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人影
しおりを挟むギルの部屋でシャワーを浴びた後、屋上に戻った。
部屋に脚を踏み入れた瞬間、何かいつもと雰囲気が違うような気がして僕の身体に緊張が走った。
なに……?
見渡してみてもいつもと変わらないはずなのに。
でも、何かが違う…。ご主人様…?
ご主人様の寝ている樹々に囲まれたベッドの方を見ると、ご主人様はイビキをかいて気持ち良さそうに眠っている。
湖の方へ向かってみる。
結界のない月の光は眩しいほどで、明かりがなくとも簡単に歩けた。
湖に近づくと物音がして、湖畔に黒い人影がゆらりと動いた。
「……だれ?」
僕が聞くと人影はゆっくりと振り向いた。
月の光に照らされて、銀色の美しい髪がふわりと揺れている。背が高く、黒のハイネックのTシャツに黒いスキニーのようなパンツを穿いていて、上下ともタイトな服だった。
短い黒の手袋をして、細くて程よく筋肉のついた無駄のない肉体。タイトな服がとても似合う。顔だけが月の逆光で影になっていて口元以外は見ることが出来なかった。
不思議と恐怖は感じない。
むしろ、懐かしいような…。
「誰?」
僕はもう一度聞いた。
その人の形のいい唇の口角が上がる。
「……リュカ」
「……え?」
「俺の名前だ。」
「…リュカ…?どうやってここへ…」
僕が聞き返そうとすると天窓にワイヤーのようなものを伸ばし、すうっと音もなく上に登って天窓をすり抜けたかと思うと、狼に姿を変えて外に広がる森の中へ消えていった。
結界が消えている間に入ったんだろうけど、一体ここへ何をしに来たんだろう?
忍び込んできたわりに簡単に名前を名乗っていた。
リュカ……。
月の光がとても似合う、不思議な人。
狼に姿を変えたのも僕の心をときめかせた。
僕は再び結界を張り、ご主人様の【昏睡の石】を取って二つのアイテムをベッドの下へ隠し、ご主人様の隣に潜った。
ご主人様がふと目を覚ました。
「…眠れないのか…?」
寝ぼけながらも聞いてくる。
「……ううん、大丈夫…。トイレに行ってたの。」
「そうか」とご主人様は寝ぼけながらも僕をぎゅっと抱きしめて額にキスをした。
僕はリュカとの出会いで何故か罪悪感が薄れていき、ほんのりと心に安らぎを取り戻して、そのままご主人様と共に眠りについた。
朝になって再びご主人様が忙しくしている間にティールームへ呼ばれ、部屋へ入ってドアを閉めた途端ギルが僕の顔の横に僕の手を抑え込み、顎を掴まれて唇を奪われた。
「……っ、や……ぁ、んっ、…ふぅ…ん」
突然のキスに驚きつつも、僕の中で燻り続ける火はすぐに熱を取り戻していく。
ギルはねっとりと舌を絡ませながら僕の身体の力が抜けていくのがわかると、スカートの裾に差し込んできて、僕はすぐにその手をバシッと勢いよく払った。
「……っ!やめてっ!…………後で…ちゃんと………、部屋…行くから……」
「……ふっ、最初は無理矢理引きずって行かないと部屋に行かなかったのに従順になったものだ。」
ギルは少し驚いていたものの、すぐに取り直して笑みを浮かべながら言った。
悔しい……でも、その通りだ…。
僕は唇を噛み締めつつ、ギルを押し退けてお茶の準備を始めた。
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