ここタマ! ~ここは府立珠河高等学校~

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~サワガニの行方~

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 一学期の期末試験が終わり、試験休みに入った7月上旬。
 補習授業を受けたり、部活動の為に登校した生徒以外はいないせいか、閑散とした雰囲気の本校舎に入って行く女生徒がいた。
 女生徒は本校舎一階にある下足室で上靴に履き替え、持って来たプラスチックの飼育ケースを大切そうに抱えながら本校舎の階段を昇って行く。四階に辿り着くと本校舎と特殊教室棟を繋ぐ渡り廊下を抜けて生物実験室という札が表示されている扉を開けた。
「おはようございます~」
 実験室に入るなり女生徒は開口一番挨拶を口にする。
「おはよう空ちゃん」
 のんびり麦茶を飲みながら雑誌を読んでいた高橋が顔を上げた。
 生物室にやって来た女生徒は清水空(しみず・そら)といい、生物部のお茶会がきっかけで入部した一年生の生物部員であった。
 空は実験台の上に持って来た飼育ケースを置くと、高橋に他のメンバーは? と尋ねる。
「今日のお世話当番は丸ちゃんと光ちゃんだとだから、そろそろ来るんじゃないかな?」
「光ちゃん?」
 小首を傾げる空に高橋は加山の事だと説明する。
「加山の名前。光司だから光ちゃん」
「ああ、だからなんですね」
 髙橋の説明に空は納得顔になる。
「ここのクラブってちゃん付けで名前を呼ぶ事多いみたいですけど、高橋先輩はそうじゃないのはどうしてですか?」
 どうやら空はずっとその事が気になっていたらしい。
「あ、僕? 僕の下の名前は和樹って言うんだけど、なんか和ちゃんって感じでもないみたいだね」と言って高橋は笑う。
「そう言えば、渉先輩もちゃんを付けて呼ばないですよね?」
「そういや、優子先輩とか香奈子先輩も渉先輩の事、渉ちゃんとは呼んでなかったなぁ」
「優子先輩と香奈子先輩?」
 知らない名前が出てきたので空が誰それ? という顔になった。
「ああ、空ちゃんはあの二人の名前は知らなかったか」
 髙橋はそう言うと、空も参加したお茶会の時に見たはずだと言う。
「一番盛り上がっていたテーブル席に座って居た白衣を着た眼鏡の女の人がいたと思うんだけど、それが優子先輩で渉先輩の前の生物部の部長。んで、お茶会に出てきたスイーツを作ったのが香奈子先輩で、優子先輩と同学年。お茶会の準備で動き回っていた髪が長くて割烹着を着ていた女の人がいたでしょ?」
「あ~、あの時いたお姉さんたちですか。生徒でもなさそうだし先生でもなさそうだしって、ずっと謎だったんです」
 お茶会で見かけただけで、それ以来校内で見かける事が無かったので、ずっと誰なんだろうと空は思っていたらしい。
「あとは静香先輩って女の先輩もいるんだけど、それより上の先輩はちょっと僕もよく分からない」
 そう言うと高橋は空が持って来た飼育ケースが気になったのか、何を持って来たのかと尋ねた。
「あ、サワガニです――近所のペットショップで見つけて、可愛かったから買ったんですけど、飼育方法がよく分からないんで、先輩達なら知ってるかなと…」
「僕はちょっとわからないなぁ…とりあえず丸ちゃんが来たら訊いてみたら?」
「はい、そうします」
 笑顔で空は答えていると、実験室に噂の丸山がやって来た。
「あれ? 二人とも何でいるの?」
 試験休みになっているし、お世話当番ではない高橋と空が生物室にいたので、少し驚いたのか丸山が訊く。
「あ、僕はこれの最新号を読みに来ただけ」
 そう言って高橋は読んでいた科学雑誌の最新号を丸山に見せる。
「ああ、なる…」
 科学雑誌は学校の図書室の方で定期購読で購入してくれているので、最新号が出る度に貸し出しをしてもらって、生物室でお茶を飲みながらのんびり読むというのが高橋の楽しみであった。
「この部屋、俺たちにとって第二の自分の部屋みたいなものだもんな」と言いながら丸山が笑っていると、今度はトキが生物室に顔を出した。
「…あ、おはようございます」
 今日の当番が丸山という事をチェック済みのトキが丸山目当てで登校してきたのだが、お世話当番である丸山と加山以外の人間が生物室にいた事にかなり驚いた様子である。
 その驚きを隠すように視線を彷徨わせたトキが視線を止めたのは、見慣れぬ飼育ケースだった。
「…カニ? なんか一杯入ってるけど…」
 飼育ケースの中にいた生き物を見たトキの怪訝そうな言葉で、丸山も飼育ケースの中に生きたカニがいる事に気が付く。
「お、サワガニ――美味そうだな」
 そんな丸山の言葉を聞いた瞬間、空が悲鳴の様な声を上げる。
「食べないでください‼」
 それを聞いた瞬間「相変わらず、丸ちゃんは食い気が先なんだな」と笑い出す。
「え? 食べる為にサワガニを捕まえたんじゃないの?」
 不思議そうに言う丸山に、高橋が空がサワガニの飼育方法が知りたくて連れて来たのだという事情説明をする。
「サワガニを飼いたいんだ?」
 丸山の問いに空は小さく頷く。
「サワガニって、確か水が綺麗な所でないと生きていけないって話は聞いた事があるけど…人工飼育ってできるのか?」
 丸山がそう言って首を傾げる。
「——いつもみたいにネット検索してみたら?」
「今日は当番を済ませたらすぐ帰ろうと思っていたんで、タブレット持って来てないんだ」
 髙橋の提案に丸山が困り顔で答えると、空は少しがっかりしたようであった。
「期待に応じられなくて、ごめんね」
 申し訳そうに手を合わせる丸山に、空は首を振り「急に持って来た自分も悪い」と言って微笑する。
「…空ちゃん、飼育の仕方がわからないって言ってたけど、そのカニここに置いておくの?」
「とりあえず家に持って帰るよ」
 トキの問いに空が答える。
 そんな空に丸山が、外が暑いし荷物になるから生物室に置いておいてもいいよと言ったが、空はとんでもないといった様子で首を振る。
「この子達の観察日記を付けたいんで、おうちに連れて帰ります」
「そうなんだ…」
 空の言葉に残念そうな表情を浮かべた丸山を見た高橋は、サワガニたちをここに置いて置いたら食べられてしまいそうだと空に思われているのでは? ——と、思わずにはいられなかった。

「え? サワガニ?」
 翌日、部長業務の最終引継ぎをする為に登校してきた渉は、丸山から前日、空がサワガニを持って来ていたという話を聞かされていた。
「ペットショップで見つけたらしいんですけど、飼育方法が判らないとかで…」
「…ってか、ペットショップにサワガニなんて売ってるの?」
「通年で金魚とか熱帯魚、ヤマトヌマエビなんかの小さなシュリンプ類なんかを取り扱っているのは知ってますが、サワガニやザリガニなんかの大きな甲殻類は普段は見かけないんで、もしかするとそろそろ夏休みだから、自由研究用とかで取り扱いを始めたのかも…」
 そんな丸山の推測に、渉はなるほどといった表情になる。
「って事は、カブトムシとかも取扱いを始めそうだな」
「子供のお小遣いじゃ買えないぐらい、クソ高いですけど」
「…確かに」
 そう言って丸山と渉は小さく笑い合う。
「カブトムシに比べたらサワガニなんて安いもんだろうけど、飼育はサワガニの方が大変そうだよな」
「その飼育方法なんですけど、先輩は知ってます?」
 丸山の質問に渉は首を左右に振る。
「サワガニを飼おうなんて思った事ないし、カニを飼っている人がいるなんて話、今まで聞いた事ないよ?」
「ですよねぇ」
 金魚や熱帯魚、めだか、ミドリガメを家で飼っているというクラスメートや友人はいるが、カニを飼っているという話は全く聞いた覚えがない二人であった。
「…一応、気になったんで昨日帰ってから調べたんですけど、サワガニって日本固有種の淡水カニなんだそうです」
 そう言いながら、検索結果をメモしたノートを丸山はカバンから取り出した。
「サワガニの名前通り、水が綺麗な渓流…いわゆる沢に生息している事が多いカニだからって事でその名前が付いたそうなんですけど、孵化した時には既にカニの形をしているっていうちょっと変わった甲殻類ですね」
 それを聞いた渉が「確かに幼生期が無い甲殻類って変わってるね」と呟く。
 多くのエビやカニは卵から孵化したあと、ゾエアと言われる幼生期をプランクトンとして過ごすのが一般的である。
「詳しい事は判らないんですけど、サワガニって海と全く無縁の環境で生息しているからかもしれませんね…同じ川に住んでいてもモズクカニとかアカデカニなんかは海で幼生期を過ごさないと成長できないらしいんで…」
「なるほど…興味深くはあるけど、ぶっちゃけサワガニって素人でも飼育できるの?」
「雑食だから、飼育は簡単みたいらしいです」
「へぇ、サワガニって雑食なんだ…」
 言われてみれば、今までサワガニが何を食べているのかなど考えた事もなかった事に渉は気付く。
「飼育下ならザリガニ用の人工餌なんかだと、カルシウムなんかも配合されてるんで、殻が丈夫になるからいいらしいんですけど、問題なのはどっちかって言うと飼育環境みたいですね」
「やっぱ、キレイな水は必須?」
 渉の言葉に丸山は頷くと、ノートのページをめくった。
「最低でも週に一回の水替えはしないといけないみたいで、あとは水温コントロールですね…低温注意みたいですね」
「低温ってどのくらい?」
「15℃を切ると冬眠しちゃうらしいです」
 それを聞いた渉は「あ~、冬眠か」と天井を見上げる。
 自然界には冬眠をする動物や昆虫類も多いが、冬眠に失敗してそのまま死んで住まうケースが多かった。
「そうなると飼育下では冬場はヒーター必須だな」
 環境さえ整えてやれば、何とか飼育できそうだという事は判ったのだが、具体的な飼育環境をどうすればいいのかとなるとさっぱり分からなかい。
「そもそもサワガニの場合、キレイな水が必要なのはわかったけど、レイアウトとかどうすりゃいいんだ?」
「…さあ?」
 サワガニの生態はなんとなくわかったが、一般的な両生類の飼育環境の様に水陸両方の生活環境が必要なのか? とか、その辺が全く不明であった。
「その辺の情報ってなかったの?」
「ざっと調べたところでは、ちょっと…」
 時間をかけて調べればわかるかもしれないが…というのが丸山の答えであった。
「う~ん、空ちゃんにアドバイスをするにしても、それじゃあなぁ…小さい個体だから、環境が整っていないとすぐ死なせてしまいそうだし」
 そう言って困っていると、隣の準備室に誰か入って来た気配がした。
「誰だろ?」
 生物部員の可能性もあるが、一向に実験室に入って来る気配が無いので準備室の様子を渉が覗きに行った。
「…あ、たけやん」
 準備室にいたのは生物部顧問の武田で、机に向かってなにやら作業をしている最中であった。
「なんだ、鏡、試験休みなのに来てたのか?」
 渉の声に気が付いたのか、武田は顔を上げて渉の方を見る。
「引継ぎがあったんで…丸山君もいますよ――って、先生は?」
「あ、俺は仕事」
 そう言う武田に渉がサワガニの飼育方法を知らないかと尋ねた。
「サワガニ?」
 怪訝そうな武田に渉が事情を説明すると、武田は「そういう事なら、もっと早くに俺に相談すればよかったのに」と笑う。
「…?」
 武田の言葉に意味が解らず、渉はきょとんとした顔になる。
「あれ? 言ってなかった? 俺の大学時代の研究専攻はカニ」
「え⁈」
 初めて聞いた武田の話に渉は思わず驚きの声を上げた。
「何かあったんっすか?」
 なかなか戻ってこない渉の驚き声が気になった丸山が、何事かと準備室に顔を出す。
「おい、たけやんの専門、カニだったんだって!」
「えぇぇっ‼」
 サワガニの飼育方法に頭を悩ませていたタイミングで、非常に身近な存在に専門家だという事を渉から聞かされて丸山も驚く。
「そんな驚かなくても…」
 笑いながら武田はそう言うと、サワガニの飼い方のレクチャーを始めた。
「サワガニの場合、一番管理しやすいのは水中飼育だな…イメージ的に金魚を飼うような環境」
「水中飼育って、カニって水中でも呼吸できるんですか?」
 そんな素朴な渉の質問に武田は頷く。
「カニはエラ呼吸をする生き物なんで、陸地にいるカニが良く口から泡を出しているのは、水を経由して酸素を取り込んでいるからなんだよ」
「あ、あれ、苦しんで泡を吹いているんじゃなくて呼吸だったんですか」
 カニの口の泡の真相を知って丸山は衝撃を受けたようであった。
「エラ呼吸の場合、エラに水を通して酸素を取り込み、その酸素の代わりに二酸化炭素を水に溶け込ませて排出するってシステムなんだ」
「…あ、エラってそんな風になっているんですか」
「そう。だから金魚とかを飼う時に水槽に水草を入れるのは、水に酸素を溶け込ませる目的もあるんだけど、水草の光合成に必要なのは水中の二酸化炭素っていう理由もある――同じように海では海藻が水草の代わりをしているんだぜ」
 いわば自然のエアレーションサイクルという訳だと武田は笑う。
「俺が水中飼育の方が管理が楽と言ったのは、水量が多いと水温が安定しやすいし、ろ過フィルター付きのエアポンプを使えば、水質が劣化しにくくなるから水替えの回数が減らせるしな――ついでに、冬場になれば、熱帯魚用の水中ヒーターを入れればサーモスタットが付いているから、加熱し過ぎで茹でカニになる事もないってのが理由」
 武田のおすすめ理由の説明を聞いた渉と丸山は思わず感嘆の声を漏らした。
「さすが専門家…合理的な理由がちゃんとあったんだ…」
「鑑賞したいなら水陸両方の環境を作ってもいいんだけど、水が少ないと夏場はすぐに傷むからな…サワガニって飼育しやすいとは言われているが、水質悪化に弱いんで環境指標生物でもあるからな」
「環境指標…あ、自然環境とか環境汚染のバロメーターの事か…」
 渉の呟きに武田はよく勉強をしていると頷く。
「人間のエゴで、多くの生物が生きていけなくなり数を減らしたり、絶滅しているからな――この星は人間だけのものじゃない事を再確認する為にも、環境指数の調査は大切だと俺は思うよ」
 そんな武田の言葉に二人は頷く。
「…まあ、なんだ、サワガニってのは臆病な生き物でもあるんで、大事に飼育してやってくれ――うまく飼育出来れば10年は生きるって言われているからな」と言って武田はニヤリとした。
「10年…」
 サワガニが予想外の長寿命だと知って、思わず顔を見合わせる渉と丸山であった。

「あ、空ちゃん、サワガニの飼育方法わかったよ」
 武田の飼い方レクチャーがあった後、今日のお世話当番である空が登校するのを待っていた丸山が、生物室にやって来た空に声をかけた。
 そんな丸山に空は何故かバツが悪そうな表情を浮かべる。
「…どうしたの? なんか、サワガニの飼い方がわからないから困っているって話を聞いたんだけど?」
 丸山と一緒に空を待っていた渉が言うと、空は「実は…」と言いにくそうに口を開いた。
 昨日、自宅にサワガニを連れ帰った空は、5匹のサワガニにとって小さな飼育ケースでは狭くて可愛そうと思い、家にあったタライに仮住まいとして移したらしい。
 餌として米粒を与えたら食べていたので、とりあえず一安心したという。
「餌と水をとりあえずタライにサワガニと一緒に入れて、昨日は寝たんですけど…朝になったらタライの中からサワガニが一匹もいなくなっちゃってて…」
「いなくなった⁈」
 驚きの声を上げる丸山に空は頷く。
「慌てて家の中探したんですけど見つからなくって…」
 がっかりといった様子の空に渉は首を傾げる。
「——空ちゃんちって、一戸建て? 集合住宅?」
「うち、マンションの8階です」
「マンションなら気密性高いから、家の外に逃げるとは思えないんだけど…」
 そんな渉の言葉に空も頷く。
「私もそう思って、家中探したんですけど…ベットの下とかにもいなくって」
 どこに行ったのか皆目わからないと空は言う。
「ペットとかが食べたとか?」
「うち、ペット飼ってないんで、それはありえないです」
 空の答えに、丸山も頭を捻る。
「状況的に逃げたとしか考えられなんだけど、蓋はしていなかったけど、タライの深さってサワガニの三倍以上あったのに…どうやって逃げたのかしら?」
 不思議で仕方がないといった様子で空は呟くが、誰もその疑問に答えられる者はいなかった。

 それから数日後、一学期の終業式の後に自分の荷物を生物室に置きに来た渉は、武田に呼び止められた。
「鏡、まだ帰らないのか?」
「あ、今から臨海学校旅行に参加する後輩たちの見送りっす」
「そうか――で、結局サワガニはどうなったんだ? うまく飼育できたのか?」
 どうやら武田はうまくサワガニを飼育する事ができたのか気になっていたらしい。
「それが…」
 タライに移し替えた後のサワガニが行方不明になったという話を渉がすると、武田は苦笑いを浮かべた。
「サワガニって壁のぼりが得意なんで、蓋をしてなきゃそりゃ逃げるわな」
「そんな特技を持ってたんだ…」
 サワガニについて知らなかったという事を改めて思い知らされた気がする渉に、武田はその逃げたサワガニは見付かったのか? と尋ねる。
「見つかったのは見付かったんですが…ちょっと飼育不可能な形で見つかったそうで」
「飼育不可能?」
 首を傾げる武田に、渉は空から聞いた逃げたサワガニを発見場所を口にした。
「サワガニが見つかったのは、ゴキブリホイホイの中だったそうです」
 それを聞いた瞬間、武田は爆笑する。
「そりゃ、生きていても無事に救出するの不可能だな」
 ゴキブリホイホイの強力な粘着シートにくっついてしまっていた為、サワガニの足をもがずにシートから剥がす事が出来なかったらしい。
「そっか~、確かにあいつら臆病だから移動する時も、すぐ隙間なんかに隠れられる様に壁側を好むもんな」
 そう言って武田は一人納得した様に頷く。
 ゴキブリホイホイは、ゴキブリが移動する際は隙間近くの壁際が多い為、そこに設置する事が多い。その為、同じ習性を持つサワガニが結果的に引っ掛かったと思われた。
「なんか、第一発見者は空ちゃんのお母さんだったらしくて、台所で悲鳴が上がったって言ってました」
「そりゃホイホイにサワガニが引っ掛かって居たらびっくりするよな」
 状況を想像したのか、おかしくてたまらないといった様子の武田に渉が苦笑いを浮かべる。
――人の失敗を怒らないあたりがたけやんらしいよな…カニ好きなんだから、カニが可哀想だろうとか言ってもおかしくないのに
 そんな事を思っている渉に武田が何かを思いついたのか、いたずらっ子の様な表情を浮かべる。
「ホイホイはうちも使ってるから、今度、おもちゃの伊勢海老でも仕掛てやろうかな?」
「奥さんにまたぶん殴られますよ?」
 サワガニホイホイ事件をヒントに、奥さんをびっくりさせる為の悪戯計画を口にした武田に、渉は呆れ顔になる。
――相変わらず、この人もどっか子供っぽいというか、おかしいんだよな…まあ、そいう所が好きだけど…。
 心の中でそっと呟くと、渉は小さく笑った。
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