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第15話 コボルト【RR】5点盛り880円
しおりを挟む俺がコボルト【RR】を倒してから1週間が経過した。
肉捌きマシーンの育成、コボルト肉の簡単収穫、増える客と増える給料。
ステータスが覚醒して順風満帆。
貧乏Fランク探索者の汚名返上はもう間もなく、と思ったが。
「宮下っ! 早くコボルト【RR】の肉用意して来てくれ! そんで肉の処理するぞっ!」
「宮下君、今日のランチタイムから事前に外で並んでるお客さんの注文を聞くようにする。この用紙にお客さんの注文を書き込んで、整理券の番号とリンクさせる仕組みにするから絶対持っていくところ間違えないように」
「宮下さん。お昼には今の生ビールの樽空になっちゃうと思うので、お店開く前に交換の仕方教えておきますね」
俺はランチタイムまでも店の手伝いをさせられるようになってしまっていた。
これじゃ探索どころじゃねえよっ!!
魔石集めは?
養殖場発展の為にダンジョン攻略もしたいってのに、結局自動肉捌きマシーン育成開始の次の日に1回、しかも1時間だけダンジョンに潜れたきり。
それもこれもあの動画がバズり過ぎたから。
今じゃ1000万回も見えて来たとか、どうかしてる。
残業は当たり前、タイムカードを切るよりも先に仕込みの手伝いをするのも当たり前。
低賃金だけど探索者していた時の方が、充実してたんだけ――
コンコンコン
「す、すみませーん」
出た出た出た出た出た、開店前のせっかちな客。
動画の撮影だの何だのがしたいとか、雑誌の取材交渉だとか……そんなもんこっちはしてる暇ないんだよっ!!
頼む、俺を探索に、ダンジョンというエスケープゾーンに行かせてくれ!
「すみません。今は仕込みの最中なので。また開店時間にいらっしゃってくだ――。ってあなたは」
「あの、今日からここで働かせてもらえませんか?」
唐突の申し出にも驚いたけど、一番驚いたのはこの人が俺の知っている人だったという事。
「あの、俺もここで厄介になりたいんですけど……」
「2人も……。でもうちはもう『探索者』は間に合っていて」
そう正面に見えるこの男はあの日ダンジョン【NO2】の入り口で話した探索者、後ろから顔を覗かせるように現れた男もきっと探索者だろう。
「どんな仕事でもこなして見せます! 探索者の在り方、強さには直接的な社会貢献、人の為に働きたいという気持ちが大事だという事を恥ずかしながら最近気付かされ、それで会社の後輩と共に僕達の目標である神、いやあなたにいる場所で働こうと決めたのです」
神……。
この人誠実そうで悪い人じゃないけど……ちょっとヤバい。苦手かも。
「求人か!? いやぁ張り紙は出してたんだけど、来てくれて助かった!! 履歴書はあるか? あと、振込先の情報とか――」
「全て持ってきています!」
「俺も……」
「よっしゃ採用だ! 手続きは店を閉めてからするとして、早速今日からいけるか?」
「はい。僕は小鳥遊誠(たかなしまこと)、よろしくお願いします」
「俺は細江直之(ほそえなおゆき)です。よろしくお願いします」
「おーいっ! 優夏ちゃん、この2人の教育担当頼んだ!」
「え? えーっとよ、よろしくお願いします。私は橋本優夏って言います。取り敢えず、2人に従業員用エプロンを渡すので、こっちに」
採用?
これこの2人がただのフリーターだと思ってないか?
俺が話しているところに割り込んできたから、店長きっとなんにも理解してないよ。
まぁ、俺は人が増えて時間が増えるなら何でもいいんだけどね。
◇
「だから先輩も焼肉森本に行きましょうって」
「神がそんなところで働いているわけがないだろ。それに行くなら自分の勤めてる会社の店にいったらどうだ?コボルトなんかよりもよっぽど美味いドラゴンの肉が食えるんだぞ」
「でも高いじゃないですか、コスパって俺、重要だと思うんですよ」
「コスパか。小鳥遊は会社の方針や利益を考えれば、金を搾り取れる富裕層の立場を考えた方がいいと思うぞ。会社は利益が一番なんだから」
「それはそうかもですけど……」
「――来るぞ」
ダンジョン【NO4】の3階層。
ゴブリンがはびこるこのダンジョンにやって来た僕と小鳥遊は今晩どこで飲むかを話しながら、道を進む。
ゴブリンの目玉は金色に輝き、一部で高く取引がされている。
最近うちの会社では珍品の加工、流通にも手を出しているから、こんな仕事を受ける事もある。
「ぎしゃあっ!!」
飛び出してきたゴブリンが持つ石の斧が振り下ろされる。
だが僕はその伸ばされた腕を剣で斬り付け、斧を握れないようにする。
ゴブリンの動きが一瞬止まったところに今度は細江の鉄製のハンマーが風を斬る音共に振り下ろされる。
潰れるゴブリンの音、やはり一撃必殺の細江と僕の素早い剣戟は相性がい――。
「先輩あれっ!!」
「くっ! なんで無理して侵入してくる奴がこう絶えないんだよ」
薄暗いダンジョンの先でゴブリンよりも体格のいいゴブリンジェネラルと対面している男性の姿があった。
男性はその姿に驚いているのか動く様子が無い。
だが割り込んで助けるのはリスクでしかない。見捨てる? いや――
「がぁあああっ!!」
僕達が判断に困っていると、ゴブリンジェネラルの持つ大剣が薙ぎ払われた。
またダンジョンで人が死――
「あ、店長、今ダンジョンの中なので――。おま、今電話ちゅ――。あ、大丈夫です。すぐ帰りますんで。はい、はい失礼します」
大剣は男性に当たったはずなのにぴたりと止まってしまった。
しかも男性は誰かと通話をしながら、余裕そうな雰囲気。
なんなんだこれは。
「やっべ、まさかランチタイムで人が足りなくなるなんて……悪いけど、適当に吹っ飛ばせてもらうぞ」
男性はゴブリンジェネラルの腹を軽く小突いた。
すると小突かれたゴブリンジェネラルは一瞬で肉片へと変わり辺りへと飛び散った。
「あ、すいません、っちょっと急いでるんで」
僕達の顔に見向きもせず、ダンジョンの上の階層へ走っていく男性。
僕達は自然とその男性に道を開けたのだが……。
あれは、あの顔は……
「神? ん? 何だこれ」
僕は神が落としたと思われる神を拾った。
これは箸袋? なんで箸袋なんかを持ち歩いて……。
『焼肉森本:TEL→090-●●●-●●●』
――マジか。
「ほらね、言ったとおりでしょ!」
「……あれだけの強さを持っていて、なぜ? そんなに儲かるのか焼き肉屋というのは」
「先輩、その疑問も行けば解決ですよ」
「……行くか、焼肉森本」
◇
「なんだ、あのきらきらした姿は? 神も相手もあんなに楽しそうに」
「店やお客さんに必要とされるのが嬉しいんですって。利益なんて頭にない、そんな生き物なんですよ神は」
焼肉森本で待っていたのは、献身的に働く神の姿。
コボルトだけでなく、ゴブリンジェネラルまであんなに簡単に倒せる存在がここで、あんな事をして……
僕の瞳からは勝手に涙が溢れた。
こんなに人? に感動したのは初めてだ。
僕は、僕は……。
「決めた。もうあの会社は辞める。僕は神についていく」
「いいっすね。実は俺、あの会社はなーんか気に入らなくて……ちょっとあれ見て下さいよ」
細江が指差したのは壁に張られた焼肉森本の求人チラシ。
今後困らないだけの蓄えはある。
バイトでも何でも立場関係なく働いてみようじゃないか。
「声を掛けるのは別日として今日は肉を食うか。驕るから腹いっぱい食ってくれ」
「まじっすか! ごちになります! あっ! ここの肉最近動画でバズってて……このたれで食ってみてくださいよ」
「コボルト【RR】といってもコボルトだからな、味はそこま……うっま。何だこの肉、今まで食べてきた高級な牛肉と遜色ない。それどころかまた違う甘い脂、歯ごたえ、肉肉しい食べ応えにマッチするこのたれ……。一体値段は……」
『コボルト【RR】各部位(5点)盛り合わせ一人前880円』
「利益度外視。これが善意か」
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