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第11話 –「記憶の扉」

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写真を握りしめたまま、私は彼を見つめた。

「どういうこと……?」

声が震える。

「私が、あの子を失ったって?」

彼は視線をそらし、口を閉ざした。

「教えて。」

私は一歩、彼に近づいた。

「全部忘れていたの? いや……忘れようとしたんだ。」

彼は静かに答えた。

「君が壊れてしまわないように。」

その言葉が胸を締めつける。

──私は、何を忘れた?

「思い出したほうがいい?」

彼はしばらく沈黙したあと、うなずいた。

「けれど、その先には、もう戻れない。」

***

写真の中の彼女は、私と同じ制服を着ていた。

──中学の頃。

記憶の奥にぼんやりとした光景が浮かぶ。

図書室の窓辺で、彼女はノートを開いて何かを書いていた。

笑顔で振り向き、私に何かを差し出した。

──青インクの手紙。

「これ、あなただけが持っていて。」

私は震える手で写真を机に置き、もう一度ノートを開いた。

「覚えていて。」

──彼女の言葉だった。

ページをめくるたびに、心の奥で何かが軋むような感覚が広がる。

「ここにいないで。」

──なぜ彼女は私にそう言ったのか?

***

「彼女は……」

私は声を絞り出した。

「どうしていなくなったの?」

彼は答えようとしたそのときだった。

窓の外で物音がした。

──ギィ……ギィ……。

誰かが歩く音。

私は身をすくませた。

「大丈夫だ。」

彼はそう言いながら懐中電灯を手に持ち、窓へと近づいた。

カーテンを少しだけ開く。

──そこには誰もいなかった。

けれど、ガラスには指先でなぞったような跡が残されていた。

「覚えてる?」

私は息を飲む。

その言葉は、指跡で書かれていた。

「……彼女?」

彼はそっとカーテンを閉じた。

「もう逃げられないかもしれない。」

その言葉に、私は震えた。


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