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プロローグ: 滅びの王国
しおりを挟む風が囁くように森を抜けていく音がした。深い緑に包まれた大地は、どこか神秘的な輝きを放っている。その中心に佇むのは、妖精たちに愛された国、エルシア王国。そこは人間と精霊が共存し、互いを尊重しながら生きる調和の国だった。
王宮の庭園では、ひときわ美しい王女が佇んでいる。アイリス──エルシア王国の最後の王女。白金の髪が陽光を受けて輝き、緑の瞳が澄んだ湖面のように清らかだ。
「アイリス様、今日も美しいですね。」
庭に現れた妖精が微笑みながら語りかけると、アイリスも柔らかく微笑んで答えた。
「ありがとう。あなたたちがいてくれるから、私もこうして笑っていられるわ。」
彼女は幼い頃から精霊たちに愛されて育った。その理由は、彼女の血に流れる精霊の力──エルシア王国の血筋が代々受け継いできた特別な力にあった。精霊たちの加護を受け、この国は他国とは一線を画す平和と繁栄を築いていた。
だが、その平和は終わりを告げようとしていた。アステリア帝国──力による支配を信条とする隣国は、エルシア王国の存在を快く思っていなかった。特に皇帝ラインハルトは、精霊たちとの絆を持つエルシア王国を脅威とみなし、さらにその象徴であるアイリスを欲していた。
「アイリスを手に入れることで、精霊界の力を支配下に置ける。」
そう言い放ったラインハルトの命令のもと、帝国軍は侵略を開始した。
戦争は苛烈を極めた。精霊たちもエルシア王国を守るために力を尽くしたが、数で圧倒的に勝るアステリア帝国軍の前に次第に押されていく。王都は炎に包まれ、人々の悲鳴が夜空に響く。
戦場の一角、森の奥で静かに立つ一人の精霊がいた。その姿は荘厳で威厳に満ちており、ただそこにいるだけで空気が震えるようだった。精霊王セリオン──エルシア王国の守護者であり、精霊界そのものを統べる存在である。
「これ以上、この国が壊れるのを見過ごすわけにはいかない。」
彼は森を抜け、エルシア王国の王宮へと向かった。
王宮の中庭で、彼はアイリスと出会う。
「あなたが……精霊王、セリオン……?」
傷ついた人々を励まし続ける中で疲弊していたアイリスは、その姿に心を奪われた。セリオンもまた、彼女の気高さと純粋さに強く惹かれる。
「私はこの国を守るために力を尽くす。だが、私の力だけでは十分ではない。」
「いいえ、それでも、あなたがいてくれるなら……。」
アイリスの瞳が揺らぎ、二人の間に不思議な静寂が流れた。
セリオンとアイリスは、精霊と人間という異なる存在でありながら、深い絆で結ばれる。しかし、戦争の火は次第にアイリスの命をも蝕んでいった。彼女はジュリアを産んだ後、帝国軍から国を守るために最後の力を振り絞り、命を落とした。
「あなたはこれから、この子を守らなければならない。」
アイリスの最後の言葉を胸に、セリオンはジュリアをリリエン王国へ送り届けた。
「いつか、この子が私の力を必要とする時が来るだろう。その時まで私はここで見守る。」
セリオンは自らの力を封じ、次元を超えた存在となることを選ぶ。
リリエン王国で育つジュリアは、母の遺志を受け継ぎ、精霊たちに愛される特別な存在として成長する。しかし、彼女は自分の中に眠る本当の力に気づいていない。亡国の王女として、そして母の遺志を継ぐ者としての使命を胸に秘め、物語が幕を開ける。
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★★精霊と妖精を明確に区別して書いています。それぞれの役割や存在感を意識しています。精霊と妖精の区別については、全話終了後に書きます。
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