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1. 1LDKの城

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 駅から歩いて二十分。
 築十年。三階建てのアパートの二階角部屋。
 十畳のリビングと八畳のベッドルームの1LDK。少し小さめだけど洗濯物が干せるベランダと、一坪サイズのバスルーム。

 がらんどうのリビングで、両手両脚を大きく広げフローリングに寝そべった藤原ふじわら奏多かなたを、南向きの掃き出し窓から差し込む日差しが照らした。ぽかぽかしてめちゃくちゃ気持ちいい。目を閉じて深呼吸をすれば、自然と顔がにやついてくる。

 今日からこの部屋が奏多の城なのだ。
 どれだけ夜更かししても叱られない。休みの日にどれだけ朝寝坊しようが文句も言われない。部屋数が少ないんじゃないのと、すぐ下の弟の夢路めろからはクレームがついたものの、家賃は親持ちなので奏多にも夢路にも文句は言えない。それに築三十年超えの実家に比べれば、築十年なんてまだまだきれいで新しい方だ。


(あの夢路の言い方やと、あいつもこっちに進学して来そうやなぁ……)


 奏多の育った家はいわゆる貧乏子だくさんで、第一子である奏多の下には四人の弟妹がいる。四月から高校三年生になる夢路をはじめ、一番下の妹なんてまだ小学四年生だ。

 元々第一志望だった大学は頑張れば実家からも通える距離だったのに、こうして実家を出てアパートに引っ越せたことは何よりも予想外だった。というのも、弟妹たちの面倒はほぼ奏多と夢路で見ていたから、家を出ることは反対されると思っていたからだ。

 実際に最初は両親から猛反対されたし、奏多本人もそれが当然だと納得していたから、毎日片道一時間半の道のりを通学する気だった。


「――――ふぎゃっ!」


 陽気に誘われて、静かに寝息を立てようとしていた鼻を不意にぎゅっと摘ままれて、奏多は飛び起きる。


「こら奏多、ここで寝るな。もうちょっとしたら荷物が届くぞ」
「ふぁい……」


 目の前には少し長めに伸びた髪を無造作にハーフアップにしている男が一人。その髪は艶のある豪奢な金髪で、掃き出し窓からの日差しを背にいつも以上にキラキラ……いや、ギラギラと輝いて見えた。その輝きに思わず奏多は目を眇める。

 桧葉ひば誠吾せいご
 身長百六十五センチの奏多に対して、百八十五センチの長身。小学校一年生の途中で転校してきて以来の幼なじみで親友。そして、この城のもう一人の城主だ。

 実家を出ることができたのは、この幼なじみの力が大きかった。
 高校時代、常に学年一位を取ってきたこの幼なじみは、奏多が片道一時間半かかる県内の大学への受験を考えていることを知るやいなや「俺と同棲しようよ」と、自分とのルームシェアを提案してきたのだ。

 ――ええ? 同棲やなくて同居やろ。日本語間違っとるやん。
 ――別に間違ってないだろ。

 言葉のチョイスがおかしかったのでそこを突っ込めば、何を言ってるのかわからないといった表情で首を傾げられた。国語の成績は悪くないはずなのに、時々こうやってバグを起こすのが特徴だったりする。


 奏多の独立に一役買ったその誠吾に促されて、奏多は仕方なしにあくびをしながら立ち上がった。同じ城主と言えど、その立場は微妙に異なる。この城の名義は誠吾の親であり、奏多はあくまでも「居候」の身だからだ。


 新居の鍵をゲットして掃除を済ませた昨日は、駅そばのビジネスホテルに宿泊した。記念すべき新居への引越当日の今日は、荷物の受け取りと家具の搬入が待っている。始まるまではゴロゴロしようと思っていたところを急かされて、やる気が起きない。


「今日は何が届くんやった?」
「ミケネコ便で送ったやつ。あと、イトリからベッドと布団とカーテン」
「ベッドって俺たちで組み立てんといけんやつ?」
「いや、お前の分も合わせて組み立てサービス頼んでる」
「え、誠吾くんたらマジですか。あれ高いやん……」
「そんな高いサービスじゃねえよ、気にすんな」


 受験が終わった後の二ヶ月。必要最低限の家具を揃えることができるだけの現金が欲しくて、奏多ができるだけバイトに励んだ結果、憧れのベッドを買うことができた。

 実家にいる時は奏多以外の弟妹四人全員が同じ部屋で寝ていた。それも男女関係なく。一番下の妹はともかく、残りは全員が中学生と高校生だ。奏多だけは大学受験という大義名分もとで四畳半の個室を与えられていたものの、受験前は物置だった部屋なのでベッドなんてとても置けない。誠吾の家に泊まりに行った時、風呂上がりにそのままゴロンと寝転ぶことのできるベッドが羨ましくて仕方がなかった。

 きっと実家では今頃、新たに受験生となった夢路が意気揚々とその四畳半の個室へと移っていることだろう。


 掃き出し窓を全開にして換気をすると、少しだけ冷たい風が室内に吹き付けた。
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