61 / 136
明治維新編1 神の行末
神の行く末(6)
しおりを挟む
聞多は木戸に会議の終わったあと、控えの間で待っていてほしいと言われていた。
外を眺めて待っていると、木戸が入ってきた。
「すまん、待たせた」
「いや、それほどでも」
「実は、このあと長崎に行きこの件の説明をすることになった。そのついでにというか山口にも行って、新政府出仕者の帰藩が認められないことについても説明して来ようと思っている」
「殿には義理が立たぬことになってしまうのかの。長州は人を失いすぎたところ、こうして居るのに、お役に立てないのは残念なことじゃ」
聞多は遠くを見るような目で言った。木戸は聞多が藩主敬親や世子元徳(定広から改名)に気に入られていたことを思い出した。
「色々話もしたいから、一緒に行かぬか」
「さすがに山口へは無理じゃろ。三田尻にでも寄港する船で長崎に向かうのなら、ご一緒したいものじゃ」
「そうだな、そうしよう。まだ片付けぬといけないことがあるから、兵庫で待っていてくれぬか」
「それなら、俊輔のところでも世話になろうとするかの」
「それがいい」
聞多は木戸と別れて宿舎に戻った。
「くま、居るか」
「井上か」
「明日には発つのだろう。礼を申しておこうとな」
聞多は大隈に歩み寄って、右手を差し出して言った。
「短い間だったがお世話になった。これからもよろしくお願いしたいものじゃ。新しい地でもその力発揮して変えていってくれ」
「吾輩も同じである。これからもよろしくお願いする」
聞多の差し出した手を右手で握った。
「今度はシェイクハンズ直ぐにできたの。それじゃ」
聞多は大隈の顔を見て笑って、出ていった。
「あいつ我輩を馬鹿にした」
大隈は眉間にシワを寄せて呟いた。でも、改めて面白い男だと思った。
翌日、聞多は俊輔の宿舎を訪ねた。
「俊輔、居るかの。邪魔するぞ」
俊輔は帰宅の準備をしていた。返事を待たずに聞多は入り込んでいた。
「荷造り中すまん。木戸さんと一緒に兵庫から船に乗ることにした。それで、木戸さんが来るまで、俊輔の家に寄せてもらいたいのじゃ。もし無理なら宿を取る」
「無理だなんて。聞多が来てくれるなら歓迎だ」
「それは有り難い。で、いつ帰るんじゃ」
「明日にする」
「それじゃわしも荷造りせにゃならんな」
「荷造りするほどの荷があるんか」
「ないの」
二人で一緒に笑った。大したことではなかったがなんかおかしかった。次の日二人で一緒に俊輔の兵庫の家に行った。家につくと聞多は俊輔から辞書を借りた。木戸が訪ねてくるまでの間、暇さえあれば辞書を眺めていた。
「なんで、そんなに辞書を読んでいるんだ」
「少し調べたいことがあるんじゃ」
「調べるって感じには見えんけど」
「確かに辞書を読んどるな」
「なぁ俊輔。おぬしずっと俊輔でいくのか」
「ずっと俊輔でって変なことを聞くな。名乗りを変えるのかってことか」
「そうじゃ」
「僕は高杉さんにいずれは『博文』にしろって言われた。名前負けしないと思えたときに変えようおもってる」
「そうか。晋作にな」
聞多がなにか考えているようだったが、俊輔は特に尋ねなかった。
そんなふうに数日過ごしていると、木戸が訪ねてきた。もう明日には兵庫を発つのだという。俊輔は宴席を設けた。久々の馬鹿騒ぎをした。長州にいたときを思い出すくらい、久々に一緒に入られたのは楽しかった。翌日お互いの頑張りを約束して分かれた。
聞多は木戸と船に乗り、今後のことを話し合った。長崎の製鉄所の運営をしたいということも。三田尻で下船する木戸を見送るときには「殿と世子様にお詫びをお願いしたい」と言伝をお願いしていた。
長崎に着くと、大阪の会議の報告を行った。
キリシタンの処分が代表の死罪から他藩へのお預けと改宗・棄教をさせる、となったことには異論が出たが、話し合いの結果受け入れて実行していくことになった。細かいことは木戸が長崎に来てからということになった。しかし木戸との話し合いでも変更されることはなかった。
話し合いの途中とはいえ、教徒たちの移送が決定すると、速やかに実行に移した。木戸が帰京する頃には代表者たちの移送は終わっていた。うるさい外国勢からの横槍を入れさせないためだった。
聞多は帰京する木戸を見送りに行った。
「いろいろとありがとうございました」
「聞多にしては随分殊勝なことだな」
そう言うと木戸は船に乗り込んでいった。
外を眺めて待っていると、木戸が入ってきた。
「すまん、待たせた」
「いや、それほどでも」
「実は、このあと長崎に行きこの件の説明をすることになった。そのついでにというか山口にも行って、新政府出仕者の帰藩が認められないことについても説明して来ようと思っている」
「殿には義理が立たぬことになってしまうのかの。長州は人を失いすぎたところ、こうして居るのに、お役に立てないのは残念なことじゃ」
聞多は遠くを見るような目で言った。木戸は聞多が藩主敬親や世子元徳(定広から改名)に気に入られていたことを思い出した。
「色々話もしたいから、一緒に行かぬか」
「さすがに山口へは無理じゃろ。三田尻にでも寄港する船で長崎に向かうのなら、ご一緒したいものじゃ」
「そうだな、そうしよう。まだ片付けぬといけないことがあるから、兵庫で待っていてくれぬか」
「それなら、俊輔のところでも世話になろうとするかの」
「それがいい」
聞多は木戸と別れて宿舎に戻った。
「くま、居るか」
「井上か」
「明日には発つのだろう。礼を申しておこうとな」
聞多は大隈に歩み寄って、右手を差し出して言った。
「短い間だったがお世話になった。これからもよろしくお願いしたいものじゃ。新しい地でもその力発揮して変えていってくれ」
「吾輩も同じである。これからもよろしくお願いする」
聞多の差し出した手を右手で握った。
「今度はシェイクハンズ直ぐにできたの。それじゃ」
聞多は大隈の顔を見て笑って、出ていった。
「あいつ我輩を馬鹿にした」
大隈は眉間にシワを寄せて呟いた。でも、改めて面白い男だと思った。
翌日、聞多は俊輔の宿舎を訪ねた。
「俊輔、居るかの。邪魔するぞ」
俊輔は帰宅の準備をしていた。返事を待たずに聞多は入り込んでいた。
「荷造り中すまん。木戸さんと一緒に兵庫から船に乗ることにした。それで、木戸さんが来るまで、俊輔の家に寄せてもらいたいのじゃ。もし無理なら宿を取る」
「無理だなんて。聞多が来てくれるなら歓迎だ」
「それは有り難い。で、いつ帰るんじゃ」
「明日にする」
「それじゃわしも荷造りせにゃならんな」
「荷造りするほどの荷があるんか」
「ないの」
二人で一緒に笑った。大したことではなかったがなんかおかしかった。次の日二人で一緒に俊輔の兵庫の家に行った。家につくと聞多は俊輔から辞書を借りた。木戸が訪ねてくるまでの間、暇さえあれば辞書を眺めていた。
「なんで、そんなに辞書を読んでいるんだ」
「少し調べたいことがあるんじゃ」
「調べるって感じには見えんけど」
「確かに辞書を読んどるな」
「なぁ俊輔。おぬしずっと俊輔でいくのか」
「ずっと俊輔でって変なことを聞くな。名乗りを変えるのかってことか」
「そうじゃ」
「僕は高杉さんにいずれは『博文』にしろって言われた。名前負けしないと思えたときに変えようおもってる」
「そうか。晋作にな」
聞多がなにか考えているようだったが、俊輔は特に尋ねなかった。
そんなふうに数日過ごしていると、木戸が訪ねてきた。もう明日には兵庫を発つのだという。俊輔は宴席を設けた。久々の馬鹿騒ぎをした。長州にいたときを思い出すくらい、久々に一緒に入られたのは楽しかった。翌日お互いの頑張りを約束して分かれた。
聞多は木戸と船に乗り、今後のことを話し合った。長崎の製鉄所の運営をしたいということも。三田尻で下船する木戸を見送るときには「殿と世子様にお詫びをお願いしたい」と言伝をお願いしていた。
長崎に着くと、大阪の会議の報告を行った。
キリシタンの処分が代表の死罪から他藩へのお預けと改宗・棄教をさせる、となったことには異論が出たが、話し合いの結果受け入れて実行していくことになった。細かいことは木戸が長崎に来てからということになった。しかし木戸との話し合いでも変更されることはなかった。
話し合いの途中とはいえ、教徒たちの移送が決定すると、速やかに実行に移した。木戸が帰京する頃には代表者たちの移送は終わっていた。うるさい外国勢からの横槍を入れさせないためだった。
聞多は帰京する木戸を見送りに行った。
「いろいろとありがとうございました」
「聞多にしては随分殊勝なことだな」
そう言うと木戸は船に乗り込んでいった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
黄金の檻の高貴な囚人
せりもも
歴史・時代
短編集。ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを囲む人々の、群像劇。
ナポレオンと、敗戦国オーストリアの皇女マリー・ルイーゼの間に生まれた、少年。彼は、父ナポレオンが没落すると、母の実家であるハプスブルク宮廷に引き取られた。やがて、母とも引き離され、一人、ウィーンに幽閉される。
仇敵ナポレオンの息子(だが彼は、オーストリア皇帝の孫だった)に戸惑う、周囲の人々。父への敵意から、懸命に自我を守ろうとする、幼いフランツ。しかしオーストリアには、敵ばかりではなかった……。
ナポレオンの絶頂期から、ウィーン3月革命までを描く。
※カクヨムさんで完結している「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」のスピンオフ短編集です
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
※星海社さんの座談会(2023.冬)で取り上げて頂いた作品は、こちらではありません。本編に含まれるミステリのひとつを抽出してまとめたもので、公開はしていません
https://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa037/01/01.html
※断りのない画像は、全て、wikiからのパブリック・ドメイン作品です
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる