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13話 料理開始

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「確かにあれは俺ですけど……。今日はもう疲れてるんでささっと2階層で素材集めて帰ってもいいですか? それに【波】までまだ時間があるならそんなに慌ててレベルを上げなくてもよさそうですし……」

 やられた女性が話してた内容から察するに荒井さんがカリスマ的存在なのはなんとなく分かった。

 アドバイスも核心をつくようなものに感じたし、人によってはありがたいことなんだろうけど……。

 俺の場合そんなことしてる暇があったら飯を作って食ってた方が遥かに強くなれるんだよなぁ。

 それに、レベル差があるのは明白。
 わざわざ痛い目にあいたくはない。

 ここは適当に流して――

「随分と余裕なんだな。そういえばさっき『真空波』を使っていたようだけど、まさかそれなりにいい職業を引いて危機感がなくなってるとか……。なら尚更、特訓してやらないと。ほら、あんたもまずは職業言ってみ。アドバイスの材料にしてやるから」
「……。職業は料理人です」
「料理人……。あっはっはっはっはっ! なんだそれ! そんな戦いとは無縁の職業聞いたことないぞ!よくそれでそんな余裕があったもんだな! あ、もしかしてあれか?経緯は知らないけどそっちの亜人が一緒に戦ってくれるから自分は大丈夫みたいな感じか?場合によっちゃ亜人を盾にでもすればいい、みたいな。だとすれば、相当胸くそ悪いけど。とにかくだ、【波】はそんな甘くない。現時点のレベルはちょっと高めかもしれないけど、私の知る限りあんたは史上最弱の職業で探索者なんだから大人しく言うことを聞きな」
「……。黙って聞いてれば好き放題言って……。いくらなんでも失礼だと思いませんか?」
「おっ! やる気になったか?じゃあさっさとかかってきな」

 ……。
 やめだ。
 ここまでこけにされて適当に流すなんてもうしたくない。

「謝る気はないと……。あの、万が一この戦闘で俺が、俺の力であなたにダメージを与えられたらさっきの史上最弱って言葉の撤回と謝罪をしてもらってもいいですか?」
「……。なるほど。そっかそっか探索者だもんな、その対価として報酬があるのは当然か。……。分かった! だけどダメージよりも……」

 荒井さんは何か閃いた素振りを見せると、剣を作って地面に円を描いた。

 これは思った以上になめられてるな。

「この円から外に私を出せたらその時点で謝罪。他にも私の持ってる素材を報酬としてあげる。あんたの言う通り本当はダメージの方がいいんだろうけど、それだと難易度高すぎだろ?」
「……。ご配慮有難うございます」
「そんじゃあ掛かってこいよ!」
「はい。それじゃあまずは……まだ口をつけてないお茶の入った水筒から空水筒に半分移して……。取りあえず30匹分の素材を広げて……。『料理強化』発動。今の手持ちで2人前のスライムティーをこの水筒に入る分だけ作る。可能か?」
『確認中。……。可能です。出来上がる料理は最大値のものになります。今後これ以上の数をまとめて料理してもグレードは上がりません。予想バフ効果。防御力強化中。物理ダメージ減少小。出血量減少。それでは素材に触れてください』
「了解」
「……。あんたふざけてんの?それともおかしくなった?」
「これが俺の戦い方です。詳しい内容は言えませんけどね」

 荒井さんは、スライムの素材を次々に処理していく俺を見てただただ呆れているように見えた。

 しかし今回はバフが3つその効果も高い。

 となれば……その顔に焦りが映るのが今から楽しみだよ。
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