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65. 急激 *
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*後半からR18startです*
いい匂いがすると言って、三人が同時に首に顔を寄せるのを、俺は脱力した腕で順番に押し返す。
「ちょっと……暑いし離れろって。同時とかマジ勘弁して」
「は?」
一番文句の言いやすい左隣にそう言うと、少しやつれた顔のくせに目だけは爛々としていた。同居を再開したばかりの頃は頬骨がわかるくらい痩せていたけど、今は触ればわかるかなというところまで戻っている。
怪訝そうな顔をしつつ肩は抱いたまま、言われたとおりに顔を俺から離した。
「あのな、こうやってアルファ三人がいっぺんに寄ってくると怖いんだよ。わかんねえの?」
アルファのフェロモンはわからない俺にとって、この適合者の三人だけは別だ。
俺を発情させられる存在が、宏樹のたった一人だけだった今まですらヒートが来るのは嫌でたまらなかったのに、三人まとめて寄ってこられるとどうなるか……想像もしたくない。
「俺がフェロモン出してるってことは、ラットになる可能性があるだろ」
「……ああ、なるほど。そういう意味か。でもそれなら大丈夫だと思うよ」
俺の指摘に答えたのは尚樹さんだった。
どういうことかと前を向けば、ものすっごい笑顔で、尚樹さんが普段通勤時に使ってる鞄を持ってきた。中から取りだしたものの形状に、エピペン?と口にすると、首を横に振られた。
「アルファ用の緊急発情抑制剤。医師の処方が必要な強力なやつなんだよ。見たことない?」
「え、いや……」
「……真緒は抑制剤が合わないから見たことないはずだ。俺も真緒とは使わなかったし」
真緒とは。
そうですか、誰となら使ってたんですかね。
と尋ねようとして、嫉妬と勘違いされそうだなと口を噤んだ。
尚樹さんは俺の考えに気づいたようで「お前はデリカシーなさすぎだろう」と宏樹を窘める。まぁ今更だけども。
今までの俺のヒートで一緒に過ごす時、宏樹が抑制剤らしきものを使っているのを見たことがないような気がする。この言い方だと俺の見ていないところで使っていたというわけではなかったんだろう。俺の自我が残っている状態では宏樹がそこまでラットを起こしている印象はないから、俺が完全に発情し切った後にラットを起こしていたのかもしれない。
「……それにしても。真緒くん、ヒート予定日は本当に明日からなんだよね?」
「ええ、そうですけど……?」
「前日でこれかぁ……」
なぜか三人が同時にため息をついた。
そう。予測ではヒートは明日からで。
前回のヒートでも、予測された日の前日夜には強い発情が来ていた。
俺のヒートは出足が遅い。ゆっくりアクセルを踏み込むように、徐行の速さからどんどんを速さを上げていく。法定速度に達するまでが遅い。そして、やっと他の車の流れに乗れたかなと思った時にはもう自分のフェロモンに酔って動けない状態になってしまう。
だから、今日もそんな感じなんだろうと思っていた。まさか、誰が停止状態から一気に法定速度まで上がるなんて思うだろう。俺が一番思っていなかった。夕食時に突然転がるように倒れて発情した俺を、三人が慌てて抱き起こしてくれたまでは覚えている。
「真緒、真緒、」
「真緒ちゃん」
呼ばれてうっすら目を開ければ、俺を心配するように泰樹くんが顔を覗き込んでいて、後ろから宏樹が俺を抱きしめていた。
「――っ!!」
ぎゅっ……と俺の中心を握りしめられた。そのまま上下に扱かれると、ぐちゅりと水音がする。そこまで強く握られているわけではないのに、与えられる刺激は強すぎて思わず腰を浮かせて逃げようとすると、俺を抱きしめる宏樹の腕がさらにしまった。少しでも逃げようと両脚を閉じれば、すかさず泰樹くんが膝を掴んで大きく開脚させる。
「真緒ちゃんごめん。でも出さないと辛いままだから……」
泰樹くんは勃ち上がった俺のペニスにはまったく見向きもしない。ただ俺の脚が閉じないようにして、俺の眦に口づけて雫を吸い取ってくれている。
「ふ、ふたりのにおいがしない、うすいよ」
「……さっき抑制剤を打ったから」
「なんで、なんで、」
「真緒ちゃんのためだよ」
意味がわからない。
俺の大好きな匂いが微かにしかしなくて辛い。何で何で何で。
(ちが……俺が、ふたりは、ラットにならないようにって、だから)
舌打ちの音が耳元で聞こえる。
「二回出したくらいじゃ全然戻んねえな……」
「どんどん濃くなるね、いつもこう?」
「んなわけねえだろ。普段はガッツリ俺の匂い嗅がせてるから、ここまで強い発情してもすぐに終わるんだよ。……大体こんな急激なヒートは初めての時以来だと思う」
その口ぶりから、どうやら俺はもう既に何度か達した後なのだとわかった。
泰樹くんは俺のこの強い発情状態を見るのは初めてのはずだけど、至極冷静なその様子に俺はぼんやりと安堵した。こんな獣のような状態を見られて、もし泰樹くんに引かれでもしたら、俺は多分もう立ち直れないような気がする。
いい匂いがすると言って、三人が同時に首に顔を寄せるのを、俺は脱力した腕で順番に押し返す。
「ちょっと……暑いし離れろって。同時とかマジ勘弁して」
「は?」
一番文句の言いやすい左隣にそう言うと、少しやつれた顔のくせに目だけは爛々としていた。同居を再開したばかりの頃は頬骨がわかるくらい痩せていたけど、今は触ればわかるかなというところまで戻っている。
怪訝そうな顔をしつつ肩は抱いたまま、言われたとおりに顔を俺から離した。
「あのな、こうやってアルファ三人がいっぺんに寄ってくると怖いんだよ。わかんねえの?」
アルファのフェロモンはわからない俺にとって、この適合者の三人だけは別だ。
俺を発情させられる存在が、宏樹のたった一人だけだった今まですらヒートが来るのは嫌でたまらなかったのに、三人まとめて寄ってこられるとどうなるか……想像もしたくない。
「俺がフェロモン出してるってことは、ラットになる可能性があるだろ」
「……ああ、なるほど。そういう意味か。でもそれなら大丈夫だと思うよ」
俺の指摘に答えたのは尚樹さんだった。
どういうことかと前を向けば、ものすっごい笑顔で、尚樹さんが普段通勤時に使ってる鞄を持ってきた。中から取りだしたものの形状に、エピペン?と口にすると、首を横に振られた。
「アルファ用の緊急発情抑制剤。医師の処方が必要な強力なやつなんだよ。見たことない?」
「え、いや……」
「……真緒は抑制剤が合わないから見たことないはずだ。俺も真緒とは使わなかったし」
真緒とは。
そうですか、誰となら使ってたんですかね。
と尋ねようとして、嫉妬と勘違いされそうだなと口を噤んだ。
尚樹さんは俺の考えに気づいたようで「お前はデリカシーなさすぎだろう」と宏樹を窘める。まぁ今更だけども。
今までの俺のヒートで一緒に過ごす時、宏樹が抑制剤らしきものを使っているのを見たことがないような気がする。この言い方だと俺の見ていないところで使っていたというわけではなかったんだろう。俺の自我が残っている状態では宏樹がそこまでラットを起こしている印象はないから、俺が完全に発情し切った後にラットを起こしていたのかもしれない。
「……それにしても。真緒くん、ヒート予定日は本当に明日からなんだよね?」
「ええ、そうですけど……?」
「前日でこれかぁ……」
なぜか三人が同時にため息をついた。
そう。予測ではヒートは明日からで。
前回のヒートでも、予測された日の前日夜には強い発情が来ていた。
俺のヒートは出足が遅い。ゆっくりアクセルを踏み込むように、徐行の速さからどんどんを速さを上げていく。法定速度に達するまでが遅い。そして、やっと他の車の流れに乗れたかなと思った時にはもう自分のフェロモンに酔って動けない状態になってしまう。
だから、今日もそんな感じなんだろうと思っていた。まさか、誰が停止状態から一気に法定速度まで上がるなんて思うだろう。俺が一番思っていなかった。夕食時に突然転がるように倒れて発情した俺を、三人が慌てて抱き起こしてくれたまでは覚えている。
「真緒、真緒、」
「真緒ちゃん」
呼ばれてうっすら目を開ければ、俺を心配するように泰樹くんが顔を覗き込んでいて、後ろから宏樹が俺を抱きしめていた。
「――っ!!」
ぎゅっ……と俺の中心を握りしめられた。そのまま上下に扱かれると、ぐちゅりと水音がする。そこまで強く握られているわけではないのに、与えられる刺激は強すぎて思わず腰を浮かせて逃げようとすると、俺を抱きしめる宏樹の腕がさらにしまった。少しでも逃げようと両脚を閉じれば、すかさず泰樹くんが膝を掴んで大きく開脚させる。
「真緒ちゃんごめん。でも出さないと辛いままだから……」
泰樹くんは勃ち上がった俺のペニスにはまったく見向きもしない。ただ俺の脚が閉じないようにして、俺の眦に口づけて雫を吸い取ってくれている。
「ふ、ふたりのにおいがしない、うすいよ」
「……さっき抑制剤を打ったから」
「なんで、なんで、」
「真緒ちゃんのためだよ」
意味がわからない。
俺の大好きな匂いが微かにしかしなくて辛い。何で何で何で。
(ちが……俺が、ふたりは、ラットにならないようにって、だから)
舌打ちの音が耳元で聞こえる。
「二回出したくらいじゃ全然戻んねえな……」
「どんどん濃くなるね、いつもこう?」
「んなわけねえだろ。普段はガッツリ俺の匂い嗅がせてるから、ここまで強い発情してもすぐに終わるんだよ。……大体こんな急激なヒートは初めての時以来だと思う」
その口ぶりから、どうやら俺はもう既に何度か達した後なのだとわかった。
泰樹くんは俺のこの強い発情状態を見るのは初めてのはずだけど、至極冷静なその様子に俺はぼんやりと安堵した。こんな獣のような状態を見られて、もし泰樹くんに引かれでもしたら、俺は多分もう立ち直れないような気がする。
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