最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職

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第61話 参っちまったなあ

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「おはようございます!」

「あ、宮下君……。おはよう。昨日はその、ごめんなさい。みっともないところ見せて」


 翌日。俺は出勤すると敢えていつもより大きな声で景さんに挨拶を投げ掛けた。

 昨日は泣き止んだ後もずっと暗い表情だったし、少しでも気が紛れればと思ったんだけど……中々そうはいかないか。


「全然気にしてないですよ。むしろ頼ってもらえるのは嬉しいですから。それより俺の方こそ、早めに相談出来なくて――」

「おうっ! 2人とも今日は一段と早いな。昨日はリフレッシュ出来……何でそんなに辛気臭い面してるんだ?」


 元気な振りを装ってたつもりだったけど、顔に出てたか。


 ――俺は仕込みを始める前に疑問符を浮かべる店長へ昨日の一件『橘フーズ』の副社長の脅しと引き抜きの話をした。

 流石の店長もこれには困ったというような表情で、頭を掻いてしまったか。


「うーん。そうなるとこの場所を移動するか、代替条件で交渉するしかなさそうだな。向こうさんに引いてくれそうな雰囲気はないんだろ?」

「はい。困った事に」

「時間はありそうだから……まぁちょっとその辺は俺が考えておくさ。従業員の事は雇い主に任せなって! あっはっはっ! ほらほら仕込みにいったいった!」


 店長に半ば追い出されるようにして、俺達は休憩室から出た。

 あれ絶対無理してるパターンのやつだ。

 内心焦り散らかってるのを隠そうとすると、店長はいつもああなる。


「仕込み……しましょうか」

「そうね。あ、ダンジョンには行かなくてもいいの?」「後で養殖場のテツカミバチの様子を見るくらいで……暫くは十分かなって。レベルは上がりましたけど、ドラゴンのいる【NO9】に行ったところでまたあーだこーだ言われそうですから」

「……無理させちゃってごめ――」

「あの、あんまり謝りすぎるのはよしてください。別に景さんは悪い事してないですし、俺は俺の判断でダンジョンに行かないだけなので。それに謝りすぎるとその価値っていうのは下がってしまうんです。だからいざって時にだけ使って下さい」

「気を使わせてご、あっ、私また」

「じゃあこれからは『ありがとう』にしましょうか。気を遣ってくれてありがとう。……こんな感じにした方が気分良くないですか?」

「……ふふ、そうね。じゃあそうするわ」


 悲壮感漂う雰囲気が少しだけ和らぐと俺達はまた忙しい日常に染まっていこうとしたのだった。





「やっぱりどうしようもないか……」

「そうですね。大手の圧力っていうのを払い除けるにはその界隈での地位、それに『橘フーズ』の社長と仲のいい重鎮に金を貢ぐ……つまりは資金も足りないってことです。うちとしても今後焼肉森本とは懇意にしていきたいと思っていたので、お力添えはしたいんですけどね。こっちはこっちでトップが『橘フーズ』に飼い慣らされてますから。他の企業でも【NO9】での取引に対して了承しているところであれば協力はしてもらえないでしょう。申し訳ありませんが店長に出来る事は、宮下さんを差し出すか、この店をたたむ覚悟をするか、この2つ位しか思い浮かびません」

「だよな。悪い、わざわざ呼んでこんな明らかに面倒な相談に乗ってもらって」

「いえ、俺は半分ここの人間ですから。相談してもらえたのは嬉しかったですよ」


 宮下からの報告に対応すべく、俺は遠藤を店に呼んで営業中ではあるものの休憩室で話し込んでいた。


 なにか光明が射せばと思ったが、そうなかなかうまい事行かないのが世の理か。

 宮下を差し出せば養殖場がなくなる可能性が、残ったとして肉の生産性は確実に落ちる。

 だからって知らんぷりをしていればいずれは……。

 いっその事、場所を変えるか?

 慣れ親しんだ場所から移動するのは心苦しいし、費用も掛かるが早めに準備を進めれば今雇っている従業員、特に正社員の奴らが宙ぶらりんの状態は避けられるかもしれない。

 いつ相手が仕掛けてくるか分からない以上その判断は早めにしないと……。


「でも……ここ出ていきたくねぇなあ」

「店長……すみません何もお力になれなくて」


 遠藤は俺の独り言を聞いて、済まなそうに頭を下げた。

 こいつも最初の頃と今で大分変わったな。

 いい意味で牙が抜けた。


「辛気癖えのは一旦やめだ。今日の朝新商品を開発したって言って景がデザートを作ってくれたんだが、どうだ遠藤も試食を――」

「デザート、私ももらっていいですか?」


 俺が席を立つと地下と繋がる階段から一ノ瀬がひょっこり顔を出した。

 随分とタイミングがいい。もしかして今の話聞かれてたか?

 出来れば従業員を不安にしたくはないのだが。


「沢山作ってくれたみたいだから構わんぞ。直ぐに用意――」

「あっ。でもあのパンケーキだったらもう食べちゃいましたね。それに残りはとられないようにパソコン部屋に取り置いてます」

「お前、許可もなく勝手に……」

「でも食べるなって言われてないですから。……ダンジョンのドラゴンも殺すなって、私達は言われてないです。だったら全部私達のものにして、困らせてやりましょう。今の店長みたいに。うまく行けばそれが交渉材料になるかもしれませんよ」
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