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スキー講習旅行初日 ~白い悪魔がやって来た!~
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「待ちに待ったスキー講習だぁ」
二学期の終業式を終え、校門前で大きなスポーツバックを抱えたあおいが嬉しそうにそう言いながら観光バスを待っていた。
「あおいちゃんはスキーは出来るんか?」
足元にスポーツバックを置き、英語の文法帳片手に持った古谷があおいに尋ねる。
「私、スキー初めてなんで、すごく楽しみなんです」
期待で目を輝かせながらあおいが答えた。
「ほな、初心者クラスやな。よっぽどの運動音痴やなかったら、帰る頃には初心者コースぐらいやったら滑る事が出来るようになってるわ」と言って古谷は笑った。
「別に滑れるようにならなくてもいいと思うけど」
夏の臨海学校は不参加だった静香が、あおいたちの会話に口を挟む。
「そう言う静香先輩は滑れるんですか?」
あおいにそう訊かれ静香が「全然」と言いながら首を振った。
「でも、このスキー講習の旅行には参加するんですよね?」
静香の足元の大きなバックを見てあおいが訊く。
「行くわよ――私の目的は観光にお蕎麦、それに温泉だけど」
「?」
静香の言葉を聞いてあおいは怪訝な表情を浮かべる。
「私、リュウマチ持ちだから寒い所苦手なの。だからみんながスキーをやっている間、先生たちの家族とかと温泉で湯治をする予定」
「先生たちの家族?」
「冬のスキー講習旅行は、先生の家族とかも加わるねん」
「どういうことですか?」
臨海学校で、この学校の自由参加型旅行はかなりフリーダムなのを理解したあおいであったが、先生の家族も参加すると聞いて首を傾げる。
「スキー講習の後、一部の先生たちは現地で解散してそこから他のスキー場へ行ったり、田舎に帰省したりするのよ」という静香の説明を聞いて、この旅行も学校行事ではあるが、臨海学校よりさらにフリーダムな状態なのがうかがい知れた。
「あ、いたいた」
あおいたちを見つけた優子と香奈子が大きなカバンを手にそう言いながら話の輪に加わって来る。
「…はい、これバスの中で食べてね」
香奈子がかばんから複数の小さな紙袋を取り出すと、そう言いながら生物部のメンバーに配る。
「昨日焼いた甘さ控えめのアップルパイでシナモンは今回入れなかったから、甘いのとかシナモンが嫌いでも食べられるはずよ」
紙袋の中身を説明して香奈子はウインクをする。
「香奈子先輩ありがとうございます…でも、これ、今じゃなくバスの中で配っても良かったんじゃないですか?」
不思議そうに言うあおいに香奈子が「冬のスキー講習は参加者が多くてバスは2台に分かれるから、バスが分かれた場合渡せなくなるからね」と笑う。
集合場所である校門前には、大荷物を持った見慣れない人たちや子供たちもいる事のを不思議に思っていたあおいは、彼らもこの旅行の参加者である事を理解した。
「…なんか、今回は人がいっぱいいますね」
そう言ってスキー板の袋とスキーかばんを引いた渉が話の輪に加わってきた。
「お、渉君はスキー用品自前なんだ」
意外そうな顔で古谷が渉を見る。
「毎年家族でスキーに行くんで、用品は一式持ってるんで」と言って渉は少し照れくさそうに笑顔をみせた。
「——て事は、スキー上級者?」
「一応、パラレルで上級者コースは滑れます」
「すごい~」
渉のコメントにスキー経験者から称賛の声が上がる。
「なんの取柄も無い俺が唯一人に褒めてもらえるのがスキーなんです」
普段褒められる事など皆無の渉がそう言って胸を張る。
「スキーは自転車と同じで、一度出来るようになったら体が覚えてるって言うけど…去年のスキー講習以来滑っていないから、思い出すまで時間が掛かりそうだわ」
そう言って優子が苦笑いを浮かべた。
「へぇ…そうなんですね」
スキー未経験のあおいが興味深そうな表情を浮かべていると、校門前に観光バスが二台停まった。
「スキー講習に参加する人たちは点呼を取りますので、こちらに集合してください」
引率の教師が拡声器で参加者たちに案内を始めた。それに従って荷物を手にした参加者が並び始める。
事前に用意された名簿を元に点呼が行われ、その際、個々が乗車するバスを告げられる形となった。
一号車には優子、古谷、渉、二号車に静香、香奈子、あおいが割り振られる形となった。
「じゃ、サービスエリアでまた会いましょ」
そう言って静香たちは二号車へ乗り込んでいく。
「寒いなって思ったら、ごっつい雪雲出てるなぁ…」
バスの座席に座った古谷が窓の外の空を見上げ呟きを漏らした。
「寒波が来るらしいですよ――スキー場の積雪情報だと、これから行く場所の積雪量はスキーをするにはギリギリなんで、もう少し積もってくれた方がありがたいですけどね」
古谷の横の通路側に座った渉が事前にチェックした情報を口にすると、古谷の前の座席に座った優子が「積雪量が少ないと、板に傷入るしね」と笑う。
「そやなぁ、俺らはレンタルの板やから傷なんて気にせぇへんけど、自分の板に傷入るのは確かに嫌やな」と古谷は渉を見た。
「高級な板じゃないんで、多少の傷ぐらいは仕方がないとは思いますけど、ガリガリに傷が入るのはさすがに避けたいですね」と渉は苦笑いを浮かべた。
「行ってみないと解らないし、コースに雪がある事を祈りましょ」
そんな彼らを乗せて、バスは信州のスキー場を目指して走り出した。
学校を出発して1時間ほどすると、バスの窓の外では雪が舞い始めた。
「えらい雪、降り始めたなぁ」
最初チラチラと時たま雪が舞っている程度だったのが、次第に雪は大きくなり、降る量も多く増えてきていた。
「寒波が近ずいているとはいえ、12月末でこの時期に珍しい降り方ですね」
窓の外の雪の降り方を見て渉は驚きの表情を浮かべる。
「この冷え込みにこの大粒の雪…もしかしたら市街地でも積もるかもね」
窓ガラス越しに伝わって来る冷気を感じながら優子がそう言うと、古谷も頷いた。
「まだ東名高速に乗ってないのにこの降り方やから、スキー場の方はもっとすごいかもしれんな」
「雪が降らなくても、この寒さなら積もった雪が溶ける事はないから、それだけでも助かりますけどね」と渉が笑う。
「暖冬で雪不足だとスキー場って大変らしいから、喜んでるかもね」
そんな優子の言葉に古谷が「去年は雪不足でスキー講習も大変やったからなぁ」と何かを思い出したのか、苦笑いを浮かべた。
「確かに去年は暖冬でしたけど、何があったんですか?」
去年のスキー講習の話に興味を持ったのか、渉が訊ねる。
「スキー講習をする予定だった民宿裏のゲレンデの雪が暖冬の影響で全然なくて、バスで近くの雪のあるゲレンデ迄毎回移動せなあかんかってん」
「移動で時間は掛かって滑る時間が短くなるし、めんどくさいですね」
「そやねん。移動したゲレンデにも雪あんまりなくて下の方は土の場所も多かったから、自分の板を持って来ていた先生がめっちゃボヤいてたわ」
それを聞いた渉は情景が目に浮かんだのか声を立てて笑った。
「民宿の裏のスキー場はスキーオンリーのゲレンデなんだけど、移動先のゲレンデはスノボもOKだったから、雪が少ないのもあってかなりカオスだったのよね」
「ああ…スノボとスキーって曲がる時の体重のかけ方は逆だし、滑る時の体の向きも違いますからねぇ」
ゲレンデでスキーとスノボの接触事故はそれが原因の事が多いのは、渉も体験として良く知っていた。
「上級者コースならともかく初級者が多い場所じゃ、止まるのも曲がるのも自在に出来ない人が多いですしね」
「スキー初めてクラスはかなり大変だったのよ」
そう言って優子は笑った。
「不幸中の幸いはスピードを出せないから、ぶつかっても大けがにならずに済んだって事やな」
「スピードが乗る前に転びますからね」
そんなスキーあるある話で盛り上がっていると、他の参加者が雪が屋根や街路樹に積もり始めたと騒ぎ始めるのが聞こえたきた。
「ほんまや…さっきよりさらに雪の降り方がすごくなってるなぁ」
風も強いのか外では大粒の雪が吹雪状態となっていて、窓から見える景色が雪化粧を始めている。
「すごい雪って言っても、通行止めにはなる程じゃないだろうから、まあ、いいんじゃない?」
大した事にはならないだろうと判断したのか、のんびりした調子でそう言うと優子は「サービスエリアに着いたら起こして」と言ってアイマスクを付けると、昼寝を始めた。
「優子ちゃん、優子ちゃん起きて」
そんな声と共に後ろから肩を叩かれて優子が目を覚ましたのは、昼寝を始めて小一時間経った頃だった。
「…ん? トイレ休憩?」
まだ寝ぼけた様な声で優子はアイマスクを外して、背後を振り返る。
「サービスエリアじゃないんやけど、トイレ行くなら今のうちやで」
「…どういう事?」
古谷の言葉の意味が解らず優子は訊き返す。
「優子ちゃんが寝てからバスは東名高速に乗ったんやけど、大雪で通行止めになって、高速を降りて今、名古屋近くの市街地を走ってるねん」
「…は?」
状況が把握できず優子は慌てて窓の外に視線を走らせた。
古谷の説明通り、バスは雪化粧をした見慣れぬ市街地にいた。
「ほんまやったら今頃サービスエリアでトイレ休憩やねんけど、下に降りてもうたし、大渋滞で超のろのろ運転でいつトイレに行けるか解らんようになったから、この道路沿いにある近くのコンビニかガソリンスタンドでトイレを借りて、バスに戻る様にって話になってんねん」
「…わかった」
ようやく状況を把握した優子は席を立つと、トイレに行くためにバスを降りた。それと入れ替わる様にトイレを済ました渉が戻って来た。
「優子先輩起きたんですね」
トイレに行った優子とすれ違ったらしい渉がそう言いながら席に腰を下ろす。
「僕が起こしたんや――こんな状態やし、次にいつトイレに行けるかわからんから」
「なるほど…コンビニの駐車場は駐車待ちで行列ができてましたし、トイレも行列になってました」
「この大渋滞やしな、僕ら以外にもトイレに行きたい人間おるやろうからなぁ」
そう言いながら古谷はスマートホンに視線を落とした。
「低気圧が急発達したのと10年ぶりの大寒波が重なったのがこの大雪の原因って書いてあるなぁ…」
「10年ぶりですか…」
「この時期にこんな荒れた天気になるってめちゃめちゃ珍しい事って、ニュースになってるわ」
「夏の臨海学校のトラブルもそうでしたけど、うちの学校の参加者の中に珍しいトラブルを呼び寄せる人間でもいるんじゃないですか?」
そう言って渉が笑う。
「臨海學校の帰りの観光バスのバッテリー切れも珍事やったけど、今回の状況も珍事やな」
「大渋滞中とはいえ、走行中の観光バスの扉を開放して各自でトイレを借りに行くしかなくなるなんて、有り得ないですからね」
「確かに…」
そう言って古谷も笑った。
「変わった事って言えば優子先輩ですけど…」
「優子ちゃんは恣意的に変わった事はするけど、トラブルを呼び寄せるタイプではないと僕は思うけどなぁ」
「私がなんだって?」
「わっ!」
古谷と渉の会話に思ったよりもかなり早く戻ってきた優子が口を挟んだので、渉が驚きの声を上げた。
「えらい帰って来るの早かったなぁ」
古谷も驚いた様子で優子を見上げる。
「コンビニやガソリンスタンドのトイレ滅茶苦茶混んでたから、その先にあるスーパーのトイレ借りてきたの」
「相変わらず優子ちゃんは柔軟やなぁ」
教師からコンビニやガソリンスタンドでと言われたら、それしか考えられず行列に並び続けてしまう人間が多い中、とっさの判断で手段を変更して目的を達成してしまうあたりが優子らしかった。
「私せっかちだから、行列に並ぶの嫌いなだけ」と言って優子は笑うと、「…で、何の話をしていたの?」と尋ねた。
「うちの学校の関係者に珍しいトラブルを引き寄せる人間がいるんじゃないかって話をしていただけです」
「ああ、そういう話か…」
優子はそう言うと席に座って小首を捻る。
「先生の中にそういう体質の人がいるような気はするけど、すぐに思い浮かぶ先生はいないわねぇ」
「やろ?」
古谷が優子の言葉に相打ちを打つ。
「まあ、話のタネになる経験になるんだからいいんじゃない?」
細かい事は気にしないタイプなのか優子はそう言うと、再びアイマスクをつけ昼寝の続きを始めた。
大雪で高速道路を降りした道を走り続けた観光バスが、通行止めを解除された高速道路に戻る事が出来たのは夕方になってからの事だった。
「お腹が空いたなぁ…」
当初の計画では昼食は高速道路のサービスエリアで食べる予定であったのだが、大雪の影響で急遽学校が手配した某ハンバーガーショップのハンバーガーを二つバスの中で昼食代わりに支給されただけだったので、夕食時を大幅に過ぎて食べ盛りの生徒たちはお腹を空かせていた。
高速道路に戻ったバスは運航予定を大幅に狂ってしまったのを取り戻すべく、水銀灯に照らされた道路を走り続けている。
「今頃、二号車であおいがおなかが空いたって騒いでるかもね」
トイレ休憩をサービスエリアで取る事が出来なかった為、出発してから顔を合わせていない仲間たちの事を考えて優子が笑う。
「僕らは香奈子さんのアップルパイがあったから丁度良かったけど」
出発時、香奈子から渡された紙袋に入ったアップルパイはそれぞれ大きいものが二切れ入っていたので、小腹を満たすには十分の量であった。
「あおいちゃんは今回もお菓子をいろいろ持って来てたみたいだけど、それで空腹を誤魔化してしてるかもね」
あおいの性格や行動パターンをすっかり把握した渉がそう言って笑う。
「おかし食べつくしても、民宿の近所にはお土産物屋さんがたくさんあって、お菓子類もたくさん売ってるから問題はないんじゃない?」という優子に「土産物のお菓子は高いですって」と渉が笑った。
「お昼ごはん、コンビニのおにぎりやったらもうちょっと腹持ちが良かったんやろうけどなぁ」と古谷がぼやく。
「大雪の影響でコンビニのおにぎりやお弁当、パンなんかの棚は空になっていたって先生言っていたから仕方がないんじゃない?」
高速道路が通行止めとなり、下の道は大渋滞が発生してコンビニの商品配送が間に合わなくなったらしかった。
「ハンバーガーも電話で事情説明して大量に予約してようやく買えたらしいし」
食事ひとつ用意するにしても団体という事もあり、大雪の影響でかなり苦労したようであった。
「そろそろ夕食っていうよりは夜食の時間になりつつありますけど、ごはんどうなるんですかね?」
「あんまり遅くなるとサービスエリアのフードコートとかも閉まっちゃうしねぇ…」
そんな話をしていると、もうすぐサービスエリアに入ると車内アナウンスが流れ、それを聞いた生徒たちから歓声が上がる。
「休憩時間は30分ってゆうてるから、トイレ行って食料なんかの補給する時間がありそうやな」
そう言って古谷は少しホッとした表情を浮かべた。
車内アナウンスが流れて10分もかからないうちにバスはサービスエリアで停車した。バスのドアが開く前に再び車内アナウンスが流れ、夕食の手配が出来たのでトイレなどから戻った後、車内で弁当と飲み物を受け取る様にとの事であった。
休憩場所となったサービスエリアはかなり大きい施設で、少し遅い時間ではあったがまだフードコートや売店は営業している。混みあうのが常の女子トイレも設置されている個室が多いのか、比較的スムーズに行列が動いていた。
「あ、やっと会えた~半日ぶりぐらい?」
「半日以上だと思うけど…雪大変だったわね」
トイレを出たところで優子は香奈子たちとようやく顔を合わす事が出来、再開を喜んでいた。
「お腹が空きすぎてお腹と背中がくっつくと思いました~」
あおいが優子にそんな事を言っていると、静香が「持ってきたお菓子食べつくして何を言ってるんだか」と呆れる。
「…やっぱりね」
あおいの行動パターンが予想通りだった事に優子が「戻ったら夕食配るって言ってたわよ」と告げた。
「たぶん足りないんで、私、ちょっとフードコートで何か買ってきますね」
香奈子や静香にあおいはそう言うとフードコートが入っている建物の方へ走って行く。
「ほんとよく食べる子よね…」
「それなのに太らないってのが羨ましい」
静香と香奈子がそう言って笑い合った。
「食欲もそうだけど、長い時間バスに乗ってた割に元気いっぱいってのがすごいわ」
優子はそう言うと長時間同じ姿勢で固まっていた身体を伸ばす。
「私たちも何か買っておく?」
そんな香奈子の問いに優子は「休憩時間が長めなので、先にご飯を食べてからにする」と告げると、自分のバスへ戻っていった。
優子がバスに戻ると、古谷と渉も戻ってきており支給された弁当を食べていた。
「お弁当って釜めしだったのね」
まだ少し暖かい釜めしを手に優子はそう言いながら自分の席に着く。
「急な話やったから、これを手配するのも電話をあちこちにかけなあかんかったから大変やったって先生が言ってたで」
「お昼、バーガーだったから、お米が食べられるのがありがたいわ」
腹持ちが全然違うし…という話をしていると、バス前方の教師たちが座って居る場所が騒がしくなった。
「…なんやろ?」
古谷は騒ぎが気になったのか、席を立つと食べ終わった釜めしの容器を捨てに行くついでにと情報を集めに行く。数分して自分の席に戻って来ると「えらいことになってるわ」と言って苦笑いを浮かべた。
「どうしたんですか?」
「2号車の生徒がひとり名古屋で置いてけぼりになってるんやって」
「え?」
どうやら大雪で高速道路が通行止めになり下道に降りた際、大渋滞中コンビニなどのトイレを借りにいった時間の後、二号車では点呼をしなかったらしく、生徒がひとり現地に取り残されてしまっているらしかった。
「トイレに行っている間にバスがおらんようになってて、その生徒、トイレにバスを降りただけやったから何も持ってへんしで、困って交番に助けを求めたらしい――んで、警察から学校に連絡が入ったって…」
「あちゃ~」
優子がそう言って天井を仰ぎ見る。
「今、誰がそいつをタクシーで迎えに行くかって相談になってるわ」
「タクシー代、すごそうですね」
渉がそう言って笑った。
「しかし、その生徒の周りの人間がそいつが戻ってきていなかった事に誰も気が付かなかったって…」
「ボッチ参加やったんやろうな…」と古谷はそう言った後、「この件は点呼せえへんかった学校側が悪いわ」と呟き肩を竦める。
「今回のスキー旅行は初日から大雪を降らせた大寒波の影響でアクシデントだらけだし、なんかこの後もいろいろありそうだなぁ…」
――得体のしてない不安の様なものを感じ、そう呟く渉であった。
二学期の終業式を終え、校門前で大きなスポーツバックを抱えたあおいが嬉しそうにそう言いながら観光バスを待っていた。
「あおいちゃんはスキーは出来るんか?」
足元にスポーツバックを置き、英語の文法帳片手に持った古谷があおいに尋ねる。
「私、スキー初めてなんで、すごく楽しみなんです」
期待で目を輝かせながらあおいが答えた。
「ほな、初心者クラスやな。よっぽどの運動音痴やなかったら、帰る頃には初心者コースぐらいやったら滑る事が出来るようになってるわ」と言って古谷は笑った。
「別に滑れるようにならなくてもいいと思うけど」
夏の臨海学校は不参加だった静香が、あおいたちの会話に口を挟む。
「そう言う静香先輩は滑れるんですか?」
あおいにそう訊かれ静香が「全然」と言いながら首を振った。
「でも、このスキー講習の旅行には参加するんですよね?」
静香の足元の大きなバックを見てあおいが訊く。
「行くわよ――私の目的は観光にお蕎麦、それに温泉だけど」
「?」
静香の言葉を聞いてあおいは怪訝な表情を浮かべる。
「私、リュウマチ持ちだから寒い所苦手なの。だからみんながスキーをやっている間、先生たちの家族とかと温泉で湯治をする予定」
「先生たちの家族?」
「冬のスキー講習旅行は、先生の家族とかも加わるねん」
「どういうことですか?」
臨海学校で、この学校の自由参加型旅行はかなりフリーダムなのを理解したあおいであったが、先生の家族も参加すると聞いて首を傾げる。
「スキー講習の後、一部の先生たちは現地で解散してそこから他のスキー場へ行ったり、田舎に帰省したりするのよ」という静香の説明を聞いて、この旅行も学校行事ではあるが、臨海学校よりさらにフリーダムな状態なのがうかがい知れた。
「あ、いたいた」
あおいたちを見つけた優子と香奈子が大きなカバンを手にそう言いながら話の輪に加わって来る。
「…はい、これバスの中で食べてね」
香奈子がかばんから複数の小さな紙袋を取り出すと、そう言いながら生物部のメンバーに配る。
「昨日焼いた甘さ控えめのアップルパイでシナモンは今回入れなかったから、甘いのとかシナモンが嫌いでも食べられるはずよ」
紙袋の中身を説明して香奈子はウインクをする。
「香奈子先輩ありがとうございます…でも、これ、今じゃなくバスの中で配っても良かったんじゃないですか?」
不思議そうに言うあおいに香奈子が「冬のスキー講習は参加者が多くてバスは2台に分かれるから、バスが分かれた場合渡せなくなるからね」と笑う。
集合場所である校門前には、大荷物を持った見慣れない人たちや子供たちもいる事のを不思議に思っていたあおいは、彼らもこの旅行の参加者である事を理解した。
「…なんか、今回は人がいっぱいいますね」
そう言ってスキー板の袋とスキーかばんを引いた渉が話の輪に加わってきた。
「お、渉君はスキー用品自前なんだ」
意外そうな顔で古谷が渉を見る。
「毎年家族でスキーに行くんで、用品は一式持ってるんで」と言って渉は少し照れくさそうに笑顔をみせた。
「——て事は、スキー上級者?」
「一応、パラレルで上級者コースは滑れます」
「すごい~」
渉のコメントにスキー経験者から称賛の声が上がる。
「なんの取柄も無い俺が唯一人に褒めてもらえるのがスキーなんです」
普段褒められる事など皆無の渉がそう言って胸を張る。
「スキーは自転車と同じで、一度出来るようになったら体が覚えてるって言うけど…去年のスキー講習以来滑っていないから、思い出すまで時間が掛かりそうだわ」
そう言って優子が苦笑いを浮かべた。
「へぇ…そうなんですね」
スキー未経験のあおいが興味深そうな表情を浮かべていると、校門前に観光バスが二台停まった。
「スキー講習に参加する人たちは点呼を取りますので、こちらに集合してください」
引率の教師が拡声器で参加者たちに案内を始めた。それに従って荷物を手にした参加者が並び始める。
事前に用意された名簿を元に点呼が行われ、その際、個々が乗車するバスを告げられる形となった。
一号車には優子、古谷、渉、二号車に静香、香奈子、あおいが割り振られる形となった。
「じゃ、サービスエリアでまた会いましょ」
そう言って静香たちは二号車へ乗り込んでいく。
「寒いなって思ったら、ごっつい雪雲出てるなぁ…」
バスの座席に座った古谷が窓の外の空を見上げ呟きを漏らした。
「寒波が来るらしいですよ――スキー場の積雪情報だと、これから行く場所の積雪量はスキーをするにはギリギリなんで、もう少し積もってくれた方がありがたいですけどね」
古谷の横の通路側に座った渉が事前にチェックした情報を口にすると、古谷の前の座席に座った優子が「積雪量が少ないと、板に傷入るしね」と笑う。
「そやなぁ、俺らはレンタルの板やから傷なんて気にせぇへんけど、自分の板に傷入るのは確かに嫌やな」と古谷は渉を見た。
「高級な板じゃないんで、多少の傷ぐらいは仕方がないとは思いますけど、ガリガリに傷が入るのはさすがに避けたいですね」と渉は苦笑いを浮かべた。
「行ってみないと解らないし、コースに雪がある事を祈りましょ」
そんな彼らを乗せて、バスは信州のスキー場を目指して走り出した。
学校を出発して1時間ほどすると、バスの窓の外では雪が舞い始めた。
「えらい雪、降り始めたなぁ」
最初チラチラと時たま雪が舞っている程度だったのが、次第に雪は大きくなり、降る量も多く増えてきていた。
「寒波が近ずいているとはいえ、12月末でこの時期に珍しい降り方ですね」
窓の外の雪の降り方を見て渉は驚きの表情を浮かべる。
「この冷え込みにこの大粒の雪…もしかしたら市街地でも積もるかもね」
窓ガラス越しに伝わって来る冷気を感じながら優子がそう言うと、古谷も頷いた。
「まだ東名高速に乗ってないのにこの降り方やから、スキー場の方はもっとすごいかもしれんな」
「雪が降らなくても、この寒さなら積もった雪が溶ける事はないから、それだけでも助かりますけどね」と渉が笑う。
「暖冬で雪不足だとスキー場って大変らしいから、喜んでるかもね」
そんな優子の言葉に古谷が「去年は雪不足でスキー講習も大変やったからなぁ」と何かを思い出したのか、苦笑いを浮かべた。
「確かに去年は暖冬でしたけど、何があったんですか?」
去年のスキー講習の話に興味を持ったのか、渉が訊ねる。
「スキー講習をする予定だった民宿裏のゲレンデの雪が暖冬の影響で全然なくて、バスで近くの雪のあるゲレンデ迄毎回移動せなあかんかってん」
「移動で時間は掛かって滑る時間が短くなるし、めんどくさいですね」
「そやねん。移動したゲレンデにも雪あんまりなくて下の方は土の場所も多かったから、自分の板を持って来ていた先生がめっちゃボヤいてたわ」
それを聞いた渉は情景が目に浮かんだのか声を立てて笑った。
「民宿の裏のスキー場はスキーオンリーのゲレンデなんだけど、移動先のゲレンデはスノボもOKだったから、雪が少ないのもあってかなりカオスだったのよね」
「ああ…スノボとスキーって曲がる時の体重のかけ方は逆だし、滑る時の体の向きも違いますからねぇ」
ゲレンデでスキーとスノボの接触事故はそれが原因の事が多いのは、渉も体験として良く知っていた。
「上級者コースならともかく初級者が多い場所じゃ、止まるのも曲がるのも自在に出来ない人が多いですしね」
「スキー初めてクラスはかなり大変だったのよ」
そう言って優子は笑った。
「不幸中の幸いはスピードを出せないから、ぶつかっても大けがにならずに済んだって事やな」
「スピードが乗る前に転びますからね」
そんなスキーあるある話で盛り上がっていると、他の参加者が雪が屋根や街路樹に積もり始めたと騒ぎ始めるのが聞こえたきた。
「ほんまや…さっきよりさらに雪の降り方がすごくなってるなぁ」
風も強いのか外では大粒の雪が吹雪状態となっていて、窓から見える景色が雪化粧を始めている。
「すごい雪って言っても、通行止めにはなる程じゃないだろうから、まあ、いいんじゃない?」
大した事にはならないだろうと判断したのか、のんびりした調子でそう言うと優子は「サービスエリアに着いたら起こして」と言ってアイマスクを付けると、昼寝を始めた。
「優子ちゃん、優子ちゃん起きて」
そんな声と共に後ろから肩を叩かれて優子が目を覚ましたのは、昼寝を始めて小一時間経った頃だった。
「…ん? トイレ休憩?」
まだ寝ぼけた様な声で優子はアイマスクを外して、背後を振り返る。
「サービスエリアじゃないんやけど、トイレ行くなら今のうちやで」
「…どういう事?」
古谷の言葉の意味が解らず優子は訊き返す。
「優子ちゃんが寝てからバスは東名高速に乗ったんやけど、大雪で通行止めになって、高速を降りて今、名古屋近くの市街地を走ってるねん」
「…は?」
状況が把握できず優子は慌てて窓の外に視線を走らせた。
古谷の説明通り、バスは雪化粧をした見慣れぬ市街地にいた。
「ほんまやったら今頃サービスエリアでトイレ休憩やねんけど、下に降りてもうたし、大渋滞で超のろのろ運転でいつトイレに行けるか解らんようになったから、この道路沿いにある近くのコンビニかガソリンスタンドでトイレを借りて、バスに戻る様にって話になってんねん」
「…わかった」
ようやく状況を把握した優子は席を立つと、トイレに行くためにバスを降りた。それと入れ替わる様にトイレを済ました渉が戻って来た。
「優子先輩起きたんですね」
トイレに行った優子とすれ違ったらしい渉がそう言いながら席に腰を下ろす。
「僕が起こしたんや――こんな状態やし、次にいつトイレに行けるかわからんから」
「なるほど…コンビニの駐車場は駐車待ちで行列ができてましたし、トイレも行列になってました」
「この大渋滞やしな、僕ら以外にもトイレに行きたい人間おるやろうからなぁ」
そう言いながら古谷はスマートホンに視線を落とした。
「低気圧が急発達したのと10年ぶりの大寒波が重なったのがこの大雪の原因って書いてあるなぁ…」
「10年ぶりですか…」
「この時期にこんな荒れた天気になるってめちゃめちゃ珍しい事って、ニュースになってるわ」
「夏の臨海学校のトラブルもそうでしたけど、うちの学校の参加者の中に珍しいトラブルを呼び寄せる人間でもいるんじゃないですか?」
そう言って渉が笑う。
「臨海學校の帰りの観光バスのバッテリー切れも珍事やったけど、今回の状況も珍事やな」
「大渋滞中とはいえ、走行中の観光バスの扉を開放して各自でトイレを借りに行くしかなくなるなんて、有り得ないですからね」
「確かに…」
そう言って古谷も笑った。
「変わった事って言えば優子先輩ですけど…」
「優子ちゃんは恣意的に変わった事はするけど、トラブルを呼び寄せるタイプではないと僕は思うけどなぁ」
「私がなんだって?」
「わっ!」
古谷と渉の会話に思ったよりもかなり早く戻ってきた優子が口を挟んだので、渉が驚きの声を上げた。
「えらい帰って来るの早かったなぁ」
古谷も驚いた様子で優子を見上げる。
「コンビニやガソリンスタンドのトイレ滅茶苦茶混んでたから、その先にあるスーパーのトイレ借りてきたの」
「相変わらず優子ちゃんは柔軟やなぁ」
教師からコンビニやガソリンスタンドでと言われたら、それしか考えられず行列に並び続けてしまう人間が多い中、とっさの判断で手段を変更して目的を達成してしまうあたりが優子らしかった。
「私せっかちだから、行列に並ぶの嫌いなだけ」と言って優子は笑うと、「…で、何の話をしていたの?」と尋ねた。
「うちの学校の関係者に珍しいトラブルを引き寄せる人間がいるんじゃないかって話をしていただけです」
「ああ、そういう話か…」
優子はそう言うと席に座って小首を捻る。
「先生の中にそういう体質の人がいるような気はするけど、すぐに思い浮かぶ先生はいないわねぇ」
「やろ?」
古谷が優子の言葉に相打ちを打つ。
「まあ、話のタネになる経験になるんだからいいんじゃない?」
細かい事は気にしないタイプなのか優子はそう言うと、再びアイマスクをつけ昼寝の続きを始めた。
大雪で高速道路を降りした道を走り続けた観光バスが、通行止めを解除された高速道路に戻る事が出来たのは夕方になってからの事だった。
「お腹が空いたなぁ…」
当初の計画では昼食は高速道路のサービスエリアで食べる予定であったのだが、大雪の影響で急遽学校が手配した某ハンバーガーショップのハンバーガーを二つバスの中で昼食代わりに支給されただけだったので、夕食時を大幅に過ぎて食べ盛りの生徒たちはお腹を空かせていた。
高速道路に戻ったバスは運航予定を大幅に狂ってしまったのを取り戻すべく、水銀灯に照らされた道路を走り続けている。
「今頃、二号車であおいがおなかが空いたって騒いでるかもね」
トイレ休憩をサービスエリアで取る事が出来なかった為、出発してから顔を合わせていない仲間たちの事を考えて優子が笑う。
「僕らは香奈子さんのアップルパイがあったから丁度良かったけど」
出発時、香奈子から渡された紙袋に入ったアップルパイはそれぞれ大きいものが二切れ入っていたので、小腹を満たすには十分の量であった。
「あおいちゃんは今回もお菓子をいろいろ持って来てたみたいだけど、それで空腹を誤魔化してしてるかもね」
あおいの性格や行動パターンをすっかり把握した渉がそう言って笑う。
「おかし食べつくしても、民宿の近所にはお土産物屋さんがたくさんあって、お菓子類もたくさん売ってるから問題はないんじゃない?」という優子に「土産物のお菓子は高いですって」と渉が笑った。
「お昼ごはん、コンビニのおにぎりやったらもうちょっと腹持ちが良かったんやろうけどなぁ」と古谷がぼやく。
「大雪の影響でコンビニのおにぎりやお弁当、パンなんかの棚は空になっていたって先生言っていたから仕方がないんじゃない?」
高速道路が通行止めとなり、下の道は大渋滞が発生してコンビニの商品配送が間に合わなくなったらしかった。
「ハンバーガーも電話で事情説明して大量に予約してようやく買えたらしいし」
食事ひとつ用意するにしても団体という事もあり、大雪の影響でかなり苦労したようであった。
「そろそろ夕食っていうよりは夜食の時間になりつつありますけど、ごはんどうなるんですかね?」
「あんまり遅くなるとサービスエリアのフードコートとかも閉まっちゃうしねぇ…」
そんな話をしていると、もうすぐサービスエリアに入ると車内アナウンスが流れ、それを聞いた生徒たちから歓声が上がる。
「休憩時間は30分ってゆうてるから、トイレ行って食料なんかの補給する時間がありそうやな」
そう言って古谷は少しホッとした表情を浮かべた。
車内アナウンスが流れて10分もかからないうちにバスはサービスエリアで停車した。バスのドアが開く前に再び車内アナウンスが流れ、夕食の手配が出来たのでトイレなどから戻った後、車内で弁当と飲み物を受け取る様にとの事であった。
休憩場所となったサービスエリアはかなり大きい施設で、少し遅い時間ではあったがまだフードコートや売店は営業している。混みあうのが常の女子トイレも設置されている個室が多いのか、比較的スムーズに行列が動いていた。
「あ、やっと会えた~半日ぶりぐらい?」
「半日以上だと思うけど…雪大変だったわね」
トイレを出たところで優子は香奈子たちとようやく顔を合わす事が出来、再開を喜んでいた。
「お腹が空きすぎてお腹と背中がくっつくと思いました~」
あおいが優子にそんな事を言っていると、静香が「持ってきたお菓子食べつくして何を言ってるんだか」と呆れる。
「…やっぱりね」
あおいの行動パターンが予想通りだった事に優子が「戻ったら夕食配るって言ってたわよ」と告げた。
「たぶん足りないんで、私、ちょっとフードコートで何か買ってきますね」
香奈子や静香にあおいはそう言うとフードコートが入っている建物の方へ走って行く。
「ほんとよく食べる子よね…」
「それなのに太らないってのが羨ましい」
静香と香奈子がそう言って笑い合った。
「食欲もそうだけど、長い時間バスに乗ってた割に元気いっぱいってのがすごいわ」
優子はそう言うと長時間同じ姿勢で固まっていた身体を伸ばす。
「私たちも何か買っておく?」
そんな香奈子の問いに優子は「休憩時間が長めなので、先にご飯を食べてからにする」と告げると、自分のバスへ戻っていった。
優子がバスに戻ると、古谷と渉も戻ってきており支給された弁当を食べていた。
「お弁当って釜めしだったのね」
まだ少し暖かい釜めしを手に優子はそう言いながら自分の席に着く。
「急な話やったから、これを手配するのも電話をあちこちにかけなあかんかったから大変やったって先生が言ってたで」
「お昼、バーガーだったから、お米が食べられるのがありがたいわ」
腹持ちが全然違うし…という話をしていると、バス前方の教師たちが座って居る場所が騒がしくなった。
「…なんやろ?」
古谷は騒ぎが気になったのか、席を立つと食べ終わった釜めしの容器を捨てに行くついでにと情報を集めに行く。数分して自分の席に戻って来ると「えらいことになってるわ」と言って苦笑いを浮かべた。
「どうしたんですか?」
「2号車の生徒がひとり名古屋で置いてけぼりになってるんやって」
「え?」
どうやら大雪で高速道路が通行止めになり下道に降りた際、大渋滞中コンビニなどのトイレを借りにいった時間の後、二号車では点呼をしなかったらしく、生徒がひとり現地に取り残されてしまっているらしかった。
「トイレに行っている間にバスがおらんようになってて、その生徒、トイレにバスを降りただけやったから何も持ってへんしで、困って交番に助けを求めたらしい――んで、警察から学校に連絡が入ったって…」
「あちゃ~」
優子がそう言って天井を仰ぎ見る。
「今、誰がそいつをタクシーで迎えに行くかって相談になってるわ」
「タクシー代、すごそうですね」
渉がそう言って笑った。
「しかし、その生徒の周りの人間がそいつが戻ってきていなかった事に誰も気が付かなかったって…」
「ボッチ参加やったんやろうな…」と古谷はそう言った後、「この件は点呼せえへんかった学校側が悪いわ」と呟き肩を竦める。
「今回のスキー旅行は初日から大雪を降らせた大寒波の影響でアクシデントだらけだし、なんかこの後もいろいろありそうだなぁ…」
――得体のしてない不安の様なものを感じ、そう呟く渉であった。
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