【R18】性奴隷の憂鬱な夢

儚さ

ーーあれから数週間経って、今もまだノアは私の部屋に留めている。

あの日から首輪も外しているのにノアは随分と大人しく従順になった。

逃げ出そうともせず自らすすんで媚薬を服用し、私に簡単に身体を預けるようになった。

この想いを抱くまではノアがそうなるように望んでいたはずだったのに、今では逆にそれが不安になる。

ただ「グレタの事は絶対怒らないで」と強く言われた。あの夜、勝手に部屋を抜け出したのは自分が全て悪いから、と。

ノアに言われずともグレタを怒るつもりなど一切なかった。

ノアがこうやって傍にいてくれるならそれで良かった。

グレタ自身も随分と落ち込んで憔悴しきっていて、ノアに会いたがっていたがノアからの希望もあり、色々と理由を付けてノアには会わせなかった。

「会いたくない」と言いながらも、ノアはグレタに特別な思いを持っているようだった。そしてグレタもまたノアに特別な感情があるように感じる。

時々、寝言でうなされながら「グレタ」と呟いているのを何度か耳にした。

二人の間に何があったのか…。

元々ノアはグレタにとても懐いている様子だったし、時をみて再び仲直りが出来れば…。

そこまで考えた時、自分の嫉妬や怒りよりノアやグレタの感情を優先している自分自身に驚いた。

…私はとても人間らしくなっている。

ノアといることで心がとても穏やかで満たされて、僅かだが以前より他人を思いやれるようになった気がする。

そんな自分の変化を嬉しく感じる。

ノアが私を変えた。
愛する者のおかげで自分が変わっていく喜びを噛み締めた。




私が夕食後のワインを飲んでいると、バルコニーの手摺に片膝を抱えて腰掛け、遠くを見ながら物思いに耽っているノアの姿が目に入った。

妖艶な雰囲気はそのままにあの意志の強さは失われ、儚さだけが増していく。

その顔は無表情だが何故かとても哀しくて儚く、淋しそうに見えた。

このままノアが風に紛れて鳥のように飛んで行ってしまうのではないか、夜の闇に吸い込まれてそっと消えてしまうのではないか、と酷く不安になる。

私は『不老不死』の代わりに今は平穏ノアを失うのを恐れるようになった。

私はワイングラスを置いてノアの元へ行き、ノアの存在を確かめるようにその小さく華奢な身体を抱き締めた。

「………………なに？」

ノアが遠くを見つめたまま表情を崩さずに呟くように聞いてくる。

「ノア…、こんな所に座っていると落ちてしまうぞ。私から離れないでくれ。」

「…ふふっ、最近そればかり…。」

ノアが力なく笑う。
口角こそ上がっているが眼差しの儚さは消えないままだ。

「…俺はもうお前の元に堕ちている。」

そう言うと振り向いて私の口に唇を重ねてきた。

その言動とは裏腹にノアの目はとても冷たく、どこか私を…、自分を蔑んでいるように見えた。

そのまま抱き上げてベッドへ連れて行き、ノアをひたすら抱き続ける。

再会したあの日から今までどれだけ強く躾けても治らなかったはずのノアの噛み癖は一切なくなった。

不思議に思ったが問い詰める気にはならなかった。ノアに再び嫌われ、拒否されるのが怖かった。

核心に触れると、たちまちノアが儚く消えていってしまうような気がして…。


涙を流して嬌声を上げながら私にしがみつくノアの姿は痛々しいほど哀しく、儚く、妖艶で、この世のものとは思えない程とても美しかった。