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僕の破片
しおりを挟む僕はまたあの夢を見た。
もうずいぶん見ていなかったのに。
悠太の家で遊んでいる夢。
悠太の唇が僕に触れたあの時の。
悠太のお姉ちゃんが部屋を出て行って、2人で顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑った後。
悠太の顔が再び近付いてきて…。
僕は無意識に目を閉じた。
ちゅ、ちゅ…っ
唇で喰むように何度も角度を変えてキスをする。
身体中がカァッと熱くなって心臓がドキドキした。
悠太の舌が僕の唇を舐めた。
僕がビックリして目を開けると、薄く開かれた悠太の目と視線がぶつかった。
熱っぽい艶やかな表情…。
こんな悠太の顔、初めて見た。
「くち、開けろよ…」
悠太に言われて恐る恐る口を開くと、悠太の舌が挿し込まれた…。
あ…、これ……。漫画で見たやつ……。
さっきまで見ていたびーえる?漫画のシーンを思い出す。
漫画ではこの後…。
僕はぎこちなく挿し込まれた舌を、自分の舌でそっと舐めた。
「……あ……、ん…」
頭の芯が痺れてくる。
気持ち良くて思わず声が出てしまった。
唇が離れると2人の間に糸がひいていて、その糸を手繰り寄せるようにまたキスを繰り返した。
夕方の5時を告げる音楽が聴こえてきて、僕達はようやくキスを止めた。
胸がドキドキする。
頭がふわふわして、心がじんと温かくてとても気持ち良い。
こんな気持ち、初めて。
「俺…、お前のこと、好きかも」
「かもってなに」
冗談みたいな曖昧な言い方に僕はムッとした。
「…うそ。好き」
ははっ、と屈託のない笑顔で笑う。
その顔は耳まで真っ赤になっていた。
「……僕も」
再び悠太の顔が近づいてくる。
僕も悠太に合わせて、そっと目を閉じた。
「好きだ、トマ……………。」
そこでハッとして目が覚める。
全身が心臓になったみたいにバクバクと鼓動が耳に鳴り響いている。
悠太…?なに、いまの……
とま………????
………とま。…………トマ。
トマ。
僕の名前。
そうだ、僕の名前。本当の名前。
僕はトマ。藤滝トマ。
ドクン、とさらに心臓が強く波打つ。
酷い眩暈がして、僕はそのまま吐いてしまった。
部屋を出ようとしていたご主人様が驚いて、ものすごい勢いで僕の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫か!!?ルーシェっ?!」
ちがう、僕の名前はルーシェじゃない。
全身から汗が噴き出てくる。
「ルーシェ!?ルーシェ!!?どうした!?おい、しっかりしろ!!ルーシェ!!」
違う、違う、違う、違う!!!!
僕はルーシェなんかじゃないんだ。
僕の…、僕の名前は…っ!!
だめだ、世界がぐるぐる回る。
気持ち悪い…。吐き気が止まらない。
汗が吹き出してきて、身体が冷たくなっていく。
「ルーシェ!?……っ!おい、誰か……っ!!!…エド、エドワードは…い……」
ご主人様の声がどんどん遠くなって、目の前が徐々に黒くなっていく。
ごめんね…
忘れてて、ごめんね。
僕はそのまま気を失ってしまった。
酷い吐き気に襲われた僕は、目の前が真っ黒になってそのまま床が抜けたように真っ逆さまに堕ちていった。
フワフワとした浮遊感。
もう、どっちが上でどっちが下なのか、落ちているのか浮いているだけなのか、それとも上がっているのか…よくわからない。
『トマ……、トマ』
闇の中で誰かが僕を呼んでいる。
誰……?女の人の声……?
『トマ、お母さんはトマが大好きよ』
そうだ…、この声は、お母さん。
聞き慣れたお母さんの声だ。
「…お母さん?いるの?…どこ?」
次の瞬間、光のトンネルが僕の体を吸い込んでものすごいスピードで走馬灯が駆け抜けていく。
まるで映画のコマを一つ一つ繋ぎ合わせた記憶のトンネル。
その全てが僕があの世界で生きてきた12年間の記憶だった。
記憶が通り過ぎて行った後、僕はまた暗闇の中に取り残された。
1人、闇の中で漂い続ける。
「いやだ…やだよ…。寂しいよ。」
僕は寂しくて泣いた。
『大丈夫。いつも傍にいるよ』
また、声がする。この声は…
「ヨル?…ヨルなの?」
辺りを見回すけど真っ暗で何も見えない。
すると今度は僕の身体が光りはじめた。
なにこれ……?
光はどんどん強くなっていった。
強くなって、僕の足の先に影が出来た。
僕が光れば光るほど、足先の影はくっきりと黒く大きく形作られていった。
その影はやがて人型になり、足先と繋がったまま僕と同じくらいの大きさになって僕と対峙した。
影が僕の方に手を伸ばしてくる。
僕も同じように手を伸ばすけど、何かが邪魔をして触れることが出来ない。
あと、もう少しなのに。
「ヨル…?」
影の人型に問いかける。
『そうだよ、トマ。やっと思い出してくれた。ありがとう』
何故だろう、真っ黒な影には顔も何もないのにヨルが微笑んでいるのがわかる。
「僕の名前、知っていたの?」
『うん…。でも俺が教えようとしても邪魔されてだめだった。トマが自分で思い出さなきゃいけなかったみたいだ。辛かったね、トマ。頑張ったね』
「ヨル…。ありがとう…。」
『これでトマに干渉できる』
「……え?」
聞き返そうとした瞬間、ヨルの形がものすごく大きくなってあっという間にヨルが僕を呑み込んだ。
『もう一度、最初からやり直そう』
光がなくなる瞬間ヨルの声が聞こえた。
再び闇に包まれて、身体中が引きちぎられるような強い圧力がかかって僕は声も出せないほど苦しくなった。
身体が捻じ曲げられ、細かく、小さく、バラバラに砕かれていく。
砕け散った僕の破片は沢山の桜の花びらに姿を変えた。
風に吹かれてゆらゆら舞い散る。
舞い降りた先には、お兄さんに馬乗りにされて何度もお腹を包丁で刺されている血塗れの僕がいた。
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