完結 百年の契り

つきほ。

文字の大きさ
上 下
2 / 10

第2話:精霊の秘密

しおりを挟む


月日は流れ、リーナはあの頃の幼い少女から成長し、村でも頼りにされる若い女性となっていた。森へ通うこともなくなり、エルとの約束は心の奥底にしまわれていた。

リーナは日々忙しく働きながらも、森のことを思い出すことがあった。村の人々は相変わらず森を恐れ、「精霊の森には近づくな」と言い伝えていたが、リーナの胸の奥には幼い頃に見た美しい景色が忘れられない記憶として残っていた。

「本当に精霊っているんですか?」

ある日、村の若い男が年長者に尋ねた。その質問に、年老いた男性がゆっくりと語り始めた。

「いるともさ。だが、あの森の精霊は百年も千年も生きる存在だ。我々人間など、ほんの一瞬の客に過ぎん。」

その言葉を聞いたリーナの胸がざわついた。幼い頃にエルと交わした約束が蘇る。「百年も待っている」――そんなことが本当にあるのだろうか?

「いや、エルは今もあの森にいるのかな……」

独り言のように呟いたリーナの言葉を聞いた隣の女性が振り返った。

「リーナ、何か言った?」

「ううん、なんでもない。」

その夜、リーナは久しぶりに幼い頃の夢を見た。泉のほとりで微笑むエルと、約束の小指を絡めた日のこと。目を覚ましたとき、彼女は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

「やっぱり、行かなきゃ……!」

翌朝、リーナは村を抜け出し、久しぶりに森へ向かった。足元には草が絡みつき、木々はあの頃よりも鬱蒼と茂っている。あの泉を探しながら進むうち、リーナはようやく懐かしい景色にたどり着いた。

「エル……?」

声をかけても返事はない。ただ風が吹き抜け、木々がざわめく音が聞こえるだけだった。リーナは少し不安になりながらも、泉のそばに座り込んだ。

「やっぱり、いないのかな……」

その時、微かに光る粒子が風とともに現れた。それはゆっくりと形を成し、あの日と同じ姿のエルがそこに立っていた。

「リーナ、よく戻ったな。」

「エル!」

リーナは思わず立ち上がったが、エルの表情がどこか曇っていることに気づいた。

「どうしたの?私、また来たよ。約束、覚えてたから……」

エルは静かに微笑んだ。
「そなたが戻ったことは嬉しい。だが、百年はまだ経っていない。それでも、なぜここへ?」

「私……エルのこと、ずっと心のどこかで覚えてた。でも最近、精霊の話を聞いて、どうしても確かめたくなって……」

リーナの言葉にエルは頷き、泉の水面を見つめた。
「そなたは変わらぬな、リーナ。だが、我は時の流れに縛られた存在。この百年の間に、そなたの村も、この森も変わっていく。人間と精霊は、永遠に同じ時を歩むことはできぬ。」

その言葉に、リーナの胸が締め付けられるようだった。

「でも、私はエルにまた会いたかった。だから来たんだよ!」

エルは少し驚いたように目を見開き、それからふっと微笑んだ。

「そうか。そなたは変わらぬ。そして、その変わらぬ心が、我にとっても救いだ。」

リーナとエルは久しぶりに語り合い、森の様子や村のこと、百年の間に起きた小さな変化について話した。しかし、エルの言葉の端々にはどこか寂しさが漂っていた。

リーナはその理由をまだ知らなかった――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...