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第37話 米が食いてえなぁ
しおりを挟む【NO5】は最下層の情報がない。
最下層へのアタックは1回だけ試みたけど、結局深すぎて定時を超えそうになったから中断。
今回は景さんからのGOサインも貰ったし、店長に連絡したら振替休日ももらえるみたいだから気兼ねなくダンジョン探索が出来る。
ダンジョン内で野営出来る場所があるのかどうかは分からないから、大学の時以来の徹夜かなぁ。
ああ、久々に徹マンしてぇな。
「ぶもおっ!」
「おっ! やっとこさ出てきたか」
【ファイアボール】を撃ってからしばらくは俺を怖がってオークが姿を見せてなかったけど、今いる30階層の中腹? でようやくオークが顔を出してくれた。
実のところ気持ちが先走って急いでダンジョンに来ちゃったから、食べ物とかの準備は絶望的。
ま、まぁナイフも持ってきてるし、最近はキャンプ動画にハマってシングルバーナーとMy調味料も持ち歩いてるからこうやってオークが顔を出してくれる限りは安心なんだけどね。
いやぁただ全然オークが現れない時は、ちょっと焦りましたよね。
「オークは2回でちょうど……っと」
俺はオークの何も考えてない適当な突進を躱すと、中指ピンっと弾いて後頭部を2回攻撃した。
オークは通常のコボルトやゴブリン程機動力や思考能力は高くないけど、HPだけは高い。
オークの肉を集めようと思って何度かここに通っているけど、オークの危機回避能力とこのHPの高さの所為であんまり効率的じゃないんだよな。
こうなってくるとやっぱり、オークの装置も欲しい。
オーク豚トロをレモンダレで食うのはサッパリした印象もあるし女性がハマりやすいと思うんだよね。
「ぶ、も――」
「よし、まずは血抜きからしますか」
俺は倒れたオークを急いで血抜きして、解体を始めた。
内臓は下処理の手間が多くて、直ぐには食べれないだろうけど、ロース、ヒレ、バラ辺りは直ぐに焼いて食えそうだ。
オークは【RR】や進化した種じゃないから肉の質はそこまで程々という感じではあるけど、それでも臭みは少なくて身は普通の豚肉よりしっかりとしている。
でも火を通した時には普通の豚肉よりも硬くなり辛くて、色んな料理に合いそう。
前にオーク肉を使った景さんの肉じゃがは最高だったな。
「――ふぅ、やっと終わった」
そこそこな時間をかけてようやく捌ききると、使わない肉はアイテム欄にしまった。
そして、シングルバーナーの上に取り出したスキレットを置き、火をつける。
中火で温めたそのスキレットの上にオークのロース肉を4枚並べると、じゅうっと音を立ててバチバチと肉から溢れた脂が軽く爆ぜる。
両面に焦げ目がつくと俺はしょうゆと砂糖、料理酒、しょうがのチューブで味付けをする。
ソロキャンプ用に取り揃えていた調味料がまさかダンジョンで役立つなんて思いもしなかったな。
「本当は、米とかキャベツとか……探索中じゃなかったら酒と合わせて食べるんだけど。うわぁ、今度からメスティンと米も常備しちゃおうかな」
物足りなさを感じながら俺は火を止めて、スキレットから割りばしで肉を持ち上げて、口の中へ。
多めに入れた生姜がオーク肉の臭みを消して、肉本来の甘味を際立たせてくれる。
少し長めに焼いた肉は、ちょうどよく薄切りに出来たのもあって硬すぎないし、ぱさぱさとした感じがなくジューシー。
たれは米やキャベツが無いから薄めの味付けにしていたけど、これで丁度良かったかもしれない。
やっぱり生姜焼きは熱々の内に食べるのが至福。これは間違いない。
「うっめぇ……。でも、景さんの作る生姜焼きの方が断然うまいな。そういえばあの時は豚汁もあって……やっべ肉食べながら肉の想像して余計に腹減ってき――」
「――ぶ、も」
そんな俺の生姜焼きの匂いに誘われたのか、オークが1匹ひょっこりと顔を出してこちらを見つめていた。
まだ小さくて細いのは生まれたばかりだからなのか、オークにしては可愛く見える。
「……ちょっと食うか?」
「ぶも?」
ちょこちょこと近づいてくるオーク。
俺はそのオークの近くに生姜焼きを放った。
――おお、食べてる食べてる。コボの時もそうだったけど、モンスターって共食いを何とも思わないのが凄い。
「ぶもぉおっ!」
小躍りして嬉しそうにして見せるオーク。
いやぁ、良かった良かった。でもそれお前と同じ種族の肉なんだよ。ははっ。
「ぶも、おっ!!」
「なっ!? お前っ!」
オークの嬉しそうな姿に完全に油断していた所為で、俺はスキレットから肉を全部奪われてしまった。
可愛い見た目してこのオーク、とんでもねえ食い逃げ野郎だ。
っていうか素手で生姜焼き掴んでいくとか、熱くないの?
「くっそ。お前、ちょっとしょっ引いてやる!」
俺は急いでシングルバーナーやスキレットを片付けると、その小さくて細くて、他よりもすばっしこいオークの後を追いかけるのだった。
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