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第2話:精霊の秘密
しおりを挟む月日は流れ、リーナはあの頃の幼い少女から成長し、村でも頼りにされる若い女性となっていた。森へ通うこともなくなり、エルとの約束は心の奥底にしまわれていた。
リーナは日々忙しく働きながらも、森のことを思い出すことがあった。村の人々は相変わらず森を恐れ、「精霊の森には近づくな」と言い伝えていたが、リーナの胸の奥には幼い頃に見た美しい景色が忘れられない記憶として残っていた。
「本当に精霊っているんですか?」
ある日、村の若い男が年長者に尋ねた。その質問に、年老いた男性がゆっくりと語り始めた。
「いるともさ。だが、あの森の精霊は百年も千年も生きる存在だ。我々人間など、ほんの一瞬の客に過ぎん。」
その言葉を聞いたリーナの胸がざわついた。幼い頃にエルと交わした約束が蘇る。「百年も待っている」――そんなことが本当にあるのだろうか?
「いや、エルは今もあの森にいるのかな……」
独り言のように呟いたリーナの言葉を聞いた隣の女性が振り返った。
「リーナ、何か言った?」
「ううん、なんでもない。」
その夜、リーナは久しぶりに幼い頃の夢を見た。泉のほとりで微笑むエルと、約束の小指を絡めた日のこと。目を覚ましたとき、彼女は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「やっぱり、行かなきゃ……!」
翌朝、リーナは村を抜け出し、久しぶりに森へ向かった。足元には草が絡みつき、木々はあの頃よりも鬱蒼と茂っている。あの泉を探しながら進むうち、リーナはようやく懐かしい景色にたどり着いた。
「エル……?」
声をかけても返事はない。ただ風が吹き抜け、木々がざわめく音が聞こえるだけだった。リーナは少し不安になりながらも、泉のそばに座り込んだ。
「やっぱり、いないのかな……」
その時、微かに光る粒子が風とともに現れた。それはゆっくりと形を成し、あの日と同じ姿のエルがそこに立っていた。
「リーナ、よく戻ったな。」
「エル!」
リーナは思わず立ち上がったが、エルの表情がどこか曇っていることに気づいた。
「どうしたの?私、また来たよ。約束、覚えてたから……」
エルは静かに微笑んだ。
「そなたが戻ったことは嬉しい。だが、百年はまだ経っていない。それでも、なぜここへ?」
「私……エルのこと、ずっと心のどこかで覚えてた。でも最近、精霊の話を聞いて、どうしても確かめたくなって……」
リーナの言葉にエルは頷き、泉の水面を見つめた。
「そなたは変わらぬな、リーナ。だが、我は時の流れに縛られた存在。この百年の間に、そなたの村も、この森も変わっていく。人間と精霊は、永遠に同じ時を歩むことはできぬ。」
その言葉に、リーナの胸が締め付けられるようだった。
「でも、私はエルにまた会いたかった。だから来たんだよ!」
エルは少し驚いたように目を見開き、それからふっと微笑んだ。
「そうか。そなたは変わらぬ。そして、その変わらぬ心が、我にとっても救いだ。」
リーナとエルは久しぶりに語り合い、森の様子や村のこと、百年の間に起きた小さな変化について話した。しかし、エルの言葉の端々にはどこか寂しさが漂っていた。
リーナはその理由をまだ知らなかった――。
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