旅するコロボックル2 ~天と地の磐戸開き~

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◆episode13

~アマテラス!~

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――アクセスポイント20B24P…
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――周回軌道Go On×▼%…
――△※#◎★
 深緑色の苔の様に覆われた狭い部屋の中に機械的な音が鳴り響く。それに反応する様にサクヤは宙に浮かび上がった光の文字に白魚の様な指を走らせた。
――◇&…●×※※…設定完了
 そんな音が流れた後、サクヤはふぅ…っと息を吐くと振り返り、席に着いていたピリカとエルに微笑みかける。
「無事、目標軌道に船を乗せる事が出来たわ…ここからなら全容が確認できるはずよ」
「…」
 サクヤの説明に正面に映し出された闇の中に輝く青く美しい球体の映像を見詰めながら、ピリカはこくんと頷く。
 ピリカ達がいるのは黄昏の国がある惑星の軌道上。サクヤが所有する船——磐船と呼ばれている宇宙船の中であった。
 アオの別れ際の言葉が気になって仕方が無かったピリカは、アオの所へ連れて行って欲しいとサクヤに頼んだがその願いは断られた。しかしサクヤの宇宙船でアマテラスの稼働する様子を見守るなら構わないという事だったので、磐船に搭乗する事となったのである。
 船内は苔で覆われた壁のせいかしっとりとした空気で満ち、ひんやりと感じるぐらいの温度のせいか、深い森の中にいる様な錯覚にとらわれてエルは何とも言えないといった表情を浮かべ呟く。
「ここ故郷の森に帰って来たみたいな懐かしい雰囲気だよな…変な感じ…」
 高次元にあった機械施設や黄泉比良坂といった人工的に加工された金属の様な材質は見当たらず、苔の生えた壁の所々にシダ類と思われる植物も生えているのも、エルが森の中にいる様な錯覚をする一つの原因であったのかもしれない。
「もしかすると貴方の中に眠っている種に刻まれた遠い過去の記憶が、何か囁いているのかも…」と言ってサクヤは微笑む。
 サクヤの話を聞きながらエルは、興味深そうに正面に映し出されている青い惑星を見て「俺達が今いるのって夜空に輝くお星さまと同じ空なんだろ? 全然そんな実感ないんだけど…」と呟くと、それを聞いたサクヤがふふっと小さく笑った。
「未知の世界だと思っていたかもしれないけれど、同じ宇宙の法則の中に存在しているのだから大した違いがある訳ではないわ」
「確かに…。わからないから妄想ばかりが膨らんでいたのかもな」
 エルはそう言うと、ずっと黙ったまま青い星の画像を見詰めているピリカに声をかける。
「——まさかこんなところにまで来るとは思わなかったよな」
「…」
 エルに話しかけられたピリカは、心ここにあらずといった様子で何の反応も示さない。そんなピリカが心配なのかエルは「心配事のほとんどは現実にならないんだからさ、きっと大丈夫」と小さな妖精の不安を払拭させようと言葉をかけた。
「——最後に…ってアオは言ったんだよ? 冗談でアオはそんな事言う訳ないもん…」
 別れ際のアオの言葉がずっと気になっているピリカは小さくそう呟くと、サクヤに視線を移して「アオやサクヤちゃんが嘘をつかないのは判ってるけど、何か大切な事を隠してる事があるんじゃないの?」と真剣な顔で訊く。
「…」
 サクヤは困った様な表情になり、ピリカの問いかけに答える事なく沈黙する。
 沈黙は肯定。
 ピリカは「否定しないんだ…」と悲しそうに呟くと、その目から一粒の涙が零れ落ちた。
「…ピリカ?」
 ピリカの涙を見たエルが心配そうに声をかけるが、ピリカはそれに応える事無く、下唇をぎゅっと噛み締める。
 そんな小さな妖精の姿を見かねたのか、サクヤが口を開く。
「ピリカちゃんそんな顔しないで…ごめんなさいね。世の中には知らない方が幸せな事もあるの…」
 優しくそう言うサクヤの言葉を聞いたピリカは、自分の想いを抑えられなくなったのか声を上げる。
「優しさが残酷な事もあるんだなんて、私知らなかった!」
 ピリカは涙をぽろぽろとこぼしながら訴える。それはまるで魂の悲鳴であった。
「確かに本当の事を知らないでいれば幸せな事もあるのかもしれない! でもね、大好きな人が苦しんだり悲しんだりしているのは嫌! 本当の事を知ろうとしないままアオに何かあったら、私、絶対自分を許せなくなっちゃう!」
 訴えを聞いたサクヤは「…知るという事は、責任を伴うわ――その責任が負いきれないものであったら、あなたは一体どうするの?」と静かにピリカに問う。
「それは私が決める事。責任を背負えるかどうかを他の誰かが決める事じゃない!」
 強い意志のようなものを秘めた目でサクヤを見返しながら、はっきり答えるピリカには迷いのようなものは一切なかった。
「…わかったわ」
 しばしの沈黙の後、サクヤは今まで見せた事が無いような厳しい表情になると、覚悟を決めた様子でこれから起きる事についてピリカ達に黙っていた事について語り始めた。

「アマテラスはアオが説明した通り、その能力はスサ様の調和の力とアオの高周波高エネルギーを足して増幅させることが出来る装置なの」
 その力は理論上、宇宙法則である神と匹敵するほどの力を持つが、それを作動させるには様々な条件を満たす必要がある。
「まず、スサ様とアマテラスの融合が第一条件。精神と物質という対となる存在が一つになる事によって新たなるものとなる」
「…」
 対になるものの融合。
 それは伊弉諾と伊弉冉の関係性であり、地の磐戸に刻まれた様々な対を意味する文字にも示されていたように、今まで何度も見聞きしてきたものである。
「第二条件は火と水の融合——これは青龍であるアオと赤龍の代役として赤龍王のワッカが担う事になっているわ」
「ワッカ⁈」
 ここにきて思いもしない名を聞いたピリカは、驚きの声を上げる。
「アオはじまりの波動である「あ」から「お」…起点の高い所から低い所に流れるエネルギーのハタラキの精神体である事からアオと呼ばれているの――その音霊(オトダマ)の配列については、黄昏の国で使われている巨人族の基本である言語表を見れば理解しやすいのだけれど…」
 黄昏の国の巨人族の言語表は数種類存在しているが、サクヤが言う言語表はその中の一つの五十音表の事であった。
 ちなみにアオの対となる存在は「あ」から「か」への起点から横に広がるハタラキが「アカ」であり、その名を持つエネルギーの精神体は、この星が雛型計画で選定された際、重要な役割を果たすこの星を守護する為、星の核となったという――アカは横に広がるハタラキをする為、核を中心にそのエネルギーは龍脈として今もなおこの星を巡り続けている。
 この星の核となったアカをアマテラス稼働に使う事が出来ないので、急遽、アカの分け御霊である赤龍王の記憶を受け継いだワッカに代役を務めてもらう事になったという。
「よく、そんな大役ワッカは引き受けたなぁ」
 予想外の成り行きにエルは驚きの声を上げる。
「赤龍王は奥さんを深く愛していたから…奥さんのルーツである巨人族を絶滅させてはいけないという意思を持っていたそうよ。それもあって、その想いを受け継いだワッカは今回の協力要請を快く引き受けてくれたと聞いたわ」
 エルはその話を聞いて感心したのか「へぇ…」と声を漏らす。
「そしてアマテラス稼働後、神と人の融合が行われ、次元の歪み修復へのフェーズに移行するの」
「⁇」
 一体どうやって? という表情を浮かべたピリカとエルにサクヤは苦笑する。
「…ああ、ごめんなさい。ちょっと語弊があるわね…」
 サクヤはそう言うと、小さく咳ばらいをして、解説を仕切り直す。
「アオとアカが融合した段階でアマテラスは本格的に稼働を始めて浮上。その後、調和の波動の放出して人間たち…貴方たちが言う巨人族とオニ達の精神体に波動干渉をしてその波動周波数の引き上げを行うの。そして人間たちの波動周波数が上昇したところで、全宇宙にその波動を増幅して、人間が言う神であった存在…銀河連合をはじめとする宇宙に住む者たちに干渉して同調。人と神の波動を一つにして、最終的に宇宙規模で波動の周波数を一気に上昇させて次元の歪みを解消するという段取りになっているわ」
 一言でアマテラスを稼働させて次元の歪みを解消させると言っても、いくつもの工程を経なければいけないというのはピリカやエルも理解する事が出来たが、それを隠していた理由がよくわからないので、エルが疑問を口にする。
「今の話って隠す必要がないように思えるんだけど…?」
「そう思えるなら、わたくしの取り越し苦労でしたわね」と言ってサクヤは優しく微笑むが、ピリカは納得が出来ない様子で「今の説明だと、アオが言った「最後に」って意味の説明になってない」と訴える。
「今のお話が、わたくしたちが黙っていた全てよ」
 そう言うサクヤからは、それ以上の事はもう話すことは無いといった強い意志のようなものを感じて、ピリカは真剣な表情で考えをまとめる様に呟き始める。
「サクヤちゃんは嘘をつかない――黙っていた事を全部話したっていたって事は、大切な意味が今の話の中にあるはず…」
 普段はお気楽なピリカがこれまで見た事が無いような真剣に考え込んでいるのを見て、エルは思う。
――ほんとピリカは自分の事については無頓着なのに、誰かが苦しんだり悲しんだり、不幸になると思ったら放っておけなくなるんだよな…。
 かつて自分が怪我を負って半死の重症だった時も、ピリカが必死の看病をしてくれた事を思い出して、エルは今もピリカは何も変わっていないのだとぼんやりと思っていると、ピリカが何かに気が付いたのかハッとした様子で顔を上げる。
「…ねぇ、アマテラスの稼働は「融合」が必要条件って言ってたけど、融合したら元の融合した存在はどうなるの?」
「やっぱり気が付いちゃった…か…」
 その事を歓迎しないといった様子でサクヤは苦笑いを浮かべる。
「教えて。融合したら元の存在はどうなっちゃうの?」
「芋虫が蝶になる様に新たな存在となって、元のアイデンティティは全て失われる」
「‼」
 隠していた核心はこの事であり、それを知ってほしくなかったというのがサクヤやアオの意図であった事をピリカとエルは察した。
「…って事は、スサはスサでなくなり、アオもワッカも今の自分ではなくなるって事⁈」
「そういう事ね」
 サクヤはあっさり肯定すると、ピリカは「そんな…」と呟いたまま言葉を失った。
――アマテラス稼働条件である「融合」。
 融合された存在は、それまでのアイデンティティを失う事を知ったピリカは、当然の事ながら強い衝撃を受ける事となった。
 縁を結んだ者達が違う存在となってしまう――それは死別と同じ意味合いを持つ事であり、当然、他にアイデンティティを失わずにいられる方法は無いのかと、ピリカはサクヤに問う事となった。
「残念だけど、他に選択肢はないわ」
 次元再編時、波動周波数が低すぎて落ちこぼれとなる事となる者は、さまざまな学びの機会があったにも関わらず、そうある事を自ら望んだ結果であるので救済する必要も義理もないのであるが、古き者の一人であるスサやアオたちには、それらを見捨てる事が出来なかった。
「古き者の中には、能力に劣る者に存在意義はないとする者たちもいたので、救済方法を検討するのは内緒でね…」
「あ~、スサの邪魔をしたあげく、その責任を取らせて地の磐戸に押し込んだ奴らの事か」
 以前、スサが地の磐戸に幽閉された経緯の話を思い出したエルが不快感を露わにしながら言うと、サクヤは無言で頷く。
「次元再編は雛型計画が実行に移される原始の時代からアカシックレコードに記録されていたので、それを知ったスサ様達はずっと救済方法を密かに検討されていたの。スサ様が雛型計画でこの星へ管理責任者となった直後、検討されていたアマテラスを設置して、アカはこの星の核とひとつになり、アマテラスの守護者となったそうよ」
 その後、スサは主義主張を異にする者達に陥れられ、長い間、地の磐戸の中に幽閉される事となり、アマテラスも黄昏の国で眠り続ける事となった。
「ピリカちゃんがスサ様やアオ、ワッカをどんなことをしてでも助けたいと思っている様に、彼らも次元再編で落ちこぼれてしまう魂を助けてあげたいと願い続けているの――その想いと覚悟を理解してあげて下さいな」
 そう言われてしまって、ピリカは返す言葉を見つける事が出来ず悔しそうに俯く。そんなピリカを見ながらエルが疑問を口にした。
「古き者はこの世界…宇宙が出来てから最初の頃から存在する種族で、スサはその中の一人だというのは理解しているけど、アオって…何者なんだ?」
 最初の頃は漠然と「神の化身」と聞かされていた事に特に疑問を持つ事はなかったが、自分たちが神だと思っていた存在は、宇宙に住む高度な文明を持つ生命体で、それらが物質界である三次元だけではなく、他の次元にも存在している事を知るに従って、アオという存在の謎が深まるばかりであった。
「今まで聞いてきた話から考えると、アオは古き者でも精霊族でも、妖精族でもない…古き者と同じぐらい古い存在であるエネルギー体だと言っていたけど、スサには敬語で話しているし、従っている――一体どういう事なのか俺たちにわかる様に説明してほしいんだ」
 今回の件で自分たちに出来る事がないのは理解したが、アオという存在がこの世から消えてしまう前に、きちんとアオという存在の事を理解したいのだと、エルはサクヤに訴える。
「俺達に出来る事って、アオという存在がいた事を記憶に刻んで、それを語り継いでいってやる事しか出来ないからな――小言が多い奴だったけど、俺達には優しくて面倒見が良くて…俺はアオの事好きだから、本当の事を何も知らないままアオが消えちゃうのって悲しすぎる」
 その言葉に心が動いたのか、サクヤはアオの素性について話し始めた。
「…アオとアカは古き者と同時期に生まれた純然たるエネルギー体…アオは水、アカは火そのもので、この世界を構成する最も重要な原始の存在の一つ。——アカとアオ、そして古き者の三者は、それぞれ単体では何かを生み出す事は出来ないけれど、古き者の能力によってそれぞれのエネルギー比率を変えながら融合し、生み出されたものをまた分解し、それをまた違う組み合わせで融合させるという事を繰り返す事によってこの宇宙にある様々なものを作り出していったのだという話よ」
 伝説級の古い存在であるのは間違いはないが、今やその創生の話の真偽は確認しようがないのだけれど…と、サクヤは笑う。
「アオがスサ様に臣下の礼を取っているのは、いくら強い力を持っていてもその力を使いこなす古き者がいなければ、自分一人では何もできなかったので、感謝と敬意の意味を込めてそうしているという話は聞いた事があるわ」
 ただ古き者といっても様々な個性の者がおり、アオやアカとの相性がもっともよかったのがスサであった為、それが他の古き者にスサが妬まれる原因の一つとなったらしい。
「だからアオは仲の良かったスサを地の磐戸から出そうとしていたのか…」
 アオの口から語られる事がなかった事情を知り、ようやく腑に落ちるのものがあったのか、エルはそう言うと何とも言えない表情を浮かべた。
「…私達精霊族はスサ様がアオとアカの精神エネルギーの一部を組み合わせて作り出された存在だから、彼らは親の様なものなんだけど、アオは精霊たちが対等な態度を取らないと拗ねちゃうのから、今の様な接し方をするようになっちゃったの」と、子供みたいよねとサクヤは笑う。
「確かにアオってすごくクールな素振りをみせるんだけど、変な所で子供っぽい所あるよな」
 サクヤの話に思い当る事があるのか、エルはそう言いながら笑いをかみ殺す。
「私たちは魂の学びの為にこの世界に存在していてはいるが、神の化身と呼ばれる自分ですら悟りの境地に至るにはまだまだだと、よく言っていたわ」
 懐かしい事を思い出した様な表情を浮かべ、サクヤはピリカとエルに言う。
「…私たちを作り出し、見守り、共に生き、私達を更なる高みへ押し上げる為に自らを糧にする事を選んだスサ様やアオ、アカの分け御霊であるワッカの愛を忘れないでいてあげて…」
 そう言うサクヤ自身も今回のアマテラス稼働についての彼らの選択には思う所があるようで、その言葉には祈る様な想いが込められていた。

――F666R中心部エネルギー増大中…
 警報音の様な鳴り響き、機械的な音声が静香だった磐船の中に流れ始めた。
――W982.N785.F33D.各エネルギー上昇感知
「…始まったようよ」
 システムの表示画面を確認したサクヤがピリカ達に声をかけた。
「…」
 ピリカとエルはサクヤに答える事なく、青い星の映像に視線を向ける。
 大きな大陸から離れた海に囲まれた小さな島国——黄昏の国の霊峰富士の山頂付近に何やら光り輝くものが見て取れた。
「あの光は?」
「アマテラスのシステムが起動した証拠」
 エルの質問にサクヤが答えていると、富士山頂の光の中から赤と青の光のようなものが現れ、急上昇を始めた。
「あの光…ワッカとアオだよね?」
 直感的にワッカとアオだと察知したピリカが呟く。
「ええ…拡大するわね」
 サクヤはそう言うと、表示を青い星の俯瞰画像から上昇を続ける赤と青の光に切り替える。赤と青の二体の龍はお互いの周りを竜巻の様に回りながら上昇していく様子をピリカは食い入るように見つめていた。
 黄昏の国、霊峰富士の山頂より舞い上がった二匹の龍は宇宙に向かって上昇を続け、宇宙空間にまで達すると、お互いの尾を追いかける様にグルグルと時計回りに円を描き始めた。
「龍の舞…」
 この世のものとは思えない光景を記憶に焼き付ける様に見ていたピリカが呟きを漏らす。
 赤龍と青龍の回転速度が上がり、紫色の光の輪が漆黒の宇宙に浮かび上がる。
 サクヤの言葉を裏付ける様に、青い星を俯瞰で捉えた映像には正八面体の形をした何かが大地から切り離されるように浮上する様子が映し出されていた。
「これは…」
 人工的というにはあまりにも巨大な物体が宇宙に向かって浮上していく光景は、現実のものとはとても思えない。
 ピリカとエルが茫然としているうちに正八面体の構造物——アマテラスは正八面体の頂点に紫の光の輪がまるで王冠を頂いた様な状態で制止をすると、巨大なアマテラス全体がが輝き始めた。
――A―Zエネルギー上昇。F666RポイントP203.G565.Q123.C998オールクリア。起動。
 アマテラスの挙動を見守る中、そんな音声が船内に流れると同時に青い星の様々な場所の地表から青白い光線が宇宙に向かって伸びる。
「…いっぱい青い星から糸みたいな光が出てる…あれは何?」
 白昼夢でも見ているかのようにピリカが茫然とした様子で呟いた。
「あれはこの青い星の各所にあるピラミッドと呼ばれている遺跡から発信されたもの…」
 ピラミッドは元々宇宙との交信に使われていた通信施設で、この星の各地を結ぶ通信網でもあったとサクヤは言う。
「銀河連合が撤退してからずっと機能を停止していたのだけど、アマテラスが起動したので機能が回復したのよ」
 それを聞いて「この様子は銀河連合の奴らも見てるんだろ? だったら邪魔とかされるんじゃないのか?」とエルが疑問を口にする。
「ピラミッドのシステムには設置当初からアマテラスの指示を最優先にする様に隠しモードが組み込まれて設定されているの。アマテラスが本格稼働を始めてコマンドが実行に移された以上、銀河連合からのコントロールは全てキャンセルされる様になっているから、心配はないわ」とサクヤは微笑む。
「彼らはまだスサ様が地の磐戸からお出ましになった事を知らないし、アマテラスの存在も知らないから、今、何が起きているか全くわからず混乱しているでしょうね」
「あ~、銀河連合を作ったとかいうスサを陥れた古き者達にも、アマテラスの存在は秘密にしていたって言ってたもんな」
「表向き宇宙の平和を謳い共栄共存を掲げておきながら、実際には能力に劣る存在など何の価値もないと切り捨てればいい、自分たちが優越者でなくなるならこの世界など壊れてしまってもどうでもいいと考えている者達ですもの。知れば間違いなく邪魔をするでしょうからね…それだけはさせる訳にはいかないわ」
 ピラミッドから放たれた光が青い星を覆うように繋がっていく様子を確認して、サクヤはアマテラスを映し出している映像へ視線を戻す。
 光り輝き始めたアマテラスの内部——核と思われる部分に青白い光が見え、それは少しずつ光が増して大きくなっていくのが見て取れた。
 青白い光はその強さを増し、アマテラスから溢れ出るのではないかと思わせる程大きくなった瞬間、紫色の光の王冠を抱いた頂点から太く大きな黄金の光が放たれ、その次の瞬間とめどなく溢れる様な黄金の光に世界は飲み込まれる。
「‼」
 圧倒的な光の津波の後に訪れたのは静寂。
――そして宇宙に存在するのは光だけとなった。
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