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第5話 動画投稿主
しおりを挟む「それでそのコボルトを宮下君が……。大丈夫?怪我はない?」
「だ、大丈夫ですよ!」
「そう」
景さんはコボルトの事よりもそれと戦った俺の身を気遣ってくれているけど……あんまりじろじろ見られるのはちょっと恥ずかしいな。
まあ景さんのこの過保護な性格のお陰でここにいられるようなものだけど。
「それでそれどうするの?」
景さんはコボルトを指差して店長の顔を見た。
今後俺が頑張って高級な食材を持ってくるとしてもまずそれを振る舞う客がいない。
勿論このコボルトも。
「何はともあれ味をみたいから……少しだけ試食といこうか。景、店にcloseの看板出して解体手伝ってくれ」
「……分かった」
景さんはたったったっとフロアの方へ走っていった。
そういえばバイトの人は今日休みだったけ。
バイト代も無駄にならないし、こんな解体作業に丁度いい日はないか。
俺も今月ピンチだったから試食はありがた――
……大丈夫だよな?
俺これ試食メンバーに入ってるよな?
「おい宮下、これキッチン迄運んでくれ!安心しろ、試食は全員でするから」
見透かされてる。
もしかして俺そんなに物欲しそうな顔してた?
◇
「おおっ。店長って凄い人なんですね。こんなに早く解体出来るなんて……まるで料理人じゃないですか」
「いや、料理人だから。宮下、お前俺の事何だと思ってるんだ? それと景は早く切り分けた部位をトリミングしてくれ」
「お父さ、店長がこれを解体しきったらやる。トリミングは別動画用にしたいから」
景さんはそう言いながら細長いグリップが取り付けられたカメラで店長の手元を撮影している。
解体の練習用動画かな?
「動画動画っていつも大して再生されないだろ」
「最近は4桁の時もある。それに店長は知らないだろうけど動画を見て来てくれた人もいる」
「本当か?そもそも景は接客苦手って……」
「店長がキッチンに籠ってる間に私も成長してるってこと」
「そうか……。ま、多少なり成果があるし、景が楽しいなら自由にすればいいさ」
「きっとこの動画はバズる。コボルト肉を求めてくるお客さんが一杯でお父さ、店長も驚くことになる」
「ハイハイ、楽しみにしてるよ。……宣伝か、久々にビラでも作ろうかな」
景さんを適当にあしらった店長は引き続き解体を続ける。
その技は冗談抜きで見惚れてしまう。
店長はああ言っていたけどマジでこれあるかも。
というかこの店の動画を投稿してたのか。
しかもSNSに疎そうなあの景さんが。
もしかして顔出しとかしてるのかな?
俺より1つ年上だけど大学の時から顔が変わらない、それどころか益々綺麗になっている景さんなら動画映えするだろうな。
……後でチャンネル教えてもらおう。
「――よし、あらかた終わった。ふぅこんだけでかいとやっぱり時間かかるな」
「いやいや普通の人だったら深夜コースですよ。あ、毛皮とか牙とかどうします?」
「それも高く売り付けれそうだから今回はとっとくか。魔石は換金、いや純度も高そうだしたまにはこれで探索者の装備でも――」
「本当ですか!?」
モンスターには魔石が内包されていて、これを国が特定の企業を通じて換金してくれる。
魔石は石油に代わる動力源として機能するからこれだけは国が関与するというわけだ。
ただ換金は強制ではないし、純度の低い魔石だと殆ど値が付かない。
だから純度の低い魔石は多くの場合装備品に使われるが、ランクの高い探索者はこぞって純度の高い魔石を使った装備を身に纏っている。
高純度なら高く換金してくれるはずなのにそれをしないのは、きっと彼らがそんな事をせずとも金に溢れた生活が遅れるからだろう。
あー羨ましい。
俺なんかこの店長がお前に装備品何か勿体ないとか言うから今まで魔石を装備品に当てた事はないし、そもそも貧乏だから装備品を買った事すらない。
「たまにはな。それにほらもっと深い階層でそのなりはまずいだろ」
「確かに……」
「ほい、じゃあこれは宮下に渡してっと。次はトリミング、そんでそのあと焼き肉でもすっか」
「はいっ!」
「コボルト焼き肉の動画もとるから綺麗に皿に盛って、勝手に焼かないで、咀嚼音は小さく――」
「あーもう、分かってるって!!」
動画にやたらと厳しいという景さんの意外な一面とそれに振り回される店長を見ながら、俺はゆっくりと席について高級焼肉試食会開催を待つのだった。
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