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第五章 鎧騎士として
第二十九話
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悠斗達は、自宅に到着するとすぐさま行動を開始する。
沙耶香はいつでも発進できるよう車内で待機。にこ人はユニ救出に必要な物を車内に持ち込むと、首都近郊の山中にある廃屋同然の別荘を借りる。もちろん作戦の拠点にするためだ。
別荘の周辺には人家がなく、訓練場として使える広い庭があるので好都合であった。
滝口の召集を受けて、各地から協力者が到着する。
彼らがそのまま別荘へ向かうと、さすがに目立ってしまうため、いったん分散して近隣地区へ向かい、そこから目立たぬよう徒歩でやって来るよう指示が与えられた。
「滝口総監、お久しぶりです!」
「岡島、元気だったか?」
「こんな老人を呼ぶとは、随分と人使いが荒いな、滝口よ」
「何を言うんですか松沢さん。あなたはまだ現役でしょ」
「おい、滝口! 久々に連絡を寄越しやがって! またろくでもない事おっぱじめる気なんだろう⁉︎」
「安心しろ角谷。お前にお似合いな舞台を用意してある」
久々に再会した旧友たち。その一人ひとりを歓迎する滝口。
呼ばれた者たちは年齢がバラバラだ。如何にも軍人然とした者もいるが、武器を持って戦場を駆ける姿が想像できない青年や、スキンヘッドの巨漢など、様々な人間がいる。
「あの人たちは、滝口総監とチームを組んでた人なのよ」
「チーム? なんのですか?」
「強盗に人質犯といった暴徒鎮圧といった、対人制圧に特化した特殊部隊よ。今回の作戦に、彼ら以上の適任はいないわ」
たしかに、作戦前だというのに旧友との再会を喜べる余裕を持てるのは強者の証拠だ。
見た目こそ千差万別な男たちだが、全員共通しているのが、誰もが滝口に対して深い敬意を寄せていることだ。そして滝口もまた、そんな彼らを信頼していることが窺える。
彼らの関係は、一般の軍隊のような上下ではなく、強い絆で結ばれた仲間同士といった様子であった。それ故、交わされる会話もフランクだ。
例えば──
「紹介しよう。彼が今回の司令塔の柏木悠斗くんだ」
滝口がそう紹介した途端、察しの良い兵たちは、
「おー、また滝口の悪い癖が出たな」
「困ってる奴を見かけたら誰ふり構わず助けるお人好しめ。全く変わっとらんな」
「アンタら……悠斗くん、構わん。死ぬほどこき使ってやりなさい!」
──と、こんな具合である。
いつのまにか巻き込まれている事に苦笑していると、遅れて黒スーツ姿の男性が別荘に入ってきた。
全員が警戒し振り向く中、その男は口を開いた。
「遅れて申し訳ありません、滝口総監殿。例の物の調達に手間取ってしまいました」
片膝立ちになり、総監に頭を下げる男性。
「気にするな。よく来てくれたな、佐藤くん」
「当然です。総監のお声がけもさることながら、彼の恩義に報いる機会を与えて下さり、光栄の限りでございます」
堅苦しい言葉の後に、佐藤を名乗る男は悠斗に歩み寄り、握手を求めてきた。
「はじめまして……ではないが、こうして顔を合わせるのは初めてだね、柏木くん」
「……すいません、どこかでお会いしましたか?」
丁寧な挨拶をされて申し訳ないが、こんな男と会った記憶はない。
滝口の旧友よりも若く、まだ若々しい青年は、どういうわけか微笑みながら見つめてくる。
俺は助けを求めるように隣の沙耶香に目線を送る。
すると全てを察した沙耶香が、耳元で呟いた。
「彼は、あなたに助けられた部隊の司令よ」
「俺が助けた部隊……ありましたっけ?」
「覚えてない? 不当逮捕された時よ」
不当逮捕された日はたしか、公園に現れた戦車悪鬼と戦った日であり、悪鬼との戦いの変化点だ。
そういえば、あの時周りに倒れてる人が何人かいた。あと公園に入る前に変な装甲車が駐車されていた。
「佐藤篤史と言う。君のお陰で、私の隊から死亡者が出ることはなかった。本当にありがとう」
「気にしないでください。困った時はお互い様ですから」
実際、困ってる俺に手を貸してくれるのだから、頭を下げたいのはこっちの方だ。
「事情は滝口総監殿から聞いている。今回の件は君個人の願いだとね」
「軽蔑しますか? あなた方を助けた鎧騎士が、個人的な理由で警察を動かした事を?」
「いいや、むしろ尊敬している。少女を救うためならば誇りもプライドも捨てる覚悟。例え勝算がなくても、私はここに来ただろう」
「佐藤さん……」
佐藤の覚悟と決意に満ち溢れた顔つきを見た瞬間、悠斗は悟った。この人は信用できると。
俺は佐藤が差し出した手を強く握り返し、微笑みながら言った。
「頼りにしてますよ、佐藤さん」
「篤史でいいし、タメ口で構わんよ」
「分かった。じゃあ、俺のことも悠斗でいいよ」
「了解だ悠斗」
出会って数分で呼び捨てる仲になった二人を見て、周りが何故か笑っているのが気になる。
「それで、悠斗くん。全員集まったが、これで足りるのかい?」
滝口の問いにはっきりと答えた。
「人員は充分なのですが、まだ問題が」
「武器のことなら心配いらんぞ」
俺の思考を読んだかのように、老人の松沢が横槍を入れてきた。
「昔のツテを使えば簡単に調達できる。既に全員分の武器が集まっておる」
「ありがとうございます。これでユニちゃんを救え手立ては全て揃いました」
人員、武器は解決した。残った問題だが、こればかりは自分で解決しなければいけない。
ユニを救うに当たって、北条との対決は避けられない。
駒を複数使った悪鬼──アンタレスを倒すのは一筋縄ではいかない。厄介な特性『再生』と双闘形態と互角のスペック。
──奴の相手は彼らには任せられない。奴との因縁は、俺自身が決着をつける。その為なら、俺は……。
懐に潜り込ませた駒を握り締める。
「それじゃ悠斗くん。そろそろ」
「分かってます」
携帯を自宅から持ち込んだパソコンに繋ぎ、北条から送られてきた座標から場所の特定が進められる。パソコンはユニが自作している為、一般販売されてる物よりも高性能であり、ある程度の特定機能を備えている為か、すぐに首都近郊の航空写真が表示される。
そこは湖の周囲に広がる樹海の中。繁茂する樹木が邪魔で、建物があるのかさえ判別がつかない位置だ。
「この画像ではわからんな」
「慌てないで」
沙耶香の操作で航空写真の上にウィンドウが開き、樹海の中で撮影された写真が映し出された。
建設現場でよく見る、金属製の白いパネルが樹海の中にズラリと立ち並び、その内部を周囲から隠している。
建設現場にしてはパネルの周囲が整いすぎているし、その上から覗いた無数の監視カメラが物々しい。
画像は様々な方向から何枚も撮られており、樹木との対比からパネルが囲んでいる敷地は、およそ一辺が三○○メートル程度の正方形だと分かる。
「想像以上に規模が大きい……」
「見て、この写真。囲いの内側が見えてる」
何十枚目かの画像。トラックを敷地内へ入れるため、パネルの一部が左右に開かれ、そこから内部が覗いていた。
思わず画面へ顔を近づける悠斗。
未舗装の地面なプレハブ建築が立ち並び、その周囲に多くの人影が見える。
「兵士だ」
彼らは皆、兵士の駒によって生み出される下級の悪鬼だ。呪力で構成された人形で、意思を持ち合わせない、中級の悪鬼が使役する雑兵。
この画像に写っている兵士たちもまた、伊澤か北条のどちらかが従える兵に違いない。
「これは警備員ってことか」
さらに数枚ほど画像を切り替えると、兵士たちに混じって、戦闘服に身を包みライフルを肩から下げた者の姿も写っている。
「姿勢から見て、訓練を受けた者ね」
「なんでそんな人たちが?」
「恐らく傭兵だ。非合法ルートでこの国に入ってきた連中を、敵は雇ったんだろう」
画像で確認できるだけでも、六人の傭兵が施設の中にいた。
秘密の施設であれば、傭兵が頻繁に出入りするのは避けるはず。とすれば、交代要員も含め、かなり多くの兵が敷地内に常駐していると考えるべきだろう。
「少々厄介だな」
なるべく無駄な戦闘は避け、ユニを助けたい──悠斗はそう考えていたが、武装した傭兵に兵士が配備されているとなると加減をして戦うのは難しい。
さらに、どこかに潜んでいる伊澤が鎧騎士に変身して挑んでくればなおさらだ。
しかし、ここで躊躇していては──思案する悠斗。
「まだまだ甘いな、坊主」
「なに?」
画面から顔をあげ、声の主──角谷を睨む。
「状況が分かってるんですか? 敵は予想以上の戦力を要しているんだから、慎重に行動するべきだと」
「お前の目的はなんだ?」
「決まってるでしょ。ユニちゃんを助けることです」
「その通りだが、このままでは難しい。施設内の連中が邪魔だからな」
「だから、中の連中を消すというわけじゃな」
角谷に続いて、松沢が口を挟む。
「そんなことが可能なのですか?」
松沢の言葉に驚く悠斗。
別荘に集まった人員は七人で、いくら過半数が歴戦のベテランぞろいとはいえ、敵の戦力の方が圧倒的に多い。
「確かに敵を殲滅するには戦力不足だが、お主の目的は人質の救出のはずじゃ。上手くやれば何とかなるわ」
松沢は隣部屋に行くと、大きなアルミ製のケースを持って帰ってきた。
「九七式自動砲じゃ」
開かれたケースの中には、鉄の塊という印象の銃器が入っていた。
「これ、使えるんですか?」
薄っすらと赤錆びた対戦車ライフルの銃身を、悠斗は撫でる。
「最新の狙撃用スコープを装着できるよう改造済みじゃ。骨董品だが、威力は絶大。これならパネル越しに敵をぶっ飛ばせる」
悪鬼といえど無敵というわけではない。特に下級は唯一生身の人間でも勝てる相手だ。
悠斗が考えた作戦はこうだ──。
敵の居場所は既に分かっているから、約束の時間と同時に遠距離から狙撃、敵を撃滅する。
「二十ミリの九七式で悪鬼を、十二・七ミリのM82で傭兵を狙撃。悪鬼の反撃を喰らう前に、市内各所に用意した隠れ家へ撤収。後は万が一撃ち漏らして場合を考えて、追いかけてきた悪鬼を誘い込むトラップゾーンを作れば……十分いけると思います」
「君がやれると言うのなら信じよう。ただひとつ確認したい」
「なんでしょうか?」
「今の作戦では、半分を狙撃側に回す必要がある」
「はい。狙撃にはバックアップも必要だし、彼らを守って退路を確保する人間も必要です。集めた兵員のほぼ全てを、敵の陽動へ向かわせます」
「アジトへの攻撃はどうするつもりだ?」
「残った人員が向かうことになります」
「元から少ないのに、更に減らすのか……?」
「目的は人質の救出です。ならば少数で迅速に行動するべきです。そしてそれは、俺と篤史で向かいます」
悠斗はそう言うと、獰猛な笑みを浮かべた。
沙耶香はいつでも発進できるよう車内で待機。にこ人はユニ救出に必要な物を車内に持ち込むと、首都近郊の山中にある廃屋同然の別荘を借りる。もちろん作戦の拠点にするためだ。
別荘の周辺には人家がなく、訓練場として使える広い庭があるので好都合であった。
滝口の召集を受けて、各地から協力者が到着する。
彼らがそのまま別荘へ向かうと、さすがに目立ってしまうため、いったん分散して近隣地区へ向かい、そこから目立たぬよう徒歩でやって来るよう指示が与えられた。
「滝口総監、お久しぶりです!」
「岡島、元気だったか?」
「こんな老人を呼ぶとは、随分と人使いが荒いな、滝口よ」
「何を言うんですか松沢さん。あなたはまだ現役でしょ」
「おい、滝口! 久々に連絡を寄越しやがって! またろくでもない事おっぱじめる気なんだろう⁉︎」
「安心しろ角谷。お前にお似合いな舞台を用意してある」
久々に再会した旧友たち。その一人ひとりを歓迎する滝口。
呼ばれた者たちは年齢がバラバラだ。如何にも軍人然とした者もいるが、武器を持って戦場を駆ける姿が想像できない青年や、スキンヘッドの巨漢など、様々な人間がいる。
「あの人たちは、滝口総監とチームを組んでた人なのよ」
「チーム? なんのですか?」
「強盗に人質犯といった暴徒鎮圧といった、対人制圧に特化した特殊部隊よ。今回の作戦に、彼ら以上の適任はいないわ」
たしかに、作戦前だというのに旧友との再会を喜べる余裕を持てるのは強者の証拠だ。
見た目こそ千差万別な男たちだが、全員共通しているのが、誰もが滝口に対して深い敬意を寄せていることだ。そして滝口もまた、そんな彼らを信頼していることが窺える。
彼らの関係は、一般の軍隊のような上下ではなく、強い絆で結ばれた仲間同士といった様子であった。それ故、交わされる会話もフランクだ。
例えば──
「紹介しよう。彼が今回の司令塔の柏木悠斗くんだ」
滝口がそう紹介した途端、察しの良い兵たちは、
「おー、また滝口の悪い癖が出たな」
「困ってる奴を見かけたら誰ふり構わず助けるお人好しめ。全く変わっとらんな」
「アンタら……悠斗くん、構わん。死ぬほどこき使ってやりなさい!」
──と、こんな具合である。
いつのまにか巻き込まれている事に苦笑していると、遅れて黒スーツ姿の男性が別荘に入ってきた。
全員が警戒し振り向く中、その男は口を開いた。
「遅れて申し訳ありません、滝口総監殿。例の物の調達に手間取ってしまいました」
片膝立ちになり、総監に頭を下げる男性。
「気にするな。よく来てくれたな、佐藤くん」
「当然です。総監のお声がけもさることながら、彼の恩義に報いる機会を与えて下さり、光栄の限りでございます」
堅苦しい言葉の後に、佐藤を名乗る男は悠斗に歩み寄り、握手を求めてきた。
「はじめまして……ではないが、こうして顔を合わせるのは初めてだね、柏木くん」
「……すいません、どこかでお会いしましたか?」
丁寧な挨拶をされて申し訳ないが、こんな男と会った記憶はない。
滝口の旧友よりも若く、まだ若々しい青年は、どういうわけか微笑みながら見つめてくる。
俺は助けを求めるように隣の沙耶香に目線を送る。
すると全てを察した沙耶香が、耳元で呟いた。
「彼は、あなたに助けられた部隊の司令よ」
「俺が助けた部隊……ありましたっけ?」
「覚えてない? 不当逮捕された時よ」
不当逮捕された日はたしか、公園に現れた戦車悪鬼と戦った日であり、悪鬼との戦いの変化点だ。
そういえば、あの時周りに倒れてる人が何人かいた。あと公園に入る前に変な装甲車が駐車されていた。
「佐藤篤史と言う。君のお陰で、私の隊から死亡者が出ることはなかった。本当にありがとう」
「気にしないでください。困った時はお互い様ですから」
実際、困ってる俺に手を貸してくれるのだから、頭を下げたいのはこっちの方だ。
「事情は滝口総監殿から聞いている。今回の件は君個人の願いだとね」
「軽蔑しますか? あなた方を助けた鎧騎士が、個人的な理由で警察を動かした事を?」
「いいや、むしろ尊敬している。少女を救うためならば誇りもプライドも捨てる覚悟。例え勝算がなくても、私はここに来ただろう」
「佐藤さん……」
佐藤の覚悟と決意に満ち溢れた顔つきを見た瞬間、悠斗は悟った。この人は信用できると。
俺は佐藤が差し出した手を強く握り返し、微笑みながら言った。
「頼りにしてますよ、佐藤さん」
「篤史でいいし、タメ口で構わんよ」
「分かった。じゃあ、俺のことも悠斗でいいよ」
「了解だ悠斗」
出会って数分で呼び捨てる仲になった二人を見て、周りが何故か笑っているのが気になる。
「それで、悠斗くん。全員集まったが、これで足りるのかい?」
滝口の問いにはっきりと答えた。
「人員は充分なのですが、まだ問題が」
「武器のことなら心配いらんぞ」
俺の思考を読んだかのように、老人の松沢が横槍を入れてきた。
「昔のツテを使えば簡単に調達できる。既に全員分の武器が集まっておる」
「ありがとうございます。これでユニちゃんを救え手立ては全て揃いました」
人員、武器は解決した。残った問題だが、こればかりは自分で解決しなければいけない。
ユニを救うに当たって、北条との対決は避けられない。
駒を複数使った悪鬼──アンタレスを倒すのは一筋縄ではいかない。厄介な特性『再生』と双闘形態と互角のスペック。
──奴の相手は彼らには任せられない。奴との因縁は、俺自身が決着をつける。その為なら、俺は……。
懐に潜り込ませた駒を握り締める。
「それじゃ悠斗くん。そろそろ」
「分かってます」
携帯を自宅から持ち込んだパソコンに繋ぎ、北条から送られてきた座標から場所の特定が進められる。パソコンはユニが自作している為、一般販売されてる物よりも高性能であり、ある程度の特定機能を備えている為か、すぐに首都近郊の航空写真が表示される。
そこは湖の周囲に広がる樹海の中。繁茂する樹木が邪魔で、建物があるのかさえ判別がつかない位置だ。
「この画像ではわからんな」
「慌てないで」
沙耶香の操作で航空写真の上にウィンドウが開き、樹海の中で撮影された写真が映し出された。
建設現場でよく見る、金属製の白いパネルが樹海の中にズラリと立ち並び、その内部を周囲から隠している。
建設現場にしてはパネルの周囲が整いすぎているし、その上から覗いた無数の監視カメラが物々しい。
画像は様々な方向から何枚も撮られており、樹木との対比からパネルが囲んでいる敷地は、およそ一辺が三○○メートル程度の正方形だと分かる。
「想像以上に規模が大きい……」
「見て、この写真。囲いの内側が見えてる」
何十枚目かの画像。トラックを敷地内へ入れるため、パネルの一部が左右に開かれ、そこから内部が覗いていた。
思わず画面へ顔を近づける悠斗。
未舗装の地面なプレハブ建築が立ち並び、その周囲に多くの人影が見える。
「兵士だ」
彼らは皆、兵士の駒によって生み出される下級の悪鬼だ。呪力で構成された人形で、意思を持ち合わせない、中級の悪鬼が使役する雑兵。
この画像に写っている兵士たちもまた、伊澤か北条のどちらかが従える兵に違いない。
「これは警備員ってことか」
さらに数枚ほど画像を切り替えると、兵士たちに混じって、戦闘服に身を包みライフルを肩から下げた者の姿も写っている。
「姿勢から見て、訓練を受けた者ね」
「なんでそんな人たちが?」
「恐らく傭兵だ。非合法ルートでこの国に入ってきた連中を、敵は雇ったんだろう」
画像で確認できるだけでも、六人の傭兵が施設の中にいた。
秘密の施設であれば、傭兵が頻繁に出入りするのは避けるはず。とすれば、交代要員も含め、かなり多くの兵が敷地内に常駐していると考えるべきだろう。
「少々厄介だな」
なるべく無駄な戦闘は避け、ユニを助けたい──悠斗はそう考えていたが、武装した傭兵に兵士が配備されているとなると加減をして戦うのは難しい。
さらに、どこかに潜んでいる伊澤が鎧騎士に変身して挑んでくればなおさらだ。
しかし、ここで躊躇していては──思案する悠斗。
「まだまだ甘いな、坊主」
「なに?」
画面から顔をあげ、声の主──角谷を睨む。
「状況が分かってるんですか? 敵は予想以上の戦力を要しているんだから、慎重に行動するべきだと」
「お前の目的はなんだ?」
「決まってるでしょ。ユニちゃんを助けることです」
「その通りだが、このままでは難しい。施設内の連中が邪魔だからな」
「だから、中の連中を消すというわけじゃな」
角谷に続いて、松沢が口を挟む。
「そんなことが可能なのですか?」
松沢の言葉に驚く悠斗。
別荘に集まった人員は七人で、いくら過半数が歴戦のベテランぞろいとはいえ、敵の戦力の方が圧倒的に多い。
「確かに敵を殲滅するには戦力不足だが、お主の目的は人質の救出のはずじゃ。上手くやれば何とかなるわ」
松沢は隣部屋に行くと、大きなアルミ製のケースを持って帰ってきた。
「九七式自動砲じゃ」
開かれたケースの中には、鉄の塊という印象の銃器が入っていた。
「これ、使えるんですか?」
薄っすらと赤錆びた対戦車ライフルの銃身を、悠斗は撫でる。
「最新の狙撃用スコープを装着できるよう改造済みじゃ。骨董品だが、威力は絶大。これならパネル越しに敵をぶっ飛ばせる」
悪鬼といえど無敵というわけではない。特に下級は唯一生身の人間でも勝てる相手だ。
悠斗が考えた作戦はこうだ──。
敵の居場所は既に分かっているから、約束の時間と同時に遠距離から狙撃、敵を撃滅する。
「二十ミリの九七式で悪鬼を、十二・七ミリのM82で傭兵を狙撃。悪鬼の反撃を喰らう前に、市内各所に用意した隠れ家へ撤収。後は万が一撃ち漏らして場合を考えて、追いかけてきた悪鬼を誘い込むトラップゾーンを作れば……十分いけると思います」
「君がやれると言うのなら信じよう。ただひとつ確認したい」
「なんでしょうか?」
「今の作戦では、半分を狙撃側に回す必要がある」
「はい。狙撃にはバックアップも必要だし、彼らを守って退路を確保する人間も必要です。集めた兵員のほぼ全てを、敵の陽動へ向かわせます」
「アジトへの攻撃はどうするつもりだ?」
「残った人員が向かうことになります」
「元から少ないのに、更に減らすのか……?」
「目的は人質の救出です。ならば少数で迅速に行動するべきです。そしてそれは、俺と篤史で向かいます」
悠斗はそう言うと、獰猛な笑みを浮かべた。
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