したがらないまま帰っていった。
木戸とはしっかり、やり取りをし続けていた山尾には、心配なことが多かった。それを解決することができないまま、話し合いも終わってしまった。
馨と渋沢が去ったあと、大蔵省は大隈が予算の再計算の後も取り仕切ることになった。
太政官は西郷隆盛、板垣、大隈、江藤、大木が参議として取り仕切っていた。また、台湾との関係に問題が生じ台湾征伐が検討されていた。
そんな時朝鮮との関係が、日本の政権の交代を認めようとしない、朝鮮王朝との間で悪化していた。
これには西郷隆盛らが、朝鮮に行って話をつけに行くべきだと、征韓論を言い出していた。大久保は相変わらず何も動かず、引きこもったままだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
黄金の檻の高貴な囚人
せりもも
歴史・時代
短編集。ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを囲む人々の、群像劇。
ナポレオンと、敗戦国オーストリアの皇女マリー・ルイーゼの間に生まれた、少年。彼は、父ナポレオンが没落すると、母の実家であるハプスブルク宮廷に引き取られた。やがて、母とも引き離され、一人、ウィーンに幽閉される。
仇敵ナポレオンの息子(だが彼は、オーストリア皇帝の孫だった)に戸惑う、周囲の人々。父への敵意から、懸命に自我を守ろうとする、幼いフランツ。しかしオーストリアには、敵ばかりではなかった……。
ナポレオンの絶頂期から、ウィーン3月革命までを描く。
※カクヨムさんで完結している「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」のスピンオフ短編集です
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
※星海社さんの座談会(2023.冬)で取り上げて頂いた作品は、こちらではありません。本編に含まれるミステリのひとつを抽出してまとめたもので、公開はしていません
https://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa037/01/01.html
※断りのない画像は、全て、wikiからのパブリック・ドメイン作品です
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる