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◆episode12
~予兆~
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ピリカの依頼を受けてフヨウが案内した場所は、地の磐戸の間ではなく風向明媚な庭園の中の一角に建つ東屋であった。
「こちらでしばしお待ち下さい」
フヨウはそう言い残すとピリカ達の前から姿を消す。
「ここキレイな所だね」
ピリカは手入れが行き届いた庭園を見て笑顔を浮かべた。
「確かに綺麗な場所だけど、どうして案内人はここに連れて来たんだろう?」
てっきり地の磐戸がある精神界の戻るとばかり思っていたエルは、落ち着かない様子で呟きを漏らす。
「わかんないけど、案内人さんがここで待っててって言うんだから待ってればいいんじゃない?」
「相変わらず、能天気だな」
何の疑問も抱いていないピリカにエルは小さく笑う。
「それにしても、ここって物質界でも精神界とも違うみたいだよな…」
庭園の見た目は物質界にもありそうなものであったが、その雰囲気はどちらかというと精神界に近く、東屋の様式はどこかエンマがいた建物に似ていた。
東屋は庭園内の池のほとりにあり、その池でゆったりと泳いでいる色鮮やかな大きな魚たちを眺めていると、ふわりとサクヤが東屋へ姿を現した。
「あ、サクヤちゃん」
優しく華やかな雰囲気を持つサクヤはピリカに微笑み返すと、ピリカ達の対面にある椅子に腰を下ろす。
「二人とも無事でよかった」
ホッとした様子でサクヤはそう言うと、黙って急にいなくなったので心配していたと少し怒った様な表情を浮かべ、「メっ」とピリカ達を叱る。
「ごめんなさい」
言い訳する事なく素直にピリカは謝ると、サクヤはすぐに優しい顔に戻り、ピリカ達が何があったのか尋ねた。
「スサとの約束を果たせたから、黄昏の国の旅を続けようと思って物質界に戻ったんだけど、巨人さん達が巨人さんじゃなくなってたの」
「どういう事?」
「巨人さん達はみんな獣みたいに地面を這いまわって争い合ったりする奴らと、翼も無いのに空を飛び回る事が出来る者になっていたんだ」
ピリカの説明をエルが補足をすると、サクヤの顔から血の気が引く。
「精神の属性がそのまま物質界の器に反映されているなんて…まだ早いわ」
「早い?」
サクヤの言っている意味が解らず、エルが首を傾げるとサクヤが説明をする。
「物質界が存在するのは精神の成長の為にあるというのは、何度も話したから知っての通り――器の中に魂が収まる事によって、あえてそれぞれの器に応じた制限を加える事によって、立場による主観の違いを知り、学んで、最終的に悟るという工程を繰り返し、魂の成長をさせるという役割があるの」
原則的に魂は器の属性と制限に従う事になっているので、器の許容を逸脱する事はないとサクヤは言う。
「つまりね、いくら魂が憧れてもアリはライオンにはなれないし、鳥は魚にはなれない――それぞれの立場による学びが必要なのだから」
同じ器である種でも魂の学びの度合いによって使い方が変わるので結果的に優劣が出る事はあるが、原則的には全く違う器の能力を持つ事が無い。
「巨人族は古き者の種を組み込んであるから、魂が成長し条件を満たせば、最終的には古き者に近い能力を発揮する事が出来るようにはなっているのだけど、現状での巨人族に入っている魂の成長レベルは低いし、波動もお世辞にも高いとはいえないから、古き者の種の能力を制限するリミッターがかかっているの」
「じゃあ、理性の無い獣みたいになって地を這うようになった奴らは?」
エルの質問にサクヤは少し考えた後、おもむろに口を開く。
「彼らの魂の周波数が残念ながら理性の無い獣と同じ程に下がってしまっていたのでしょうね…今、すごく次元が歪んで不安定になっているから、自分の周波数に応じた次元の影響を受けて、魂の状態がそのまま器に発露しているのかもしれないわ」
「じゃあ、空を飛べる様になった巨人さん達は?」
「獣の様になってしまった者とは真逆で、魂が持つ波動の周波数が高かったので、高次元の影響を受けて飛べる様になった可能性が考えられるわね…」
ピリカにそう答えたサクヤは「アカシックレコードに刻まれている次元再編の条件がほぼ出揃ってしまっているのは確かなんだけど…」と呟く。
「じゃあ、もう次元再編が始まった?」
「いいえ、まだ完全に条件がクリアされた訳ではないので始まってはいないはず」
エルの疑問に困惑した表情を浮かべながらサクヤは即答した。
「それなのに、次元がここまで歪んで物質界に影響を与え始めているなんて…。このままでは次元再編までに宇宙が壊れてしまうかもしれない」
「宇宙が壊れたらどうなるの?」
サクヤの言う、宇宙が壊れるとどうなるのか、全く想像がつかないピリカが訊くと、サクヤは宇宙法則という神と共にすべての次元に存在する魂ごと消滅するかもしれないと深いため息を吐いた。
「そうならない為に、今、スサ様とアオが調整作業を急ピッチで進めているけれど、間に合うかどうか…」
「そっか二人とも忙しいんだ」
ここにサクヤと共に姿を現さなかったアオの事が気になっていたのか、ピリカが呟く。
「本来、この星の調和が保たれていたら次元に影響を与えて歪む事も無かったのだけど、巨人族がその調和を乱しに乱してしまった――この星は雛型計画の中核を担う星だから、それが宇宙全体の次元構造にまで悪影響が出ているんだと思うわ。ギリギリのところでスサ様がお出ましになられたから、今、巨人族の深層意識に働きかけて本来の波動の周波数に今再調整をしている真っ最中なんだけど…」
サクヤの説明にエルは大丈夫なのかと尋ねる。
「調和の為の深層意識干渉はスサ様が最も得意とするところだから…。乱れた波動にスサさまの調和の波動を干渉させて、乱れた波動を整えて周波数を底上げするというもの。アオはスサ様のお手伝いとして、調和の波動を増幅させてそれを中継する為に、この星の空を飛び回っているはずよ」
「…って事は、闇の一週間はアオとは全く関係がなかったのか」
「闇の一週間——ああ、一週間の間、太陽が姿を現さなかった現象の事ね」
オニの隠れ里でも今迄なかったような問題が起きたので、強く印象に残っているとサクヤは言う。
「何があったの?」
「あの時、うちでも数人のオニ達が暴れ出したの…皆で取り押さえて隔離したのだけれど、いままでそんな事なんて一度もなかったのにって不思議に思っていたのだけれど、巨人族の街ではそんな事になっていただなんて…」
もしかするとあの現象は本人の意思に関わらず、魂の状態をそのまま暴露するものであったのかもしれないと、サクヤは考えている様であった。
「どうして一週間の間、この星が闇に包まれてしまって、それまでの法則が覆る事になったのかがまだわからないけれど、貴方たちに影響が出なくて良かった」
以前と全く変わらないピリカとエルの様子に安心した様子でサクヤがそう言うと、ピリカが「あのね…私達、その闇の一週間を知らないの」と切り出した。
その告白は意外だったのか、サクヤは「え?」という表情を浮かべる。
「最初にアオに精神界を案内してもらった黄泉比良坂の方を通って物質界に戻ったのだけど、そこを出たら変な巨人さんでいっぱいな街だったの」
サクヤが案内人を探して磐戸の間に来た時には、物質界でそんな事件が起きているという話はしていなかったし、物質界に戻る際中、黄泉比良坂で迷子になった訳でもないので、それがいつ起きたのか全く見当がつかないとピリカが言う横でエルも頷く。
「俺の感覚では物質界に戻るのにかかった時間は数時間…長くても半日って感じで、絶対一週間もかかってないぜ――精神界と物質界で時間の流れが違うなら、前回、サタンの件で精神界や高次元界、物質界を行き来した時にも同じ事が起きていただろうけど、そんな感じはしなかったんだけど」
一週間という時間は短い様で結構長い。その一週間という時間の記憶が全くない事をエルは気持ちが悪く感じていた。
「闇の一週間が始まったのは、貴方たちが姿を消してこの世界の時間軸では数日絶ってから…貴方たちを地の磐戸の間周辺を探したけれど姿が見つからなくてアオはひどく心配していたし、わたくしの結界の中にもあなたたちの気配を見つける事が出来なかったので、どこのに行ってしまったのかと、私やフヨウも心配していたの――フヨウが仙境を通してピリカちゃんの呼びかけに気が付くまで、約十日は経ってるわね」
「そんなに⁈」
地の磐戸の間を後にして、予想外の時間が経過していた事を知りピリカとエルは驚く。
「次元が歪んで時間軸にまで影響を与えている…?」
サクヤが首を傾げていると、ピリカは何かを思い出したのか声を上げる。
「そういえば、最初に黄泉比良坂に入った時には無かった古い大きな木があって通せんぼしてたんだよね…空間が大きく揺れた後、それが消えちゃって扉が現れたっていう不思議な事があったんだけどそれと関係あるのかなぁ?」
それを聞いたエルもその時の記憶が蘇ったのか「黄泉比良坂の途中にあるマントルとかいうのが見える通路を離れる時にも空間が大きく揺れたよな?」と、何とも言えない気持ちが悪い感覚を思い出したのか、エルは不愉快そうな表情を浮かべた。
「あ~、そう言えばそうだったよね」
初めて体験をする奇妙な感覚で気持ちが悪かったのは覚えているが、大した問題でもないと思って気にしていなかったピリカは、エルにそう言われて空間が揺れるという現象が数度起きていた事を思い出す。
「そう言えば、空間が大きく揺れたってのは、闇の一週間の途中でも起きて、それで気を失ったってヒロトくんが言ってたよね?」
ピリカに言われてエルもヒロトが話していたことを思い出す。
「そういや、気を失って、次に目が覚めた時に地を這う者と空を飛ぶ者に分かれていたって言ってたよな」
空間が揺れるという共通の現象に何かの関連性があるかどうかはわからないが、そんな話をしているとサクヤの表情が一気に曇った。
「空間が大きく揺れた? 時空震だったら非常にマズいわ…時空雪崩の予兆かもしれない」
「時空震?」
聞きなれない言葉にエルが首を傾げる。
「物質界の地震と同じようなものよ――地震は大地の歪みから発生するものだけど、時空震は時間軸に何らかの問題が起きた時に発生する現象…ピリカちゃん達が体験した時間の流れがおかしかったのは、次元の歪みから時間軸に悪い影響が出た事によって時空震が起きて、その結果、精神界と物質界の間の時間の流れがおかしくなった可能性が考えられるわね…」
サクヤは考え込む様にそう言うと、おかしくなった者達の方を考えると他次元の変な影響が出ている可能性も高いし、次元と時間軸の配列構造に深刻な問題が出ているのかもしれないと言う。
しかしサクヤの話はピリカとエルの理解を越えるものであったらしく、ふたりは困惑した表情を浮かべた。
「…あ、ごめんなさい説明が難しかったみたいね。この問題は貴方たちやわたくしではどうこうできる問題ではないから、至急スサ様にお伝えしないと」
そう言ってサクヤは慌てた様子で立ち上がる。
「地の磐戸の間に行くの?」
「いいえ、地の磐戸の間よりももっと下層にあるコントロールルームよ」
今、スサはそこで調整作業をしており、そこは高次元の生命体でないと入る事が出来ないので、ピリカ達はここで待つようにと言うと「ここは仙境だから空間周波数が比較的高くて安定しているから、今の物質界よりは安全なはずよ」と言って優しく微笑んだ。
「なるほど、ここ仙境だったのか」
精神界でも物質界でもないというエルの勘は当たっていたらしい。
「そういう事。ここならフヨウといつでも連絡が付くはずだから、困ったことがあればフヨウに相談をするといいわ」
サクヤはそう言うと、ここに現れた時と同じようにピリカ達の前からふわりとその姿を消す。
「…難しい事はよくわかんないけど、サクヤちゃんが慌てていったところを見ると、私達が戻って来たのは良かったのかな?」
「間違ってはいなかったと思うぜ――世界が危ない状態になっていてみんなかなり忙しいんだけど、何もできない俺達の安全を考えてこの仙境に連れて来たんだろうし…」
挨拶もせず姿を消したというのに、戻って来た自分たちの事を気にかけてくれる彼らの優しさを感じて、罪悪感の様なものを感じるエルであった。
それから再びフヨウがピリカ達の前に姿を現したのは、サクヤが姿を消してから半時ほど経ってからの事であった。
池の中でゆったりと泳ぐ大きな魚を眺めていたピリカ達にフヨウが声をかける。
「仙境名物をお持ちいたしましたので、どうぞお召し上がりくださいませ」
そう言いながらフヨウは大きな盆に盛ったドーナツの様な形をした果物と思しきものをピリカ達の側に置く。
「甘いいい香り…果物みたいだけど、これなあに?」
「蟠桃でございます――古来より仙界で育てられている果物で、食べると不老不死となると言い伝えれております」
フヨウの説明を聞いたピリカが案内人もこれを食べて仙人になったのかと訊くと、フヨウは首を左右に振った。
「滅相もございませぬ。この蟠桃は神仙さまが食されるものでございますので、わたくしの様な若輩者が口にする事などできませぬ」
「…そんなのを私たちが食べていいの?」
「もちろんでございます。その為にお持ちしたのですから…」
それを聞いたピリカは嬉しそうに笑顔を浮かべると、迷うことなく蟠桃にかぶりつく。
「これ甘くておいしいね~」
屈託のない笑顔を浮かべるピリカにフヨウは微笑返した。
「…これを食べたら不老不死になるって言っていたけど、それって本当なのか?」
フヨウの説明が気になったのか、すぐに蟠桃を食べる事をしなかったエルが訊ねると、フヨウは苦笑いを浮かべる。
「あくまで言い伝えでございます――ただ、わたくしは仙界の戒律がございますので、その戒律に従って口に出来ないだけでございますので、ご安心下さい」
「そういう事なら…」
フヨウの説明に安心をしたのか、ようやくエルは蟠桃にかぶりついた。
「これ、果肉はちょっと固めだけど、ほんと甘くておいしいな」
「それはようございました」
蟠桃をピリカ達が食べ終わるのを待ってフヨウは口を開く。
「間もなくアマテラスが稼働するという知らせが先程ございました」
「アマテラスってなぁに?」
初めて聞く名にピリカが訊く。
「わたくしも詳しくは存じ上げないのですが、なにやら歪んだ次元の修復が出来るものなんだとか…」
「そんな便利なものがあるなら、どうして今まで使わなかったんだ?」
エルの素朴な疑問に困った様な表情で返事に窮するフヨウを見て、ピリカがエルに「案内人さんは宇宙人さんじゃないから、そういうのは後でアオかサクヤちゃんにでも聞いたらいいんじゃない?」と言った。
「あ~、言われてみればそうか」
フヨウは不思議な技を使うことが出来る仙人とはいえ、元々この星の巨人族である。古き者であるスサや、アオやサクヤといった宇宙から来た存在が扱う技術やその事情に精通しているとは思えない。
「…で、俺達はどうしてればいいんだ?」
仙境が風光明媚で平和な場所であるのは間違いないが、暇を持て余し気味だったエルがこの地の住人であるフヨウに指示を仰ぐ。
「アマテラスを稼働させる前に青龍様がこちらに来られるとの事でございます」
アオ来るまでの間、何か希望があれば…と言うフヨウの言葉を遮る様にピリカが嬉しそうに声を上げた。
「アオ来られるの⁈」
「そうお聞きしております」
「んじゃ、アオが来るまでここで待ってる」
「承知いたしました」
フヨウは慇懃に会釈をして、蟠桃を乗せていた盆を静かに下げると再び姿を消した。
「…アオ怒ってるかな?」
「俺達がいなくなってアオはすごく心配していたって案内人とサクヤが言ってたから、やっぱ怒られるんじゃないか?」
「だよね~」
アオと喧嘩をした訳でも嫌いになった訳でもなく、アオは忙しそうであったし、旅に出るのを止められたくないという気持ちから黙って姿を消したものの、物質界のまさかの異常事態でアオとこのような形で再会する事となってしまった以上、ピリカ自身も怒られるのはわかっている様である。
「サクヤちゃんは怒るのも優しかったけど、アオが怒ったら怖そう…」
「そういやアオが本気で怒ったところってみた事ないよな。いつも怒ると言うよりはブツブツとお小言って感じだったし」
「あ~、そういえばそうだよね…」
高次元界でオリオンの爬虫類頭とかいう存在に襲い掛かられた時ですら、アオは厳しい表情になったが怒りはしていなかった事をピリカが思い出す。
「アオを本気で怒らせちゃいけないような気がする…」
そんな事をピリカが呟いていると、噂のアオが東屋へ姿を現した。
アオと目が合った瞬間、ピリカが「ごめんなさい!」と叫んで勢いよく頭を下げると、一瞬きょとんとした表情を浮かべたアオはぷっと噴き出した。
「アオ…怒って…ない?」
恐る恐る顔を上げて訊くピリカの様子がおかしかったのか、アオは声を立てて笑う。
「悪い事をしたという自覚はあるんじゃろ? …それならもう構わぬ」
楽し気にそう言うアオの言葉を聞いてピリカとエルはほっと胸をなでおろした。
「事情はサクヤから聞いた。二人とも無事で何よりじゃ」
何事もなかったようにアオはそう言うと椅子に座り、「アマテラスを稼働させる前にまた会う事が出来て良かった」と言うと、優しい目でピリカとエルを見て微笑みを浮かべる。
そんなアオの様子にピリカは何か引っかかるものを感じながら質問を口にする。
「…ねぇ、アマテラスって何?」
「ん? アマテラスは超高周波高エネルギーの発生装置で、これを核にしてこの星の波動の周波数を引き上げ、同時に時空間の歪みを立て直すものじゃ」
「どうして今まで使わなかったの?」
「扱えるのはスサ様だけじゃからな」
「ああ、スサがずっと地の磐戸の中にいたから使いたくても使えなかったって事か…」
「そういう事じゃな」
アオの説明を聞いて疑問が解消されたのかエルは納得したようであった。しかしピリカの方はまだ何か引っかかるものがあるのか、じっとアオの顔を見詰めた。
「今、この世界の周波数が本来の状態に比べてとっても落ちちゃって、その影響で次元や時空間も歪んじゃってるってのはサクヤちゃんから聞いたけど、アマテラスを使って波動を上げて次元の歪みを元に戻すって事は、今と違う世界になっちゃうって事?」
「…間違ってはおらぬな」
「じゃあさ、次元再編とアマテラスで起きる事の何が違うの?」
ピリカの疑問を聞いたアオはおや? という表情を一瞬浮かべてその疑問に答える。
「ピリカが言うように結果的に次元配列に影響を与えるという意味では確かに同じであるが、本来アマテラスの使用目的はアカシックレコードに記載されていた次元再編時の万が一の備えとして開発設置されたもので、超高周波高波動への空間転移に適応できない低周波の精神エネルギーの救済を目的としていたのじゃ」
「…救済?」
ピリカの言葉にアオは頷く。
「アマテラスはスサ様のお力と我の力を足して、それをさらに超強力にしたような装置であるので、広範囲の次元に存在する低周波の精神体全体に干渉して調和の波動に変換しつつ周波数の底上げを行い、次元再編による空間転移後もこの宇宙で魂の学び続けられるようにする為のな」
「アオ…ずっと言ってたよな。次元再編が起きたら何が起きるかわからないって――わからないなら次元再編に備えての準備なんてできないはずじゃないのか?」
不信感を露わにするエルにアオは苦笑いを浮かべた。
「我が何が起きるかわからないと言っていたのは、地の磐戸がある場所は正確な意味では精神界でも物質界でもない狭間の場所にあるので、その狭間にいる時に次元再編が起きたらどうなるかわからないという意味であったのと、あの時はスサ様は地の磐戸の中であったので、次元再編が起きても我だけでは何の手立てをする事も出来ないという意味でもあった」
「え…俺、ずっと地の磐戸があった場所って精神界なんだと思ってた」
「あの場所は精神界といえば精神界と同じ次元構造を持っておる特殊な場であるので、そう思うのも無理はない」
アオの説明を聞いてようやく自分が様々な誤解をしていた事に気が付いたエルは、バツが悪いといった表情を浮かべる。
「ごめん。アオが俺たちに嘘を付いた事なんてなかったよな」
「お前たちでは次元構造が実際にどうなっているのかなどわからぬであろうから、仕方がないので気にすることは無い」
さらっとアオはエルの言葉を受け流すと微笑んでみせる。
「…ねぇ、そこまでして波動を上げなきゃいけないの? 波動が低い事が悪い訳じゃないって言ってたよね?」
「もちろん、それそのものが悪い訳ではないのじゃが、今までは物質界に様々な精神レベルの周波数を持つ魂がごちゃ混ぜになって魂の学びをしておったのじゃが、次元再編後はごちゃ混ぜ状態は解消されて、それぞれに応じた次元で魂は学ぶ事となる」
それによって今の様な玉石混合状態での混乱と多くの問題が随分解消されるはずだとアオは言う。
「低次元に適応する周波数を持つ魂を水で例えるなら、水分子の活動(振動で発生する周波)は氷のようなもの。結びつきが強すぎて変化に乏しく固定化している硬直化した考え方をする為、それ以上の魂の成長は難しい」
次元が上がるにつれ氷が溶け水となる様に、分子の活動量も増えて変化による刺激が多くなり、それが魂の学びの機会となる。分子活動が液体状態よりもっと活発である気体に姿を変えれば、液体の状態よりもさらに自由度が増し異なる存在とも交わりやすくなるので、その分、さらなる魂の成長に必要な刺激も増える事となる。
それを踏まえて巨人族を中心とした者達の波動の周波数上げ、自由度が高い次元へ適応できるようにスサやアオは働きかけをしているのだと言う。
「とは言っても、変化を望まず、魂の成長などどうでもいいと強く願っている低周波数高エネルギーを放つ精神体には効果は出にくいので、最終的な選択は本人次第ではあるのじゃがな」と言ってアオは肩を竦めた。
「我らが今このタイミングでアマテラスを稼働させる事としたのは、一人でも多くの者を波動の周波数が高い者とし、調和の響きが大きくなれば、「あやま知」によって低波動となった多くの巨人族が原因で発生した次元の歪みも解消されると考えたからじゃ」
時空震も発生した事を鑑みると、次元の歪みが限界に達していて一刻も早く手を打たないといけない状態になっているというのがスサやアオ達が出した結論のようであった。
「次元再編が起きる前に宇宙が崩壊してしまって、全てが無に還ってしまうのだけは絶対に避けたい事であるのでな…」
「——アオ達の想いは判ったけど、巨人さん達の多くはもう獣みたいになっちゃってるよ?」
ピリカの指摘にアオは悲しそうな表情を浮かべる。
「あれほど獣の様になるから、獣と同じように肉を好んで食してはしてはならぬ、体だけではなく精神にも悪い影響を及ぼすので毒となるものは口にしてはならぬと言っておいたのに、素直に我らの忠告を聞かぬ者が多かったからのぅ――次元再編の前に魂の状態が露わになるのは予想外ではあったが、遅かれ少なかれその魂の状態を隠すことが出来なくなる事は判って居ったから指導しておったのに…まことに残念な事じゃ」
銀河連合がこの星に再介入して新統治政府が再三にわたって飲食物に関しての指導をしてきたのは来たるべき次元再編に備えてのものであったが、結果的にそれを素直に受け入れた者が少なかった事が、今回の巨人達の悲劇的変化に繋がったのであろうとアオは深いため息を吐いた。
「…じゃあ、もうあの獣みたいになっちゃった巨人さん達は元には戻らないの?」
「戻らぬじゃろうな。いくら忠告をしても欲の僕となり自らを律する事を拒み獣となる事を自ら選んだのじゃから、アマテラスを稼働させて波動上昇をさせようとしても大した効果は上がるまい。残念ではあるが、巨人族が全滅しなかっただけマシであったと考えるしかあるまい」
「そんな…」
確かに自由に飛び回れる事になったヒロトたちの様な存在が残った事は良かったかもしれないが、地を這う者となった巨人達の事をピリカは思い、悲しそうに呟く。
「——自分でした事の責任は自分で取る事になるってのは当たり前の事だから解ったけど、宇宙人たちが地を這う者をどこかへ連れて行ったけど、何処に連れて行かれたんだ?」
エルの方はピリカほど地を這う者となった者達に同情心を持つ事ない様子で、気になっていた疑問をアオに訊く。
「恐らく他の霊性の者達に迷惑をかけぬよう、地を這う者達に応じた星へ送っておると思うが…」
アオは今、スサの助手として飛び回っているので、銀河連合が今どんな動きをしているかまでは詳しい事までは判らないらしい。
「——地を這う者となってしまった巨人達は可哀そうであるが、正直な所、あれらを助けてやれるほどの余裕は今の我にはない」
はっきりとそう言うアオの言葉を聞いて、ピリカは目を伏せる。そんなピリカを見ながらアオは「冷たい様であるが我とて万能ではないのでな――許せ」と言うと静かに立ち上がった。
「アオ…もう行っちゃうの?」
「もう時間があまり残ってはおらぬのでな…」
アオはそう言うと、悲しそうなピリカの頭をそっと撫で「最後にまた合う事が出来て嬉しかった――いろいろ世話になった。ありがとう」と言うと、ピリカ達に背を向け東屋を出て行く。そんなアオの言葉を聞いたピリカは驚いて叫ぶ。
「最後にって…ちょっと、アオどういう事⁈」
ピリカの問いかけに答える事無く、アオは静かに仙境から姿を消した。
「こちらでしばしお待ち下さい」
フヨウはそう言い残すとピリカ達の前から姿を消す。
「ここキレイな所だね」
ピリカは手入れが行き届いた庭園を見て笑顔を浮かべた。
「確かに綺麗な場所だけど、どうして案内人はここに連れて来たんだろう?」
てっきり地の磐戸がある精神界の戻るとばかり思っていたエルは、落ち着かない様子で呟きを漏らす。
「わかんないけど、案内人さんがここで待っててって言うんだから待ってればいいんじゃない?」
「相変わらず、能天気だな」
何の疑問も抱いていないピリカにエルは小さく笑う。
「それにしても、ここって物質界でも精神界とも違うみたいだよな…」
庭園の見た目は物質界にもありそうなものであったが、その雰囲気はどちらかというと精神界に近く、東屋の様式はどこかエンマがいた建物に似ていた。
東屋は庭園内の池のほとりにあり、その池でゆったりと泳いでいる色鮮やかな大きな魚たちを眺めていると、ふわりとサクヤが東屋へ姿を現した。
「あ、サクヤちゃん」
優しく華やかな雰囲気を持つサクヤはピリカに微笑み返すと、ピリカ達の対面にある椅子に腰を下ろす。
「二人とも無事でよかった」
ホッとした様子でサクヤはそう言うと、黙って急にいなくなったので心配していたと少し怒った様な表情を浮かべ、「メっ」とピリカ達を叱る。
「ごめんなさい」
言い訳する事なく素直にピリカは謝ると、サクヤはすぐに優しい顔に戻り、ピリカ達が何があったのか尋ねた。
「スサとの約束を果たせたから、黄昏の国の旅を続けようと思って物質界に戻ったんだけど、巨人さん達が巨人さんじゃなくなってたの」
「どういう事?」
「巨人さん達はみんな獣みたいに地面を這いまわって争い合ったりする奴らと、翼も無いのに空を飛び回る事が出来る者になっていたんだ」
ピリカの説明をエルが補足をすると、サクヤの顔から血の気が引く。
「精神の属性がそのまま物質界の器に反映されているなんて…まだ早いわ」
「早い?」
サクヤの言っている意味が解らず、エルが首を傾げるとサクヤが説明をする。
「物質界が存在するのは精神の成長の為にあるというのは、何度も話したから知っての通り――器の中に魂が収まる事によって、あえてそれぞれの器に応じた制限を加える事によって、立場による主観の違いを知り、学んで、最終的に悟るという工程を繰り返し、魂の成長をさせるという役割があるの」
原則的に魂は器の属性と制限に従う事になっているので、器の許容を逸脱する事はないとサクヤは言う。
「つまりね、いくら魂が憧れてもアリはライオンにはなれないし、鳥は魚にはなれない――それぞれの立場による学びが必要なのだから」
同じ器である種でも魂の学びの度合いによって使い方が変わるので結果的に優劣が出る事はあるが、原則的には全く違う器の能力を持つ事が無い。
「巨人族は古き者の種を組み込んであるから、魂が成長し条件を満たせば、最終的には古き者に近い能力を発揮する事が出来るようにはなっているのだけど、現状での巨人族に入っている魂の成長レベルは低いし、波動もお世辞にも高いとはいえないから、古き者の種の能力を制限するリミッターがかかっているの」
「じゃあ、理性の無い獣みたいになって地を這うようになった奴らは?」
エルの質問にサクヤは少し考えた後、おもむろに口を開く。
「彼らの魂の周波数が残念ながら理性の無い獣と同じ程に下がってしまっていたのでしょうね…今、すごく次元が歪んで不安定になっているから、自分の周波数に応じた次元の影響を受けて、魂の状態がそのまま器に発露しているのかもしれないわ」
「じゃあ、空を飛べる様になった巨人さん達は?」
「獣の様になってしまった者とは真逆で、魂が持つ波動の周波数が高かったので、高次元の影響を受けて飛べる様になった可能性が考えられるわね…」
ピリカにそう答えたサクヤは「アカシックレコードに刻まれている次元再編の条件がほぼ出揃ってしまっているのは確かなんだけど…」と呟く。
「じゃあ、もう次元再編が始まった?」
「いいえ、まだ完全に条件がクリアされた訳ではないので始まってはいないはず」
エルの疑問に困惑した表情を浮かべながらサクヤは即答した。
「それなのに、次元がここまで歪んで物質界に影響を与え始めているなんて…。このままでは次元再編までに宇宙が壊れてしまうかもしれない」
「宇宙が壊れたらどうなるの?」
サクヤの言う、宇宙が壊れるとどうなるのか、全く想像がつかないピリカが訊くと、サクヤは宇宙法則という神と共にすべての次元に存在する魂ごと消滅するかもしれないと深いため息を吐いた。
「そうならない為に、今、スサ様とアオが調整作業を急ピッチで進めているけれど、間に合うかどうか…」
「そっか二人とも忙しいんだ」
ここにサクヤと共に姿を現さなかったアオの事が気になっていたのか、ピリカが呟く。
「本来、この星の調和が保たれていたら次元に影響を与えて歪む事も無かったのだけど、巨人族がその調和を乱しに乱してしまった――この星は雛型計画の中核を担う星だから、それが宇宙全体の次元構造にまで悪影響が出ているんだと思うわ。ギリギリのところでスサ様がお出ましになられたから、今、巨人族の深層意識に働きかけて本来の波動の周波数に今再調整をしている真っ最中なんだけど…」
サクヤの説明にエルは大丈夫なのかと尋ねる。
「調和の為の深層意識干渉はスサ様が最も得意とするところだから…。乱れた波動にスサさまの調和の波動を干渉させて、乱れた波動を整えて周波数を底上げするというもの。アオはスサ様のお手伝いとして、調和の波動を増幅させてそれを中継する為に、この星の空を飛び回っているはずよ」
「…って事は、闇の一週間はアオとは全く関係がなかったのか」
「闇の一週間——ああ、一週間の間、太陽が姿を現さなかった現象の事ね」
オニの隠れ里でも今迄なかったような問題が起きたので、強く印象に残っているとサクヤは言う。
「何があったの?」
「あの時、うちでも数人のオニ達が暴れ出したの…皆で取り押さえて隔離したのだけれど、いままでそんな事なんて一度もなかったのにって不思議に思っていたのだけれど、巨人族の街ではそんな事になっていただなんて…」
もしかするとあの現象は本人の意思に関わらず、魂の状態をそのまま暴露するものであったのかもしれないと、サクヤは考えている様であった。
「どうして一週間の間、この星が闇に包まれてしまって、それまでの法則が覆る事になったのかがまだわからないけれど、貴方たちに影響が出なくて良かった」
以前と全く変わらないピリカとエルの様子に安心した様子でサクヤがそう言うと、ピリカが「あのね…私達、その闇の一週間を知らないの」と切り出した。
その告白は意外だったのか、サクヤは「え?」という表情を浮かべる。
「最初にアオに精神界を案内してもらった黄泉比良坂の方を通って物質界に戻ったのだけど、そこを出たら変な巨人さんでいっぱいな街だったの」
サクヤが案内人を探して磐戸の間に来た時には、物質界でそんな事件が起きているという話はしていなかったし、物質界に戻る際中、黄泉比良坂で迷子になった訳でもないので、それがいつ起きたのか全く見当がつかないとピリカが言う横でエルも頷く。
「俺の感覚では物質界に戻るのにかかった時間は数時間…長くても半日って感じで、絶対一週間もかかってないぜ――精神界と物質界で時間の流れが違うなら、前回、サタンの件で精神界や高次元界、物質界を行き来した時にも同じ事が起きていただろうけど、そんな感じはしなかったんだけど」
一週間という時間は短い様で結構長い。その一週間という時間の記憶が全くない事をエルは気持ちが悪く感じていた。
「闇の一週間が始まったのは、貴方たちが姿を消してこの世界の時間軸では数日絶ってから…貴方たちを地の磐戸の間周辺を探したけれど姿が見つからなくてアオはひどく心配していたし、わたくしの結界の中にもあなたたちの気配を見つける事が出来なかったので、どこのに行ってしまったのかと、私やフヨウも心配していたの――フヨウが仙境を通してピリカちゃんの呼びかけに気が付くまで、約十日は経ってるわね」
「そんなに⁈」
地の磐戸の間を後にして、予想外の時間が経過していた事を知りピリカとエルは驚く。
「次元が歪んで時間軸にまで影響を与えている…?」
サクヤが首を傾げていると、ピリカは何かを思い出したのか声を上げる。
「そういえば、最初に黄泉比良坂に入った時には無かった古い大きな木があって通せんぼしてたんだよね…空間が大きく揺れた後、それが消えちゃって扉が現れたっていう不思議な事があったんだけどそれと関係あるのかなぁ?」
それを聞いたエルもその時の記憶が蘇ったのか「黄泉比良坂の途中にあるマントルとかいうのが見える通路を離れる時にも空間が大きく揺れたよな?」と、何とも言えない気持ちが悪い感覚を思い出したのか、エルは不愉快そうな表情を浮かべた。
「あ~、そう言えばそうだったよね」
初めて体験をする奇妙な感覚で気持ちが悪かったのは覚えているが、大した問題でもないと思って気にしていなかったピリカは、エルにそう言われて空間が揺れるという現象が数度起きていた事を思い出す。
「そう言えば、空間が大きく揺れたってのは、闇の一週間の途中でも起きて、それで気を失ったってヒロトくんが言ってたよね?」
ピリカに言われてエルもヒロトが話していたことを思い出す。
「そういや、気を失って、次に目が覚めた時に地を這う者と空を飛ぶ者に分かれていたって言ってたよな」
空間が揺れるという共通の現象に何かの関連性があるかどうかはわからないが、そんな話をしているとサクヤの表情が一気に曇った。
「空間が大きく揺れた? 時空震だったら非常にマズいわ…時空雪崩の予兆かもしれない」
「時空震?」
聞きなれない言葉にエルが首を傾げる。
「物質界の地震と同じようなものよ――地震は大地の歪みから発生するものだけど、時空震は時間軸に何らかの問題が起きた時に発生する現象…ピリカちゃん達が体験した時間の流れがおかしかったのは、次元の歪みから時間軸に悪い影響が出た事によって時空震が起きて、その結果、精神界と物質界の間の時間の流れがおかしくなった可能性が考えられるわね…」
サクヤは考え込む様にそう言うと、おかしくなった者達の方を考えると他次元の変な影響が出ている可能性も高いし、次元と時間軸の配列構造に深刻な問題が出ているのかもしれないと言う。
しかしサクヤの話はピリカとエルの理解を越えるものであったらしく、ふたりは困惑した表情を浮かべた。
「…あ、ごめんなさい説明が難しかったみたいね。この問題は貴方たちやわたくしではどうこうできる問題ではないから、至急スサ様にお伝えしないと」
そう言ってサクヤは慌てた様子で立ち上がる。
「地の磐戸の間に行くの?」
「いいえ、地の磐戸の間よりももっと下層にあるコントロールルームよ」
今、スサはそこで調整作業をしており、そこは高次元の生命体でないと入る事が出来ないので、ピリカ達はここで待つようにと言うと「ここは仙境だから空間周波数が比較的高くて安定しているから、今の物質界よりは安全なはずよ」と言って優しく微笑んだ。
「なるほど、ここ仙境だったのか」
精神界でも物質界でもないというエルの勘は当たっていたらしい。
「そういう事。ここならフヨウといつでも連絡が付くはずだから、困ったことがあればフヨウに相談をするといいわ」
サクヤはそう言うと、ここに現れた時と同じようにピリカ達の前からふわりとその姿を消す。
「…難しい事はよくわかんないけど、サクヤちゃんが慌てていったところを見ると、私達が戻って来たのは良かったのかな?」
「間違ってはいなかったと思うぜ――世界が危ない状態になっていてみんなかなり忙しいんだけど、何もできない俺達の安全を考えてこの仙境に連れて来たんだろうし…」
挨拶もせず姿を消したというのに、戻って来た自分たちの事を気にかけてくれる彼らの優しさを感じて、罪悪感の様なものを感じるエルであった。
それから再びフヨウがピリカ達の前に姿を現したのは、サクヤが姿を消してから半時ほど経ってからの事であった。
池の中でゆったりと泳ぐ大きな魚を眺めていたピリカ達にフヨウが声をかける。
「仙境名物をお持ちいたしましたので、どうぞお召し上がりくださいませ」
そう言いながらフヨウは大きな盆に盛ったドーナツの様な形をした果物と思しきものをピリカ達の側に置く。
「甘いいい香り…果物みたいだけど、これなあに?」
「蟠桃でございます――古来より仙界で育てられている果物で、食べると不老不死となると言い伝えれております」
フヨウの説明を聞いたピリカが案内人もこれを食べて仙人になったのかと訊くと、フヨウは首を左右に振った。
「滅相もございませぬ。この蟠桃は神仙さまが食されるものでございますので、わたくしの様な若輩者が口にする事などできませぬ」
「…そんなのを私たちが食べていいの?」
「もちろんでございます。その為にお持ちしたのですから…」
それを聞いたピリカは嬉しそうに笑顔を浮かべると、迷うことなく蟠桃にかぶりつく。
「これ甘くておいしいね~」
屈託のない笑顔を浮かべるピリカにフヨウは微笑返した。
「…これを食べたら不老不死になるって言っていたけど、それって本当なのか?」
フヨウの説明が気になったのか、すぐに蟠桃を食べる事をしなかったエルが訊ねると、フヨウは苦笑いを浮かべる。
「あくまで言い伝えでございます――ただ、わたくしは仙界の戒律がございますので、その戒律に従って口に出来ないだけでございますので、ご安心下さい」
「そういう事なら…」
フヨウの説明に安心をしたのか、ようやくエルは蟠桃にかぶりついた。
「これ、果肉はちょっと固めだけど、ほんと甘くておいしいな」
「それはようございました」
蟠桃をピリカ達が食べ終わるのを待ってフヨウは口を開く。
「間もなくアマテラスが稼働するという知らせが先程ございました」
「アマテラスってなぁに?」
初めて聞く名にピリカが訊く。
「わたくしも詳しくは存じ上げないのですが、なにやら歪んだ次元の修復が出来るものなんだとか…」
「そんな便利なものがあるなら、どうして今まで使わなかったんだ?」
エルの素朴な疑問に困った様な表情で返事に窮するフヨウを見て、ピリカがエルに「案内人さんは宇宙人さんじゃないから、そういうのは後でアオかサクヤちゃんにでも聞いたらいいんじゃない?」と言った。
「あ~、言われてみればそうか」
フヨウは不思議な技を使うことが出来る仙人とはいえ、元々この星の巨人族である。古き者であるスサや、アオやサクヤといった宇宙から来た存在が扱う技術やその事情に精通しているとは思えない。
「…で、俺達はどうしてればいいんだ?」
仙境が風光明媚で平和な場所であるのは間違いないが、暇を持て余し気味だったエルがこの地の住人であるフヨウに指示を仰ぐ。
「アマテラスを稼働させる前に青龍様がこちらに来られるとの事でございます」
アオ来るまでの間、何か希望があれば…と言うフヨウの言葉を遮る様にピリカが嬉しそうに声を上げた。
「アオ来られるの⁈」
「そうお聞きしております」
「んじゃ、アオが来るまでここで待ってる」
「承知いたしました」
フヨウは慇懃に会釈をして、蟠桃を乗せていた盆を静かに下げると再び姿を消した。
「…アオ怒ってるかな?」
「俺達がいなくなってアオはすごく心配していたって案内人とサクヤが言ってたから、やっぱ怒られるんじゃないか?」
「だよね~」
アオと喧嘩をした訳でも嫌いになった訳でもなく、アオは忙しそうであったし、旅に出るのを止められたくないという気持ちから黙って姿を消したものの、物質界のまさかの異常事態でアオとこのような形で再会する事となってしまった以上、ピリカ自身も怒られるのはわかっている様である。
「サクヤちゃんは怒るのも優しかったけど、アオが怒ったら怖そう…」
「そういやアオが本気で怒ったところってみた事ないよな。いつも怒ると言うよりはブツブツとお小言って感じだったし」
「あ~、そういえばそうだよね…」
高次元界でオリオンの爬虫類頭とかいう存在に襲い掛かられた時ですら、アオは厳しい表情になったが怒りはしていなかった事をピリカが思い出す。
「アオを本気で怒らせちゃいけないような気がする…」
そんな事をピリカが呟いていると、噂のアオが東屋へ姿を現した。
アオと目が合った瞬間、ピリカが「ごめんなさい!」と叫んで勢いよく頭を下げると、一瞬きょとんとした表情を浮かべたアオはぷっと噴き出した。
「アオ…怒って…ない?」
恐る恐る顔を上げて訊くピリカの様子がおかしかったのか、アオは声を立てて笑う。
「悪い事をしたという自覚はあるんじゃろ? …それならもう構わぬ」
楽し気にそう言うアオの言葉を聞いてピリカとエルはほっと胸をなでおろした。
「事情はサクヤから聞いた。二人とも無事で何よりじゃ」
何事もなかったようにアオはそう言うと椅子に座り、「アマテラスを稼働させる前にまた会う事が出来て良かった」と言うと、優しい目でピリカとエルを見て微笑みを浮かべる。
そんなアオの様子にピリカは何か引っかかるものを感じながら質問を口にする。
「…ねぇ、アマテラスって何?」
「ん? アマテラスは超高周波高エネルギーの発生装置で、これを核にしてこの星の波動の周波数を引き上げ、同時に時空間の歪みを立て直すものじゃ」
「どうして今まで使わなかったの?」
「扱えるのはスサ様だけじゃからな」
「ああ、スサがずっと地の磐戸の中にいたから使いたくても使えなかったって事か…」
「そういう事じゃな」
アオの説明を聞いて疑問が解消されたのかエルは納得したようであった。しかしピリカの方はまだ何か引っかかるものがあるのか、じっとアオの顔を見詰めた。
「今、この世界の周波数が本来の状態に比べてとっても落ちちゃって、その影響で次元や時空間も歪んじゃってるってのはサクヤちゃんから聞いたけど、アマテラスを使って波動を上げて次元の歪みを元に戻すって事は、今と違う世界になっちゃうって事?」
「…間違ってはおらぬな」
「じゃあさ、次元再編とアマテラスで起きる事の何が違うの?」
ピリカの疑問を聞いたアオはおや? という表情を一瞬浮かべてその疑問に答える。
「ピリカが言うように結果的に次元配列に影響を与えるという意味では確かに同じであるが、本来アマテラスの使用目的はアカシックレコードに記載されていた次元再編時の万が一の備えとして開発設置されたもので、超高周波高波動への空間転移に適応できない低周波の精神エネルギーの救済を目的としていたのじゃ」
「…救済?」
ピリカの言葉にアオは頷く。
「アマテラスはスサ様のお力と我の力を足して、それをさらに超強力にしたような装置であるので、広範囲の次元に存在する低周波の精神体全体に干渉して調和の波動に変換しつつ周波数の底上げを行い、次元再編による空間転移後もこの宇宙で魂の学び続けられるようにする為のな」
「アオ…ずっと言ってたよな。次元再編が起きたら何が起きるかわからないって――わからないなら次元再編に備えての準備なんてできないはずじゃないのか?」
不信感を露わにするエルにアオは苦笑いを浮かべた。
「我が何が起きるかわからないと言っていたのは、地の磐戸がある場所は正確な意味では精神界でも物質界でもない狭間の場所にあるので、その狭間にいる時に次元再編が起きたらどうなるかわからないという意味であったのと、あの時はスサ様は地の磐戸の中であったので、次元再編が起きても我だけでは何の手立てをする事も出来ないという意味でもあった」
「え…俺、ずっと地の磐戸があった場所って精神界なんだと思ってた」
「あの場所は精神界といえば精神界と同じ次元構造を持っておる特殊な場であるので、そう思うのも無理はない」
アオの説明を聞いてようやく自分が様々な誤解をしていた事に気が付いたエルは、バツが悪いといった表情を浮かべる。
「ごめん。アオが俺たちに嘘を付いた事なんてなかったよな」
「お前たちでは次元構造が実際にどうなっているのかなどわからぬであろうから、仕方がないので気にすることは無い」
さらっとアオはエルの言葉を受け流すと微笑んでみせる。
「…ねぇ、そこまでして波動を上げなきゃいけないの? 波動が低い事が悪い訳じゃないって言ってたよね?」
「もちろん、それそのものが悪い訳ではないのじゃが、今までは物質界に様々な精神レベルの周波数を持つ魂がごちゃ混ぜになって魂の学びをしておったのじゃが、次元再編後はごちゃ混ぜ状態は解消されて、それぞれに応じた次元で魂は学ぶ事となる」
それによって今の様な玉石混合状態での混乱と多くの問題が随分解消されるはずだとアオは言う。
「低次元に適応する周波数を持つ魂を水で例えるなら、水分子の活動(振動で発生する周波)は氷のようなもの。結びつきが強すぎて変化に乏しく固定化している硬直化した考え方をする為、それ以上の魂の成長は難しい」
次元が上がるにつれ氷が溶け水となる様に、分子の活動量も増えて変化による刺激が多くなり、それが魂の学びの機会となる。分子活動が液体状態よりもっと活発である気体に姿を変えれば、液体の状態よりもさらに自由度が増し異なる存在とも交わりやすくなるので、その分、さらなる魂の成長に必要な刺激も増える事となる。
それを踏まえて巨人族を中心とした者達の波動の周波数上げ、自由度が高い次元へ適応できるようにスサやアオは働きかけをしているのだと言う。
「とは言っても、変化を望まず、魂の成長などどうでもいいと強く願っている低周波数高エネルギーを放つ精神体には効果は出にくいので、最終的な選択は本人次第ではあるのじゃがな」と言ってアオは肩を竦めた。
「我らが今このタイミングでアマテラスを稼働させる事としたのは、一人でも多くの者を波動の周波数が高い者とし、調和の響きが大きくなれば、「あやま知」によって低波動となった多くの巨人族が原因で発生した次元の歪みも解消されると考えたからじゃ」
時空震も発生した事を鑑みると、次元の歪みが限界に達していて一刻も早く手を打たないといけない状態になっているというのがスサやアオ達が出した結論のようであった。
「次元再編が起きる前に宇宙が崩壊してしまって、全てが無に還ってしまうのだけは絶対に避けたい事であるのでな…」
「——アオ達の想いは判ったけど、巨人さん達の多くはもう獣みたいになっちゃってるよ?」
ピリカの指摘にアオは悲しそうな表情を浮かべる。
「あれほど獣の様になるから、獣と同じように肉を好んで食してはしてはならぬ、体だけではなく精神にも悪い影響を及ぼすので毒となるものは口にしてはならぬと言っておいたのに、素直に我らの忠告を聞かぬ者が多かったからのぅ――次元再編の前に魂の状態が露わになるのは予想外ではあったが、遅かれ少なかれその魂の状態を隠すことが出来なくなる事は判って居ったから指導しておったのに…まことに残念な事じゃ」
銀河連合がこの星に再介入して新統治政府が再三にわたって飲食物に関しての指導をしてきたのは来たるべき次元再編に備えてのものであったが、結果的にそれを素直に受け入れた者が少なかった事が、今回の巨人達の悲劇的変化に繋がったのであろうとアオは深いため息を吐いた。
「…じゃあ、もうあの獣みたいになっちゃった巨人さん達は元には戻らないの?」
「戻らぬじゃろうな。いくら忠告をしても欲の僕となり自らを律する事を拒み獣となる事を自ら選んだのじゃから、アマテラスを稼働させて波動上昇をさせようとしても大した効果は上がるまい。残念ではあるが、巨人族が全滅しなかっただけマシであったと考えるしかあるまい」
「そんな…」
確かに自由に飛び回れる事になったヒロトたちの様な存在が残った事は良かったかもしれないが、地を這う者となった巨人達の事をピリカは思い、悲しそうに呟く。
「——自分でした事の責任は自分で取る事になるってのは当たり前の事だから解ったけど、宇宙人たちが地を這う者をどこかへ連れて行ったけど、何処に連れて行かれたんだ?」
エルの方はピリカほど地を這う者となった者達に同情心を持つ事ない様子で、気になっていた疑問をアオに訊く。
「恐らく他の霊性の者達に迷惑をかけぬよう、地を這う者達に応じた星へ送っておると思うが…」
アオは今、スサの助手として飛び回っているので、銀河連合が今どんな動きをしているかまでは詳しい事までは判らないらしい。
「——地を這う者となってしまった巨人達は可哀そうであるが、正直な所、あれらを助けてやれるほどの余裕は今の我にはない」
はっきりとそう言うアオの言葉を聞いて、ピリカは目を伏せる。そんなピリカを見ながらアオは「冷たい様であるが我とて万能ではないのでな――許せ」と言うと静かに立ち上がった。
「アオ…もう行っちゃうの?」
「もう時間があまり残ってはおらぬのでな…」
アオはそう言うと、悲しそうなピリカの頭をそっと撫で「最後にまた合う事が出来て嬉しかった――いろいろ世話になった。ありがとう」と言うと、ピリカ達に背を向け東屋を出て行く。そんなアオの言葉を聞いたピリカは驚いて叫ぶ。
「最後にって…ちょっと、アオどういう事⁈」
ピリカの問いかけに答える事無く、アオは静かに仙境から姿を消した。
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