29 / 30
天ぷらの戦い 開幕
しおりを挟む
天丼を二つ作り持って行く。
天丼を持って行く最中にとらさん達以外の声が聞こえてきた。
声の主はりゅうさんと時次さんだった。
先程まで和やかな雰囲気が、今はピリついている。
「えーっと、お待たせしました。天丼お二つです…。」
「あぁ、悪いね。」
とらさんは私から天丼を受け取るが、りゅうさんから目線を外さない。
次郎さんはというと天丼を私から受け取ると食べながら時次さんから目を離さない。
とても…気まずいんだが…。
「菜、あの人達が食べているは天ぷらだよね。下はお米かな…。私が知らない料理をあいつが食べているのはちょっと許せないかな。」
りゅうさんは満面の笑みで私を見た。
いつもはイケメンだ~と思う所だが今は背中がゾっとした。
時次さんはいつもの優しい声で話しかけてくれるのでホッとする。
「菜さん、お手数ですが天丼二つお願いします。」
「わかりました。」
私にとっての救いは時次さんだ。
尊敬の眼差しで時次さんを見る。
時次さんと私のやり取りを無言で見ていた次郎さんだったが、何か気に入らなかったらしく舌打ちをされた。
「チッ、優男が…。その女のどこが良いんだか。」
「はい?今何と…。」
あっ時次さん怒った、怖い…。
時次さんは笑顔の顔のまま次郎さんを見た。
今の会話を聞いてなぜ私が出て来るかが疑問なんだけど。
あっちでもこっちでもバチバチの睨み合いが繰り広げられる。
私はそーっとその場を離れて天丼二つをまた作りに行った。
あっちに持って行くのは気が引けるけどこれも仕事だ、と自分を鼓舞してりゅうさん達の元へ天丼を届けた。
私がをりゅうさん達に天丼を運ぶ頃には睨み合いは無くなってはいたけど、違う事で言い争っていた。
「天ぷらは山菜だろう。次郎はこの味深さがわからないか。」
「私も山菜派だね。時次も私と同じ意見だと思っていたのに残念でならないよ。」
「「よりにもよって…意見が合うのが…。」」
よりにもよって意見が合うのがこいつとは…と私には聞こえたような気がした。
りゅうさんととらさんはどうやら山菜の天ぷらがお気に召したみたい。
一方の次郎さんと時次さんはというと…。
「わからないですね。俺はこのとり天が食べ応えもあって好きなんです。」
「山菜も好きなんですが、どちらかと言うととり天が好きですね。この衣と良く合っていると思います。」
うん、どっちでもいい。
美味しいならどちらでもいいじゃない。
これは絶対に終わらない戦いのような気がする。
彼らの決着のつかない戦いを傍観している私だったが、遂に矛先が私に向いてしまった。
「お嬢さんはどっちが好きだ?」
私を巻き込んできたのはとらさんだった。
恐らくこのままでは決着はつかないから私の意見を聞こうという事になったのだろうとさっする。
どちらかと言えば山菜だけど…天ぷらと言ったらあれよね。
「この二択で言ったら山菜が好きです。」
私の一言に時次さんはわかりやすくしょんぼりし、次郎さんは軽く舌打ちした。
りゅうさんととらさんは私の言葉に何か引っかかったのか私を真剣な目で見つめたまま。
「天ぷらって山菜とお肉だけじゃなくて他にも魚とか卵とか色々な具があるんですよ。その中で私が好きな具はやっぱり海老ですね。衣の中のプリッとした食感とかたまらないです。」
天ぷらと言えば忘れてはならないのは海老だ。
大人からお年寄りまで皆が好きな海老。
「海老か…。」
「海老ねぇ。」
「「海老…。」」
時次さんと次郎さんがはもる。
もしや二人意外と仲が良いのでは。
「おい、お前…今何考えた…。」
「何でもないです!」
次郎さん、その察知能力怖いよ!!
その後四人の頭の中が海老天で支配されたまま解散する事になった。
そういえばとらさんに満足したか聞いてない。
帰ろうとしているとらさんに声をかける。
「あのっ、お料理どうでしたか?」
今まで落ち着いていた心臓が早まる。
「あぁ、満足したよ。美味しかった。実はお金が足りないというのは嘘だ。騙してすまなかった。君の実力を知りたくてな…。噂の美人料理人の腕前をね。結婚は無しになってしまって残念だが、君との約束は守るよ。」
「はぁ、あんたこいつと結婚するつもりだったのかよ。何か企んでるとは思ったが…。」
次郎さんはこの賭けについては知らなかったらしい。
話を聞いてとても驚いている様子だった。
とらさんは私の頭を優しくひとなでして去って行った。
とにかく、結婚じゃなくて良かったと心を撫でおろす。
後ろから両肩に手が乗った。
「へぇー、結婚…ね。時次知ってた?」
「いいえ、何も…。菜さん、中でお話しましょうか。」
「…はい。」
私はこれ以上二人を怒らせまいと正直に包み隠さずに話した。
二人から優しいお説教を貰った。
その優しさが恐ろしく怖かったので今度から気を付けようと思うのだった。
そしてそこに仕事を終えたよしさんも加わりまた酷く心配されてしまった。
夜遅くに帰る事になってしまった二人を店の前まで見送る。
「菜、いいくれぐれもあいつに何かされたら私か時次に連絡もしくは話して。いい?」
「はい…。」
りゅうさんのこの言葉何十回目だろう。
私は言い返せないのでただ返事をする。
「一人で決めないで相談してください。特にあの人が関わって来る時は絶対です。」
「はい…。」
時次さんのこの言葉も何十回目だろうか。
私は大人しく返事をする。
二人が凄く心配してくれているのが伝わって、ちょっと嬉しかった。
後日…。
とらさんとりゅうさんから大量の海老が送られてくる。
次郎さん、時次さん何とかしてください。
天丼を持って行く最中にとらさん達以外の声が聞こえてきた。
声の主はりゅうさんと時次さんだった。
先程まで和やかな雰囲気が、今はピリついている。
「えーっと、お待たせしました。天丼お二つです…。」
「あぁ、悪いね。」
とらさんは私から天丼を受け取るが、りゅうさんから目線を外さない。
次郎さんはというと天丼を私から受け取ると食べながら時次さんから目を離さない。
とても…気まずいんだが…。
「菜、あの人達が食べているは天ぷらだよね。下はお米かな…。私が知らない料理をあいつが食べているのはちょっと許せないかな。」
りゅうさんは満面の笑みで私を見た。
いつもはイケメンだ~と思う所だが今は背中がゾっとした。
時次さんはいつもの優しい声で話しかけてくれるのでホッとする。
「菜さん、お手数ですが天丼二つお願いします。」
「わかりました。」
私にとっての救いは時次さんだ。
尊敬の眼差しで時次さんを見る。
時次さんと私のやり取りを無言で見ていた次郎さんだったが、何か気に入らなかったらしく舌打ちをされた。
「チッ、優男が…。その女のどこが良いんだか。」
「はい?今何と…。」
あっ時次さん怒った、怖い…。
時次さんは笑顔の顔のまま次郎さんを見た。
今の会話を聞いてなぜ私が出て来るかが疑問なんだけど。
あっちでもこっちでもバチバチの睨み合いが繰り広げられる。
私はそーっとその場を離れて天丼二つをまた作りに行った。
あっちに持って行くのは気が引けるけどこれも仕事だ、と自分を鼓舞してりゅうさん達の元へ天丼を届けた。
私がをりゅうさん達に天丼を運ぶ頃には睨み合いは無くなってはいたけど、違う事で言い争っていた。
「天ぷらは山菜だろう。次郎はこの味深さがわからないか。」
「私も山菜派だね。時次も私と同じ意見だと思っていたのに残念でならないよ。」
「「よりにもよって…意見が合うのが…。」」
よりにもよって意見が合うのがこいつとは…と私には聞こえたような気がした。
りゅうさんととらさんはどうやら山菜の天ぷらがお気に召したみたい。
一方の次郎さんと時次さんはというと…。
「わからないですね。俺はこのとり天が食べ応えもあって好きなんです。」
「山菜も好きなんですが、どちらかと言うととり天が好きですね。この衣と良く合っていると思います。」
うん、どっちでもいい。
美味しいならどちらでもいいじゃない。
これは絶対に終わらない戦いのような気がする。
彼らの決着のつかない戦いを傍観している私だったが、遂に矛先が私に向いてしまった。
「お嬢さんはどっちが好きだ?」
私を巻き込んできたのはとらさんだった。
恐らくこのままでは決着はつかないから私の意見を聞こうという事になったのだろうとさっする。
どちらかと言えば山菜だけど…天ぷらと言ったらあれよね。
「この二択で言ったら山菜が好きです。」
私の一言に時次さんはわかりやすくしょんぼりし、次郎さんは軽く舌打ちした。
りゅうさんととらさんは私の言葉に何か引っかかったのか私を真剣な目で見つめたまま。
「天ぷらって山菜とお肉だけじゃなくて他にも魚とか卵とか色々な具があるんですよ。その中で私が好きな具はやっぱり海老ですね。衣の中のプリッとした食感とかたまらないです。」
天ぷらと言えば忘れてはならないのは海老だ。
大人からお年寄りまで皆が好きな海老。
「海老か…。」
「海老ねぇ。」
「「海老…。」」
時次さんと次郎さんがはもる。
もしや二人意外と仲が良いのでは。
「おい、お前…今何考えた…。」
「何でもないです!」
次郎さん、その察知能力怖いよ!!
その後四人の頭の中が海老天で支配されたまま解散する事になった。
そういえばとらさんに満足したか聞いてない。
帰ろうとしているとらさんに声をかける。
「あのっ、お料理どうでしたか?」
今まで落ち着いていた心臓が早まる。
「あぁ、満足したよ。美味しかった。実はお金が足りないというのは嘘だ。騙してすまなかった。君の実力を知りたくてな…。噂の美人料理人の腕前をね。結婚は無しになってしまって残念だが、君との約束は守るよ。」
「はぁ、あんたこいつと結婚するつもりだったのかよ。何か企んでるとは思ったが…。」
次郎さんはこの賭けについては知らなかったらしい。
話を聞いてとても驚いている様子だった。
とらさんは私の頭を優しくひとなでして去って行った。
とにかく、結婚じゃなくて良かったと心を撫でおろす。
後ろから両肩に手が乗った。
「へぇー、結婚…ね。時次知ってた?」
「いいえ、何も…。菜さん、中でお話しましょうか。」
「…はい。」
私はこれ以上二人を怒らせまいと正直に包み隠さずに話した。
二人から優しいお説教を貰った。
その優しさが恐ろしく怖かったので今度から気を付けようと思うのだった。
そしてそこに仕事を終えたよしさんも加わりまた酷く心配されてしまった。
夜遅くに帰る事になってしまった二人を店の前まで見送る。
「菜、いいくれぐれもあいつに何かされたら私か時次に連絡もしくは話して。いい?」
「はい…。」
りゅうさんのこの言葉何十回目だろう。
私は言い返せないのでただ返事をする。
「一人で決めないで相談してください。特にあの人が関わって来る時は絶対です。」
「はい…。」
時次さんのこの言葉も何十回目だろうか。
私は大人しく返事をする。
二人が凄く心配してくれているのが伝わって、ちょっと嬉しかった。
後日…。
とらさんとりゅうさんから大量の海老が送られてくる。
次郎さん、時次さん何とかしてください。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。
兎希メグ/megu
恋愛
……私が恋する銀色狼さんは、夢の中では大胆。現実ではスパダリ。そんな憧れの彼が、私の旦那様になっちゃうなんて!
3行あらすじ:
辛い過去のせいで男性不信気味の普通のOL、織部伊都。趣味は編み物と読書。
彼女はある日見るようになった大好きな絵本の世界のような夢の中で編み物魔女として活躍し、憧れの人とそっくりの人型になれる銀狼・ジルバーとイチャイチャしたり、ラブラブする。可愛い子狼との触れ合いも。
現実はブラック企業OLで辛いけど、なぜか憧れの人、白銀理一と接近していったり、趣味の編み物が認められブランド化したり……ついには憧れの人のお嫁さんになるのであった。ざまあもあるよ。
詳細:
ブラック企業で日々精神をすり減らす普通のOL、織部伊都(おりべ・いと)には秘密がある。
大好きな絵本の魔法の呪文を歌いながら編み物する事と、出入り業者の白銀理一(しろがね・りいち)に、ひっそりと恋していること……。
白銀との関係悪化を恐れて「顔見知り」の距離で、その姿を眺めていることに満足していた伊都だが……ある日を境に、不思議な夢を見るようになった。
大好きな絵本の世界で魔女役を楽しんでいたら、命の恩人である銀狼、ジルバーの変身した姿が、白銀そっくりである事に驚く。
夢の中で、ジルバーの群れに温かく迎え入れられた魔女こと伊都は、彼らとの関係の中で、五年前の悲しい記憶……彼女が軽い男性不信に掛かる理由となった過去と向き合うこととなる。
一方、伊都には完璧男子に見られる白銀理一にも、癒えぬ傷を抱えていた。
二人の共通点は、愛する人に裏切られたこと……それゆえに、恋愛に前向きになれないこと。
夢に現実に、二人の心が重なって近づく━━魔女とジルバー、伊都と理一のその距離も。
恋に臆病な大人二人が、互いの体温に癒され、ハッピーウェディングを迎えるまでを描く、ラブ・ファンタジー。
*現実お仕事話がメインで、モフモフは冒頭と七章あたりが本番です。
(別名義でムーンライトノベルズ、同名でエブリスタに掲載あり。)
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる