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三章 二人の鎧騎士
第二十一話
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新たなる姿──鎧騎士・双闘形態。
ユニに急遽無理言って作ってもらった小型デバイスを使い、二つの駒を使うことで変身できる形態。特性『中立』の騎士があって初めて出来る変身。
この形態時は形態変化が出来ないという制限はあるが、それを鑑みても余りある性能を持っている。
──ありがとうユニちゃん。完璧な出来栄えだ。
昨日の今日で要望通りの性能に仕上げてくれた彼女には頭が上がらない。
感謝の意は、奴への勝利で贈らせてもらおう。
変貌した姿を睨む拓実は、ふっと鼻で笑ってから言った。
「なるほど。それが、君の持つ仲間の力……ということか?」
「そうだ。これが、アンタにはなくて、俺にはある物だ」
奴には俺よりも強い覚悟がある。だが、俺には奴にはない仲間がいる。昨日の晩にその事に気付けたから、彼女に無理な注文をすることができたんだ。
今思えば、大切な物に気付かせてくれたのは奴のお陰でもある。自分の弱さに向き合うキッカケを与え、俺にしかない物に気付かせてくれた奴にも、少なからず感謝したい。
だが、今は倒すべき敵だ。情による情けも甘えも今は捨てる。
俺の決意を感じ取ったのか、奴は拳を構える。
「面白い。見掛け倒しじゃないことを祈るぞ」
「あぁ。ここからが、本当の戦いだ」
こちらも剣は抜かずに、拳を構える。
一瞬の静寂。
それを先に破ったのは、拓実。
俺の構えが終わると同時に駆け出し、一気に間合いを詰める。わずか三歩で至近距離にまで到達すると、踏み込みと一緒に右拳を突き出してくる。
呪力による肉体強化に加え、腰の捻り・足さばきといった技を加速させる全ての要因をフルに使った最速の一撃は、素人の眼では視認できず、残像が見えてしまうだろう。
だが──今の俺にはハッキリ見える。奴の動きが。
迫り来る拳を左手で受け止め、見た目の重厚感からは考えられないほどの身軽な動きでいなす。
俺の横を通り過ぎた拓実は、驚異的な反射で振り向き、その勢いを乗せた回し蹴りを繰り出してきた。
俺はそれを左腕で防ぎ、そのまま腕を脚に絡ませる。
「なに⁉︎」
身動きを封じられ驚く拓実に向けて、右拳を力強く握りしめ、振り向きざまに奴の胴体へと突き出す。
拳が触れる直前、鎧とは別の感触が伝わってくる。恐らくこれが、想像を具現化させる力による防御壁だろう。
分厚い鋼鉄の壁を殴っているかのように錯覚するほどの硬度だが、俺は拳を止めずに突き進めた。
想像を具現化……。壁を破る想像。
俺の拳は──槍だ。如何なる壁をも穿つ槍だ!
拳に呪力を集中させる想像。練った呪力を変化させる想像。そして、槍が壁を貫く想像。
その三つが頭の中で練り固まったのと、拳が呪力の壁にぶつかるのは、全くの同時だった。
拳は壁にぶつかると、そのまま壁を豆腐のように崩していき、向こう側にある鎧と激突する。
「……ッ⁉︎」
壁を破られるとは思っていなかったのか、奴は僅かに息を呑み──。
次の瞬間、後方へと吹き飛ぶ。
自分でも何が起きたか分からず、拳を突き出した姿勢のまま静止した。
「これが……呪力の本当の力」
俺は奴の言う通り、壁を突き破る想像を強く持って殴った。そしたら本当に破り、初めて手応えのあるダメージを与えられた。
拓実は前のめりに倒れた体勢を戻すと、少しだけ声を荒げた。
「今しがた呪力の本質を知ったにも関わらず、それを経験と技術で感覚を掴み、あまつさえ成功するとは……見事、と褒めてやろう!」
奴は離れた場所にある槍に向けて右手を伸ばした。槍は、不可視の糸に引っ張られたかの如く空中を滑り、十メートル以上離れた奴の手許へと移動していく。
──あれも呪力の力か……?
俺が息を呑んだ瞬間、槍が奴の右手に収まり、両手で握る。
「認めてやろう! そして誇るが良い! 我が宿敵となれたことを!」
興奮しているせいか、先程までの冷静さが少し欠けた言動を口走っている。対等な敵と出会えた事がよほど嬉しかったのだろう。
走りながら距離を詰め、助走の勢いを乗せた横薙ぎを繰り出す。それを身を低くして避けるも、今度は通り過ぎずに真横で止まり、槍をもう一度力強く振る。
まだ体勢を戻せていない状態では避けきれない、虚を突いた切り返し。呪力による防御も間に合わない。そもそも、今の俺には呪力を防御に使う練度がない。
だから俺は、左から迫り来る槍を、鞘から半出しした長剣──聖剣『シュバリエ』で防ぐ。
「なんだと⁉︎」
驚愕する拓実の力が一瞬緩む。その隙に半出しした剣を抜き、受け止めた槍を上に弾く。
そして、がら空きになった胴体にすかさず右腰の長剣──聖剣『キャバリエ』による居合切りを放つ。
「ぐッ……!」
奴は短い呻き声を上げてたじろぐ──直後、槍を振り下ろすも、交差させた二本の剣でがっちり受け止める。
「うおおおッ!」
吼えながら、全身の力を振り絞り、槍を跳ね返す。
「小癪なッ」
叫んだ拓実は、大きく一歩後ろに跳びながら、槍を左肩の高さで構えた。
俺も、両手の長剣を同じ位置まで引き戻す。
対峙する二人の鎧騎士は、同時に地面を蹴り、刺突を撃ち出す。
同一線上を直進したそれぞれの武器は、ほんのわずかに剣尖を擦り合わせ──。
槍を砕き、奴の鎧に重い衝撃を与えた。
「馬鹿な、ありえん! この我が、お前のような半端者に追い詰められるなど!」
粗野を喚き散らす拓実は、両手に呪力で錬成したドリルを宿した。
俺は突き出した剣を手許で回しながら持ち直し、構える。
両者は互いの武器を振り、鎬を削る。白銀と朱色の刀身が衝突しあい、まるで鋼が撃ち合うような甲高い音が響き渡る。
二本の剣を同じ方向へ振り下ろすも、奴は両手を交差させて防がれたので、予備動作による回し蹴りを繰り出す。
が、奴は予想してたかのように動く。
回し蹴りをギリギリまで引きつけると、下から掬い上げるように左肘を叩きつけてきた。
予想外な方向から力が加わり、技の軌道が逸れる。本来ならば奴の左肩に直撃していた筈の脚の先端は頭上を通り過ぎてしまい、大きな隙を生んでしまった。
当然、奴はそれを見逃すほど甘くない。回し蹴りによる反動で反転し、抑えていた剣が退いた事で解放された両手を、容赦なく突き出す。
「このっ!」
反転した身を無理やり動かし、剣を振り上げる。
ドリルが触れる直前に衝突し、こちらも槍同様に砕けた。
「掠った程度でこれほどとは……‼︎」
「だから言っただろ! これが、俺たちの力だと!」
振りかざした剣を交差させ、踏み込んでからX字に斬り下ろす。
すると奴の鎧にクロスが刻まれ、ヒビが広がっていった。
「認めん……認めんぞ! 我が、我の覚悟が敗れるなど!」
崩れる鎧に動揺する拓実は、内なる焦燥に駆られるように殴りかかってきた。
しかしその動きには以前のような冴えはなく、大雑把で素人同然だった。
冷静さを失った奴の攻撃は目をつぶっていても避けられる。身軽な動作で避け、背中に強めの蹴りを繰り出す。
そのまま無様に倒れる拓実を見下ろしながら、交差された二つの駒を起こし、ボタンを押す。
「さぁ、断罪の瞬間だ!」
新たな決め台詞を言い、駒を倒して交差させる。
『必殺技・騎士の叛逆』
聖剣に雷撃が纏わり、両肩のツノから二体のロットが現れると、目に見えぬ速度で突撃する。
ロットの突撃によって打ち上げられた拓実に向け剣を振り下ろすと、刀身に宿る雷撃が斬撃波となって奴を切り裂き、金色の鎖となって奴を拘束する。
剣を鞘に収める際に散った雷撃が右脚に集まり、『コンタクトレンズ』による照準が定まると、地面を力一杯に蹴り上げる。
足裏が離れた瞬間、二体のロットが両サイドで共に駆け出す。右脚の雷撃が槍に変わってから突き出すと、ロット達も並ぶようにツノを出す。
「この一閃で!」
雷撃を纏う三本の槍は矢の如き勢いで拓実と衝突──した事さえ認識できない速度で貫く。
地面に降り立ち、雷撃の残留を振り払う。遅れて、上空から爆発音が轟く。
振り返ると、変身を強制解除された拓実が膝をついていた。
「馬鹿……な。この私が……青二才に負けるなど……」
悔しそうに地面を叩くと、顔を上げた。
「受け取れ!」
そう言うと、拓実は焼け焦げた白衣の裾からUSBメモリーを取り出し、こちらへ投げつけてきた。
「その中に君たちが知りたがっている情報が入っている! いいか、約束は守ったぞ!」
「あ、あぁ……」
言い訳もせずにあっさりと渡された事に唖然と答えるも、数秒後に渡された物の重要度に気付く。
──この中に、冬馬さんを救う方法がある……。
渡されたメモリーを強く握り、甲冑の中でほくそ笑む。
「柏木悠斗!」
突然名を呼ばれ、俺は見えないのに表情を戻して応じた。
「なんだ?」
「今回は君の勝ちだ! しかし、次こそは私が勝つ! 大義の為にな!」
「……いいだろう」
変身を解除する。
「如何に崇高な理念を秘めていようと、俺は負けない!」
右手を前にかざしながら高らかに宣言すると、拓実は微かに笑った。
「互いに譲れない信念がある、ということか。ならば、もはや我々に言葉など不要」
黒の僧侶を錫杖に変えると、空間に来た時と同じ闇を開けた。
「さらばだ、柏木悠斗。といっても、また会う日もそう遠くはないだろうがな」
最後にそれだけ言い残すと、拓実は闇の中へと消えていった。
激闘の末に訪れた静けさに放心するが、それも一瞬だった。
「悠斗くん‼︎」
背後から名を呼ぶ声。振り返ると、制服姿のユニが小走りで向かって来ている。
俺の目の前で息を切らしながら立ち止まると、涙で濡れた顔を隠そうとせずに詰め寄った。
「……良かった」
その一言を皮切りに、ユニは俺の胸に顔を預けてきた。そのまま咽び泣く彼女を無言で抱擁し、乱れた髪を整えるように頭を撫でる。
「もし……もし、悠斗くんの身に何かあったら……」
「何言ってるんだよ。俺を助けてくれたのはユニちゃんだろ?」
泣きじゃくるユニを強く抱きしめる。
「君が来てくれなかったら、俺は拓実に殺されていた。俺の命を救ってくれたのは君だ。だから謝る必要なんてない」
「……でも、私は──」
「おっと、そこから先は禁句だよ」
唇に指を押し当て、強引に言葉を切る。
「前から言ってるけど、君は負い目を感じなくていい。巻き込まれたとも思ってないんだから気にしないで」
「だけど……」
「そんなことより、今はこれだ」
なおも過去話を引っ張り出そうとするユニの言葉を切り、拓実が渡したメモリーを取り出す。
「ユニちゃん。これの分析を頼む。冬馬さんを救う方法が入ってるはずだ」
その話を聞いた瞬間、ユニは目元の涙を服の裾で拭い取り、決意に満ちた顔でメモリーを受け取った。
「すぐに帰って取り掛かるよ。悠斗くんは?」
「そうだな……。とりあえず、少しだけ……寝たい、かな?」
何故か込み上げてくる強い眠気と虚脱感。操り人形の糸が途切れたように倒れ、ユニに体を預ける形で倒れる。
「悠斗くん⁉︎ どうしたの!」
ユニの声が聞こえるが、答えるよりも先に意識が無くなってしまった。
ユニに急遽無理言って作ってもらった小型デバイスを使い、二つの駒を使うことで変身できる形態。特性『中立』の騎士があって初めて出来る変身。
この形態時は形態変化が出来ないという制限はあるが、それを鑑みても余りある性能を持っている。
──ありがとうユニちゃん。完璧な出来栄えだ。
昨日の今日で要望通りの性能に仕上げてくれた彼女には頭が上がらない。
感謝の意は、奴への勝利で贈らせてもらおう。
変貌した姿を睨む拓実は、ふっと鼻で笑ってから言った。
「なるほど。それが、君の持つ仲間の力……ということか?」
「そうだ。これが、アンタにはなくて、俺にはある物だ」
奴には俺よりも強い覚悟がある。だが、俺には奴にはない仲間がいる。昨日の晩にその事に気付けたから、彼女に無理な注文をすることができたんだ。
今思えば、大切な物に気付かせてくれたのは奴のお陰でもある。自分の弱さに向き合うキッカケを与え、俺にしかない物に気付かせてくれた奴にも、少なからず感謝したい。
だが、今は倒すべき敵だ。情による情けも甘えも今は捨てる。
俺の決意を感じ取ったのか、奴は拳を構える。
「面白い。見掛け倒しじゃないことを祈るぞ」
「あぁ。ここからが、本当の戦いだ」
こちらも剣は抜かずに、拳を構える。
一瞬の静寂。
それを先に破ったのは、拓実。
俺の構えが終わると同時に駆け出し、一気に間合いを詰める。わずか三歩で至近距離にまで到達すると、踏み込みと一緒に右拳を突き出してくる。
呪力による肉体強化に加え、腰の捻り・足さばきといった技を加速させる全ての要因をフルに使った最速の一撃は、素人の眼では視認できず、残像が見えてしまうだろう。
だが──今の俺にはハッキリ見える。奴の動きが。
迫り来る拳を左手で受け止め、見た目の重厚感からは考えられないほどの身軽な動きでいなす。
俺の横を通り過ぎた拓実は、驚異的な反射で振り向き、その勢いを乗せた回し蹴りを繰り出してきた。
俺はそれを左腕で防ぎ、そのまま腕を脚に絡ませる。
「なに⁉︎」
身動きを封じられ驚く拓実に向けて、右拳を力強く握りしめ、振り向きざまに奴の胴体へと突き出す。
拳が触れる直前、鎧とは別の感触が伝わってくる。恐らくこれが、想像を具現化させる力による防御壁だろう。
分厚い鋼鉄の壁を殴っているかのように錯覚するほどの硬度だが、俺は拳を止めずに突き進めた。
想像を具現化……。壁を破る想像。
俺の拳は──槍だ。如何なる壁をも穿つ槍だ!
拳に呪力を集中させる想像。練った呪力を変化させる想像。そして、槍が壁を貫く想像。
その三つが頭の中で練り固まったのと、拳が呪力の壁にぶつかるのは、全くの同時だった。
拳は壁にぶつかると、そのまま壁を豆腐のように崩していき、向こう側にある鎧と激突する。
「……ッ⁉︎」
壁を破られるとは思っていなかったのか、奴は僅かに息を呑み──。
次の瞬間、後方へと吹き飛ぶ。
自分でも何が起きたか分からず、拳を突き出した姿勢のまま静止した。
「これが……呪力の本当の力」
俺は奴の言う通り、壁を突き破る想像を強く持って殴った。そしたら本当に破り、初めて手応えのあるダメージを与えられた。
拓実は前のめりに倒れた体勢を戻すと、少しだけ声を荒げた。
「今しがた呪力の本質を知ったにも関わらず、それを経験と技術で感覚を掴み、あまつさえ成功するとは……見事、と褒めてやろう!」
奴は離れた場所にある槍に向けて右手を伸ばした。槍は、不可視の糸に引っ張られたかの如く空中を滑り、十メートル以上離れた奴の手許へと移動していく。
──あれも呪力の力か……?
俺が息を呑んだ瞬間、槍が奴の右手に収まり、両手で握る。
「認めてやろう! そして誇るが良い! 我が宿敵となれたことを!」
興奮しているせいか、先程までの冷静さが少し欠けた言動を口走っている。対等な敵と出会えた事がよほど嬉しかったのだろう。
走りながら距離を詰め、助走の勢いを乗せた横薙ぎを繰り出す。それを身を低くして避けるも、今度は通り過ぎずに真横で止まり、槍をもう一度力強く振る。
まだ体勢を戻せていない状態では避けきれない、虚を突いた切り返し。呪力による防御も間に合わない。そもそも、今の俺には呪力を防御に使う練度がない。
だから俺は、左から迫り来る槍を、鞘から半出しした長剣──聖剣『シュバリエ』で防ぐ。
「なんだと⁉︎」
驚愕する拓実の力が一瞬緩む。その隙に半出しした剣を抜き、受け止めた槍を上に弾く。
そして、がら空きになった胴体にすかさず右腰の長剣──聖剣『キャバリエ』による居合切りを放つ。
「ぐッ……!」
奴は短い呻き声を上げてたじろぐ──直後、槍を振り下ろすも、交差させた二本の剣でがっちり受け止める。
「うおおおッ!」
吼えながら、全身の力を振り絞り、槍を跳ね返す。
「小癪なッ」
叫んだ拓実は、大きく一歩後ろに跳びながら、槍を左肩の高さで構えた。
俺も、両手の長剣を同じ位置まで引き戻す。
対峙する二人の鎧騎士は、同時に地面を蹴り、刺突を撃ち出す。
同一線上を直進したそれぞれの武器は、ほんのわずかに剣尖を擦り合わせ──。
槍を砕き、奴の鎧に重い衝撃を与えた。
「馬鹿な、ありえん! この我が、お前のような半端者に追い詰められるなど!」
粗野を喚き散らす拓実は、両手に呪力で錬成したドリルを宿した。
俺は突き出した剣を手許で回しながら持ち直し、構える。
両者は互いの武器を振り、鎬を削る。白銀と朱色の刀身が衝突しあい、まるで鋼が撃ち合うような甲高い音が響き渡る。
二本の剣を同じ方向へ振り下ろすも、奴は両手を交差させて防がれたので、予備動作による回し蹴りを繰り出す。
が、奴は予想してたかのように動く。
回し蹴りをギリギリまで引きつけると、下から掬い上げるように左肘を叩きつけてきた。
予想外な方向から力が加わり、技の軌道が逸れる。本来ならば奴の左肩に直撃していた筈の脚の先端は頭上を通り過ぎてしまい、大きな隙を生んでしまった。
当然、奴はそれを見逃すほど甘くない。回し蹴りによる反動で反転し、抑えていた剣が退いた事で解放された両手を、容赦なく突き出す。
「このっ!」
反転した身を無理やり動かし、剣を振り上げる。
ドリルが触れる直前に衝突し、こちらも槍同様に砕けた。
「掠った程度でこれほどとは……‼︎」
「だから言っただろ! これが、俺たちの力だと!」
振りかざした剣を交差させ、踏み込んでからX字に斬り下ろす。
すると奴の鎧にクロスが刻まれ、ヒビが広がっていった。
「認めん……認めんぞ! 我が、我の覚悟が敗れるなど!」
崩れる鎧に動揺する拓実は、内なる焦燥に駆られるように殴りかかってきた。
しかしその動きには以前のような冴えはなく、大雑把で素人同然だった。
冷静さを失った奴の攻撃は目をつぶっていても避けられる。身軽な動作で避け、背中に強めの蹴りを繰り出す。
そのまま無様に倒れる拓実を見下ろしながら、交差された二つの駒を起こし、ボタンを押す。
「さぁ、断罪の瞬間だ!」
新たな決め台詞を言い、駒を倒して交差させる。
『必殺技・騎士の叛逆』
聖剣に雷撃が纏わり、両肩のツノから二体のロットが現れると、目に見えぬ速度で突撃する。
ロットの突撃によって打ち上げられた拓実に向け剣を振り下ろすと、刀身に宿る雷撃が斬撃波となって奴を切り裂き、金色の鎖となって奴を拘束する。
剣を鞘に収める際に散った雷撃が右脚に集まり、『コンタクトレンズ』による照準が定まると、地面を力一杯に蹴り上げる。
足裏が離れた瞬間、二体のロットが両サイドで共に駆け出す。右脚の雷撃が槍に変わってから突き出すと、ロット達も並ぶようにツノを出す。
「この一閃で!」
雷撃を纏う三本の槍は矢の如き勢いで拓実と衝突──した事さえ認識できない速度で貫く。
地面に降り立ち、雷撃の残留を振り払う。遅れて、上空から爆発音が轟く。
振り返ると、変身を強制解除された拓実が膝をついていた。
「馬鹿……な。この私が……青二才に負けるなど……」
悔しそうに地面を叩くと、顔を上げた。
「受け取れ!」
そう言うと、拓実は焼け焦げた白衣の裾からUSBメモリーを取り出し、こちらへ投げつけてきた。
「その中に君たちが知りたがっている情報が入っている! いいか、約束は守ったぞ!」
「あ、あぁ……」
言い訳もせずにあっさりと渡された事に唖然と答えるも、数秒後に渡された物の重要度に気付く。
──この中に、冬馬さんを救う方法がある……。
渡されたメモリーを強く握り、甲冑の中でほくそ笑む。
「柏木悠斗!」
突然名を呼ばれ、俺は見えないのに表情を戻して応じた。
「なんだ?」
「今回は君の勝ちだ! しかし、次こそは私が勝つ! 大義の為にな!」
「……いいだろう」
変身を解除する。
「如何に崇高な理念を秘めていようと、俺は負けない!」
右手を前にかざしながら高らかに宣言すると、拓実は微かに笑った。
「互いに譲れない信念がある、ということか。ならば、もはや我々に言葉など不要」
黒の僧侶を錫杖に変えると、空間に来た時と同じ闇を開けた。
「さらばだ、柏木悠斗。といっても、また会う日もそう遠くはないだろうがな」
最後にそれだけ言い残すと、拓実は闇の中へと消えていった。
激闘の末に訪れた静けさに放心するが、それも一瞬だった。
「悠斗くん‼︎」
背後から名を呼ぶ声。振り返ると、制服姿のユニが小走りで向かって来ている。
俺の目の前で息を切らしながら立ち止まると、涙で濡れた顔を隠そうとせずに詰め寄った。
「……良かった」
その一言を皮切りに、ユニは俺の胸に顔を預けてきた。そのまま咽び泣く彼女を無言で抱擁し、乱れた髪を整えるように頭を撫でる。
「もし……もし、悠斗くんの身に何かあったら……」
「何言ってるんだよ。俺を助けてくれたのはユニちゃんだろ?」
泣きじゃくるユニを強く抱きしめる。
「君が来てくれなかったら、俺は拓実に殺されていた。俺の命を救ってくれたのは君だ。だから謝る必要なんてない」
「……でも、私は──」
「おっと、そこから先は禁句だよ」
唇に指を押し当て、強引に言葉を切る。
「前から言ってるけど、君は負い目を感じなくていい。巻き込まれたとも思ってないんだから気にしないで」
「だけど……」
「そんなことより、今はこれだ」
なおも過去話を引っ張り出そうとするユニの言葉を切り、拓実が渡したメモリーを取り出す。
「ユニちゃん。これの分析を頼む。冬馬さんを救う方法が入ってるはずだ」
その話を聞いた瞬間、ユニは目元の涙を服の裾で拭い取り、決意に満ちた顔でメモリーを受け取った。
「すぐに帰って取り掛かるよ。悠斗くんは?」
「そうだな……。とりあえず、少しだけ……寝たい、かな?」
何故か込み上げてくる強い眠気と虚脱感。操り人形の糸が途切れたように倒れ、ユニに体を預ける形で倒れる。
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