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52話 階段から影
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「――さて、それじゃあ全員回復は済んだかな? 問題なければ4階層に行こうと思うんだけど」
「俺と朝比奈さんは大丈夫です。ミークは――」
「私も大丈夫よ。こうして実際自分と同じ、召喚された存在を手に掛けて考えさせられて……。確かに召喚したやつ、というか命令するやつが1番の悪でぶつ飛ばしたい。だけど、それもこうなってしまうかもって思って、その可能性があると知りながら召喚に応じた方にも責任はある。つまり、自業自得。召喚された存在を被害者としてだけ見るのはもうやめたわ。ま、助けてあげたいって思える存在で助けられる状況なら、今みたいに頑張ってはあげたいけど」
「……そうか」
「それはそれは、いい考えの変わりようだね。多分だけど召喚者は自分の周りをより強いモンスター、或いは亜人で囲んでいる。となれば召喚されたモンスターとの戦闘はこの先間違いなく増える。そこでいつまでもうじうじしてなんかしてはいられないからね」
「うじうじなんて、もうしない」
高橋さんの少しきつめの言葉が刺さったのか、ミークは少しだけくい込みに返すと、誰よりも早く次の階層に脚脚をかける。
「――えっ?」
「下がれっ!! 上級魔法『マジックライトシールド』」
その時だった。
階段の先から黒い影がニュッと伸び、俺たちの足元まで這い出たのだ。
これは昨日の魔法に似ている。
ただ違うとすればその範囲があまりに広いということで、高橋さんがいなかったら完全にやられていた。
「階段上まで魔法が届くっていうことは相当派手に戦ってるなあ。召喚モンスターなんかよりもよっぽどヤバイのが4階層で邪魔者処理の仕事、それで召喚者は5階層でぬくぬくレベル上げってところかな。ここまで必死なところを見るに召喚者のレベル上げには【波】対策以外に、もっと私的な野望があるのかも知れないね」
「私的な野望、ですか……。召喚者を使って……うーん、俺にはすぐ思いつきませんけど」
「例えばダンジョンを占拠して探索者協会及びそこから素材を買い取っている企業に対しての脅しとか、あとはあっちの世界とこっちの世界を本格的に繋げて……いわゆる異世界転移、みたいなことがしたいとか」
「一体それになんのメリットがあるのかしら?」
「さぁ?残ってる探索者はどの人も変わってるからなぁ。それに今言った中に正解があるとは限らないわけだし……とにかく4階層に行くよ。僕は荒井さんと共に影の使い手の探索者を取り押さえる。その間に3人には隙を見て5階層に向かって欲しい」
「俺たちも加勢しますよ」
「んー、その心意気は嬉しいんだけど……はっきり言って邪魔かな。荒井さんが手こずるような相手から君たちをかばって戦うのは不可能に近いからね」
「邪魔って――」
「亜人のお嬢さんは今の魔法を見ても僕の言っていることが理解できない、と……。なら、先に降りていく権利をあげるよ。きっとそれだけで『4階層にはいられない』と、そう思ってくれるはずだから」
「その言い方……あなたやっぱり苦手だわ」
そう言いつつもミークは先陣を切って階段を下っていく。
壁スキルは問題なく継続されているっていうのに、そこまで怖がる必要があるのだろうか、とそのときは俺も思っていたのだが……。
「駄目、これ以上は……進めない」
侵入を妨害するかのように吹き抜けた風。
それは俺たちの汗を乾かしてくれるどころか、反対に吹き出させる。
不特定多数に向けられた少しの殺気。
それは俺たちの頭に死という言葉を連続して映し出し、自然と足を止めさせたのだった。
「俺と朝比奈さんは大丈夫です。ミークは――」
「私も大丈夫よ。こうして実際自分と同じ、召喚された存在を手に掛けて考えさせられて……。確かに召喚したやつ、というか命令するやつが1番の悪でぶつ飛ばしたい。だけど、それもこうなってしまうかもって思って、その可能性があると知りながら召喚に応じた方にも責任はある。つまり、自業自得。召喚された存在を被害者としてだけ見るのはもうやめたわ。ま、助けてあげたいって思える存在で助けられる状況なら、今みたいに頑張ってはあげたいけど」
「……そうか」
「それはそれは、いい考えの変わりようだね。多分だけど召喚者は自分の周りをより強いモンスター、或いは亜人で囲んでいる。となれば召喚されたモンスターとの戦闘はこの先間違いなく増える。そこでいつまでもうじうじしてなんかしてはいられないからね」
「うじうじなんて、もうしない」
高橋さんの少しきつめの言葉が刺さったのか、ミークは少しだけくい込みに返すと、誰よりも早く次の階層に脚脚をかける。
「――えっ?」
「下がれっ!! 上級魔法『マジックライトシールド』」
その時だった。
階段の先から黒い影がニュッと伸び、俺たちの足元まで這い出たのだ。
これは昨日の魔法に似ている。
ただ違うとすればその範囲があまりに広いということで、高橋さんがいなかったら完全にやられていた。
「階段上まで魔法が届くっていうことは相当派手に戦ってるなあ。召喚モンスターなんかよりもよっぽどヤバイのが4階層で邪魔者処理の仕事、それで召喚者は5階層でぬくぬくレベル上げってところかな。ここまで必死なところを見るに召喚者のレベル上げには【波】対策以外に、もっと私的な野望があるのかも知れないね」
「私的な野望、ですか……。召喚者を使って……うーん、俺にはすぐ思いつきませんけど」
「例えばダンジョンを占拠して探索者協会及びそこから素材を買い取っている企業に対しての脅しとか、あとはあっちの世界とこっちの世界を本格的に繋げて……いわゆる異世界転移、みたいなことがしたいとか」
「一体それになんのメリットがあるのかしら?」
「さぁ?残ってる探索者はどの人も変わってるからなぁ。それに今言った中に正解があるとは限らないわけだし……とにかく4階層に行くよ。僕は荒井さんと共に影の使い手の探索者を取り押さえる。その間に3人には隙を見て5階層に向かって欲しい」
「俺たちも加勢しますよ」
「んー、その心意気は嬉しいんだけど……はっきり言って邪魔かな。荒井さんが手こずるような相手から君たちをかばって戦うのは不可能に近いからね」
「邪魔って――」
「亜人のお嬢さんは今の魔法を見ても僕の言っていることが理解できない、と……。なら、先に降りていく権利をあげるよ。きっとそれだけで『4階層にはいられない』と、そう思ってくれるはずだから」
「その言い方……あなたやっぱり苦手だわ」
そう言いつつもミークは先陣を切って階段を下っていく。
壁スキルは問題なく継続されているっていうのに、そこまで怖がる必要があるのだろうか、とそのときは俺も思っていたのだが……。
「駄目、これ以上は……進めない」
侵入を妨害するかのように吹き抜けた風。
それは俺たちの汗を乾かしてくれるどころか、反対に吹き出させる。
不特定多数に向けられた少しの殺気。
それは俺たちの頭に死という言葉を連続して映し出し、自然と足を止めさせたのだった。
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