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税込み346円の幸せ
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「外、出たくないな……」
僕は1通の手紙を握りしめたまま、窓を眺めていた。
分厚い雲に覆われた空は、光を漏らさず、たくさんの雫を落としていた。
「はぁ……」
今日何回目かのため息も、僕の気持ちを置いてけぼりに、空に消えていく。
ただ、手の中の封筒は、ポストに食べられるのを心待ちにしているし、最近ご無沙汰のイヤホンも、外に連れ出してもらうのを楽しみにしている。
もう一度ため息をつき、上着を羽織った僕は、財布とイヤホンをポケットに、そして手紙と傘を両手に持ち、家を出る決心をした。
外は嫌いだ。特に人混み。
ショーウィンドウに映る猫背も、水たまりに映る暗い顔も、自分で見るのも嫌なのに、わざわざ人に見せる必要があるのだろうか?
そんな僕を元気づけるように、イヤホンはお気に入りの曲を流し続けていた。
イヤホンの頑張りもあり、5分程歩いて郵便ポストに辿り着いた。真っ赤な体は、ただ手紙を入れられるのを待っている。
どうせ餌をやるなら、ポストなんかよりも野良猫にあげたほうが、僕の為にはなるだろう。
それでも、目的を果てせた僕の心は、少し軽くなっていた。
僕は少し自分が誇らしかった。いつまでたってもご機嫌斜めで、ごねる空とは違い、しっかり目的を果たしたのだから。
自分の頑張りに感動した僕は、ご褒美をあげることにした。
目指すは最寄りのスーパーだ。中に入ると、たくさんの商品に見守られながら、僕は一直線にお菓子コーナーに向かった。
いつもは108円の12個入りのホワイトチョコ、と決めてあるのだが、今日はご褒美と言うことなので、少しお高めの、大好きなシリーズのチョコレートを2種類選ぶことにした。
レジを待ちながら、手の中のチョコレートに目をやる。
緑の箱はウォッカの入ったチョコで、食べると心が跳ねる。赤の箱はラムレーズンのチョコレートで、食べると心が踊り始める。
淹れたてのコーヒーも一緒だと尚良しだ。
ピッピッ。
軽快なリズムとともに、写し出される\346の数字。100円玉と少し汚れた10円玉を財布から追い出し、僕は店を出る。
空はまだ暗いままだったが、2つもお宝を装備した僕は、この上なく最強で、大好きな音楽に包まれながら歩くと、涙なんて気にもならず、軽快な足取りで僕は家を目指すのだった。
たった500円にも満たないお金で、僕の幸せは手に入る。それも、家から歩いて10分もかからない程の距離で。
きっとアラブの石油王は驚くだろう。
「君は安い人間だ!」
なんて言うかもしれない。だけど僕は、そんなこと気にしない。
だって僕は今、最高に幸せだからね。
僕は1通の手紙を握りしめたまま、窓を眺めていた。
分厚い雲に覆われた空は、光を漏らさず、たくさんの雫を落としていた。
「はぁ……」
今日何回目かのため息も、僕の気持ちを置いてけぼりに、空に消えていく。
ただ、手の中の封筒は、ポストに食べられるのを心待ちにしているし、最近ご無沙汰のイヤホンも、外に連れ出してもらうのを楽しみにしている。
もう一度ため息をつき、上着を羽織った僕は、財布とイヤホンをポケットに、そして手紙と傘を両手に持ち、家を出る決心をした。
外は嫌いだ。特に人混み。
ショーウィンドウに映る猫背も、水たまりに映る暗い顔も、自分で見るのも嫌なのに、わざわざ人に見せる必要があるのだろうか?
そんな僕を元気づけるように、イヤホンはお気に入りの曲を流し続けていた。
イヤホンの頑張りもあり、5分程歩いて郵便ポストに辿り着いた。真っ赤な体は、ただ手紙を入れられるのを待っている。
どうせ餌をやるなら、ポストなんかよりも野良猫にあげたほうが、僕の為にはなるだろう。
それでも、目的を果てせた僕の心は、少し軽くなっていた。
僕は少し自分が誇らしかった。いつまでたってもご機嫌斜めで、ごねる空とは違い、しっかり目的を果たしたのだから。
自分の頑張りに感動した僕は、ご褒美をあげることにした。
目指すは最寄りのスーパーだ。中に入ると、たくさんの商品に見守られながら、僕は一直線にお菓子コーナーに向かった。
いつもは108円の12個入りのホワイトチョコ、と決めてあるのだが、今日はご褒美と言うことなので、少しお高めの、大好きなシリーズのチョコレートを2種類選ぶことにした。
レジを待ちながら、手の中のチョコレートに目をやる。
緑の箱はウォッカの入ったチョコで、食べると心が跳ねる。赤の箱はラムレーズンのチョコレートで、食べると心が踊り始める。
淹れたてのコーヒーも一緒だと尚良しだ。
ピッピッ。
軽快なリズムとともに、写し出される\346の数字。100円玉と少し汚れた10円玉を財布から追い出し、僕は店を出る。
空はまだ暗いままだったが、2つもお宝を装備した僕は、この上なく最強で、大好きな音楽に包まれながら歩くと、涙なんて気にもならず、軽快な足取りで僕は家を目指すのだった。
たった500円にも満たないお金で、僕の幸せは手に入る。それも、家から歩いて10分もかからない程の距離で。
きっとアラブの石油王は驚くだろう。
「君は安い人間だ!」
なんて言うかもしれない。だけど僕は、そんなこと気にしない。
だって僕は今、最高に幸せだからね。
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