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明治維新編9 辞職とビジネス・政変も
辞職とビジネス・政変も(2)
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ある夜、馨はいつもの店でお気に入りの芸者を置いて酒を飲んでいた。
そこに女将がやってきた。
「井上様、芳川様のお使いが見えられて、渋沢様もお越しのようで、こちらに来てくださらないかとおっしゃっていますが。いかがいたしましょう」
「芳川と渋沢がの。そうじゃの、そちらに参ると伝えてくれ」
そう言うと、そばにおいていた妓に「すまんが今日はこれまでじゃ」と声をかけて立ち上がった。
渋沢と芳川のいる茶屋に着くと、すぐに女将が案内をしてくれた。
「井上様、お越しでございます」
ふすまが開けられると中の二人に声をかけた。
「全く何事じゃ。人がゆっくりして居るというのに」
「すみません、井上さん。渋沢さんが面白いものをもっていたので、これは井上さんをお呼びしないとということになりまして」
芳川は渋沢の方を見て、あちらが悪いというようにしていた。
「芳川さん、私が問題だみたいに言わないでくださいよ。興味をお持ちなのは芳川さんです」
なんだか分かるのだか、わからないのかの物言いで二人で言い合っていた。
「なんだかわからんが、渋沢がわしに用があるんか」
「はははは。これですよ。お読みいただけますか。こんなのこの渋沢の手ではないでしょう」
芳川が渋沢がもっていたと言う文書を馨に渡した。
「これは、財政問題の建白書というか、抗弁書のようじゃな。それにしても美文じゃ。確かに渋沢の堅苦しいものとは違うの」
「堅苦しいとはありがたいことと思いますね。これは木戸さんのおすすめの、那珂通高に書いてもらったものです。思いの外よくかけていると思ったので、芳川さんに見てもらったわけです。新聞に公表したら面白いのではと、まとまりまして。そうしたら、これは井上さんに、お読みいただかないといけない、ということになりました」
「これは、面白い。そうじゃ、わしに預けてもらえぬか。新聞に出そう。ただ説得力が足りんな。数字でもつけてみるか」
「そうきてくださらないと、面白くないですね」
渋沢がもう上機嫌で、盛り上げていた。
「井上さんも渋沢も、ずいぶんはち切れてますな」
芳川が大笑いしていた。
渋沢も馨も笑い転げていた。もうこれで怖いものはなしだとなるはずだった。
度々訪問していて、馨の大蔵省退職の意志をはっきりと感じ取っていた、岡田平蔵が馨の家を訪ねていた。
「お噂をお聞きしまして、罷り越しました」
「あぁ、もう辞める。あねーなところに長ういるものじゃない」
馨はもう官の仕事など、どうでもいいという気分になっていた
「それで、お願いでございますが」
「なんじゃ」
「ご一緒していただけませんか。私だけでなく同志を募りましょう。井上さんの気になる方もぜひ、ご紹介いただければと思いまして」
岡田はそんな馨を見て、ちょうどよい頃合いだと思った。そして、丁寧に頭を下げていた。
「商売をともにとか」
馨の目がキラリと光った。そんな馨を平伏しながらしっかりと見て、岡田が言った。
「ハイ、そうでございます。私個人としては、鉱山に興味がございますが、なかなか良いものに出会いません。それが残念ですが」
「おぬしは、山に興味があるんか。何かあるか見てみよう」
「ありがとうございます」
岡田平蔵はこの話をできたことで満足し、帰っていった。
そこに女将がやってきた。
「井上様、芳川様のお使いが見えられて、渋沢様もお越しのようで、こちらに来てくださらないかとおっしゃっていますが。いかがいたしましょう」
「芳川と渋沢がの。そうじゃの、そちらに参ると伝えてくれ」
そう言うと、そばにおいていた妓に「すまんが今日はこれまでじゃ」と声をかけて立ち上がった。
渋沢と芳川のいる茶屋に着くと、すぐに女将が案内をしてくれた。
「井上様、お越しでございます」
ふすまが開けられると中の二人に声をかけた。
「全く何事じゃ。人がゆっくりして居るというのに」
「すみません、井上さん。渋沢さんが面白いものをもっていたので、これは井上さんをお呼びしないとということになりまして」
芳川は渋沢の方を見て、あちらが悪いというようにしていた。
「芳川さん、私が問題だみたいに言わないでくださいよ。興味をお持ちなのは芳川さんです」
なんだか分かるのだか、わからないのかの物言いで二人で言い合っていた。
「なんだかわからんが、渋沢がわしに用があるんか」
「はははは。これですよ。お読みいただけますか。こんなのこの渋沢の手ではないでしょう」
芳川が渋沢がもっていたと言う文書を馨に渡した。
「これは、財政問題の建白書というか、抗弁書のようじゃな。それにしても美文じゃ。確かに渋沢の堅苦しいものとは違うの」
「堅苦しいとはありがたいことと思いますね。これは木戸さんのおすすめの、那珂通高に書いてもらったものです。思いの外よくかけていると思ったので、芳川さんに見てもらったわけです。新聞に公表したら面白いのではと、まとまりまして。そうしたら、これは井上さんに、お読みいただかないといけない、ということになりました」
「これは、面白い。そうじゃ、わしに預けてもらえぬか。新聞に出そう。ただ説得力が足りんな。数字でもつけてみるか」
「そうきてくださらないと、面白くないですね」
渋沢がもう上機嫌で、盛り上げていた。
「井上さんも渋沢も、ずいぶんはち切れてますな」
芳川が大笑いしていた。
渋沢も馨も笑い転げていた。もうこれで怖いものはなしだとなるはずだった。
度々訪問していて、馨の大蔵省退職の意志をはっきりと感じ取っていた、岡田平蔵が馨の家を訪ねていた。
「お噂をお聞きしまして、罷り越しました」
「あぁ、もう辞める。あねーなところに長ういるものじゃない」
馨はもう官の仕事など、どうでもいいという気分になっていた
「それで、お願いでございますが」
「なんじゃ」
「ご一緒していただけませんか。私だけでなく同志を募りましょう。井上さんの気になる方もぜひ、ご紹介いただければと思いまして」
岡田はそんな馨を見て、ちょうどよい頃合いだと思った。そして、丁寧に頭を下げていた。
「商売をともにとか」
馨の目がキラリと光った。そんな馨を平伏しながらしっかりと見て、岡田が言った。
「ハイ、そうでございます。私個人としては、鉱山に興味がございますが、なかなか良いものに出会いません。それが残念ですが」
「おぬしは、山に興味があるんか。何かあるか見てみよう」
「ありがとうございます」
岡田平蔵はこの話をできたことで満足し、帰っていった。
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