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おまけ デイブとアンバー(とミミル)の休日 嵐の前

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 無事にオブリン・パーカー子爵令息と婚約の解消をし、パーカー子爵には机を擦る勢いでアンバーは謝罪されたが、本人はそんなに気にしていなかった。

 あれだけエルノーラといちゃつかれたら、百年の恋も冷めますよ、恋してなかったけど。とはパーカー子爵に言えるはずもなく、薄笑いでアンバーは乗り切ったのだった。

 その後は一部エルノーラ崇拝の酷かった使用人を解雇し、新たに雇い入れるなどアンバーはちょっとだけ忙しい日々を送っていて、伯爵邸内が落ち着きを取り戻した頃、デイブが伯爵家にやって来た。

 やって来たデイブは、凄く立派な厚い重そうな本を携えていた。

「何ですか?その本」

 アンバー、すぐにその本に食いついた。
 
「アンバー嬢が気になる本」

 いぶしがるアンバーにデイブはぱらぱらと本をめくりあるページで止めて、アンバーに見せると指を差した。

「あっステイシーさん!」

 まじまじとそのページの絵をアンバーは見つめる。

「名前はシスティー、アナグラムだな。本当の名前だと危険だと判断したのか?何に対して危険視したのかは分からないけど」
「疑ってたわけではないけど、本当にあの大国の皇后だったんですね。凄すぎる」

 北の塔に幽閉された王太子が頼るはずだ。

「この隣の絵の人が皇帝ですね、ステイシーさんの旦那様であの金色の人ですか。ステイシーさんが一目惚れするだけあって格好いいですね。」

 アンバーは印象的なくりんとした目を輝かせて、絵を見入っている。

「当時は第三皇子で、王位継承権の順位も三番目だから比較的自由な立場では確かにあるな。調べたらこの国にも、友好使節団の一員として来訪記録があった」
「第三皇子。それがどうして皇帝に?」
「あの国は大国だから、常に戦争だなんだで慌ただしい国でね、当時の皇太子は戦争で戦死、第二皇子は毒殺されたと書いてあるね。ほらここに」

 細かい文字が並んでいるのに、デイブは的確な場所を指差す。

「本当ですね。あ、賢王だったと記載がありますね、ほらここ」

 全くアンバーには関係ない人なのに、そう書かれているのがアンバーはちょっと嬉しかった。

「人格者だったみたいだな、民にも好かれていたとも記載が、ほらここに」
「……ステイシーさん幸せだったんですね。良かったです。二男一女に恵まれたみたいですね。――今の皇帝はステイシーさんの孫ですか。ほらここ」

 アンバーとデイブは仲良く顔を突き合わせて本を見て、本に指を差し合いながら談笑する。いい雰囲気だ。

 デイブは今日、気合いが入っていた。何故ならこの間アンバーにした、交際の申し込みの返事を聞くためだ。いや答えは一択だが、デイブはアンバーを逃す気などさらさらない。

 だが物事には順序と切っ掛けが必要である。
 先日、アンバーの婚約解消が無事にされた(ソコロ情報)というのを聞き、すぐにアンバーに訪問の約束を取り付け、切っ掛け作りになればと、帝国王家の歴史本を持ってきたのだ。効果は絶大だった。デイブはこっそりほくそ笑む。

「群衆の面前で婚約破棄だなんて、いくら知っていて納得して受け入れたとしても、やはりショックはショックでしょうから、ちょっと心配だったんですよ」
「アンバー嬢は優しいなぁ」

 貴族の令嬢である。未婚の女性が男性と二人きりなどあり得なく、今も壁と一体化したミミルがいる。

――あれが侍女のミミルか?やたらとアンバーが頼りにしている……

 ちらっと壁と化したミミルをデイブは見る。どうやら相手もデイブを観察しているようだ。要注意だ。デイブは心に留める。

「優しいだなんて普通ですよ」
「これは私の推測なんだが、公爵家はもしかしたら、ステイシーさんが王太子と縁を持つより、帝国と縁を持つ方を歓迎したのではないだろうか」
「えっ?どういう」
「考えてもみたまえ、自国の王子との縁などいつでも持てるが、帝国との縁など、そうそうに持てるものではない。どっちを選ぶ?アンバー嬢なら」

 アンバーは一瞬だけ迷ったが答えはすぐにでた。

「帝国ですね間違いなく。自国よりあっちのがはるかに大きいですし。そこに縁を結んで益があるかまでは、分かりませんが」
「相手が第三皇子でも、壊れかけた婚約よりも帝国と結んだ方が明るい。その昔のモルガン公爵の性格まで分からないから、推測でしかないが。」
「充分に可能性ありますよ。しかもステイシーさんは第三皇子を慕ってましたし、第三皇子だって飛んで来るくらいですからね」
「あくまで可能性だがね」

デイブは澄まして紅茶を飲む。

アンバーは少し緊張していた。理由はこの間のデイブの告白にある。『恋』も『愛』も『好き』もなかったし、吹雪が吹き荒れたし(見えないだけで)アンバーは硬直し糸目になったけど、告白は告白だ。その後の怒涛の展開で、有耶無耶になり今日に至っている。貴族の令嬢、それも高位貴族になればなるほど恋愛には疎い。大概は子供の頃から婚約者がいて外堀を埋められているから。アンバーはオブリンと婚約してたけど、これまで色めいた話など縁がなかったので、恋愛には音痴とつけてもいいほど疎かった。故に現状をどのように対処すればいいのか、さっぱり見当がつかなかった。

 一方、デイブもまた焦れていた。アンバーに隙がなく、この間の告白の返事を聞きだす機会がないのだ。どこかで切っ掛けを作らなくてはとじりじりとする。

 そんな二人を観察するのはミミルだ。熟女なミミルはなんだか青(臭)い二人を生暖かく見守っていた。二人は気付いてないだろうが、二人とも話したいことがあるようで、タイミングを見計らっているのだが、どうにもタイミングが合わずに愉快なことになっている。ミミルは笑ってはいけないわ……と必死に笑いそうなのを堪える、だが肩の震えまでは止められない。ぷるぷるするミミル。

 話したいことを避け、どうでもいい話に花を咲かせる二人の、一見笑顔ではあるがどこか含みのあるほの黒く仄暗い顔と後ろに纏う不穏な雰囲気は、さらにミミルをぷるぷるさせた。やめてー笑い死ぬわと、心の中で懇願するミミル。

 デイブはと言うと、身悶えしたいのを必死に堪えていた。

 アンバーが可愛すぎる。  
 
 デイブの目の前にあるアンバーの悪巧みをしているかの笑顔に萌え狂い、身体を捩りごろごろと転がり拳で床を叩きたいのを、必死に堪えていた。悶絶寸前のデイブ。

 その頃のアンバーは、今後を想像して乙女になっていた。デイブは何と言ってくれるだろうかと。その言葉を想像すると、にやにやが止まらない。ミミルにはほの黒く仄暗い、デイブには悪巧みしている顔と受け取られているとは露知らず、にやにや。

 そこへ湯のお代わりを持った執事のシャロームが、部屋の扉を開けて固まる。

 部屋の内部にはシャロームが、今まで見たことのない光景があった。

 笑い死に寸前のミミル、悶絶死寸前のデイブ、にやにやアンバー。

 ホラーハウスドゥリー伯爵邸の応接室はもはや混沌としていた。

 シャロームは嵐の前の静けさを感じざるを得なかった。




♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 楽しく書いてたら文字数ふえちゃいました(汗)

 後半につづきますm(_ _)m

 
 
 
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