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幕末動乱篇7 黒船と砲台
黒船と砲台(3)
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途中の二瀬あたりの山口へ合流するところで、下関に向かう俊輔と高杉の二人と再会した。
「あれ、今すれ違ったの聞多じゃ。高杉さん」
「聞多だと。追いかけよう」
「聞多まってくれ」
俊輔の声が届いたのか、驚いた顔のまま聞多が立ち止まっていた。晋作と俊輔は一緒に道端の石にすわり、これからのことの話をした。
「そもそも攘夷なぞ無理だ。わしはな、この長州こそ艦隊の砲撃を食ろうて相手の強さを知り、炎上すればええ思う。そうならなくてはこの国は変われん」
「そうじゃ、僕らはあいつらに現実を教えねばならん」
聞多は持論になっているこの論を高杉にも言った。ふたりとも賛成し山口で下関の状況を説明するという聞多と一緒に向かうことにした。
山口の政庁で藩主・世子、要路の前で交渉が間に合わず、砲撃が始まり戦になったことを報告した。付け加えて聞多が言った。
「下関では敗れ、砲台は奪われるだけでなく、占拠されることになりましょう。上陸した部隊が山口まで侵攻してこないとは限りません。そこで私に一大隊をお預けください。小郡にて防戦いたします。ただ力及ばず敗戦となりましたら、皆様ご覚悟願います」
言い終わると即座に出ていってしまった。
控えの間で待っていた、高杉と俊輔に声をかけて政庁を出ようとすると「お待ち下さい」と声がしたのでそのまま待った。すると、事務方の一人が拝命書を持ってきた。聞多が開くと小郡代官を命ずるとともに第四大隊を預けるとあった。
「こりゃ笑える。今更代官に命じられても意味などない。お役目が何だというのじゃ。代官などいらぬ」
聞多が言うと、高杉が止めた。
「まて、よく考えろ。君が代官になれば大隊の運用に役立つことがあるだろう。食料だって資金だって入用だ。これは受けねばならんのだ」
「たしかにそうじゃ、すまんな」
高杉の言い分は最もだと思った聞多は「お受けいたします」と伝えてほしいと言った。
三人で聞多の寄寓先に行き策を練った。翌日聞多、高杉、俊輔の三人で小郡に行くと代官所に入り、役人たちを集めて防衛策を指示した。聞多は代官所で寝泊まりすることにし、高杉と俊輔は宿に泊まり、代官所で対応にあたった。
下関での戦況が思わしくないことに不安に思った藩主敬親が、前線に立とうと言い出したので世子定広が諌めた。その結果定広が小郡で指揮を執る事とした。小郡の代官所に定広一行が到着すると、宴席が設けられた。前田、毛利登人、山田宇右衛門、渡邊内蔵太、大和、波多野といった随行員と聞多、高杉、俊輔も同席した。
「このままでは防長ともども滅亡するのか」
誰かが言った。
「今更嘆いて何になると言うのです」
聞多が言い返した。
すると山田宇右衛門が聞多に聞いた。
「外国とは和議を結び外患をなくし、その上で公儀との一戦を考えるべきではないのか」
「またですか。そもそも戦端が開く前だから、これまでのことにつき関係国と和議を結ぼうとしてきたのです。それなのに攘夷は絶対と言われたではないですか。すでに開戦となった今、当初の決議通り戦をするだけです。今更和議をと言われても私の面目立ちませぬ」
「そなたの面目は問題にならん」
山田は聞多に絡むように言っていた。
「井上、和議を考えることはできぬのか」
「はぁー。今更何を」
ただでさえ短気なのに、これだけやっても意味のある言葉など皆無じゃと怒りで壊れそうになるところをどうにかやり過ごしていた。
これだけ言っても堂々巡りで、聞多は言葉で諌めても無理だと思うようになってきた。相変わらずその場しのぎで、誠意の欠片も見られない。言葉でなく行動で示す。
そうだ、腹を切ってこいつらにはらわたををぶちまけたらどうなる。少しはこいつらも物事を真面目に考える切っ掛けになるのでは。これがいろいろ考えて、一番いい方法に思えてきた。動くのなら今だ。ふっと座を立って開いている部屋に入った。座って着物を開いて、腹に脇差を刺そうとした時、高杉が入ってきて走りより刀を奪い取った。
「なにか変だと思って付いてきたらこのざまだ。聞多、君が腹を切ったところでよくなることなどなにもない。この状況で死を急いで何になる。やるべきことから逃げるな。君には出来ることが多くあるだろう。頼りにしているものも多くいるんだ。まわりをしっかり見てくれ」
聞多は高杉の事を目をまるまるとさせて見ていた。気持ちが体に戻ったようで、いつもの顔に戻ってから小さな声で言った。
「逃げるつもりはないんじゃ。晋作、すまん」
そう言って、着物を整えて、脇差を拾って鞘に収めた。
「この刀も杉からのものだ。使い方を誤ったらあいつに殺される」
「魂を守るために使えって言ってたな」
しばらくして俊輔が飛び込んできた。
「やっと見つけた。聞多、高杉さん、世子様が呼んでいる。君たちとだけ話したいそうだ。付いてきてほしい」
「わしは行かぬ。言いたいこと言うべき事は既に言っておる。今更世子様の前とはいえ付け加えることなどない」
「聞多、世子様が君を呼んでいるんだぞ」
俊輔が精いっぱいなだめる様に言った。高杉も続けた。
「世子様が君を頼りにしているのがわからないのか。他の誰でもない井上聞多を信用しておられるのだ。なんとしても連れて行く、いいな俊輔」
「大丈夫です」
「あぁわかった、わかった晋作、共に参ろう」
「あれ、今すれ違ったの聞多じゃ。高杉さん」
「聞多だと。追いかけよう」
「聞多まってくれ」
俊輔の声が届いたのか、驚いた顔のまま聞多が立ち止まっていた。晋作と俊輔は一緒に道端の石にすわり、これからのことの話をした。
「そもそも攘夷なぞ無理だ。わしはな、この長州こそ艦隊の砲撃を食ろうて相手の強さを知り、炎上すればええ思う。そうならなくてはこの国は変われん」
「そうじゃ、僕らはあいつらに現実を教えねばならん」
聞多は持論になっているこの論を高杉にも言った。ふたりとも賛成し山口で下関の状況を説明するという聞多と一緒に向かうことにした。
山口の政庁で藩主・世子、要路の前で交渉が間に合わず、砲撃が始まり戦になったことを報告した。付け加えて聞多が言った。
「下関では敗れ、砲台は奪われるだけでなく、占拠されることになりましょう。上陸した部隊が山口まで侵攻してこないとは限りません。そこで私に一大隊をお預けください。小郡にて防戦いたします。ただ力及ばず敗戦となりましたら、皆様ご覚悟願います」
言い終わると即座に出ていってしまった。
控えの間で待っていた、高杉と俊輔に声をかけて政庁を出ようとすると「お待ち下さい」と声がしたのでそのまま待った。すると、事務方の一人が拝命書を持ってきた。聞多が開くと小郡代官を命ずるとともに第四大隊を預けるとあった。
「こりゃ笑える。今更代官に命じられても意味などない。お役目が何だというのじゃ。代官などいらぬ」
聞多が言うと、高杉が止めた。
「まて、よく考えろ。君が代官になれば大隊の運用に役立つことがあるだろう。食料だって資金だって入用だ。これは受けねばならんのだ」
「たしかにそうじゃ、すまんな」
高杉の言い分は最もだと思った聞多は「お受けいたします」と伝えてほしいと言った。
三人で聞多の寄寓先に行き策を練った。翌日聞多、高杉、俊輔の三人で小郡に行くと代官所に入り、役人たちを集めて防衛策を指示した。聞多は代官所で寝泊まりすることにし、高杉と俊輔は宿に泊まり、代官所で対応にあたった。
下関での戦況が思わしくないことに不安に思った藩主敬親が、前線に立とうと言い出したので世子定広が諌めた。その結果定広が小郡で指揮を執る事とした。小郡の代官所に定広一行が到着すると、宴席が設けられた。前田、毛利登人、山田宇右衛門、渡邊内蔵太、大和、波多野といった随行員と聞多、高杉、俊輔も同席した。
「このままでは防長ともども滅亡するのか」
誰かが言った。
「今更嘆いて何になると言うのです」
聞多が言い返した。
すると山田宇右衛門が聞多に聞いた。
「外国とは和議を結び外患をなくし、その上で公儀との一戦を考えるべきではないのか」
「またですか。そもそも戦端が開く前だから、これまでのことにつき関係国と和議を結ぼうとしてきたのです。それなのに攘夷は絶対と言われたではないですか。すでに開戦となった今、当初の決議通り戦をするだけです。今更和議をと言われても私の面目立ちませぬ」
「そなたの面目は問題にならん」
山田は聞多に絡むように言っていた。
「井上、和議を考えることはできぬのか」
「はぁー。今更何を」
ただでさえ短気なのに、これだけやっても意味のある言葉など皆無じゃと怒りで壊れそうになるところをどうにかやり過ごしていた。
これだけ言っても堂々巡りで、聞多は言葉で諌めても無理だと思うようになってきた。相変わらずその場しのぎで、誠意の欠片も見られない。言葉でなく行動で示す。
そうだ、腹を切ってこいつらにはらわたををぶちまけたらどうなる。少しはこいつらも物事を真面目に考える切っ掛けになるのでは。これがいろいろ考えて、一番いい方法に思えてきた。動くのなら今だ。ふっと座を立って開いている部屋に入った。座って着物を開いて、腹に脇差を刺そうとした時、高杉が入ってきて走りより刀を奪い取った。
「なにか変だと思って付いてきたらこのざまだ。聞多、君が腹を切ったところでよくなることなどなにもない。この状況で死を急いで何になる。やるべきことから逃げるな。君には出来ることが多くあるだろう。頼りにしているものも多くいるんだ。まわりをしっかり見てくれ」
聞多は高杉の事を目をまるまるとさせて見ていた。気持ちが体に戻ったようで、いつもの顔に戻ってから小さな声で言った。
「逃げるつもりはないんじゃ。晋作、すまん」
そう言って、着物を整えて、脇差を拾って鞘に収めた。
「この刀も杉からのものだ。使い方を誤ったらあいつに殺される」
「魂を守るために使えって言ってたな」
しばらくして俊輔が飛び込んできた。
「やっと見つけた。聞多、高杉さん、世子様が呼んでいる。君たちとだけ話したいそうだ。付いてきてほしい」
「わしは行かぬ。言いたいこと言うべき事は既に言っておる。今更世子様の前とはいえ付け加えることなどない」
「聞多、世子様が君を呼んでいるんだぞ」
俊輔が精いっぱいなだめる様に言った。高杉も続けた。
「世子様が君を頼りにしているのがわからないのか。他の誰でもない井上聞多を信用しておられるのだ。なんとしても連れて行く、いいな俊輔」
「大丈夫です」
「あぁわかった、わかった晋作、共に参ろう」
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