114 / 131
困惑
しおりを挟むグレタと会話している途中で酷い眩暈に襲われた。グレタの声がどんどん遠くなっていって首を振ってなんとか意識を保とうとしていたけど、いつの間にかまた俺は闇の中で独りぼっちになっている。
--…ああ、またか……。
ウンザリする。
感覚を全て奪われた何もない闇の世界。
暫くその場に立ち尽くしたまま何か起こるのかと待ってみたが何も起こらない。
"悪夢"という名の過去への回帰は発動しないみたいだ。
こういう、ただ闇の中で独り立ち尽くすだけの"夢"は度々見てる。トマが異世界に行ったあの日から……。
これはきっと俺の心の闇なのかもしれない。
暗闇の中で独り、どうしようもなくなってその場に座り込んだ。徐々に冷静になっていき、それと同時に罪悪感で頭の中がいっぱいになる。
グレタの言葉に動揺したとは言え、あんな酷い態度をとってしまうなんて。
きつい言い方をしてしまって申し訳なかったな。きっとグレタは凄く心配して言ってくれてただけなのに。しかもこんなにも俺に良くしてくれていると言うのに。
俺は最低だ……。
『妊娠』の可能性は俺の中で既に排除しているはずだ。
だからもっと堂々とキッパリ否定すれば良かっただけなのに。
それに医師に診せればより確実に安心出来るし、身体の不調の原因だってわかるはずだ。
なのに何故こんなにも俺は恐れている?
俺の身体の変化が俺の思考を狂わせる。
切り捨てたはずの万が一の可能性を身体の変化が証明しているようで怖い。
そしてそれを他者に言われることで本当にそうなってしまいそうで…。
認めない。認めたくない。
だけど…、もし…、もしも………。
『妊娠』していたとしたら…。
俺がこの子供を産めば、俺の罪は赦されるのだろうか?
でも、赦されたところでどうなる?
この子供がオリバーに殺されず、無事に生きられればオリバーは死ぬだろう。
その時、俺は全く愛さない、愛せない男の遺した子供を愛せるのだろうか?
神々の忌々しい呪いの血を受け継いだ子供を愛し、慈しみ、無事に育て上げることが出来るのだろうか?
それともオリバーの死を確認した後に子供を消してしまおうか。
でも、いくら憎んでいる男の血を引いているとはいえ…、俺は自分の産んだ子供を消せるのか?
……俺にはとてもそんな自信はない。
きっとそのどれも選べない。
怖い。ただただ怖くて仕方がない。
妊娠していても、していなくても。
もし妊娠していたとして、その後に産んでも産まなくても。
どの道を選んでも、やっぱり俺の罪は増えていくばかり。
地獄…。まさに地獄だ。
果てしなく深い闇の地獄に囚われたまま苦しみ続けるしかないのか…。
自棄になって行動した結果がこれなのだから仕方がないのかもしれない。
グレタはどうしてこんな酷い俺に尽くしてくれるんだろう…。
あんなに美しい髪を切ってまで、俺に想いを伝えようとしてくれているのがわかって胸が熱くなった。
こんなことになってしまって。俺のことを大切にしようとしてくれるグレタに申し訳ないな。
グレタの為にも、こんな状況のままは良くない。
何とか…、何とかしなくちゃ…。
そこでふと気がつく。
こんな気持ち…、久しぶりだ。
状況は何も変わらないはずなのに、心の中に少しずつ勇気が湧いてきた気がする。
その時、目の前に一筋の光が差し込んできて驚いた。
この光はオリバーの齎した絶望の光なんかじゃない。
とても優しくて穏やかな強い光……。
これは、トマ……?
トマなの……?
戸惑っているうちに光が弱くなっていく。
消えかける光の筋に俺は慌てて手を伸ばした。
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる