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四章 暴かれる真相
第二十四話
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恐るべき跳躍力で飛びかかってくるサソリ悪鬼の一撃を、間一髪で避ける鎧騎士。身をかわすのと同時に、左の剣『シュバリエ』で斬りかかる。
「このぉ!」
鎧騎士の猛攻。怒涛の連撃がサソリ悪鬼を斬りつける。
反撃できず後ずさるだけのサソリ悪鬼に、必殺のクロス斬りが炸裂する……。
「何⁉︎」
だがその瞬間、サソリ悪鬼の身体が分散し、鎧騎士の一撃をすり抜ける。
群れは鎧騎士の真後ろで再び集まり、サソリ悪鬼に戻る。背後からの不意打ちを喰らい、鎧騎士は吹き飛ばされた。
「野郎……厄介な真似を」
何事もなく立ち上がり、一人ごちる。
──あの様子じゃまとめて吹き飛ばすしかない。
「だったら」
剣型小型デバイスを外し、双闘形態を解除。次に騎士を戦車に変え、短期戦型鎧・戦車に鎧変化する。
「ほう……戦車の火力でまとめて焼き払うつもりか」
離れから拓実の声が聞こえるが、今は無視する。
両肩の大砲を外し、グリップを握る。
「お前に構ってる暇はないんだ……」
弾丸を『散弾』に切り替え、駒を二回押し込む。
下半身が魔法陣に包まれる。魔法陣が内側から四散すると、戦車の様な姿に変貌した下半身が露わになる。
まず散弾となった砲台でサソリ悪鬼を足留め、一気に接近する。
至近距離まで近づくと砲台を両肩に戻し、サソリ悪鬼に殴りかかる。
鎧騎士とサソリ悪鬼の攻防が続く。激しい格闘戦の末、鎧騎士の右ストレートがサソリ悪鬼をよろめかせた。
「いまだ!」
格闘戦の間、両肩のエネルギーチャージは完了していた。
ブレスレットのボタンを押し、駒を押し倒す。システム音声が鳴り響く。
『必殺技・陸亀砲火』
「喰らえッ!」
二門の大砲から放たれた強力なエネルギー弾が亀となってサソリ怪人を撃つ。
苦痛にあえぐサソリ悪鬼の身体が虫の群れとなって逃れようとするが……。
「させるか!」
戦車の駒を、予め忍ばせていた僧侶の駒と入れ替える。魔法陣から鎧となったキュウビが現れ、剥がれる戦車と変わって装着される。長期戦型鎧・僧侶に鎧変化する。
すかさず形態変化し、駒を押し倒す。
『必殺技・天狐の咆哮』
九つの尾から放たれる無数のレーザーが虫の群れを一匹ずつ焼失させる。
レーザーの熱線に身を焼かれ、サソリ悪鬼が爆発する。
肉体から逃れようとしていた虫たちも爆炎に呑み込まれ、一匹残らず焼き尽くされた。
「なんだよ、大したことないじゃないか」
得意げに言いながら周囲を見渡すも、特に異常はない。
「見事……と言っておこうか」
サソリ悪鬼の最後を傍観していた拓実が、軽快な拍手を送ってくる。
「駒の特性を上手く使いこなす抜群な戦闘センス。多くの悪鬼を仕留めてきた経験が、君をそこまで強くしていると言っても過言ではないね」
「だからなんだよ」
「だがね、それじゃ駄目だ。彼を今までのと同列に扱えば痛い目では済まんぞ……?」
拓実の言葉に首を傾げた、次の瞬間──。
背後からの不意打ちが、悠斗を襲う。
「ウッ……!」
熱い痛みが体に走り、悠斗は膝をついた。背後に視線をやると、そこには倒したはずのサソリ悪鬼が立っていた。
「お前は、たしかに倒したはず……⁉︎」
そこで、サソリ悪鬼の姿がわずかに変わっていることに気付く。先程は何もついていなかった両手が鋭いハサミに変わっている。
サソリ悪鬼は突き刺した長い尾を抜き、そのまま尾で横殴りする。
まるで鉄球の様な打撃を両足の踏ん張りで耐え、すぐに振り向く。
しかし、その頃には既にサソリ悪鬼はゼロ距離まで近づいており、悠斗の腹部をハサミで挟んでいた。
両脇から全身へと走る悪寒。
──殺られる‼︎
瞬時に悟った悠斗は、形態変化を解除。戻ってきた鉄扇をハサミと脇の隙間に挿し、サソリ悪鬼を蹴って拘束から逃れる。
「今のを避けるとはね。やはり君は、私たちの計画で一番の障害だ。何があってもここで排除しなければな」
背後からの殺気。
今度は振り向く暇もなく、背中に伝わる熱い痛み。
「がはッ!」
うめき、よろめく鎧騎士。
それを見据える、黒の鎧騎士とサソリ悪鬼。
「お前ら……汚い手を」
「戦いに綺麗汚いはない。勝てば正義。負ければ悪、それだけだ」
同時に襲い掛かる拓実と悪鬼。辛うじて捌き、躱す悠斗だが、二人の攻撃を完全に防げず、徐々に消耗していく。
他の鎧よりも防御力が劣る僧侶では勝ち目はない。サソリ悪鬼を倒すために鎧変化したのが仇となっている。
同時攻撃によって体勢が崩れると、拓実と悪鬼が飛び上がり、拓実は右脚に、悪鬼は長い尾に溜めたエネルギーを叩き込んだ。
「ウワアアッ!」
渾身の一撃を受けて吹っ飛んだ悠斗は、廃工場の壁に猛烈な勢いで叩きつけられる。
体中の骨が砕けるような音がした。負荷限界を迎えた鎧が砕けると、悠斗の体はズルズルと壁にもたれかかり、そのまま床にゴロリと転がった。
「哀れだな、柏木悠斗」
悠斗の襟首を掴んで持ち上げる拓実は、今まで溜めてきた鬱屈をすべて吐き出すかのように殴り、突き、裂き、蹂躙した。そして、空中高く放り投げると、バランスを失いもがく悠斗の体に必殺のキックを叩き込んだ。
「ごふッ……」
血と共に吐き出される、悲痛の声。
「己の甘さに殺されるとは……笑える」
先程と立場が入れ替わり、床に倒れる悠斗を踏みつける拓実。
「伊澤……拓実」
頭上に見える憎き敵を睨みながらうめくも、拓実は意に介さずに、踏みつける足に力を込める。
骨が軋む感覚が背中を伝い、その度に鈍痛が全身を襲う。肺を抑えつけられているせいか呼吸も難しく、息苦しさと相まって視界がボヤける。
だが悠斗は、未だに解せない点を知るために声を絞り出した。
「一体なんだ。あの悪鬼は……」
「ほぅ……まだ声を出す気力があるとはな」
拓実は感心するように頷くと足を退け、脇腹の下から蹴り上げて身を反転させた。
視界には、こちらを見下ろす黒の鎧騎士とサソリ悪鬼が映る。
「いいだろう。冥土の土産に教えてやる。彼は膨大な欲望を糧に生まれた最強にして最高の悪鬼でね。我々は『アンタレス』と呼んている」
アンタレス……星座の蠍座で最も明るい恒星で有名な天体の名前。たしかに悪鬼の姿はサソリを模している。
「アンタレスは普通の悪鬼とは違う。なんと彼は、駒を複数個使っている」
「なんだと……」
駒の同時使用。鎧騎士・双闘形態と同じだと言うのか。
しかし、悪鬼はブレスレットなしだ。複数の呪力を無理やり体内に入れていることになる。そんな事をすれば、体は内側から壊されてしまう。
「彼がアンタレスと呼ばれる理由は姿が似ているだけではない。その特性にある」
「特性だと……?」
特性とは、駒の呪力に備わる性質のことだ。騎士の特性が『中立』であり、僧侶の特性が『精密』であるように、駒によって特性は分かれている。
無論、悪鬼にも使われた駒によって特性が分かれる。
「星はその命終え砕け散りてもまた新たな星を生む。星間雲が超新星爆発の衝撃波による引力に引っ張られ、収縮する事でまた活動するように、彼もまた新たなる生命を得て生まれ変わった」
「まさか、それって……」
拓実の言わんとしてる事が、なんとなく掴めてきた。
サソリ悪鬼が他の悪鬼と違う理由……倒したはずが、さらに強くなって戻ってきたのは──。
「アンタレスの特性は『再生』……やられても生き返ると言うことか?」
にわかに信じがたい答えを、拓実は食い気味に頷き肯定した。
「その通り。複数の呪力が絡み合う事で生まれたその特性は凄まじく、彼は倒される度に強くなって生き返る。粉々に砕けようとも、身を焼失しようとも再生する姿はまるで星。故にアンタレス。故に最強なのだよ」
興奮気味に言う拓実を横目に、悠斗はアンタレスを睨んだ。
──そんな馬鹿げた話があるものか。
悠斗はそう心の中で必死に否定した。
いくら悪鬼が人智を越えた怪物とは言え、死なない存在ではない。呪力による攻撃を受け続ければ消滅する。
と、全力で否定したいが、サソリ悪鬼は実際に蘇っている上、比べ物にならないほど強くなっている。
だが、希望がないわけではない。
仮に無敵の存在だとしても、やがて依代からの欲望の配給が途絶え、悪鬼は活動を停止する。その隙を突けば勝機はある。
獲物を狙い定めるようにアンタレスを睨むと、不意に拓実が言った。
「倒しても意味がない。となれば当然、悪鬼の活動停止を狙うのが定石だが、その点も抜かりない」
まるで悠斗の思考を読んだかのような台詞に、一瞬息を呑む。
「彼ほど欲深い人間はそう多くはいまい。だからこそ、複数の駒を使ってなお意識を保てている」
アンタレスを見ながら言う。
「よければ紹介しよう。と言いたいが無意味だね」
「どういう意味だ?」
悠斗の返しを一笑に付すと、アンタレスの全身に黒い靄が立ち昇る。変身を解除しているのだ。
「簡単な話さ。君は彼を知っているからだ」
「俺の……知り合い?」
「知り合いなんてレベルじゃない」
黒い靄が徐々に晴れていく。
「彼は君の人生を変えた男さ……」
拓実の発言と、靄からわずかに見えた目元の傷を見た瞬間、心臓の鼓動が一際強まった。
コイツは……この男は。
靄が晴れ、アンタレスの依代が姿を現す。
黒スーツ姿の痩身で無精髭をたくわえた三十代の男性。右目元には一本の傷跡が残っている。
悠斗は男の姿を目にした途端、あらゆる思考が消し飛んだ。
それほどまでの衝撃が、彼を襲ったのだ。
「お前は……」
怒りで震える唇を動かし、男に殺意の眼差しを向ける。
その姿を憐れみながら眺める拓実が、嘲笑うように言った。
「北条歩。八年前、君の両親を殺した男だ」
「このぉ!」
鎧騎士の猛攻。怒涛の連撃がサソリ悪鬼を斬りつける。
反撃できず後ずさるだけのサソリ悪鬼に、必殺のクロス斬りが炸裂する……。
「何⁉︎」
だがその瞬間、サソリ悪鬼の身体が分散し、鎧騎士の一撃をすり抜ける。
群れは鎧騎士の真後ろで再び集まり、サソリ悪鬼に戻る。背後からの不意打ちを喰らい、鎧騎士は吹き飛ばされた。
「野郎……厄介な真似を」
何事もなく立ち上がり、一人ごちる。
──あの様子じゃまとめて吹き飛ばすしかない。
「だったら」
剣型小型デバイスを外し、双闘形態を解除。次に騎士を戦車に変え、短期戦型鎧・戦車に鎧変化する。
「ほう……戦車の火力でまとめて焼き払うつもりか」
離れから拓実の声が聞こえるが、今は無視する。
両肩の大砲を外し、グリップを握る。
「お前に構ってる暇はないんだ……」
弾丸を『散弾』に切り替え、駒を二回押し込む。
下半身が魔法陣に包まれる。魔法陣が内側から四散すると、戦車の様な姿に変貌した下半身が露わになる。
まず散弾となった砲台でサソリ悪鬼を足留め、一気に接近する。
至近距離まで近づくと砲台を両肩に戻し、サソリ悪鬼に殴りかかる。
鎧騎士とサソリ悪鬼の攻防が続く。激しい格闘戦の末、鎧騎士の右ストレートがサソリ悪鬼をよろめかせた。
「いまだ!」
格闘戦の間、両肩のエネルギーチャージは完了していた。
ブレスレットのボタンを押し、駒を押し倒す。システム音声が鳴り響く。
『必殺技・陸亀砲火』
「喰らえッ!」
二門の大砲から放たれた強力なエネルギー弾が亀となってサソリ怪人を撃つ。
苦痛にあえぐサソリ悪鬼の身体が虫の群れとなって逃れようとするが……。
「させるか!」
戦車の駒を、予め忍ばせていた僧侶の駒と入れ替える。魔法陣から鎧となったキュウビが現れ、剥がれる戦車と変わって装着される。長期戦型鎧・僧侶に鎧変化する。
すかさず形態変化し、駒を押し倒す。
『必殺技・天狐の咆哮』
九つの尾から放たれる無数のレーザーが虫の群れを一匹ずつ焼失させる。
レーザーの熱線に身を焼かれ、サソリ悪鬼が爆発する。
肉体から逃れようとしていた虫たちも爆炎に呑み込まれ、一匹残らず焼き尽くされた。
「なんだよ、大したことないじゃないか」
得意げに言いながら周囲を見渡すも、特に異常はない。
「見事……と言っておこうか」
サソリ悪鬼の最後を傍観していた拓実が、軽快な拍手を送ってくる。
「駒の特性を上手く使いこなす抜群な戦闘センス。多くの悪鬼を仕留めてきた経験が、君をそこまで強くしていると言っても過言ではないね」
「だからなんだよ」
「だがね、それじゃ駄目だ。彼を今までのと同列に扱えば痛い目では済まんぞ……?」
拓実の言葉に首を傾げた、次の瞬間──。
背後からの不意打ちが、悠斗を襲う。
「ウッ……!」
熱い痛みが体に走り、悠斗は膝をついた。背後に視線をやると、そこには倒したはずのサソリ悪鬼が立っていた。
「お前は、たしかに倒したはず……⁉︎」
そこで、サソリ悪鬼の姿がわずかに変わっていることに気付く。先程は何もついていなかった両手が鋭いハサミに変わっている。
サソリ悪鬼は突き刺した長い尾を抜き、そのまま尾で横殴りする。
まるで鉄球の様な打撃を両足の踏ん張りで耐え、すぐに振り向く。
しかし、その頃には既にサソリ悪鬼はゼロ距離まで近づいており、悠斗の腹部をハサミで挟んでいた。
両脇から全身へと走る悪寒。
──殺られる‼︎
瞬時に悟った悠斗は、形態変化を解除。戻ってきた鉄扇をハサミと脇の隙間に挿し、サソリ悪鬼を蹴って拘束から逃れる。
「今のを避けるとはね。やはり君は、私たちの計画で一番の障害だ。何があってもここで排除しなければな」
背後からの殺気。
今度は振り向く暇もなく、背中に伝わる熱い痛み。
「がはッ!」
うめき、よろめく鎧騎士。
それを見据える、黒の鎧騎士とサソリ悪鬼。
「お前ら……汚い手を」
「戦いに綺麗汚いはない。勝てば正義。負ければ悪、それだけだ」
同時に襲い掛かる拓実と悪鬼。辛うじて捌き、躱す悠斗だが、二人の攻撃を完全に防げず、徐々に消耗していく。
他の鎧よりも防御力が劣る僧侶では勝ち目はない。サソリ悪鬼を倒すために鎧変化したのが仇となっている。
同時攻撃によって体勢が崩れると、拓実と悪鬼が飛び上がり、拓実は右脚に、悪鬼は長い尾に溜めたエネルギーを叩き込んだ。
「ウワアアッ!」
渾身の一撃を受けて吹っ飛んだ悠斗は、廃工場の壁に猛烈な勢いで叩きつけられる。
体中の骨が砕けるような音がした。負荷限界を迎えた鎧が砕けると、悠斗の体はズルズルと壁にもたれかかり、そのまま床にゴロリと転がった。
「哀れだな、柏木悠斗」
悠斗の襟首を掴んで持ち上げる拓実は、今まで溜めてきた鬱屈をすべて吐き出すかのように殴り、突き、裂き、蹂躙した。そして、空中高く放り投げると、バランスを失いもがく悠斗の体に必殺のキックを叩き込んだ。
「ごふッ……」
血と共に吐き出される、悲痛の声。
「己の甘さに殺されるとは……笑える」
先程と立場が入れ替わり、床に倒れる悠斗を踏みつける拓実。
「伊澤……拓実」
頭上に見える憎き敵を睨みながらうめくも、拓実は意に介さずに、踏みつける足に力を込める。
骨が軋む感覚が背中を伝い、その度に鈍痛が全身を襲う。肺を抑えつけられているせいか呼吸も難しく、息苦しさと相まって視界がボヤける。
だが悠斗は、未だに解せない点を知るために声を絞り出した。
「一体なんだ。あの悪鬼は……」
「ほぅ……まだ声を出す気力があるとはな」
拓実は感心するように頷くと足を退け、脇腹の下から蹴り上げて身を反転させた。
視界には、こちらを見下ろす黒の鎧騎士とサソリ悪鬼が映る。
「いいだろう。冥土の土産に教えてやる。彼は膨大な欲望を糧に生まれた最強にして最高の悪鬼でね。我々は『アンタレス』と呼んている」
アンタレス……星座の蠍座で最も明るい恒星で有名な天体の名前。たしかに悪鬼の姿はサソリを模している。
「アンタレスは普通の悪鬼とは違う。なんと彼は、駒を複数個使っている」
「なんだと……」
駒の同時使用。鎧騎士・双闘形態と同じだと言うのか。
しかし、悪鬼はブレスレットなしだ。複数の呪力を無理やり体内に入れていることになる。そんな事をすれば、体は内側から壊されてしまう。
「彼がアンタレスと呼ばれる理由は姿が似ているだけではない。その特性にある」
「特性だと……?」
特性とは、駒の呪力に備わる性質のことだ。騎士の特性が『中立』であり、僧侶の特性が『精密』であるように、駒によって特性は分かれている。
無論、悪鬼にも使われた駒によって特性が分かれる。
「星はその命終え砕け散りてもまた新たな星を生む。星間雲が超新星爆発の衝撃波による引力に引っ張られ、収縮する事でまた活動するように、彼もまた新たなる生命を得て生まれ変わった」
「まさか、それって……」
拓実の言わんとしてる事が、なんとなく掴めてきた。
サソリ悪鬼が他の悪鬼と違う理由……倒したはずが、さらに強くなって戻ってきたのは──。
「アンタレスの特性は『再生』……やられても生き返ると言うことか?」
にわかに信じがたい答えを、拓実は食い気味に頷き肯定した。
「その通り。複数の呪力が絡み合う事で生まれたその特性は凄まじく、彼は倒される度に強くなって生き返る。粉々に砕けようとも、身を焼失しようとも再生する姿はまるで星。故にアンタレス。故に最強なのだよ」
興奮気味に言う拓実を横目に、悠斗はアンタレスを睨んだ。
──そんな馬鹿げた話があるものか。
悠斗はそう心の中で必死に否定した。
いくら悪鬼が人智を越えた怪物とは言え、死なない存在ではない。呪力による攻撃を受け続ければ消滅する。
と、全力で否定したいが、サソリ悪鬼は実際に蘇っている上、比べ物にならないほど強くなっている。
だが、希望がないわけではない。
仮に無敵の存在だとしても、やがて依代からの欲望の配給が途絶え、悪鬼は活動を停止する。その隙を突けば勝機はある。
獲物を狙い定めるようにアンタレスを睨むと、不意に拓実が言った。
「倒しても意味がない。となれば当然、悪鬼の活動停止を狙うのが定石だが、その点も抜かりない」
まるで悠斗の思考を読んだかのような台詞に、一瞬息を呑む。
「彼ほど欲深い人間はそう多くはいまい。だからこそ、複数の駒を使ってなお意識を保てている」
アンタレスを見ながら言う。
「よければ紹介しよう。と言いたいが無意味だね」
「どういう意味だ?」
悠斗の返しを一笑に付すと、アンタレスの全身に黒い靄が立ち昇る。変身を解除しているのだ。
「簡単な話さ。君は彼を知っているからだ」
「俺の……知り合い?」
「知り合いなんてレベルじゃない」
黒い靄が徐々に晴れていく。
「彼は君の人生を変えた男さ……」
拓実の発言と、靄からわずかに見えた目元の傷を見た瞬間、心臓の鼓動が一際強まった。
コイツは……この男は。
靄が晴れ、アンタレスの依代が姿を現す。
黒スーツ姿の痩身で無精髭をたくわえた三十代の男性。右目元には一本の傷跡が残っている。
悠斗は男の姿を目にした途端、あらゆる思考が消し飛んだ。
それほどまでの衝撃が、彼を襲ったのだ。
「お前は……」
怒りで震える唇を動かし、男に殺意の眼差しを向ける。
その姿を憐れみながら眺める拓実が、嘲笑うように言った。
「北条歩。八年前、君の両親を殺した男だ」
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