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一章 現代の騎士
第二話
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都心から少し離れた郊外にある公園から、銃声が鳴り響く。それも一回ではなく、間隔を開けて複数回鳴っている。
近辺の住民が集まってくるも、誰も中には入れずにいた。
公園を取り囲むように停まっているパトカーや装甲車が何人も侵入を許していないからだ。
だがこれらは侵入を止める為ではなく、公園にいる者を外に出さないために停まっている。
「二班は後退! 三班は目標との距離を保ちつつ攻撃を続けろ!」
装甲車に備えられたモニターを睨みながら、司令官らしき男が通信機に向けて叫んでいる。五人一班で構成された特殊部隊は命令が来ると直ぐに動き出し、三班が二班の後退を援護するように発砲する。
公園はたちまち砲煙が充満し、対象は着弾の火花を散らす。
しかし、対象は気にせず歩み続けている。
「なぜだ! なぜ効かないんだ!」
キーボードに拳を叩きつける司令官は、怒りをぶつけるように叫んだ。
発砲した班が銃弾を装填している間に、煙が晴れて対象の全貌が露わになる。
戦車のキャタピラに手足が生えたような四肢に、亀の甲羅に似た胴体は銃弾を浴びていながら傷一つない。
「佐藤司令! これ以上は無理です!」
通信機越しに聞こえる班員の声に、佐藤は答えられなかった。
怪物に火器は通用せず、足止めが関の山だ。住民の避難が終わる兆しはなく、むしろ野次馬が集まる始末だ。
これでは時間稼ぎの意味がなく、ただ一方的に消耗していくだけ。
だが撤退は許されない。怪物を野放しにすれば被害が出る。
どうすれば良いのか分からず苦悩する佐藤に同情したのか、隣に座る長髪の男性──副司令が命令を下す。
「全班は一度第二防衛ラインまで後退した後、地雷型粘着爆弾を。気休めですがないよりはマシです」
「りょ、了解!」
その一言と同時に五班が一斉に後退を始める。
怪物は足を早めることもなく、悠然と歩いている。
一連の流れをモニターから見ていた副司令は、緊張をため息と一緒に吐いてから、通信機のチャンネルを公園を囲う警備隊に変える。
「早く野次馬を避難させなさい。こちらの装備ではあと三十分ほどしか保ちません」
「分かってはいます。ですが中々動かなくて……」
「強盗犯がいると言って早く避難させなさい。住民がいると彼等が撤退できません」
「しかし──」
警備隊の弁明を最後まで聞かずにチャンネルを切り替え、既に地雷をセットした特殊部隊に確認する。
「目標の動きは?」
「こちらに向かってきています」
「ギリギリまで引きつけて、粘着爆弾で足が止まったら、散弾銃で怪物の足を狙ってください」
普通ならば頭部を集中して狙うべきだが、今の装備では怪物を仕留めることは出来ない。ならばせめて、足を潰して一分一秒でも長くこの場に留めるしかない。
「了解。全員、装備を散弾銃に変更!」
指示に従う隊員たちが、無駄な動きなく小銃から散弾銃に切り替える。特殊部隊は常に二挺のライフルと二本のナイフで行動しており、臨機応変に装備を変更できるようになっている。
散弾銃の弾薬を確認していると、階段から怪物が姿を現した。頭部の髑髏の口から白い煙を吐き出しながら近づくそれは、まるで地獄からの使者のように見える。
「目標、視認距離に到達!」
「まだだ! 地雷にかかるまで撃つな!」
怪物とはまだかなり距離がある。この状況で撃ったとしても意味はない。二十五名による一斉発射には、怪物が地雷を踏み動きが止まってからだ。
怪物が地雷を踏むまで、あと一歩…………。
そこで、怪物は足を止めた。
「なんだ……」
今まで沈黙していた佐藤司令が呟く。如何なる攻撃を受けようと足を止めなかった怪物が、地雷を前に足を止めたとなれば誰でも困惑する。
現場にいる部隊も戸惑っており、司令からの命令を待っている。
「…………ッ! 隊長、目標に動きが!」
一人の隊員の報告が終わる瞬間、髑髏の眼窩が紅く光り、両腕についたキャタピラを地面に叩きつけた。
「アアアアァァァァーッ‼︎」
生物的だがどこか機械的な声を上げた瞬間、四肢のキャタピラが土煙を巻き上げる勢いで回転し、特殊部隊に向かって突撃してきた。
その勢いは、地雷が爆発するよりも早く、粘着剤は怪物を捕らえられなかった。
予想外の行動に反応が遅れ、気付けば眼前にまで接近を許してしまっていた。
怪物は立ち上がり、荒々しい呼吸のまま隊員を見下ろしている。
「……撃てぇ!」
隊長が全体に広がる動揺を掻き消し、鼓舞するように叫ぶも、誰も銃を構えようとはしない。
全員が畏怖し、悟っているからだ。こいつには効かないと。
「邪魔だ」
怪物の一言と同時に、隊長に殴りかかる。キャタピラに殴られたヘルメットは粉々に砕け、隊長は頭から血を流しながら飛ばされる。
それを口火に、他の隊員が悲鳴を上げながら散っていく。ある者は武器を捨て、ある者は果敢にも抵抗を続けている。
しかし怪物は意に介さず、一方的な蹂躙をやめようとしない。
次々と倒れていく隊員をモニターから見ている佐藤司令は、悔しさで唇を嚙んだ。
「…………どうすればいいんだ……」
地雷が感知するよりも早い機動力、火器をものともしない防御力。どのような作戦や火器ならば仕留められる。
いや、そもそもあれは、人の手で倒せるものなのか……?
虐殺めいた光景をただ呆然と見ていることしかできない自分が恨めしく思える。
「く、来るなぁ!」
モニターから聞こえる悲痛の叫びで我に返り、状況を確認する。既に半数以上が倒れており、公園のあちこちに血が飛び散っている。
抵抗を続ける隊員に一歩ずつ近づく。腰が抜けて動けない隊員はただ泣き叫ぶ他なかった。
「馬鹿な連中だ。人間如きが勝てるわけないのに向かってくるとは」
怪物は、隊員の首を掴んだ。徐々に力が加えられたいき、隊員の顔が歪んでいく。
「やめろ……もうやめろ!」
モニターに向かって叫ぶが、当然怪物が力を緩めるはずがない。
──頼む! 誰でもいいから、奴を止めてくれ!
誰に祈るわけでもなく、佐藤は願った、次の瞬間──。
装甲車に備え付けられたレーダーが、何かを 感知してアラームを鳴らし始めた。
「これは……⁉︎」
レーダーを見ると、感知した何かが凄まじい速さでこちらに向かってきていた。
「車……でも住宅街でこれだけのスピードなんて……」
オペレーターが信じられない物を見ているかのように呆然と呟く頃には、レーダーに映る物はすぐそこに来ていた。
佐藤は反射的に椅子から立ち上がり、ドアミラーから顔を出した。すぐに振り返ると、怪物を見た時と同じ衝撃を受けた。
馬だ。派手な装飾をした馬が向かってきている。
「お、おい! 止まれ!」
このままでは衝突してしまう。止まるよう叫ぶも、馬は一切衰えず……いや、むしろ勢いが増してきている。
ぶつかる! そう思った矢先──。
馬は視界から消えた。いや、衝突する直前に地面を蹴り上げ、見事な曲線を描いて跳ね上がった。
そのまま着地するも勢いを落とさずに公園へと向かっていく姿を眺め、正気に戻る頃にはもういなかった。
「な、なんだったんだ……今のは」
佐藤は、次から次に起こる超展開に頭がついていかず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「……ったく、余計なことを」
ここに来るまでの五分間で、大体の状況は理解した。
奴等相手に警察が迅速な対応をしたのは素直に感服するが、こちらからすれば余計な真似でしかない。
だが……民間人を守るために尽力し、その身を犠牲に稼いだ時間を無駄にはしない。
「……ッ‼︎」
機械仕掛けの馬が低く唸る。敵を感知できる距離──半径一キロ圏内に捉えたからだ。
身を低くし、ロットの走力を上げる。緩い坂を一気に走り抜け、六段の階段を飛び越える。
そしてついに、敵を捉える。
四肢にキャタピラをつけ、亀の甲羅のような胴体。髑髏の頭で、眼窩から紅い光が灯っている。
「見つけた」
呟き、公園の広場に降り立つ。奴はまだこちらに気付かず、生き残っている隊員をなぶっている。馬の勢いを止めずに急接近し、全体重と勢いを乗せるかのように怪物を横から蹴りつける。
「うぉっ⁉︎」
突然の衝撃に対応できなかった怪物は、受け身も取れずに遠くへ蹴り飛ばされた。だが直ぐに立ち上がり、こちらに体を向けてきた。やはりダメージはないようだ。
俺は馬の背から降り、広場を見渡した。傷ついた隊員があちこちに転がっており、誰一人として立ち上がる気配はない。
「……随分と暴れてくれたな。悪鬼よ」
怪物──悪鬼を睨むと、生物なのか機械なのか分からぬ声質が返ってきた。
「貴様、何者だ」
悪鬼の問いに、若干の間を開け、わずかに口角を上げながら答える。
「俺は──鎧騎士だ」
それを聞いた悪鬼は、驚くように過敏な反応を示したが、直ぐに冷静になったのか、不気味な笑い声を上げた。
「ハッハッハッ! 馬鹿を言うな。貴様が鎧騎士なはずがない」
まぁ、気持ちは分かる。奴からしたらただの高校生だから。
「嘘かどうか、その目で確かめてみろ。……いくよロット」
愛馬の顎を撫でながら囁き、ブレザーの胸ポケットから騎士の駒と──盾型のブレスレットを取り出す。
ブレスレットを腕時計の手前に巻き付け、盾の中心にある窪みに駒を押し込むと、盾から白い一本線がロットの額に伸びていく。駒を押さえ込みながら、左手首を顔の横にまで持っていく。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そして──
「変身ッ‼︎」
その一言と同時に、嵌めた駒を押し倒す。
ロットの足元に巨大な白い魔法陣が出現し、悠斗の頭上にも同じく魔法陣が出現する。
ロットの魔法陣が光り輝き、馬を分解していく。次に悠斗の体を魔法陣が通過し、全身を白のパワードスーツで覆っていく。
魔法陣が地面に達した瞬間、分解されたロットが悠斗の体に次々と装着されていく。金属鎧を思わせる装備に変貌し、頭部を馬を象った甲冑で覆い終わると、残されたツノから柄が伸び、空いた右手に収まる。
一連の変身エフェクトが終了すると、俺の顔を隠すように甲冑が閉まり、青い複眼が一斉に光りだす。
「き、貴様──本当に、鎧騎士なのか⁉︎」
悪鬼は、先ほどまでの威勢が嘘のように消えており、今はかなり怯えている。
俺はツノ──ランスを悪鬼に向ける。
「そうだ。俺は、お前たちを断罪する騎士だ」
近辺の住民が集まってくるも、誰も中には入れずにいた。
公園を取り囲むように停まっているパトカーや装甲車が何人も侵入を許していないからだ。
だがこれらは侵入を止める為ではなく、公園にいる者を外に出さないために停まっている。
「二班は後退! 三班は目標との距離を保ちつつ攻撃を続けろ!」
装甲車に備えられたモニターを睨みながら、司令官らしき男が通信機に向けて叫んでいる。五人一班で構成された特殊部隊は命令が来ると直ぐに動き出し、三班が二班の後退を援護するように発砲する。
公園はたちまち砲煙が充満し、対象は着弾の火花を散らす。
しかし、対象は気にせず歩み続けている。
「なぜだ! なぜ効かないんだ!」
キーボードに拳を叩きつける司令官は、怒りをぶつけるように叫んだ。
発砲した班が銃弾を装填している間に、煙が晴れて対象の全貌が露わになる。
戦車のキャタピラに手足が生えたような四肢に、亀の甲羅に似た胴体は銃弾を浴びていながら傷一つない。
「佐藤司令! これ以上は無理です!」
通信機越しに聞こえる班員の声に、佐藤は答えられなかった。
怪物に火器は通用せず、足止めが関の山だ。住民の避難が終わる兆しはなく、むしろ野次馬が集まる始末だ。
これでは時間稼ぎの意味がなく、ただ一方的に消耗していくだけ。
だが撤退は許されない。怪物を野放しにすれば被害が出る。
どうすれば良いのか分からず苦悩する佐藤に同情したのか、隣に座る長髪の男性──副司令が命令を下す。
「全班は一度第二防衛ラインまで後退した後、地雷型粘着爆弾を。気休めですがないよりはマシです」
「りょ、了解!」
その一言と同時に五班が一斉に後退を始める。
怪物は足を早めることもなく、悠然と歩いている。
一連の流れをモニターから見ていた副司令は、緊張をため息と一緒に吐いてから、通信機のチャンネルを公園を囲う警備隊に変える。
「早く野次馬を避難させなさい。こちらの装備ではあと三十分ほどしか保ちません」
「分かってはいます。ですが中々動かなくて……」
「強盗犯がいると言って早く避難させなさい。住民がいると彼等が撤退できません」
「しかし──」
警備隊の弁明を最後まで聞かずにチャンネルを切り替え、既に地雷をセットした特殊部隊に確認する。
「目標の動きは?」
「こちらに向かってきています」
「ギリギリまで引きつけて、粘着爆弾で足が止まったら、散弾銃で怪物の足を狙ってください」
普通ならば頭部を集中して狙うべきだが、今の装備では怪物を仕留めることは出来ない。ならばせめて、足を潰して一分一秒でも長くこの場に留めるしかない。
「了解。全員、装備を散弾銃に変更!」
指示に従う隊員たちが、無駄な動きなく小銃から散弾銃に切り替える。特殊部隊は常に二挺のライフルと二本のナイフで行動しており、臨機応変に装備を変更できるようになっている。
散弾銃の弾薬を確認していると、階段から怪物が姿を現した。頭部の髑髏の口から白い煙を吐き出しながら近づくそれは、まるで地獄からの使者のように見える。
「目標、視認距離に到達!」
「まだだ! 地雷にかかるまで撃つな!」
怪物とはまだかなり距離がある。この状況で撃ったとしても意味はない。二十五名による一斉発射には、怪物が地雷を踏み動きが止まってからだ。
怪物が地雷を踏むまで、あと一歩…………。
そこで、怪物は足を止めた。
「なんだ……」
今まで沈黙していた佐藤司令が呟く。如何なる攻撃を受けようと足を止めなかった怪物が、地雷を前に足を止めたとなれば誰でも困惑する。
現場にいる部隊も戸惑っており、司令からの命令を待っている。
「…………ッ! 隊長、目標に動きが!」
一人の隊員の報告が終わる瞬間、髑髏の眼窩が紅く光り、両腕についたキャタピラを地面に叩きつけた。
「アアアアァァァァーッ‼︎」
生物的だがどこか機械的な声を上げた瞬間、四肢のキャタピラが土煙を巻き上げる勢いで回転し、特殊部隊に向かって突撃してきた。
その勢いは、地雷が爆発するよりも早く、粘着剤は怪物を捕らえられなかった。
予想外の行動に反応が遅れ、気付けば眼前にまで接近を許してしまっていた。
怪物は立ち上がり、荒々しい呼吸のまま隊員を見下ろしている。
「……撃てぇ!」
隊長が全体に広がる動揺を掻き消し、鼓舞するように叫ぶも、誰も銃を構えようとはしない。
全員が畏怖し、悟っているからだ。こいつには効かないと。
「邪魔だ」
怪物の一言と同時に、隊長に殴りかかる。キャタピラに殴られたヘルメットは粉々に砕け、隊長は頭から血を流しながら飛ばされる。
それを口火に、他の隊員が悲鳴を上げながら散っていく。ある者は武器を捨て、ある者は果敢にも抵抗を続けている。
しかし怪物は意に介さず、一方的な蹂躙をやめようとしない。
次々と倒れていく隊員をモニターから見ている佐藤司令は、悔しさで唇を嚙んだ。
「…………どうすればいいんだ……」
地雷が感知するよりも早い機動力、火器をものともしない防御力。どのような作戦や火器ならば仕留められる。
いや、そもそもあれは、人の手で倒せるものなのか……?
虐殺めいた光景をただ呆然と見ていることしかできない自分が恨めしく思える。
「く、来るなぁ!」
モニターから聞こえる悲痛の叫びで我に返り、状況を確認する。既に半数以上が倒れており、公園のあちこちに血が飛び散っている。
抵抗を続ける隊員に一歩ずつ近づく。腰が抜けて動けない隊員はただ泣き叫ぶ他なかった。
「馬鹿な連中だ。人間如きが勝てるわけないのに向かってくるとは」
怪物は、隊員の首を掴んだ。徐々に力が加えられたいき、隊員の顔が歪んでいく。
「やめろ……もうやめろ!」
モニターに向かって叫ぶが、当然怪物が力を緩めるはずがない。
──頼む! 誰でもいいから、奴を止めてくれ!
誰に祈るわけでもなく、佐藤は願った、次の瞬間──。
装甲車に備え付けられたレーダーが、何かを 感知してアラームを鳴らし始めた。
「これは……⁉︎」
レーダーを見ると、感知した何かが凄まじい速さでこちらに向かってきていた。
「車……でも住宅街でこれだけのスピードなんて……」
オペレーターが信じられない物を見ているかのように呆然と呟く頃には、レーダーに映る物はすぐそこに来ていた。
佐藤は反射的に椅子から立ち上がり、ドアミラーから顔を出した。すぐに振り返ると、怪物を見た時と同じ衝撃を受けた。
馬だ。派手な装飾をした馬が向かってきている。
「お、おい! 止まれ!」
このままでは衝突してしまう。止まるよう叫ぶも、馬は一切衰えず……いや、むしろ勢いが増してきている。
ぶつかる! そう思った矢先──。
馬は視界から消えた。いや、衝突する直前に地面を蹴り上げ、見事な曲線を描いて跳ね上がった。
そのまま着地するも勢いを落とさずに公園へと向かっていく姿を眺め、正気に戻る頃にはもういなかった。
「な、なんだったんだ……今のは」
佐藤は、次から次に起こる超展開に頭がついていかず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「……ったく、余計なことを」
ここに来るまでの五分間で、大体の状況は理解した。
奴等相手に警察が迅速な対応をしたのは素直に感服するが、こちらからすれば余計な真似でしかない。
だが……民間人を守るために尽力し、その身を犠牲に稼いだ時間を無駄にはしない。
「……ッ‼︎」
機械仕掛けの馬が低く唸る。敵を感知できる距離──半径一キロ圏内に捉えたからだ。
身を低くし、ロットの走力を上げる。緩い坂を一気に走り抜け、六段の階段を飛び越える。
そしてついに、敵を捉える。
四肢にキャタピラをつけ、亀の甲羅のような胴体。髑髏の頭で、眼窩から紅い光が灯っている。
「見つけた」
呟き、公園の広場に降り立つ。奴はまだこちらに気付かず、生き残っている隊員をなぶっている。馬の勢いを止めずに急接近し、全体重と勢いを乗せるかのように怪物を横から蹴りつける。
「うぉっ⁉︎」
突然の衝撃に対応できなかった怪物は、受け身も取れずに遠くへ蹴り飛ばされた。だが直ぐに立ち上がり、こちらに体を向けてきた。やはりダメージはないようだ。
俺は馬の背から降り、広場を見渡した。傷ついた隊員があちこちに転がっており、誰一人として立ち上がる気配はない。
「……随分と暴れてくれたな。悪鬼よ」
怪物──悪鬼を睨むと、生物なのか機械なのか分からぬ声質が返ってきた。
「貴様、何者だ」
悪鬼の問いに、若干の間を開け、わずかに口角を上げながら答える。
「俺は──鎧騎士だ」
それを聞いた悪鬼は、驚くように過敏な反応を示したが、直ぐに冷静になったのか、不気味な笑い声を上げた。
「ハッハッハッ! 馬鹿を言うな。貴様が鎧騎士なはずがない」
まぁ、気持ちは分かる。奴からしたらただの高校生だから。
「嘘かどうか、その目で確かめてみろ。……いくよロット」
愛馬の顎を撫でながら囁き、ブレザーの胸ポケットから騎士の駒と──盾型のブレスレットを取り出す。
ブレスレットを腕時計の手前に巻き付け、盾の中心にある窪みに駒を押し込むと、盾から白い一本線がロットの額に伸びていく。駒を押さえ込みながら、左手首を顔の横にまで持っていく。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そして──
「変身ッ‼︎」
その一言と同時に、嵌めた駒を押し倒す。
ロットの足元に巨大な白い魔法陣が出現し、悠斗の頭上にも同じく魔法陣が出現する。
ロットの魔法陣が光り輝き、馬を分解していく。次に悠斗の体を魔法陣が通過し、全身を白のパワードスーツで覆っていく。
魔法陣が地面に達した瞬間、分解されたロットが悠斗の体に次々と装着されていく。金属鎧を思わせる装備に変貌し、頭部を馬を象った甲冑で覆い終わると、残されたツノから柄が伸び、空いた右手に収まる。
一連の変身エフェクトが終了すると、俺の顔を隠すように甲冑が閉まり、青い複眼が一斉に光りだす。
「き、貴様──本当に、鎧騎士なのか⁉︎」
悪鬼は、先ほどまでの威勢が嘘のように消えており、今はかなり怯えている。
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