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『長い夜』と『世界の夜明け』
しおりを挟むーおよそ100と数年前。
ある日突然この世界に太陽が昇らなくなった。
いつもと同じく陽が沈み夜の帳が下りたまま朝の時間になっても、待てど暮らせどいつまでも太陽が帰ってこない。
数日、数週間、数ヶ月ー。
最初は天気か何かのせいかと思われたが、終わりのわからない暗闇の時間が長くなればなる程人々は不安に駆られた。
この世の終わりだと誰もが絶望した。
当たり前にあるものが当たり前ではなくなった。
『精霊の怒りに触れた』と天に命乞いをしたり、錯乱する者もいた。
長い長い夜の世界の中で、やがて草木は枯れ、雪が降り続き、大地は凍りついた。
我々は天に見放されたこの世界の過酷な環境の中、幸い太陽が昇っていた時よりも威力は弱まってしまったものの四大精霊の力は使えた為、それらの魔法を駆使して魔物も人間も亜人も種族を超えて身を寄せ合いながらなんとか命を繋いできた。
カリス王国の中でも領地が大きいエイデン領の領主は、体力と繁殖力の強いオーク族の王子と自分の娘を番わせた。伯爵の血を絶やさぬ為と身を寄せ合い生き抜くための政略結婚ではあったが王子と伯爵令嬢はいつしかお互いを慈しむようになり、深く愛し合った。
そして生まれたのがブラッドだった。
成長するにしたがってブラッドは父親に似てきた。
でっぷりと肉付きが良くなり眼つきは鋭く鼻は豚のように上を向き、肉厚の唇が歪んで、口を開くと鋭く尖った小さな下の犬歯が見え隠れする。
他の貴族から醜い容姿だと陰で嘲笑された。両親からの深い愛情を受けてはいたが、ブラッドは自分の容姿が嫌いだった。
父親が嫌いだった訳ではない。
むしろ他種族ながらも領土民に慕われていた父を誇りに思う。
だが、そんな父から受け継いだ容姿が嫌だと思う自分が嫌いだった。
だからそんな気持ちは隠そうと決め、持ち前の生命力の強さでこの長すぎる夜を生き抜き、領地の者達を率いてきた。
政略結婚で16歳の成人を機に妻を娶ったが妻は私の容姿を嫌い、私もそんな態度の妻を良くは思わず、両親のように心を通わせることはできなかった。
夜の伽の時もまるで義務のようだった。
子供を授かった時も「もう伽をしなくてもいい」とお互い安堵していた程だ。
子供は可愛いと思ったが、色々と妻から理由をつけられてあまり会わずにいたせいか、私には全く懐かなかった。
息子を1人産んだ後、妻は子供の成長を見ることもなく体力が持たずに死んでしまった。両親も遂に夜明けを待たずに死んでいった。
ブラッドは貴族仲間に誘われて奴隷を飼うという事を知った。今さら妻に来てくれるような者も現れないだろう。
息子も今は16の歳になり、首都の学園の寮で生活しており屋敷には自分とわずかな使用人しかいない。
孤独感を埋めるのに丁度いいと思った。
自分の中で燻り続けている容姿への強いコンプレックスからか美しいものへの執着がかなり強かった為、美しい奴隷には金に糸目は付けなかった。
迎える奴隷は皆ブラッドの容姿に怯えてしまうので【隷従の首輪】を着けた。
【隷従の首輪】には希少種の淫魔の使う《淫紋》という特殊な魔法陣が組み込まれている。
《淫紋》とは主人への恐怖心や嫌悪感を和らげる抵抗無効魔法、服従心を植えつける服従魔法、僅かな刺激で発情し通常の何倍も感じやすくなり快楽に溺れる催淫魔法などが緻密に練り込まれている魔法の印だ。
逃亡や抵抗などの万が一の場合に備えて装着者の魔力を主人が吸い取る宝珠も付いていた。
《淫紋》の魔法印自体が高位の淫魔しか扱えず、それを魔具に組み込める者は高位の淫魔の中でも更に少ない。
その上、淫魔は長い夜の間に絶滅してしまったと聞いている。
【隷属の首輪】はかなり希少で手に入れるのがかなり大変で高額ではあったが、その効果は絶大でその首輪を着けると奴隷は恍惚とした表情で喜んで脚を開いた。
そうして美しい者を蹂躙し、自身の性欲と孤独を埋める日々が続いていたある日ー。
世界が待ち望んでいた奇跡が起きた。
太陽が昇った。紅く染まる曙の空を見上げて、この世界の生命は歓喜に震えた。
ようやく精霊の赦しを得たのか。
陽が昇り沈んでいく時人々は不安に襲われたが、翌朝再び陽は昇った。
陽が昇り沈んでいく。
当たり前がこんなにも尊い。
人々は闇に覆われていた期間を『長い夜』、太陽が昇った日を『世界の夜明け』と呼んだ。
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