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◆エピローグ
~時空を旅するコロボックル~
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深い森の中にある小さな集落。その集落の中ほどにある広場で子供たちが集まっていた。
子供たちは広場に置かれた幾何学的な模様の彫刻が施された椅子を取り囲み、目を輝かせてそこに座る女の話に熱心な様子で聞き入っていた。
「——こうして、かつてあった滅びの世界は書き換えられ、こうしてみんながいるこの世界に変わったのよ」
女は微笑みを浮かべ優しい目で集まっていた子供たちを見回すと、子供数人が浮かない表情を浮かべていた。
「浮かない顔をしている子達がいるけど、どうしたの?」
「だって…みんな助からなかった悲しいお話だったんだもん…」
それを聞いた女は「あぁ…」と一瞬苦笑いを浮かべ、その後、微笑みを口元に浮かべた。
「確かにかつてあった世界の彼らは救われなかったけど、歪みの原因が無くなったから、この世界の時間軸のスサやアオ、アカは健在だし、スサはみんなも良く知っているはずよ」
それを聞いた子供は首を傾げる。
「私たちがいるこの世界のスサはね、大銀河皇帝様よ」
それを聞いた子供たちはいっせいに「皇帝様なら知ってる~」と声を上げた。
「この世界ではみんな仲良く暮らせているのはね、皇帝様の調和の力のおかげなんだよ」
「そうだったんだ…お話に出てきた巨人族は他の生き物を苦しめたり、殺して食べたりしていたけど、この世界の巨人さん達は優しくてみんなの為に働いているのも皇帝様のお力?」
「そうよ」
疑問に対して女が頷くと質問した子供の表情が笑顔に変わる。
子供たちに笑顔が広がったのを確認して女が微笑んでいると、女の袖を引っ張る少女がいた。
「…ねぇねぇ。それじゃあアオやワッカはどうなったの?」
「この世界にワッカは存在しないけれど、ワッカの魂の源であるアカならアオと共にこの宇宙を元気に飛び回っているから大丈夫」
「え⁈ アオもこの世界にいるの⁈」
「ええ、この時間軸ではスサが地の磐戸に幽閉される事もなかったから、アオはアオでも小言癖がないアオだけど」と言って女は笑う。
「…よかった」
ホッとした様子の少女の頭を女は撫でると立ち上がる。
「そろそろお迎えが来る頃だわ。私、行かないと…」
女の呟きに子供たちが不満の声を上げる。
「これからオリオン星系のトカゲさんの所へご用事があるの」
女が子供たちに説明をしていると、広場の上空に銀色に輝く小型の磐船が姿を現した。
それを見た子供たちが「磐船だぁ」「星を行く船だぁ」と口々に声を上げる。
静かに広場に着陸した磐船に乗り込もうとした女は思い出したように足を止め子供たちを振り返る。
「…あ、そうだ――エルの種族はね、滅びの世界ではただの野ネズミだったけれど、頭が良い種族だったから、この世界の時間軸ではとても難しい磐船の操作を専門に扱う種族として大宇宙で活躍しているよ」
それを聞いた子供たちからワッと歓声が起きた。
「…じゃあみんな、いってくるね」
「行ってらっしゃい」
「またね~」
「帰ってきたら、次はトカゲさんたちのお話を聞かせてね」
子供たちの声に見送られて磐船に乗り込んだ女は船内の席に座ると、「忘れ物は大丈夫か?」と操縦席から声をかける者がいた。それを聞いた女はぷっと頬を膨らませ口を尖らせる。
「ピリカ子供じゃないもん」
それを聞いてパイロットは「その顔を子供たちに見せてやりたいものだな」と言って声を立てて笑った。
「ひど~い」
ピリカは抗議の声を上げた後、今後の予定の確認をする。
「——座標K20278でアオと合流。その後、F22091でアカを収容してオリオン星系にジャンプする予定に一応なってる」
「わかった~。じゃあ、操縦の方お願いね」
「了解」
パイロットは軽くピリカに敬礼をして見せると、操縦席に着きコントロールパネルの操作を始めた。
ピリカは星空を映すモニターを見ながら「アオ達と会うのも久しぶりだなぁ」と呟くと、パイロットが「今回はオリオンで任務?」と訊いてくる。
「そう。オリオン星系のトカゲさん達って好戦的で不調和の波動が酷いから、スサの力の影響が及びにくいの。そこから今の時空間の次元の歪みが起きる可能性があるから、トカゲさんたちの時間軸を遡って不調和の原因を調べて可能なら修正するのが今回の任務」
「あ~、それでか。アカ、アオ、ピリカ単体でも強力な能力を持っているのに、三人がチームを組むなんて珍しいな~って思っていたんだ」
それを聞いたピリカは肩を竦めた。
「私は何の能力も無いただのコロボックルだよ。…ただスサ自らからアカとアオに協力してやって欲しいって頼まれちゃったんだもん、さすがに断れないよ~」
「そうか? ピリカは皇帝自らからの頼みでも、本当に嫌なら断るタイプだと俺は思うけど」
「…まあね。知らない所を旅するのって面白そうなのも確かってのもある」
「らしいや」
パイロットは楽し気にそう言うと、ジャンプポイントに到着したのでジャンプするとピリカに告げる。
青く輝く星を飛び立って星の海を渡っていた磐船は、アオとの合流ポイントに向かう為に虹色の光に包まれながら虚空にその姿を消した。
<FIN>
子供たちは広場に置かれた幾何学的な模様の彫刻が施された椅子を取り囲み、目を輝かせてそこに座る女の話に熱心な様子で聞き入っていた。
「——こうして、かつてあった滅びの世界は書き換えられ、こうしてみんながいるこの世界に変わったのよ」
女は微笑みを浮かべ優しい目で集まっていた子供たちを見回すと、子供数人が浮かない表情を浮かべていた。
「浮かない顔をしている子達がいるけど、どうしたの?」
「だって…みんな助からなかった悲しいお話だったんだもん…」
それを聞いた女は「あぁ…」と一瞬苦笑いを浮かべ、その後、微笑みを口元に浮かべた。
「確かにかつてあった世界の彼らは救われなかったけど、歪みの原因が無くなったから、この世界の時間軸のスサやアオ、アカは健在だし、スサはみんなも良く知っているはずよ」
それを聞いた子供は首を傾げる。
「私たちがいるこの世界のスサはね、大銀河皇帝様よ」
それを聞いた子供たちはいっせいに「皇帝様なら知ってる~」と声を上げた。
「この世界ではみんな仲良く暮らせているのはね、皇帝様の調和の力のおかげなんだよ」
「そうだったんだ…お話に出てきた巨人族は他の生き物を苦しめたり、殺して食べたりしていたけど、この世界の巨人さん達は優しくてみんなの為に働いているのも皇帝様のお力?」
「そうよ」
疑問に対して女が頷くと質問した子供の表情が笑顔に変わる。
子供たちに笑顔が広がったのを確認して女が微笑んでいると、女の袖を引っ張る少女がいた。
「…ねぇねぇ。それじゃあアオやワッカはどうなったの?」
「この世界にワッカは存在しないけれど、ワッカの魂の源であるアカならアオと共にこの宇宙を元気に飛び回っているから大丈夫」
「え⁈ アオもこの世界にいるの⁈」
「ええ、この時間軸ではスサが地の磐戸に幽閉される事もなかったから、アオはアオでも小言癖がないアオだけど」と言って女は笑う。
「…よかった」
ホッとした様子の少女の頭を女は撫でると立ち上がる。
「そろそろお迎えが来る頃だわ。私、行かないと…」
女の呟きに子供たちが不満の声を上げる。
「これからオリオン星系のトカゲさんの所へご用事があるの」
女が子供たちに説明をしていると、広場の上空に銀色に輝く小型の磐船が姿を現した。
それを見た子供たちが「磐船だぁ」「星を行く船だぁ」と口々に声を上げる。
静かに広場に着陸した磐船に乗り込もうとした女は思い出したように足を止め子供たちを振り返る。
「…あ、そうだ――エルの種族はね、滅びの世界ではただの野ネズミだったけれど、頭が良い種族だったから、この世界の時間軸ではとても難しい磐船の操作を専門に扱う種族として大宇宙で活躍しているよ」
それを聞いた子供たちからワッと歓声が起きた。
「…じゃあみんな、いってくるね」
「行ってらっしゃい」
「またね~」
「帰ってきたら、次はトカゲさんたちのお話を聞かせてね」
子供たちの声に見送られて磐船に乗り込んだ女は船内の席に座ると、「忘れ物は大丈夫か?」と操縦席から声をかける者がいた。それを聞いた女はぷっと頬を膨らませ口を尖らせる。
「ピリカ子供じゃないもん」
それを聞いてパイロットは「その顔を子供たちに見せてやりたいものだな」と言って声を立てて笑った。
「ひど~い」
ピリカは抗議の声を上げた後、今後の予定の確認をする。
「——座標K20278でアオと合流。その後、F22091でアカを収容してオリオン星系にジャンプする予定に一応なってる」
「わかった~。じゃあ、操縦の方お願いね」
「了解」
パイロットは軽くピリカに敬礼をして見せると、操縦席に着きコントロールパネルの操作を始めた。
ピリカは星空を映すモニターを見ながら「アオ達と会うのも久しぶりだなぁ」と呟くと、パイロットが「今回はオリオンで任務?」と訊いてくる。
「そう。オリオン星系のトカゲさん達って好戦的で不調和の波動が酷いから、スサの力の影響が及びにくいの。そこから今の時空間の次元の歪みが起きる可能性があるから、トカゲさんたちの時間軸を遡って不調和の原因を調べて可能なら修正するのが今回の任務」
「あ~、それでか。アカ、アオ、ピリカ単体でも強力な能力を持っているのに、三人がチームを組むなんて珍しいな~って思っていたんだ」
それを聞いたピリカは肩を竦めた。
「私は何の能力も無いただのコロボックルだよ。…ただスサ自らからアカとアオに協力してやって欲しいって頼まれちゃったんだもん、さすがに断れないよ~」
「そうか? ピリカは皇帝自らからの頼みでも、本当に嫌なら断るタイプだと俺は思うけど」
「…まあね。知らない所を旅するのって面白そうなのも確かってのもある」
「らしいや」
パイロットは楽し気にそう言うと、ジャンプポイントに到着したのでジャンプするとピリカに告げる。
青く輝く星を飛び立って星の海を渡っていた磐船は、アオとの合流ポイントに向かう為に虹色の光に包まれながら虚空にその姿を消した。
<FIN>
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