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夜に紛れて
しおりを挟む数日前ーー。
エイデン領の城下町の横に広がる深い森。
俺はオリバー国王の命を受けて、ずっとここでブラッド伯爵の屋敷に潜入する機会を伺っていた。
今夜は月が眩しいほど輝いていて、火を起こさなくても充分な明るさだった。
ありがたい。
火を使うと見つかるリスクが高くなる。
森に群生している短くて柔らかい草の上に俺は寝転んで月を眺めた。
そろそろ、明日にでも隊長が仕向けたブラッドの息子が屋敷に到着する頃だろう。
まだ、今日は動く時ではない…ー。
許可を得て持ち出してきた国庫にあるオリバーの秘蔵品の魔石のうちの二つを渡しておいた。息子のギルが作戦のとおりに少年を呼び出し、魔石を発動させて結界が消えればあの屋上にも潜入できるはずだ。
確たる証拠はないが、造り替えられて強固な結界が張られたあの屋上にあの少年はいるんだろう。
ブラッド伯爵は奴隷遊び以外では他の貴族よりも堅実で質素だ。
王や国の臣下達が懸念しているであろう謀叛など考えてはいないだろう。しかし、確かにあの膨大な魔力の発生は気になるところだ。
それもこれもあの少年が現れてからだ。
でもあんな屋敷に囚われた少年に何が出来る?
囚われている……か。
それを言うなら俺も同じか。
俺は昔から火の精霊様を崇拝していたエルフ族の村に生まれた。
火の精霊様の祝福を受けた俺達の部族は髪や瞳の色が鮮やかな深紅に染まっていた。
ある日エルフ族ということと、その色の美しさを目当てに村は盗賊の奴隷狩りにあった。
両親はその時に盗賊に襲われて殺された。両親と一緒にいた俺と弟のグレタはその盗賊に攫われて、そいつらのアジトで性奴隷にされた。
薬を使って無理矢理快楽を身体に叩き込まれ、毎日ずっと誰かが俺の身体に入ってきてはその汚い欲望を吐き捨てていった。拒否をすれば顔の形が変わるくらい殴られた。身体はいつも傷だらけだった。
素直で純粋なグレタは俺よりも従順に快楽に馴染んでいった。
俺達が汚れれば汚れるほど、鮮やかな深紅だった髪や瞳の色もどんどん薄くなっていった。特に俺は精霊への信仰心が減り、髪は完全に色を失い銀髪になった。
心も身体もボロボロになって、すっかり諦めていた俺達に救いの手を差し伸べてきたのは、辺境貴族の領地に所属している盗賊討伐部隊だった。
盗賊はその部隊によって討伐され、俺達は部隊を雇っていた辺境貴族の屋敷に保護された。
その貴族は保護した時は優しくしてくれていたのに、グレタが両性具有だとわかると目の色を変えてすぐに献上品の性奴隷として王宮へ送り込んだ。グレタの兄で見た目も良いということでグレタの添え物として俺も一緒に送られた。
最初は二人とも性奴隷として仕えていたが、王はグレタを気に入って身分を性奴隷から側室にあげて、俺は諜報部隊に入れられた。
側室にあげられても王のグレタへの扱いは酷いものだった。
グレタを獣人に輪姦させ、どの獣人の子供を孕むか他の貴族や臣下達と賭けて弄ぶ『運命のルーレット』などという下らない名前の王族の遊びによく参加させていた。
その中で孕んだ子はある程度お腹の中で育つと堕胎させられ、それを繰り返されたグレタの子宮は魔法や薬では治せないほど深く傷付き、二度と妊娠出来ない身体になってしまった。
やたらと大層な名前を付けているが、やっていることは陵辱の限りを尽くした卑劣で残虐な行為以外のなにものでもない。
玩具のように扱われているにも関わらず、グレタは王に想いを寄せているようだった。
俺も国王の口利きで諜報部隊に入れたとはいえ、元々俺が性奴隷だったと知っている部隊長には都合の良い肉便器にされている。
何度か2人で逃げようとグレタに持ちかけたが全て拒否されてしまった。その度に俺が企てた逃亡策を隊長に暴かれ、罰として激しく犯された。
俺だけが逃げ出せたとしても、その後グレタはどうなる?
たった一人の肉親を何をするか分からない野獣の元に置き去りにすることなんて出来ない。
そして俺は何も出来ないままグレタを出来るだけ見守り、あの傲慢な王の、隊長の言いなりになるしかなかった。
そして、今もーー。
ふと屋敷の方へ目をやると屋上の灯りが消えていた。
あの少年もこの月を見ているかな…。
名前は何というんだろう?
全ての者に愛されるために神に与えられたような素晴らしい美貌の持ち主。
性奴隷とはいえこんなにも大切にされていて…きっと精霊にも愛されているんだろう。
だから…魔力が強いのだろうか?
やはり膨大な魔力は彼の……?
しかし…もし捕まって王宮へ送られたとして…。大切に扱われている華奢な身体で残虐な王の扱いを耐えられるのか…?
部隊長からの指示とはいえ、あんな報告の仕方をしてしまった自分に悔やんでさえいる。
本当ならば少年を危険に晒して穢すような、こんな汚い調査などしたくない。
多分、俺はあの少年に惹かれている。
艶めかしいあの肌に触れてみたい。
快楽に悶えて鈴の震えるような可愛い声をあげるあの唇を奪ってしまいたい。
でも鏡越しにみた少年の瞳は、太陽のように真っ直ぐで純粋な力を感じた。
俺には太陽の光は眩しすぎる。
夜の方がずっと好きだ。
照らされるのなら闇に包まれながらも小さく静かに光る月くらいがちょうどいい。
沢山の男に蹂躙されてきて、たった1人の弟さえ助けられず、クズ共の言いなりになって生きるしかない。
こんな汚くてみっともない俺には陽の光に当たれる資格などない。
夜の闇はどこまでも深くて俺の卑しい気持ちも、哀しみも、全てを包み込んで覆い隠してくれる。
夜が、夜だけが俺に優しい……。
涙が出そうになるのをグッと堪えて俺は近くに置いていた毛布を被って眠りについた。
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