104 / 136
明治維新編9 辞職とビジネス・政変も
辞職とビジネス・政変も(2)
しおりを挟む
ある夜、馨はいつもの店でお気に入りの芸者を置いて酒を飲んでいた。
そこに女将がやってきた。
「井上様、芳川様のお使いが見えられて、渋沢様もお越しのようで、こちらに来てくださらないかとおっしゃっていますが。いかがいたしましょう」
「芳川と渋沢がの。そうじゃの、そちらに参ると伝えてくれ」
そう言うと、そばにおいていた妓に「すまんが今日はこれまでじゃ」と声をかけて立ち上がった。
渋沢と芳川のいる茶屋に着くと、すぐに女将が案内をしてくれた。
「井上様、お越しでございます」
ふすまが開けられると中の二人に声をかけた。
「全く何事じゃ。人がゆっくりして居るというのに」
「すみません、井上さん。渋沢さんが面白いものをもっていたので、これは井上さんをお呼びしないとということになりまして」
芳川は渋沢の方を見て、あちらが悪いというようにしていた。
「芳川さん、私が問題だみたいに言わないでくださいよ。興味をお持ちなのは芳川さんです」
なんだか分かるのだか、わからないのかの物言いで二人で言い合っていた。
「なんだかわからんが、渋沢がわしに用があるんか」
「はははは。これですよ。お読みいただけますか。こんなのこの渋沢の手ではないでしょう」
芳川が渋沢がもっていたと言う文書を馨に渡した。
「これは、財政問題の建白書というか、抗弁書のようじゃな。それにしても美文じゃ。確かに渋沢の堅苦しいものとは違うの」
「堅苦しいとはありがたいことと思いますね。これは木戸さんのおすすめの、那珂通高に書いてもらったものです。思いの外よくかけていると思ったので、芳川さんに見てもらったわけです。新聞に公表したら面白いのではと、まとまりまして。そうしたら、これは井上さんに、お読みいただかないといけない、ということになりました」
「これは、面白い。そうじゃ、わしに預けてもらえぬか。新聞に出そう。ただ説得力が足りんな。数字でもつけてみるか」
「そうきてくださらないと、面白くないですね」
渋沢がもう上機嫌で、盛り上げていた。
「井上さんも渋沢も、ずいぶんはち切れてますな」
芳川が大笑いしていた。
渋沢も馨も笑い転げていた。もうこれで怖いものはなしだとなるはずだった。
度々訪問していて、馨の大蔵省退職の意志をはっきりと感じ取っていた、岡田平蔵が馨の家を訪ねていた。
「お噂をお聞きしまして、罷り越しました」
「あぁ、もう辞める。あねーなところに長ういるものじゃない」
馨はもう官の仕事など、どうでもいいという気分になっていた
「それで、お願いでございますが」
「なんじゃ」
「ご一緒していただけませんか。私だけでなく同志を募りましょう。井上さんの気になる方もぜひ、ご紹介いただければと思いまして」
岡田はそんな馨を見て、ちょうどよい頃合いだと思った。そして、丁寧に頭を下げていた。
「商売をともにとか」
馨の目がキラリと光った。そんな馨を平伏しながらしっかりと見て、岡田が言った。
「ハイ、そうでございます。私個人としては、鉱山に興味がございますが、なかなか良いものに出会いません。それが残念ですが」
「おぬしは、山に興味があるんか。何かあるか見てみよう」
「ありがとうございます」
岡田平蔵はこの話をできたことで満足し、帰っていった。
そこに女将がやってきた。
「井上様、芳川様のお使いが見えられて、渋沢様もお越しのようで、こちらに来てくださらないかとおっしゃっていますが。いかがいたしましょう」
「芳川と渋沢がの。そうじゃの、そちらに参ると伝えてくれ」
そう言うと、そばにおいていた妓に「すまんが今日はこれまでじゃ」と声をかけて立ち上がった。
渋沢と芳川のいる茶屋に着くと、すぐに女将が案内をしてくれた。
「井上様、お越しでございます」
ふすまが開けられると中の二人に声をかけた。
「全く何事じゃ。人がゆっくりして居るというのに」
「すみません、井上さん。渋沢さんが面白いものをもっていたので、これは井上さんをお呼びしないとということになりまして」
芳川は渋沢の方を見て、あちらが悪いというようにしていた。
「芳川さん、私が問題だみたいに言わないでくださいよ。興味をお持ちなのは芳川さんです」
なんだか分かるのだか、わからないのかの物言いで二人で言い合っていた。
「なんだかわからんが、渋沢がわしに用があるんか」
「はははは。これですよ。お読みいただけますか。こんなのこの渋沢の手ではないでしょう」
芳川が渋沢がもっていたと言う文書を馨に渡した。
「これは、財政問題の建白書というか、抗弁書のようじゃな。それにしても美文じゃ。確かに渋沢の堅苦しいものとは違うの」
「堅苦しいとはありがたいことと思いますね。これは木戸さんのおすすめの、那珂通高に書いてもらったものです。思いの外よくかけていると思ったので、芳川さんに見てもらったわけです。新聞に公表したら面白いのではと、まとまりまして。そうしたら、これは井上さんに、お読みいただかないといけない、ということになりました」
「これは、面白い。そうじゃ、わしに預けてもらえぬか。新聞に出そう。ただ説得力が足りんな。数字でもつけてみるか」
「そうきてくださらないと、面白くないですね」
渋沢がもう上機嫌で、盛り上げていた。
「井上さんも渋沢も、ずいぶんはち切れてますな」
芳川が大笑いしていた。
渋沢も馨も笑い転げていた。もうこれで怖いものはなしだとなるはずだった。
度々訪問していて、馨の大蔵省退職の意志をはっきりと感じ取っていた、岡田平蔵が馨の家を訪ねていた。
「お噂をお聞きしまして、罷り越しました」
「あぁ、もう辞める。あねーなところに長ういるものじゃない」
馨はもう官の仕事など、どうでもいいという気分になっていた
「それで、お願いでございますが」
「なんじゃ」
「ご一緒していただけませんか。私だけでなく同志を募りましょう。井上さんの気になる方もぜひ、ご紹介いただければと思いまして」
岡田はそんな馨を見て、ちょうどよい頃合いだと思った。そして、丁寧に頭を下げていた。
「商売をともにとか」
馨の目がキラリと光った。そんな馨を平伏しながらしっかりと見て、岡田が言った。
「ハイ、そうでございます。私個人としては、鉱山に興味がございますが、なかなか良いものに出会いません。それが残念ですが」
「おぬしは、山に興味があるんか。何かあるか見てみよう」
「ありがとうございます」
岡田平蔵はこの話をできたことで満足し、帰っていった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

忍者同心 服部文蔵
大澤伝兵衛
歴史・時代
八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。
服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。
忍者同心の誕生である。
だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。
それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
国殤(こくしょう)
松井暁彦
歴史・時代
目前まで迫る秦の天下統一。
秦王政は最大の難敵である強国楚の侵攻を開始する。
楚征伐の指揮を任されたのは若き勇猛な将軍李信。
疾風の如く楚の城郭を次々に降していく李信だったが、彼の前に楚最強の将軍項燕が立ちはだかる。
項燕の出現によって狂い始める秦王政の計画。項燕に対抗するために、秦王政は隠棲した王翦の元へと向かう。
今、項燕と王翦の国の存亡をかけた戦いが幕を開ける。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる