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見上げた夜空
しおりを挟むその日から僕とご主人様の性生活は再開された。今夜もいっぱい気持ち良くなってお風呂に入り、ご主人様と一緒にベッドに潜る。
ヨルはあの日以来、とても静かだ。
静か…というか子供の姿のヨルばかりで金髪のヨルは出てこない。
ご主人様が眠りについた後、その枕元に魔石を置いてベッドから抜け出した。
湖畔まできて影の中に向かって呼びかけると子供のヨルが出てきた。
僕は子供のヨルに向かって金髪のヨルに呼びかける。
「ねぇ、ヨル。出てきてよ」
ヨルの姿が大きく膨らんだかと思うとあの金髪の僕の姿にゆっくりと変わる。あの時と同じ白い着物…襦袢?を着ていた。
『子供の俺も、俺だよ』
少し見ない間にあれ程凄かった妖艶な色気がさらに凄さを増していて、ヨルが微笑むとドキッとした。
ふぅ、と小さく溜息をついたり指先で前髪を整える仕草、目線を少し落としてずれる襟元を直す動き、首をかしげるその些細な少しの仕草でさえ思わず見惚れてしまう。
白い靄みたいな謎のお色気フィルターがかかってしまっているような…。
ヨル…、やはり…恐ろしい子……っ
「トマ…、あの…俺…、リュカのこと…」
僕が見惚れて言葉を失っているとヨルが居心地悪そうに戸惑いながら口を開く。
僕はヨルが何を言おうとしているのかすぐに分かった。
「大丈夫。ねぇ、ヨル。リュカのこと…好き?」
僕がヨルの言葉を遮って聞くとヨルは耳まで真っ赤にして俯いた。
少しの沈黙の後に戸惑いながらもゆっくりと小さくコクンと頷く。
「た…ぶん、好き…。よくわからない。けどリュカのことを考えるとふわふわして胸がぎゅーーってなる…。」
なんだこれ、ギャップが可愛い過ぎる。
尊すぎる、僕の息子……。
「おいで。」
僕はヨルに向かって両腕を広げる。
ヨルはそのまま素直にストンと僕の胸に身を委ねた。僕はヨルを受け止めて2人で座り込み、ヨルを優しく抱き締めた。
「ヨル…、恋、したんだね。」
ヨルが恥ずかしそうに僕の胸にスリスリと顔を埋めて、肩を震わせて静かに泣いていた。
「恋…?俺、恋…とかわからないけど凄く苦しい。これが…、恋?」
小さく呟いて静かに涙を落とすヨルを僕は宥めるようにその髪を優しく撫でた。
「よしよし。」
「トマ…ごめん」
「どうして謝るの」
「…俺…、リュカ…悠太と……」
「確かに凄く似ているけどリュカと悠太は別の人だよ。」
「でも……」
ヨルは震える手で僕の服をぎゅっと握った。
「ヨル…素直になって。僕ね、自分でもよくわからないんだけど…、ヨルがリュカのことを好きになるのが凄く嬉しいの。」
「嬉しい…?」
「うん。嬉しいの。…本当だよ。だからヨルは自分の気持ちに素直になって。ヨルは何も気にしなくていいんだよ。」
何だろう?…この気持ち。
僕は本当に嬉しいと思ったんだ。
僕の初恋は『恋』と言える前に、呆気なくも儚く散っていってしまったから。
もっと自分に素直になること。
失ってからでは遅い。
僕はヨルに初恋を叶えて欲しかった。
僕が今とても大切にしているのは、ご主人様とヨル。大切な人には幸せになってもらいたい。
「ねぇ、トマ…。トマは俺のこと…。」
ヨルが言いかけたその時、天窓から映し出された黒い影が湖の水面にポツリと揺れているのに気付いた。
僕はもう一つの魔石を使い結界を消す。
「ねぇ、ヨル。上を見て」
「………え?」
グスグスと涙を拭きながら、ヨルが上を見上げる。
僕等が見上げた夜空には綺麗な満月が輝いていた。
天窓に現れた黒い影を見たまま言葉を失って固まっているヨルを残して、僕は身体を代えてゆっくりとヨルの影に沈んでいった。
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