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プロローグ
~ピリカの新たなる旅立ち~
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雪に覆われ白銀の世界が広がる森の中。
ピリカは温泉にのんびりと浸かりながら夜空を見上げていた。
「お星さま今夜もきれいだねぇ~」
キラキラと目を輝かせる小さな妖精にエルは小さく笑う。
「ほんとピリカは星が好きだよな」
「うん。ピカピカ光っててきれいだから好き――あのお星さまのどれかが銀河連合とかいう奴なんでしょ?」
そんなピリカの質問にエルの表情が困惑したものに変わった。
「アオの話だとそうみたいだけど、ここから見える星にいろんな生き物が住んでるんだって言われてもなぁ…」
北の地育ちの野ネズミのエルからすれば、銀河連合だの、宇宙に住む知的生命体と言われても想像もつかない話である。それは北の地のコロボックルであるピリカも同じであった。
「この世界には私たちが知らない事いっぱいあるね…」
感心した様にピリカはそう言うと、小さな手で温泉水をすくいあげ、「この温泉も見てるだけじゃ、こんなに気持ちが良いものだなんてわかんないし、やっぱり自分でいろいろ体験しなきゃ」と小さく笑う。
「だからって、何も考えずに動くのはどうかと思うけどな」
そう言って苦笑いを浮かべるエルにピリカは「ピリカちゃんと考えてるもん」と口を尖らせた。
「よく言うよ…美味しそうなものがあったら、何も考えずに飛びつく癖に」
そんなエルの指摘にピリカは反論できず頬を膨らますと、温泉に顔半分まで沈み込んだ。そんな相棒の可愛らしくむくれる様子がおかしかったのか、エルが声を立てて笑っていると、「何やら楽しそうじゃな」という声と共にアオが温泉に姿をみせた。
「もう、ご用事はいいの?」
最近、こまごまとした仕事に追われて忙しいアオと話せるのが嬉しいのか、ピリカはむくれるのを止めてお湯から顔を出すとアオに問いかける。
「…各方面との調整が一段落ついたので、我も命の洗濯じゃ」
そう言うとアオは温泉に浸かった。
「お~極楽じゃ」
温泉が気持ちいいのかアオは至福の表情を浮かべる。そんなアオを見ながらエルが素朴な疑問を口にする。
「アオって龍神様だから精神体だよな? それなのに温泉が気持ちいいって感じるのはどういう事?」
「お前が言うように我は精神エネルギー体であるので、確かに肉の衣を纏う者たちが感じる温泉が気持ちいというのとはちょっと違うがな…」
「じゃあ、何が?」
「温泉水を構成している火と水の力が穢れを清め、命の源である地の力が流れ込んで、魂に力を与えてくれるでな、それが心地よく感じるのじゃ」
そう言ってアオは目を細めた――アオは黄昏の国の東北にある湖にすむ青龍で、その実態は高周波数高エネルギーを持つ精神体である。
「ああ…確かにこの温泉、火と水と地の精霊さんの気配があるね~」
精霊と友好的な関係であるピリカはアオのいう事がわかるのかニコニコ顔を浮かべる。
「精霊かぁ…俺、そういうのは判んないからなぁ」
「今のお前なら感じ取る事は出来るはずじゃがな」
「へ?」
アオの指摘にエルは首を傾げた。
「エルは元々から勘が鋭かったが、前の旅の過程でお前は一旦肉の体を手放す事となった故、戻って来る際に今の体をピリカと同じような組成に我が再構成したので、物理法則に囚われる事無い存在も感じ取れる事が出来るようになっているはずじゃ」
「あ~、なんかそんな事を前に言ってたっけ?」
アオの指摘にエルは他人事のようにそう言うと、それまでの経緯に思いを巡らせる。
祖父の若い頃の話を聞かされ育ったピリカの憧れから始まった黄昏の国の旅。
旅を通して未知の世界でさまざまな者たちと出会いにより、その旅の目的は自然と調和出来なくなった巨人族を元に戻すという目的に変わった。
その目的を果たす為、この世だけではなくあの世を経て高次元にまで足を延ばすことになり、その結果、裏で企て事を進めていたサタンの心変わりによって、巨人族の長たちに負の周波数エネルギーを大好物とするオリオン星系の爬虫類頭達が化けていた事が露見。それとほぼ同時に銀河連合が直接介入を決定して公式に巨人達の前に姿を現し、巨人族の世界は大混乱に陥る事となった。
「世の中は大変な事になっていたみたいだけど、しばらくここでのんびり過ごしてたから、感覚的なものを研ぎ澄ます必要も無かったしな…」
そんな事をエルは呟くと小さく肩を竦める。
それまで信じていた常識、生活、文化、歴史や指導者などありとあらゆる事全てが、巨人族を怒りや悲しみ、不平不満、恨み、といった負の周波数エネルギーの製造機とさせる為に作為的に作られた嘘だったと巨人族は知る事となり大混乱となった。
銀河連合の介入により、暴動などの暴力行為は大きな被害が出る前にすぐに治められたが、それでも巨人族の今まで培ってきたすべてのアイデンティティを破壊されるという形になった為、何が起きるか予測がつかない事もあったので、巨人族が新たなアイデンティティを構築するまでの間、アオの神殿で過ごす事となったのである。
「アオのおうちって、ほんと面白いよね。おうちの中にあるお風呂なのに、お風呂場に入ったらお外の温泉になっているんだもん」
世界の常識がひっくり返るきっかけを作ったピリカ自身は、そんな事は全く気にも留めていない様子で、いつものように無邪気な様子でアオの不思議な住まいに対する感想を口にしていた。
そんなピリカにアオは事も無さげに「我の神殿と我が好きな秘境の温泉の空間を繋げておるだけじゃ」と小さく笑う。
「簡単そうに言ってるけど、なんかすごい事言ってるよな」
アオが神様の化身であると言われている事の理由を目の当たりにしてきているエルは、今更アオの言動にいちいち驚いたりしないが、やっている事がとんでもなさすぎて呆れ半分で笑うしかないエルであった。
「アオはお仕事もすごい事をしているの?」
「今は巨人達と銀河連合の新世界構築の為の各方面との調整じゃ」
地味だが大切な事じゃとアオは笑う。
「そっかぁ、それじゃまだ旅の続き出来ないんだ…」
がっかりした様子のピリカの顔をアオは覗き込み「我の神殿の暮らしは飽きたか?」と尋ねる。
「ん~、毎日が穏やかだし、美味しいものいっぱい食べられるし、温かくてふかふかのお布団で眠れるから幸せなんだけど…」とピリカは一旦そこで言葉を切ると、「スサはあそこで一人ぼっちでいて寂しくて可哀想だから、早くあそこから出してあげたいの」と言いながらアオの目を見返した。
「ああ…ピリカはずっとスサ様の事を気にしてくれておるものな…」
そう言うアオは複雑な表情を浮かべる。
「雪が解けたら春が来るんだろ? 巨人達も前に比べたら落ち着いて新しい世界に適用しようと頑張っているって話をしてたし、春になったらピリカに旅を再開させてあげられないかな?」
ピリカの相棒であるエルとしては小さな妖精の希望を出来るだけ叶えてやりたいらしく、アオにそう言うと、アオは考え込んだ。
「巨人族たちも気持ちの整理がついて、新時代に適用しようとする者も増えてきておるのは事実じゃが…」
「何か問題でもあるのか?」
「次元再編の移行は決定事項なのじゃが、問題はその時期がはっきりとわかっておらぬのだ」
「それの何が問題?」
その話は創生の潜在能力を持つ巨人族を低周波数次元に落とすというサタンの企みを知った関係で、ピリカやエルもその話はよく知っていたが、アオの言葉の意味が理解できずピリカが疑問を口にする。
「お前たちも知っての通り、スサ様がいるのはこの世ではない場所。正確にはあの世とこの世の狭間にあるので、次元再編の際にどういう影響が出るのか全く予想がつかんのじゃ」
「ふーん…」
アオの説明にピリカは曖昧な合槌をうつ。
「全く分からないって事は、影響が出ないかもしれない可能性もあるって事だよな?」
「そういう考え方もあるな」
エルの問いかけにアオが答えると、「考えてもわかんない事を心配してたら、いつまでたってもスサをあそこから出してあげられないじゃない」とピリカ不満を口にした。
「それはそうではあるが、下手をすると次元の迷子になって二度とこちらに戻る事が出来ぬかもしれぬのでな」
そんな危険をピリカ達に侵させたくはないというのがアオの本音のようである。
「…次元の迷子ってどうなるんだ?」
「我の様な高周波高エネルギーの精神体は時間や空間といった概念に捉われず、さまざまな次元を行き来する事が出来る多重次元の存在である故問題は無いが、うぬらの様に半霊半物質の存在で魂のエネルギーも小さい故、次元の迷子になるとどの時代にもいてどの時代にも存在しない幽霊のようなものとなり、転生の学びのサイクルからも外れた上に、魂のエネルギー供給が絶たれる為にその魂自体が消滅してしまうのがオチじゃの」
「よくわかんないけど、文字通り消えてなくなっちまうって訳か…」
ゾッとしない話だといった様子でエルは呟く。
「次元再編が決定事項って言うけど、それって誰が決めた訳? 決めた人がいるならその人にいつ起こるのか訊くとか、待ってもらったらいいんじゃないの?」
ピリカの様な小さな妖精では宇宙だの次元だの言われても、それがどういう仕組みであるかなど想像もつかない世界であるので、事情通のアオに疑問をぶつけるのは仕方がない事であった。
「過去現在未来、この世界のすべての出来事が記されていると言われているアカシックレコードに次元再編について書かれて、それを「視る」事が出来る者は皆同じものを視て知っておる――その編纂は我よりもさらに上の存在によるもので、それは何年の何日、何時何分時間の概念ではなく、さまざまな条件が揃う事によって発動するという性質のもの故、いつという断定が出来ぬのじゃ」
ピリカ達にわかるようにとアオが説明を試みるが、ピリカもエルは顔を見合わせる。
「…ようするに、今すぐかもしれないし、数百年後かもしれないって事だよね?」
アオの説明をピリカなりに理解したらしくそう言うと、アオは苦笑いを浮かべた。
「発動条件の中に星々の配置というのが含まれているので、さすがに数百年のズレは生じそうにないが、一年前後といった誤差はあるのぉ」
「それっていつからいつの期間なの?」
「発動期間にはもう入っておる…その期間は約一年といったところじゃな」
それを聞いたピリカは「あと一年もピリカ待ってらんないよぉ」と声を上げる。
寿命という概念すら超越していると思われるアオに対して、半霊半物質の存在とはいえ寿命のあるコロボックルにすれば、たかが一年と言っても無駄にするには惜しい時間であった。
「決めた! 私、スサを出すって約束を守る為に旅に出る!」
そんなピリカの宣言にアオは少し驚いた表情を浮かべた後、やはりそうきたかという表情に変わる。
「——遅かれ早かれ、そう言いだすと思っておったよ」
「じゃあ…」
「どうせ止めても聞かぬであろう?」
アオはそう言った後「我もついて行くしかあるまい」と優しく微笑んだ。
「やった~!」
アオの言葉にピリカは歓声をあげる。
「——とりあえず今はこの温泉で旅の為の英気を養うとしようぞ」
そう言うとアオは静かに深く温泉に身を沈め目を閉じた。
ピリカは温泉にのんびりと浸かりながら夜空を見上げていた。
「お星さま今夜もきれいだねぇ~」
キラキラと目を輝かせる小さな妖精にエルは小さく笑う。
「ほんとピリカは星が好きだよな」
「うん。ピカピカ光っててきれいだから好き――あのお星さまのどれかが銀河連合とかいう奴なんでしょ?」
そんなピリカの質問にエルの表情が困惑したものに変わった。
「アオの話だとそうみたいだけど、ここから見える星にいろんな生き物が住んでるんだって言われてもなぁ…」
北の地育ちの野ネズミのエルからすれば、銀河連合だの、宇宙に住む知的生命体と言われても想像もつかない話である。それは北の地のコロボックルであるピリカも同じであった。
「この世界には私たちが知らない事いっぱいあるね…」
感心した様にピリカはそう言うと、小さな手で温泉水をすくいあげ、「この温泉も見てるだけじゃ、こんなに気持ちが良いものだなんてわかんないし、やっぱり自分でいろいろ体験しなきゃ」と小さく笑う。
「だからって、何も考えずに動くのはどうかと思うけどな」
そう言って苦笑いを浮かべるエルにピリカは「ピリカちゃんと考えてるもん」と口を尖らせた。
「よく言うよ…美味しそうなものがあったら、何も考えずに飛びつく癖に」
そんなエルの指摘にピリカは反論できず頬を膨らますと、温泉に顔半分まで沈み込んだ。そんな相棒の可愛らしくむくれる様子がおかしかったのか、エルが声を立てて笑っていると、「何やら楽しそうじゃな」という声と共にアオが温泉に姿をみせた。
「もう、ご用事はいいの?」
最近、こまごまとした仕事に追われて忙しいアオと話せるのが嬉しいのか、ピリカはむくれるのを止めてお湯から顔を出すとアオに問いかける。
「…各方面との調整が一段落ついたので、我も命の洗濯じゃ」
そう言うとアオは温泉に浸かった。
「お~極楽じゃ」
温泉が気持ちいいのかアオは至福の表情を浮かべる。そんなアオを見ながらエルが素朴な疑問を口にする。
「アオって龍神様だから精神体だよな? それなのに温泉が気持ちいいって感じるのはどういう事?」
「お前が言うように我は精神エネルギー体であるので、確かに肉の衣を纏う者たちが感じる温泉が気持ちいというのとはちょっと違うがな…」
「じゃあ、何が?」
「温泉水を構成している火と水の力が穢れを清め、命の源である地の力が流れ込んで、魂に力を与えてくれるでな、それが心地よく感じるのじゃ」
そう言ってアオは目を細めた――アオは黄昏の国の東北にある湖にすむ青龍で、その実態は高周波数高エネルギーを持つ精神体である。
「ああ…確かにこの温泉、火と水と地の精霊さんの気配があるね~」
精霊と友好的な関係であるピリカはアオのいう事がわかるのかニコニコ顔を浮かべる。
「精霊かぁ…俺、そういうのは判んないからなぁ」
「今のお前なら感じ取る事は出来るはずじゃがな」
「へ?」
アオの指摘にエルは首を傾げた。
「エルは元々から勘が鋭かったが、前の旅の過程でお前は一旦肉の体を手放す事となった故、戻って来る際に今の体をピリカと同じような組成に我が再構成したので、物理法則に囚われる事無い存在も感じ取れる事が出来るようになっているはずじゃ」
「あ~、なんかそんな事を前に言ってたっけ?」
アオの指摘にエルは他人事のようにそう言うと、それまでの経緯に思いを巡らせる。
祖父の若い頃の話を聞かされ育ったピリカの憧れから始まった黄昏の国の旅。
旅を通して未知の世界でさまざまな者たちと出会いにより、その旅の目的は自然と調和出来なくなった巨人族を元に戻すという目的に変わった。
その目的を果たす為、この世だけではなくあの世を経て高次元にまで足を延ばすことになり、その結果、裏で企て事を進めていたサタンの心変わりによって、巨人族の長たちに負の周波数エネルギーを大好物とするオリオン星系の爬虫類頭達が化けていた事が露見。それとほぼ同時に銀河連合が直接介入を決定して公式に巨人達の前に姿を現し、巨人族の世界は大混乱に陥る事となった。
「世の中は大変な事になっていたみたいだけど、しばらくここでのんびり過ごしてたから、感覚的なものを研ぎ澄ます必要も無かったしな…」
そんな事をエルは呟くと小さく肩を竦める。
それまで信じていた常識、生活、文化、歴史や指導者などありとあらゆる事全てが、巨人族を怒りや悲しみ、不平不満、恨み、といった負の周波数エネルギーの製造機とさせる為に作為的に作られた嘘だったと巨人族は知る事となり大混乱となった。
銀河連合の介入により、暴動などの暴力行為は大きな被害が出る前にすぐに治められたが、それでも巨人族の今まで培ってきたすべてのアイデンティティを破壊されるという形になった為、何が起きるか予測がつかない事もあったので、巨人族が新たなアイデンティティを構築するまでの間、アオの神殿で過ごす事となったのである。
「アオのおうちって、ほんと面白いよね。おうちの中にあるお風呂なのに、お風呂場に入ったらお外の温泉になっているんだもん」
世界の常識がひっくり返るきっかけを作ったピリカ自身は、そんな事は全く気にも留めていない様子で、いつものように無邪気な様子でアオの不思議な住まいに対する感想を口にしていた。
そんなピリカにアオは事も無さげに「我の神殿と我が好きな秘境の温泉の空間を繋げておるだけじゃ」と小さく笑う。
「簡単そうに言ってるけど、なんかすごい事言ってるよな」
アオが神様の化身であると言われている事の理由を目の当たりにしてきているエルは、今更アオの言動にいちいち驚いたりしないが、やっている事がとんでもなさすぎて呆れ半分で笑うしかないエルであった。
「アオはお仕事もすごい事をしているの?」
「今は巨人達と銀河連合の新世界構築の為の各方面との調整じゃ」
地味だが大切な事じゃとアオは笑う。
「そっかぁ、それじゃまだ旅の続き出来ないんだ…」
がっかりした様子のピリカの顔をアオは覗き込み「我の神殿の暮らしは飽きたか?」と尋ねる。
「ん~、毎日が穏やかだし、美味しいものいっぱい食べられるし、温かくてふかふかのお布団で眠れるから幸せなんだけど…」とピリカは一旦そこで言葉を切ると、「スサはあそこで一人ぼっちでいて寂しくて可哀想だから、早くあそこから出してあげたいの」と言いながらアオの目を見返した。
「ああ…ピリカはずっとスサ様の事を気にしてくれておるものな…」
そう言うアオは複雑な表情を浮かべる。
「雪が解けたら春が来るんだろ? 巨人達も前に比べたら落ち着いて新しい世界に適用しようと頑張っているって話をしてたし、春になったらピリカに旅を再開させてあげられないかな?」
ピリカの相棒であるエルとしては小さな妖精の希望を出来るだけ叶えてやりたいらしく、アオにそう言うと、アオは考え込んだ。
「巨人族たちも気持ちの整理がついて、新時代に適用しようとする者も増えてきておるのは事実じゃが…」
「何か問題でもあるのか?」
「次元再編の移行は決定事項なのじゃが、問題はその時期がはっきりとわかっておらぬのだ」
「それの何が問題?」
その話は創生の潜在能力を持つ巨人族を低周波数次元に落とすというサタンの企みを知った関係で、ピリカやエルもその話はよく知っていたが、アオの言葉の意味が理解できずピリカが疑問を口にする。
「お前たちも知っての通り、スサ様がいるのはこの世ではない場所。正確にはあの世とこの世の狭間にあるので、次元再編の際にどういう影響が出るのか全く予想がつかんのじゃ」
「ふーん…」
アオの説明にピリカは曖昧な合槌をうつ。
「全く分からないって事は、影響が出ないかもしれない可能性もあるって事だよな?」
「そういう考え方もあるな」
エルの問いかけにアオが答えると、「考えてもわかんない事を心配してたら、いつまでたってもスサをあそこから出してあげられないじゃない」とピリカ不満を口にした。
「それはそうではあるが、下手をすると次元の迷子になって二度とこちらに戻る事が出来ぬかもしれぬのでな」
そんな危険をピリカ達に侵させたくはないというのがアオの本音のようである。
「…次元の迷子ってどうなるんだ?」
「我の様な高周波高エネルギーの精神体は時間や空間といった概念に捉われず、さまざまな次元を行き来する事が出来る多重次元の存在である故問題は無いが、うぬらの様に半霊半物質の存在で魂のエネルギーも小さい故、次元の迷子になるとどの時代にもいてどの時代にも存在しない幽霊のようなものとなり、転生の学びのサイクルからも外れた上に、魂のエネルギー供給が絶たれる為にその魂自体が消滅してしまうのがオチじゃの」
「よくわかんないけど、文字通り消えてなくなっちまうって訳か…」
ゾッとしない話だといった様子でエルは呟く。
「次元再編が決定事項って言うけど、それって誰が決めた訳? 決めた人がいるならその人にいつ起こるのか訊くとか、待ってもらったらいいんじゃないの?」
ピリカの様な小さな妖精では宇宙だの次元だの言われても、それがどういう仕組みであるかなど想像もつかない世界であるので、事情通のアオに疑問をぶつけるのは仕方がない事であった。
「過去現在未来、この世界のすべての出来事が記されていると言われているアカシックレコードに次元再編について書かれて、それを「視る」事が出来る者は皆同じものを視て知っておる――その編纂は我よりもさらに上の存在によるもので、それは何年の何日、何時何分時間の概念ではなく、さまざまな条件が揃う事によって発動するという性質のもの故、いつという断定が出来ぬのじゃ」
ピリカ達にわかるようにとアオが説明を試みるが、ピリカもエルは顔を見合わせる。
「…ようするに、今すぐかもしれないし、数百年後かもしれないって事だよね?」
アオの説明をピリカなりに理解したらしくそう言うと、アオは苦笑いを浮かべた。
「発動条件の中に星々の配置というのが含まれているので、さすがに数百年のズレは生じそうにないが、一年前後といった誤差はあるのぉ」
「それっていつからいつの期間なの?」
「発動期間にはもう入っておる…その期間は約一年といったところじゃな」
それを聞いたピリカは「あと一年もピリカ待ってらんないよぉ」と声を上げる。
寿命という概念すら超越していると思われるアオに対して、半霊半物質の存在とはいえ寿命のあるコロボックルにすれば、たかが一年と言っても無駄にするには惜しい時間であった。
「決めた! 私、スサを出すって約束を守る為に旅に出る!」
そんなピリカの宣言にアオは少し驚いた表情を浮かべた後、やはりそうきたかという表情に変わる。
「——遅かれ早かれ、そう言いだすと思っておったよ」
「じゃあ…」
「どうせ止めても聞かぬであろう?」
アオはそう言った後「我もついて行くしかあるまい」と優しく微笑んだ。
「やった~!」
アオの言葉にピリカは歓声をあげる。
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