69 / 79
第69話 まさか、ね
しおりを挟む「はいはいはいはーい。券はこっちでチェックはそっちのオークでお願いしまーす!」
探索者の群れだよこれ。
しかも列を作る様子もないし、目の前で喧嘩始めるし……。
折角チェックが済んだ人もヤバい探索者にボコられて……券争奪戦、バトルロワイヤルみたいになってんじゃん。
「見苦しいですねえ。でも、こういう雰囲気は嫌いじゃないですよ」
「社長、あんまり近づくとまき添い喰らいますよ。ここは上より強い探索者で溢れてますから。さっきうちの探索者が踏んづけられて気を失ってたの見たでしょう」
「あれはあいつが弱すぎただけですよ。まさかあんなに情けない奴がうちの会社にいたなんて……。一回探索者の能力をしっかりチェックする必要があるようですね」
「あれだけ人が押し寄せていれば、ああなるのも仕方ない気が……ここまで楽に来れたのは社長がちょっと異次元過ぎるだけなんですよね」
「ん?…何か言いましたか?」
「いや、別に何も」
「そうだ。どうせなら鈴木さんの実力も見てあげましょう。ここにいる探索者達の争いを止めて見せてください」
「えーっと。それはちょっとしんど――」
「出来ないんですか? 一応あなたには部長という役職を与えてますよね? これくらいも出来なければそれを取り上げないといけませんかね?」
「わ、分かりました! 精一杯頑張らせていただきます!」
荒れているこの階層の奥で他人事の様に辺りを見回す2人の男。
遠目で見辛いけど、片方は見た事があるような……。
「殺さずに鎮圧だけならちゃんとした武器は使えないし、でも素手だと流石に探索者相手だと……これでやるか」
へこへことしていた方の男がその辺に落ちていた太めの木の枝を拾って、軽く曲げたり叩いたりして強度を確かめる。
ここのダンジョン内は基本洞窟のような内装になっているけど、草花や木々がちらほらと生え、それ目的で侵入してくる人も少なくはない。
さっきからオークがチェックしている探索者達の半数以上はドラゴンではなくこういったものを持ってくる。
そりゃあどれを持ってきても同じ評価なんだからわざわざ危険を冒す必要はないっていう話。
別に持ってくるものは何でもいいけど、ここの階層で拾ったものはチェック対象外なんだけど――
「ふぅ……【閃】!!」
男の姿が消え……てはいないけど、スキルによる攻撃なのか、ニンゲンでは不可能と思える程速く、しかも地面を滑るように移動を始めた。
その手に握られた木の枝で争っている他の探索者達の顎、鳩尾、脚を強打して周っているようで、次々に探索者達は地面に伏していく。
多分速すぎて避ける暇も無い、いやそれ以上に動きを目で追う事も出来ていないのかもしれない。
レベルを上げているおかげなのか、俺にはその動きがなんとか見えてるし、避ける事だって――
「はあっ!!」
「ってこっちも狙ってくるのかよ!!」
木の枝が俺の顔を狙って振り払われる。
咄嗟にしゃがんで避けれたけど……この人、もしかして剣を独り占めする気じゃないだろうな?
「避けられた!?」
「何なんですか!? 券上げませんよ!」
男は足を止めて俺の正面に立った。
他の探索者は見事に無力化されてしまっている。
「券はいりません」
一番恐れてた事態。
ここにやたら強い『橘フーズ』の人が来るパターン。
このパターンになったら動画の音声だけ先に切らないいけないんだっけ。
全部垂れ流すと参加者が減っちゃうからな。
「えーっちょっと変わった人が来てしまったので対処させて頂きます。個人情報出るかもなんで音声だけ切りますね」
オークにその内容の手話を送り音声を止めさせた。
本当はこういう事態になる前に神様が戻ってきてくれるのが最高だったんだけど……まぁ見せ場が出来たと思って頑張るか。
「すみませんけど、まだここ以降の階層で頑張ってるイベント参加者の探索者とか今から来る人がいるんでここは通せませんね」
「……いやはやイベントを通じてあんな人数を呼び寄せるとは思いませんでした。ここで乱闘している探索者ならまだしもいそいそとここに来ようとしている若い探索者とかに手を出すのは忍びなかったですし、そもそも人数が多すぎて今みたいに何とか出来るもんでもなかったです。いやあ本当に面倒な事をしてくれますね」
「それもこれもあなた達をここに来させない為の作戦ですからね。でも来てしまったなら……」
俺は武器を取り出して、構えた。
すると、男は再び同じスキルで攻撃を仕掛けてきた。
動きは追えるし、なんとか急所を外させる事も出来る。
ただやり返すのは難しすぎるな。
「いい動きですね。俺はこれでもA級探索者なんですけどね」
「A級ですか……。でもうちのトップより弱いっすね」
「煽った所で無駄ですよ。俺のストレス耐性は尋常では――」
「止めなさい」
男がもう一度スキルを使おうと構えた瞬間だった。
いつの間にか、もう片方の男が木の枝を掴み攻撃を止めたのだ。
ってこの顔……。いやまさか、声も違うし……まさか、ね。
22
お気に入りに追加
1,288
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。


【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる