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第一部・最終章 魔術剣修道学園
第三十二話
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入学試験を無事合格で終え、魔術剣修道学園に入学してから、早くも一年が経つ。
剣技や魔術を一から見直し、改善点を洗い出し修練を重ねる実技。人界の歴史や魔術構文などを学ぶ魔術言語、素因の特性や反属性、過去の論文などを学ぶ魔術工学など、魔術師としての知識を培う講義。
高校の授業とは根本的に異なるカリキュラムであったが、新たな知識を得ること、自身の能力を伸ばすことが楽しくて仕方がなかった。
新しく会得した魔術構文で多種多様な組み合わせの試行錯誤を繰り返し、最も相性の良いのを見つけ出すこと、上達した剣技を相棒で披露するのが、とても楽しかった。
人生で二度目の学園生活に、俺は順応……いや、心の底から楽しんでいたと言っても良いだろう。
元の世界では決して学べない知識やカリキュラム、体育では感じることのなかった、体を動かす喜びを教えてくれた実技。人生初の寮生活というのもあり、時間は光の速さで過ぎていった。
俺は時折、自身の目的を完全に忘れてしまうことがある。そうなるほど、異世界は素晴らしい。
この世界は平和すぎる。整然と、美しく回っている。《分断の壁》の向こう側に、血と殺戮を求める亜人が存在するというのに、人界は平和すぎる。
人間なら、互いに争ってもおかしくない。むしろそれこそが、人間の本質の一面だと言っても良い。
だが、この世界には過去の大戦以降、争いが起きていない。戦争や反乱運動など一度も起きたことはないし、それどころか殺人事件すら起こらない。疫病な自然災害はほとんど起きないので、人の死亡理由が寿命と事故でしかない。
何故この世界では、人が人を殺めないのか。それは、創世神と天界の騎士が制定した、一つの厳格な法、《禁書目録》が原因だった。
殺人を禁ずる項目や、それ以外にも事細かに作り上げられた長文な法律は、元の世界にも存在する。
だが、元の世界で暮らす人間が法を守らないかは、毎日のニュースを見れば明らかである。
殺人・窃盗・詐欺が日常的に起こる世界に、何故無理に頑張ってまで戻らなければならないのか。寮のベッドで横になる度に考えた。
異世界はまるで理想社会、ユートピアだ。法に絶対遵守で、他者に危害や脅威が及ぶ危険性もなく、余計な心配をせずに暮らせる世界。
この世界の人間は皆優しい。学園に入学してから、つくづく痛感した。
カリキュラム内容で困惑していた時、隣に座る男子生徒が、嫌悪の表情一つ見せず、丁寧で分かりやすく教えてくれた。
同じように、今度は俺がその立場で女子生徒に教えると、感謝の言葉を躊躇いもなく言ってきた。
心優しく、素直に感謝を言える人達が暮らす世界。常に自己優先で他者を貶めることばかり考えている、心汚い人間が暮らす世界。相反する二つの世界に於いて、どちらで暮らしたいと聞かれたら、今の俺なら即答するだろう。
俺は──。
夕刻五時を知らせる鐘が、軽快な響きをまとって学園内に響き渡る。
聴き慣れた音色が耳に届いた瞬間、日課にしている記録帳を記す手がピタリと止まる。
「やっべ……もう五時か」
時間を意識するのを完全に忘れていたカズヤは、規則違反者が自分以外いないのか探すように、周囲を入念に見回すが、既に自分以外の生徒は退出している。
カズヤがいる場所は、学園内に設けられた図書室。彼は一週間に一度ここに訪れ、授業の課題を済ませている。課題を終えると、自作魔術を完璧に仕上げるために、数多の文書を漁っている。
名門校なだけあって、取り扱われている文書はどれも希少なもので、参考になるものばかりだ。
休息日に試験運用として詠唱し、多くの改善点を洗い出し、調整するを繰り返した甲斐あって、自作魔術は大分完成形に近づいている。
いつも昼間や放課後は試験勉強を目的とした生徒が数人いたのだが、最終下校時刻の一時間前になると全員一斉に退出する。
ちなみに、学園規則で記されている生徒の最終下校時刻は五時半となっている。規則を破るような不届き者は本来存在しないのだが、ごく稀に破る者が存在する。そういう輩には、木剣の素振り百回か魔術構文の書き取りのどちらかを罰せられる。
無論、正当な理由が有れば罰は免除されるが、カズヤのように時間を忘れての規則違反は正当な理由じゃないため、十中八九罰を与えられる。
今更ながら焦りを鮮明に感じ始めたカズヤは急いで身支度を終え、図書室から退室しようと扉へと駆け足で向かう。
扉の取手を摑もうと右手を伸ばした、次の瞬間。
摑むより先に、取手が横に動いた。
まずい! 見回りの講師か!
姿を見せた瞬間、即お辞儀が出来るように背筋を伸ばし待機する。
だがすぐに無駄と判断し、固まった肩を竦め脱力した。
扉を開けたのは見回りの講師ではなく、一人の女子生徒だった。
春に咲く桜のような桃色髪のショートヘアに、くりくりと大きな瞳と、ツンとした可愛らしい鼻。
俺はこの女子を知っている。というか、同じクラスで知らない人はいないほどの有名人だ。この人は、ルーム長なのだから。
「カズヤ君。最終下校直前まで書庫室で学力を磨くなんて偉いね。でも、学園規則を違反するのは、感心出来ないよ」
「そ、そういう委員長だって、こんな時間に書庫室に来てるじゃないか」
「私は見回りで来たの。ちゃんと申請書は提出してるから、規則には反していないわ」
ふんっと鼻を鳴らし自慢気に告げられ、反論出来ず口を紡いだ。
やはり、委員長は苦手だ。規律を重んじる性格故に、適当に過ごしている俺にはかなり厳しく指導してくる。
以前──実技の最中、自分の番がかなり先だったため軽い仮眠を取ると、横になっている俺を発見した委員長が休息時間の半分を要いた説教をしてきた。寝ていた俺が悪いので仕方ないが。
その他にも──大体こちらが悪い──何度か説教されており、すっかり委員長に対する苦手意識が強まっていた。
だが、一番の苦手理由は、全く別の箇所にある。
それは、彼女の名前。
クラス内での自己紹介の時、自身の耳を疑った。
彼女が告げた自らの名、それは──。
「それにしても、カズヤ君はなんで私のことを、ユリって呼んでくれないの? クラスのみんなは呼んでるのに」
そう。彼女の名はユリ。妹と、全く同じ名前なのだ。
最初聞いた時は「え!?」と声を上げ立ち上がるほどの衝撃だった。
「……委員長は、委員長だからな」
「なにそれ。相変わらず、よく分かんないよ」
「いずれ分かる時がくる。それじゃ、俺はこの辺で」
後半を早口で言い残し、逃げるようにその場から退散した。背後から注意勧告するような声が聞こえてくるが、聞こえてないフリをしながら廊下を右に曲がる。
半端諦めながら学園内を駆け抜け、行く手を見上げると、古めかしい建物が目に入った。石造りの二階建て、屋根は赤色のスレート葺き。魔術剣修道学園の中等修剣士百二十人が寝起きする寮である。
学園では、初等・中等・高等の三つの位に分かれている。元の世界風に言い直せば、初等は一年、中等は二年、高等は三年となる。
確実に五時半を超えてるため、学園規則に反している。このまま直進すれば、確実に寮監の目に入り罰則を与えられる。
面倒を避けるため、風素を靴底に宿し二階の窓あたりから部屋に直帰してしまいたいが、寮則でそれは出来ない。これ以上罪を重ねれば自分が後悔するだけだ。
意を決し、正面入り口の石段を登った俺は、この上なく慎重に両開きのドアを押し開けた。足音を殺して、エントランスホールを一歩、二歩進んだところで──右側からコホンと小さな咳払い。恐る恐るそちらを向くと、カウンターの奥に座る女性と目が合う。茶色の髪をきっちりまとめ、顔出ちも峻厳の一言。歳は……聞いたことがない。
背筋を伸ばし、俺は大声で申告した。
「カズヤ中等修剣士、ただいま帰着しました!」
「……最終下校時刻から大分遅れているようですが」
「図書室での勉学に励むあまり、時間の流れを忘れていました!」
嘘をつくよりも素直に伝えた方がいい。もしかしたら「己を磨いていたなら仕方ありません。次から気をつけなさい」と、罰の免除を言い渡されるかもしれないし、試してみる価値は充分にある。
寮監──マリナ女史は、ブルーグレーの瞳でじっと俺を見る。
これはもしや、ワンチャンあり得るか? 淡い希望を抱きながら、マリナ女史の一言を待ち続けると。
放たれたのは、無慈悲なものだった。
「明日までに、用紙三枚分に魔術構文を書き取り、提出しなさい。一秒でも遅れた場合は、倍にします」
「そ、そんな……せめて用紙二枚で」
往生際悪くすがると、マリナ女史は厳めしい雰囲気で言ってきた。
「貴方の考えなどお見通しです。どうせ、正直に言えば罰が免除されると思っていたのでしょう」
びくっ。と硬直する俺。
「去年、あなたは週に一度は遅刻をしています。成績が優秀でも、罰を受ける立場だということをお忘れなく」
「は、はい……」
「ですが、一度も嘘をつかなかったあなたのことは、結構好きですよ。だから、本来は五枚のところを三枚にまで減らしてあげました」
「マリナ女史……」
手厳しそうな講師の本音に感動しながら、なおも図々しいお願いを口にした。
「俺のことが好きなら、罰を与えないというのはどうでしょうか?」
「駄目ですよ。これは、私からの愛だと思ってちゃんと受けなさい」
「寮監の愛なら、別の形で受け止めますよ」
「別に構いませんよ。ベッドが棺桶になっていいのならね」
「冗談ですから、腰の剣を納めて下さい」
柄に手を添えている寮監から一歩下がり立ち去ろうとすると、マリナ女史はようやく視線を手許の書類に落とし、言った。
「六時は食事の時間です。なるべく遅れないようにしなさい」
「は、はい! 失礼します!」
最後に一礼すると、くるりと身を翻し、正面の大階段を寮則が許すギリギリの速度で上る。二階の200号室が、俺が寝起きする部屋だ。六人部屋だが、他の四人も気のいい奴らで結構仲が良い。
二階の廊下を、和やかに談笑しながら食堂へ向かう生徒たちをスルリスルリとかわし、西の端にあるドアを開けて飛び込んだ途端──。
「遅いよカズヤ」
という声が俺を出迎えた。
発言者は、右奥ひとつ手前のベッドに腰掛け……いやもうその領域からは半ば脱しつつある、ワタルだ。
魔術の街で出会った同性の友達であり、同じ部屋で席も隣だからかなり仲良くなった。
立ち上がり、両腰に手を当てるその姿は、一年前と比べると三センチほど背が伸び、体つきも逞しくなっている。それはそうだ、彼は今年でもう十九歳になるのだから。──と言っても、優しげな顔立ちとグリーンの瞳の輝きは、出会った頃とまるで変わっていない。この学園で学んだ一年でいろいろ嫌な目にも遭ったが、彼の真っ直ぐで強靭な魂は一切歪むことがなかった。
対して俺はどうかと言うと、人格的にはさして変わった気もしないが、恐ろしいことに体のほうは、ワタル同様に背も伸び筋肉もついている。
一年で目的の半分は終えたが、この調子だとあと三年か四年はかかりそうだ……などと頭の片隅で考えながら、俺はワタルに歩み寄った。右手でゴメンの手刀を切りつつ、謝罪する。
「悪い。だいぶ待たせたな」
「もうみんな待ちくたびれて、先に行っちゃったよ」
「そうなのか……薄情な奴らだぜ」
「別にみんなは悪くないと思うよ」
冗談めいた発言を軽く受け返すと、教材の入ったバッグを自分のベッドに放り投げる。
「それじゃ、食堂に向かいますか」
「そうだね。今日の料理はなんだろう」
「昨日は野菜中心だったし、今日は肉か魚が主菜の献立だろ」
──というような話をしながら、二人並んで部屋を出る。
同室の四人はとっくに食堂へ向かったようで、廊下にはもう生徒の姿はない。寮での朝食・夕食は、夜七時までに食べ終えるべしという規則があるだけなので、六時の開始時間に遅れても違反にはならないが、食前の創世神へのお祈りをスルーしてしまうのは躊躇われる。──あとは単純に、出来立ての料理を食べたいという願望があるだけだ。
再び最大戦速で、東の端にある大食堂を目指す。
一分足らずで大食堂に到着する。もしここに委員長がいたら、多分俺だけ長い説教を受けていたのだろうな、と考えながら、目の前のドアを押し開けると、ざわざわと賑やかな空気が俺たちを包んだ。
食堂は一、二階吹き抜けで、寮で数少ない男女共同用の施設だ。生徒百二十名の大半は男子だけ、女子だけでテーブルを囲んでいるが、中には同席してにこやかに談笑しているグループもいる。この辺は、元の世界の学校とあまり変わらない。
俺とワタルは早足に階段を下り、まずカウンターで夕食のトレイを受け取ると、隅っこの空いているテーブルにするりと滑り込んだ。直後に六時の鐘が鳴り、遅刻せずに済んだことにほっと一息。したのも束の間、突然隣にとんでもない人物が座ってきた。
特別改造された制服からは、毛量の多さが見て取れる尻尾が出ており、頭には二つの耳が生え出ている。
「サヤ……何故お前がここに」
学園内で唯一の女性友達を呼ぶと、サヤは笑顔で返してきた。
彼女もこの一年間で大分成長した。身長も俺を少しだけ超えており、身体能力も上がっている。他にも成長しているが、性格までは変わっておらず、相変わらず世話焼きで面倒見がいい。
「彼等に呼ばれたからよ」
そう言い指差す方向には、同室の男子四名が立っていた。
「私って、男子から何故か人気があるから」
「別に聞いてねーよ」
素っ気ない返事で返すと、頬を膨らませたサヤが、嫌がらせのように横脇腹を突いてきた。
「や、やめろ、くすぐったいだろ!」
側から見たらイチャつくカップルのような光景に、背後から殺意の念がこもった視線が送られる。
だが気づいてないフリをしながら、俺はただ食事の時間が来るのを待ち望んだ。
今夜のメニューは、香草ソースをかけた白身魚とサラダ、野菜のスープ、丸いパン二個というものだ。教会の食事とあまり変わらず少々意外な感じもするが、他の生徒はさして不満な顔をするでもなく、当たり前のように食べている。
これは、中都といえども暮らしは意外と質素──というわけではなく、禁書目録によって作物や家畜、獣や魚などは一日定められた量しか取ってはいけない……と、そういうことらしい。
「しかしカズヤ。今日はなんで遅れたの?」
隣で、パンをちぎりながらワタルが囁いた。
「ああ。今日は、書庫室で勉強してた」
「今日はって、あんた相変わらず時刻守ってないのね……」
頭を抱え、げんなりした顔でサヤが割り込んできた。
「相変わらずってなんだよ。人が毎回遅刻してるみたいじゃ……」
「してるでしょ、カズヤくん」
不意にそんな声が背後から聞こえ、今度は俺がげんなりした顔になる。
この声の主は──十中八九委員長だ。振り返って確認すると、少しだけ息を切らした委員長が、トレイを持って立っていた。
「あ、ユリ。遅かったじゃない」
「ごめんねサヤ。校内の見回りが長引いちゃったんだ。誰かが時刻ギリギリまで残ってたから」
聞こえよがしの台詞に、別の声が応じる。
「まあ、そう言わないであげなよ。その誰かさんにも、きっと私たちにはうかがい知れぬ苦労があるんだからさ」
その台詞に、またもや別の声が応じる。
「きっとそうだよ。その人は多分、自分を修練することに頭が一杯なんだろうね」
わざとらしいやり取りに反応すれば相手の思う壺なので、ひたすらフォークを動かす。とは言え、むかむか来るのまでは止められない。
彼女の嫌味テクニックは中々優秀だ。台詞の中で、『時刻ギリギリ』と言っているところがミソだ。この食堂には、俺以外にも何人かは校内に残っていたが、時刻ギリギリは俺だけなので、その一言で対象はきっちり限定しているというわけだ。
入学試験の時にも、嫌な奴はいた。実技試験で俺と決闘したユーグの悪知恵は中々のものだったと言えよう。それに負けじと劣らない委員長の嫌味テクニックは、いっそ感心するほどだ。
とはいえ、彼女はユーグとは比べ物にならないほどの善人ではある。クラスをまとめるルーム長に抜擢されるほどのカリスマ性や人徳性を持ち合わせているため、クラス内ではかなり人気者だ。
成績や剣術も優秀で、昨年では学年一位の座に就いている。俺は去年の総合成績では学年内で五位ではあるが、勝てる気がしない。
……でも、実際のとこはどうだろうな……。
脳裏でそう呟きながら、俺は右手のナイフを持ち上げ、磨き上げられた銀器に自分の顔を映し出した。
確かに総合成績では負けている。だが、幸か不幸か試合でぶつかったことがないので何とも言えない。季節ごとの検定試験……俺は一度も彼女と当たったことはない。
もし俺が彼女と剣を交えた時、一体どちらが…………
「……おいカズヤ、お皿もう空っぽだよ」
ワタルに肘でつつかれ、俺はやっと、自分が左手のフォークで空のサラダボウルを何度もつついていたことに気付いた。慌てて右手のナイフを下ろし、白身魚を切ろうとするが、それもいつの間にか消失している。どうやら、考え事に夢中になるあまり、一日で三番目に楽しい夕食の時間を満喫しそこねたらしい。
「考え事でもしてたの?」
先程まで嫌味を言っていたサヤに尋ねられ、俺は適当に笑いかけた。
「なんでもないさ。さぁて、俺はお先に失礼するよ」
ナイフとフォークを置くと、トレイを持って立ち上がる。
食器をカウンターに戻して食堂から出た途端、ふうっとひと息。
食事を終えた後は、就寝時間まで自由時間とされている。多くの寮生はこの時間に共同の銭湯に向かい、一日の疲れを汚れと共に落とす。
俺はあまり大多数で風呂に入るのは好まないため、就寝時間ギリギリまで入らずに、木剣片手に男女共同施設である修練室に引きこもっている。
食事の後に体を動かすのは少々嫌気が差すが、部屋に一人でいるのもつまらないし、特にやることもないため、毎日型の稽古に励んでいる。
自由時間の最中でも、自己の研鑽を怠らない真面目な生徒だとマリナ女史に思い込ませる、不真面目な目的は、ほんの少しだけある。
だが残りは、真剣に成績を上げるためでもある。
剣を扱った時間は、一年半。他の生徒よりも遥かに劣っている。そんな俺が実技で上位の成績を維持しているのは、一日も怠らずしている稽古にあった。
学園内で教えている剣技の型を、最低でも二回復習しているからこそ、実技定期試験は毎度二位を維持出来ている。
もし一日でも稽古を怠れば、取り返すのに三日掛かる。元々剣技の基本も知らない素人の俺にはこれぐらい頑張らなければ、学園内で生きていけない。
肌寒い夜風に身震いしながら、寮に隣接する専用修練場に向かった。初等修剣士の頃は狭くて屋根のない野外稽古場で木剣を振っていたが、中等修剣士の修練場は明るく広々した屋内で、誰にも気を使わず好きなだけ練習が出来る。
短い渡り廊下を駆け足で抜け、突き当たりにある扉を開けると、毎年寮生が入れ替わる度に張り替えられる床板の清々しい香りがカズヤを出迎えた。立ち止まり、胸いっぱいに吸い込もうとして、途中で息を止める。空気にほんの少し、甘い香りが混じっていたからだ。
嫌な予感がする。直感的にそう悟った。
恐る恐る修練場を見回すと、嫌な予感は現実に変わった。
広い板張りのど真ん中に陣取っていた女子生徒二人が、カズヤに気付いて振り向いた。
二人とも知ってる。とてもよく知る人物だ。とゆうか、先ほどまで一緒にいた。
一人は型の練習中だったのか、木剣を振りかぶったまま静止し、もう一人は手足の角度を調整中だったが、こちらに気付くとすぐに腕を下ろした。
面倒ごとはごめんだ、と内心で呟きながら、カズヤは軽く会釈だけして修練場の隅に向かって歩き始めた。だがやはり、面倒ごとは避けられない運命だった。
「何よカズヤ、あんたも稽古に来たの?」
声を掛けてきたのは、木剣を振り上げていた方の女子生徒──サヤだ。
ここで無視しても構わないが、それだと余計面倒になる。そうなれば稽古の時間がなくなってしまうので、カズヤは素知らぬ顔で返した。
「別に暇だから来ただけだよ。お前こそ珍しいじゃないか、こんな時間に修練場に来るなんて」
素っ気ない返答に反応したのは、サヤではなくもう一人のほうだった。
「時間が有れば修練に励む。本当、カズヤ君って真面目だね」
もう一人の女子生徒──ユリは、にこやかに笑いながら言ってきた。
サヤとユリ。この二人は親友と言っていいほど仲が良い。元々サヤは獣人族であり整った容姿から、入学してすぐ多くの男子に告白されていた。もちろん全て拒否している。
男子生徒とも最低限関わりを持ってるが、基本は同じクラス内にいる女子生徒と一緒にいる。その中でもユリとだけは、かなり友好関係が深まっていた。
ユリは俺にだけ厳しいから、極力寮内では出会いたくない存在だったのだが、まさか修練場で遭遇するとは思いもしなかった。
普段は人が全く寄り付かない場所故に完全に油断していた。ここは即座に退散して、日を改めるべきか。
いや、逃げる必要はないのか……。
別に規則を破るわけでもないし、他人に迷惑を掛けるわけでもない。ただ自己の修練に励むだけなのだから、文句を言われる筋合いはない。
カズヤはぺこりと一礼して失礼すると、再び修練場の隅を目指した。
中都近くの森から切り出された銀樫木の床板を踏んでいると、余計な思考が徐々に薄れていく。石造りの建物ばかりの中都では、新鮮な木の香りを楽しめる場所は貴重だ。
東の壁際に何本も立てられている、一人稽古用の丸太の前で足を止める。これも床と同時に取り替えられ、側面はまだほとんど凹んでいない。
木剣を両手で握り、基本の中段に構えて、呼吸を整える。
「ハッ!」
頭上に掲げた剣を、短い気合に乗せて振り下ろす。ドッ、と重い打撃音が響き、右側面を叩かれた直径三十センチの丸太が震える。
両手に心地好い手応えを感じながら一歩下がり、今度は左から剣を振り下ろす。間髪入れず右、また左。その繰り返しを続けていくうちに、カズヤの意識から木剣と丸太以外のものが消える。
カズヤが毎夜の稽古で行うのは、この左右からの上段斬り、左右からの水平斬りを合わせて四百本、昼間の実技で教わった複雑な型の復習だけだ。
無心になりながら木剣を振り続け、四百回目の打ち込みをした途端、体が自動的に停止する。
張り詰めていた呼吸を緩め、上がった息をゆっくりと整えていた、その時。
「カズヤの稽古って初めて見たけど、結構変わってるのね」
背中側から響き、ビクッと反応する。
広い修練場の隅にいるカズヤと、真ん中の彼女たちとはかなり距離があるはずなのに、こうもはっきり聞こえるということは、つまりそういうことだ。
恐れながら振り返ると、興味深そうな顔で背中姿を見るサヤとユリが、結構な至近距離にいた。
「二人とも、なんかよう?」
腰帯から手ぬぐいを抜き、まず木剣を綺麗に拭き上げる。次いで額から首筋までを濡らす汗を拭いながら、ちらりと見ながら言った。
「ちょっとね。どんな稽古してるのか興味があって、近くで観察しようと」
「別に俺の稽古は普……ちょっと特別な方に偏ってるだけだよ」
訂正を交えながら答え、型の復習を始めようとした、寸前。
「カズヤ君。私で良かったら、型の練習手伝ってあげるけど、どうかな」
ユリが、思いもよらぬ申し立てを申請してきた。
俺を毛嫌いしてるであろう彼女が、まさか型の復習を手伝ってくれるなんて、全く予想しなかった。
正直な所、かなりありがたい。委員長は実技試験一位の成績を持っており、型の演舞では満点以外見たことがない。
そんな彼女に型を教授して貰えるのは、素直に嬉しかった。普通の生徒なら、媚び諂いながら頼み込むだろう。
ただ、カズナはいかんせん普通の生徒から少し逸脱していた。
委員長の申し立てを快く承諾するつもりはある。あるのだが……。
ここで、彼の中にある生まれ持っての性が阻害していた。
男なら誰しもが持っているプライド。女子から実技を教わることは、男のプライドが許さなかった。特に学生である彼のプライドは、一般男性のそれを遥かに凌駕するほど高かった。
下らないプライドに見えるだろうが、男にとってプライドは命の次に大切なものだ。プライド無くして男を語れないと、昔誰かが唱えてた気がする。
故にカズヤは、「お気遣いなく」と素っ気なく言おうとしたが、そこで少し考え直した。
もしかしたら、これは好機なのではないだろうか。
委員長は事実、クラス内で一番の強者だ。ひ弱そうな外見とは上腹に、剣技も魔術も一級品。そんな彼女から型を伝授してもらう機会など、滅諦にない。
素早くそんな考えを巡らせ、カズヤは一度閉じた口を開いた。
「……それじゃお言葉に甘えて、一手ご教授をお願いするよ、委員長」
途端、サヤと委員長は揃って眉を持ち上げた。カズヤの反応が意外だったらしく、しばらく二人は押し黙った。
「そ、そう。それじゃ早速、そこで型を披露してみせて。まずは簡単なところから……」
「いや、委員長」
右手を小さく上げ、カズヤは慎重に言葉を選びながら言った。
「型の講評よりも、直接体感した方が良いと思うから、直接指導してくれないくれないか? いつもやってるみたいにさ」
「…………なんですって?」
委員長の顔から、戸惑いがすっと薄れる。代わりに浮き上がるのは、カズヤの真意を探る疑念だった。
「直接指導ってことは……私に決闘を挑むってこと?」
「違うよ。指導を請う立場なのに申し訳ないけど、寸止めの立ち合いだよ」
「なるほど。立ち合いを望むわけね」
委員長の申し立てに、力強く頷く。
「分かったわ。その代わり、ちゃんと受け止めてね」
言うや否や、腰帯に差していた木剣を軽やかに抜き放つ。
相当修練に使用したのだろう。俺と同じ素材なのに、刀身の側面に細かい傷が複数存在する。
サヤが数歩下がると、両足を前後に開き、右手だけを肩に担ぐように振りかぶる。周辺の空間魔素が剣の傷に吸収されるように集まっていき、青い光を放っているように輝く。
「……ハァァァッ!!」
気合声を迸らせ、委員長の剣が走った。
その直後、カズヤの右手も動いていた。左腰から木剣を引き抜きざま、真上から飛んでくる委員長の剣を、斜め下からの斬り上げで受ける。
本来は魔素の宿る剣同士の鍔迫り合いは、魔術が宿る方が勝利する。それを見越して、カズヤは抜きざまに委員長と同じ量の空間魔素を炎素に変換させ、木剣に宿した。
委員長よりも多く炎素を宿すことを一瞬考えたが、やはり剣技のみで対峙したいために不当にした。
魔術対決は五分。ここから勝敗を分けるのは、剣技が相手よりも優ってる方だ。
剣には使用者の思念が反映される。ジュウオンジとの決闘で思い知らされた持論を思い返しながら、剣に意識を集中させる。
せめぎ合う二本の刀身を包む青と赤の輝きはお互いに干渉し合い消失し、最早膂力の対決となる。
ぎ、ぎぎっ、と鈍い軋み音を発し、委員長の剣が二セン下がる。
やはり単純な力比べなら、女性は男性よりも劣っている。
毎日これよりも数倍の重量を兼ね備えた愛剣を振っているんだ。いくら成績が優秀でも、女子に負けるほど弱くはない。
このまま押し切れば勝てる。そんな確信を胸に抱き、カズヤはありったけの力で剣を振り切ろうとした。
しかし、その刹那。
交差する剣の向こうにある委員長から放たれる雰囲気が、一層強くなった。
「負ける……ものかぁっ!」
ぎしっ。今度は、カズヤの木剣が激しく軋んだ。右腕にかかる重みが倍加し、手首と肩に鋭い痛みが走る。押し込んでいた二センの距離が一瞬で取り返され、二本の木剣は最初の位置まで戻って再びせめぎ合う。
──これが、委員長の意志の力か!
ギリギリで踏み止まりながら、称賛の念を相手に送る。
まさか、押してたはずの俺が逆に押されるなんて。凄まじい執念、意志力だ。
木剣から激しく軋む音が鳴り続けるも、意識は既に剣から外れており、お互いただ眼前の好敵手にしか向けられていなかった。
二人は今、同じことを考えていた。
──負けられない。
最初の目的から大きく外れた願いであったが、すでに二人は自分達の世界に入っている。
剣からの悲鳴がどんどん強まっていき、そして。
ガコンッ!!
重たい音を修練場に響かせながら、互いの刀身が半ばからぽっきり折れてしまった。激しい衝突に耐え切れなくなってしまい、先に刀身が根を上げてしまったようだ。
二人はしばし木剣を無言で見つめると、力なく呟いた。
「……私からは、以上です。これからも精進するように」
「……ご教示、ありがとうございました」
疲弊している二人は、余計な会話をする余裕もなく、ただ一言で会話を終わらせた。
折れた刀身を拾い上げてから感謝の言葉を言い、逃げるように修練場出入口から姿を消した。
「散々な目にあった……」
木剣を肩に担ぎ、ゲンナリしながら呟いた。
修練場から逃げるように立ち去り、寝起きする部屋へと足を運んでいる。廊下には風呂上りでさっぱりした生徒が談笑しながら部屋に戻っている。多分、俺以外の男子生徒は風呂に入ったのだろう。
今ならあの広々とした風呂を一人占め出来る。そんなことを考えていると、自分の部屋に到着した。中を覗くも、珍しく誰もいない。いつもなら既にベッドの中で他愛のない会話をしているのに。
自分の私物が収納されている箪笥に木剣を入れ、代わりに変えの衣服を取り出す。
来た道を戻り、今度は修練場の反対側に隣接した施設──大浴場へ続く渡り廊下に向かう。
外に出ると短い通路が延びていて、正面が左右に分かれる。そしてその分岐の手前には、天井から純白の布が垂れ下がっている。
下半分が短冊状に裁断されている布を持ち上げてくぐり抜け、分岐点に到達する。すると左右に新たな垂れ布が現れる。
右側に下がる藍色の布には、人界語で『男』。左側の臙脂色の布には『女』。
まるで銭湯だな。この垂れ布を見る度に考えながら、『男』の布をくぐって奥へ。通路は左に折れ、その先は少し広めの部屋になっている。
大きな棚が仕切り壁のように設置された部屋には、人一人いない。
やはり、俺が委員長と立ち合いしてる間に、全男子生徒は入浴を済ませていたのか。
そそくさと服を脱ぎ、持ってきた浴衣と一緒に棚の中の籠に収めると、奥の硝子戸を開けた。
途端、真っ白な湯気が押し寄せてきて、急いで一歩前に出ると戸を閉める。
湯気が散り、その奥に現れたのは、湖を思わせる広大な湯船だった。
施設の半分をそのまま使った広大な空間。床も柱も大理石製、南の壁は巨大な一枚硝子で、中都の星空を一望出来る。学生にしては贅沢すぎる空間だ。
つい先ほどまで何十人ものむさ苦しい男子生徒が浸かっていたとは信じられないほど綺麗な湯船を眺めながら一歩ずつ近づく。
透明なお湯に片足を沈める。最初は熱く感じるが、すぐに慣れるので階段状の大理石を下り、最後の段に腰掛ける。
首までお湯に浸かると、一日の疲れと共に、思わず声が出てしまう。
「はぁ…………癒されるわぁ…………」
誰もいないため、力ない呟きが浴場全体に虚しく響いた。
そのまま泳ぐように南側の壁にまで行き、硝子越しで夜空を仰ぐ。
綺麗だ。星空鑑賞などという趣味はないが、今だけは、悪くないと思える。
大勢で風呂に入りたくないと言っていたが、実は理由はもう一つある。
この星空を、一人占めしたい。そんな、独占欲が理由でもあった。
カズヤは一週間に一度、書庫室に立ち寄った日に、一人でゆっくり湯船に浸かりながら星空を眺めていた。
幻想的な情景と疲れを癒してくれる空間。ベストマッチな空間に、俺は初見で魅了された。
以降、一週間の締めくくりとなる日は、一人疲れを癒しながら星空を眺めることを楽しんでいた。
夜空一杯に輝く星々を眺めていると、考え事や悩みなどがどうでもよくて小さなものだと思い知らされる。自分は何に悩み、苦しんでいたのかさえ忘れてしまう。
階段状の大理石に肘を乗せ、楽な姿勢になりながら天を仰ぐ。
──剣に込める思い……か。
不意に、委員長との立ち合いを思い返す。
彼女とのせめぎ合いの時、膂力ではこちらの方が優っていた。にもかかわらず、彼女は剣に込めた思いで逆境を跳ね除けた。
あの時の立ち合いは、ジュウオンジとの決闘に近いものがあった。
思いの強さ。
剣を通じる意志が、決闘において勝敗を分ける重要な鍵になる。ジュウオンジのように、最強の男としての自信が剣に宿るように、委員長の自尊心のように、この世界では、剣に思いを宿らせることが、かなり重要になってくる。
なら俺は、何を剣に宿せばいい。
自問するも、答えは出なかった。
過去に同じような話をサヤにしたが、その時は「絶対に譲れない思い」と笑いながら答えた。
譲れない思い……。抽象的な答え故に、明確な答えが見出せなかった。
異世界から無事帰還し、家族や友人と再会する。コドールの村で、セレナや教会のみんなと一緒に暮らす。
たしかに、どれも自分が望み、譲れない願いだ。だが、決定的な答えにはならない。
一体自分は、剣にどんな思いを宿せばいいんだ?
人界内で暮らしていた中で、唯一答えが見出されなかった自問は、学園に籍を置けば自動的に解決してくれると思っていた。しかし、解決しなかった。
やはり自分自身の力で答えを導き出さなければいけないのか。
満点の星空に向けてため息を吐きながら、湯船から立ち上がる。湯冷めする前にそそくさと湯船から全身を出し、体にまとわりついた水分を風素で吹き飛ばす。
持参した浴衣を颯爽と身に纏い、冷たく吹く夜風を避けるように渡り廊下を抜ける。
寮に入った瞬間、寮則を破らない範囲の速度で階段を駆け上り、200号室へ駆ける。
部屋に到着すると同時に、夜九時を知らせる鐘が寮内に重苦しく鳴り響く。
「あっ……ぶねぇ」
部屋の扉前でそう呟くと、ベッドの上で談笑していた四人の男子が驚いたように言った。
「カズヤが珍しく就寝時間の時に部屋にいるぞ」
「いつもなら遅れて来て、マリナ女史に叱られてるのに」
茶化すように笑いながら言われ、ため息を吐きながら自分のベッドに座り込む。
「俺だってやれば出来るんだよ。その気になれば、毎日一時間前には部屋の中にいるからな」
「その台詞、一週間前に寮監に言ってなかったけ?」
真正面のベッドで本を読むワタルが、肩を竦めながらツッコンできた。
「いいかワタル君。人間というのは、有言実行が中々出来ない生き物なんだよ。ついては明日のことだが、俺はちょっと用事が出来てしまい……」
「駄目だよカズヤ。その言い訳は、既にサヤさんに読まれていたから」
「マジか……」
苦悶の表情で吐き捨てるように呟くと、
「観念しろよカズヤ。別に嫌な行事でもないんだからさ」
上で話している男子生徒が言ってきた。
明日は学園が休みの休息日。それを利用して、親睦会も兼ねてクラス全員で野遊び──と言っても場所は中都から徒歩五分で着く森だが──に行く予定なのだ。
こういったクラス一丸となって執り行う行事は、毎度委員長とサヤが発案している。俺はあまり興味がなく修練に励みたいがために、あれこれ理由をつけて不参加を貫いていた。──時には逃亡した。
だが今回ばかりは、サヤによって阻止されてしまった。
「明日は朝九時に噴水広場に集合だから、遅れないように。後逃走した場合は……。って、サヤさんがいってたよ」
「おい待て。逃走した場合の後はなんだ。滅茶苦茶恐ろしいんだけど」
「知らないよ。別に親睦会なんだから参加しなよ」
「めんどくさいよ。別に俺は全員と仲良くしたいわけじゃないし」
「カズヤになくてもみんなにはあるんだよ。お前は成績がいいから、クラスの女子も話してみたいっていってたよ」
「そうなんだ……すっごいどうでもいい情報だな」
「とにかく、明日の九時だからね」
ワタルがびしりと人差し指を突き付けると、カズヤは「はぁーい」と返事をして、ベッドで横になった。
その時ワタルは、
──カズヤが逃げられないよう、明日は六時には起きてよう。
今までの彼の行動パターンから、明日早く起きて逃走する可能性がある。
彼の行動を予想出来る自分にゲンナリしながら、ワタルも同じように横になった。
剣技や魔術を一から見直し、改善点を洗い出し修練を重ねる実技。人界の歴史や魔術構文などを学ぶ魔術言語、素因の特性や反属性、過去の論文などを学ぶ魔術工学など、魔術師としての知識を培う講義。
高校の授業とは根本的に異なるカリキュラムであったが、新たな知識を得ること、自身の能力を伸ばすことが楽しくて仕方がなかった。
新しく会得した魔術構文で多種多様な組み合わせの試行錯誤を繰り返し、最も相性の良いのを見つけ出すこと、上達した剣技を相棒で披露するのが、とても楽しかった。
人生で二度目の学園生活に、俺は順応……いや、心の底から楽しんでいたと言っても良いだろう。
元の世界では決して学べない知識やカリキュラム、体育では感じることのなかった、体を動かす喜びを教えてくれた実技。人生初の寮生活というのもあり、時間は光の速さで過ぎていった。
俺は時折、自身の目的を完全に忘れてしまうことがある。そうなるほど、異世界は素晴らしい。
この世界は平和すぎる。整然と、美しく回っている。《分断の壁》の向こう側に、血と殺戮を求める亜人が存在するというのに、人界は平和すぎる。
人間なら、互いに争ってもおかしくない。むしろそれこそが、人間の本質の一面だと言っても良い。
だが、この世界には過去の大戦以降、争いが起きていない。戦争や反乱運動など一度も起きたことはないし、それどころか殺人事件すら起こらない。疫病な自然災害はほとんど起きないので、人の死亡理由が寿命と事故でしかない。
何故この世界では、人が人を殺めないのか。それは、創世神と天界の騎士が制定した、一つの厳格な法、《禁書目録》が原因だった。
殺人を禁ずる項目や、それ以外にも事細かに作り上げられた長文な法律は、元の世界にも存在する。
だが、元の世界で暮らす人間が法を守らないかは、毎日のニュースを見れば明らかである。
殺人・窃盗・詐欺が日常的に起こる世界に、何故無理に頑張ってまで戻らなければならないのか。寮のベッドで横になる度に考えた。
異世界はまるで理想社会、ユートピアだ。法に絶対遵守で、他者に危害や脅威が及ぶ危険性もなく、余計な心配をせずに暮らせる世界。
この世界の人間は皆優しい。学園に入学してから、つくづく痛感した。
カリキュラム内容で困惑していた時、隣に座る男子生徒が、嫌悪の表情一つ見せず、丁寧で分かりやすく教えてくれた。
同じように、今度は俺がその立場で女子生徒に教えると、感謝の言葉を躊躇いもなく言ってきた。
心優しく、素直に感謝を言える人達が暮らす世界。常に自己優先で他者を貶めることばかり考えている、心汚い人間が暮らす世界。相反する二つの世界に於いて、どちらで暮らしたいと聞かれたら、今の俺なら即答するだろう。
俺は──。
夕刻五時を知らせる鐘が、軽快な響きをまとって学園内に響き渡る。
聴き慣れた音色が耳に届いた瞬間、日課にしている記録帳を記す手がピタリと止まる。
「やっべ……もう五時か」
時間を意識するのを完全に忘れていたカズヤは、規則違反者が自分以外いないのか探すように、周囲を入念に見回すが、既に自分以外の生徒は退出している。
カズヤがいる場所は、学園内に設けられた図書室。彼は一週間に一度ここに訪れ、授業の課題を済ませている。課題を終えると、自作魔術を完璧に仕上げるために、数多の文書を漁っている。
名門校なだけあって、取り扱われている文書はどれも希少なもので、参考になるものばかりだ。
休息日に試験運用として詠唱し、多くの改善点を洗い出し、調整するを繰り返した甲斐あって、自作魔術は大分完成形に近づいている。
いつも昼間や放課後は試験勉強を目的とした生徒が数人いたのだが、最終下校時刻の一時間前になると全員一斉に退出する。
ちなみに、学園規則で記されている生徒の最終下校時刻は五時半となっている。規則を破るような不届き者は本来存在しないのだが、ごく稀に破る者が存在する。そういう輩には、木剣の素振り百回か魔術構文の書き取りのどちらかを罰せられる。
無論、正当な理由が有れば罰は免除されるが、カズヤのように時間を忘れての規則違反は正当な理由じゃないため、十中八九罰を与えられる。
今更ながら焦りを鮮明に感じ始めたカズヤは急いで身支度を終え、図書室から退室しようと扉へと駆け足で向かう。
扉の取手を摑もうと右手を伸ばした、次の瞬間。
摑むより先に、取手が横に動いた。
まずい! 見回りの講師か!
姿を見せた瞬間、即お辞儀が出来るように背筋を伸ばし待機する。
だがすぐに無駄と判断し、固まった肩を竦め脱力した。
扉を開けたのは見回りの講師ではなく、一人の女子生徒だった。
春に咲く桜のような桃色髪のショートヘアに、くりくりと大きな瞳と、ツンとした可愛らしい鼻。
俺はこの女子を知っている。というか、同じクラスで知らない人はいないほどの有名人だ。この人は、ルーム長なのだから。
「カズヤ君。最終下校直前まで書庫室で学力を磨くなんて偉いね。でも、学園規則を違反するのは、感心出来ないよ」
「そ、そういう委員長だって、こんな時間に書庫室に来てるじゃないか」
「私は見回りで来たの。ちゃんと申請書は提出してるから、規則には反していないわ」
ふんっと鼻を鳴らし自慢気に告げられ、反論出来ず口を紡いだ。
やはり、委員長は苦手だ。規律を重んじる性格故に、適当に過ごしている俺にはかなり厳しく指導してくる。
以前──実技の最中、自分の番がかなり先だったため軽い仮眠を取ると、横になっている俺を発見した委員長が休息時間の半分を要いた説教をしてきた。寝ていた俺が悪いので仕方ないが。
その他にも──大体こちらが悪い──何度か説教されており、すっかり委員長に対する苦手意識が強まっていた。
だが、一番の苦手理由は、全く別の箇所にある。
それは、彼女の名前。
クラス内での自己紹介の時、自身の耳を疑った。
彼女が告げた自らの名、それは──。
「それにしても、カズヤ君はなんで私のことを、ユリって呼んでくれないの? クラスのみんなは呼んでるのに」
そう。彼女の名はユリ。妹と、全く同じ名前なのだ。
最初聞いた時は「え!?」と声を上げ立ち上がるほどの衝撃だった。
「……委員長は、委員長だからな」
「なにそれ。相変わらず、よく分かんないよ」
「いずれ分かる時がくる。それじゃ、俺はこの辺で」
後半を早口で言い残し、逃げるようにその場から退散した。背後から注意勧告するような声が聞こえてくるが、聞こえてないフリをしながら廊下を右に曲がる。
半端諦めながら学園内を駆け抜け、行く手を見上げると、古めかしい建物が目に入った。石造りの二階建て、屋根は赤色のスレート葺き。魔術剣修道学園の中等修剣士百二十人が寝起きする寮である。
学園では、初等・中等・高等の三つの位に分かれている。元の世界風に言い直せば、初等は一年、中等は二年、高等は三年となる。
確実に五時半を超えてるため、学園規則に反している。このまま直進すれば、確実に寮監の目に入り罰則を与えられる。
面倒を避けるため、風素を靴底に宿し二階の窓あたりから部屋に直帰してしまいたいが、寮則でそれは出来ない。これ以上罪を重ねれば自分が後悔するだけだ。
意を決し、正面入り口の石段を登った俺は、この上なく慎重に両開きのドアを押し開けた。足音を殺して、エントランスホールを一歩、二歩進んだところで──右側からコホンと小さな咳払い。恐る恐るそちらを向くと、カウンターの奥に座る女性と目が合う。茶色の髪をきっちりまとめ、顔出ちも峻厳の一言。歳は……聞いたことがない。
背筋を伸ばし、俺は大声で申告した。
「カズヤ中等修剣士、ただいま帰着しました!」
「……最終下校時刻から大分遅れているようですが」
「図書室での勉学に励むあまり、時間の流れを忘れていました!」
嘘をつくよりも素直に伝えた方がいい。もしかしたら「己を磨いていたなら仕方ありません。次から気をつけなさい」と、罰の免除を言い渡されるかもしれないし、試してみる価値は充分にある。
寮監──マリナ女史は、ブルーグレーの瞳でじっと俺を見る。
これはもしや、ワンチャンあり得るか? 淡い希望を抱きながら、マリナ女史の一言を待ち続けると。
放たれたのは、無慈悲なものだった。
「明日までに、用紙三枚分に魔術構文を書き取り、提出しなさい。一秒でも遅れた場合は、倍にします」
「そ、そんな……せめて用紙二枚で」
往生際悪くすがると、マリナ女史は厳めしい雰囲気で言ってきた。
「貴方の考えなどお見通しです。どうせ、正直に言えば罰が免除されると思っていたのでしょう」
びくっ。と硬直する俺。
「去年、あなたは週に一度は遅刻をしています。成績が優秀でも、罰を受ける立場だということをお忘れなく」
「は、はい……」
「ですが、一度も嘘をつかなかったあなたのことは、結構好きですよ。だから、本来は五枚のところを三枚にまで減らしてあげました」
「マリナ女史……」
手厳しそうな講師の本音に感動しながら、なおも図々しいお願いを口にした。
「俺のことが好きなら、罰を与えないというのはどうでしょうか?」
「駄目ですよ。これは、私からの愛だと思ってちゃんと受けなさい」
「寮監の愛なら、別の形で受け止めますよ」
「別に構いませんよ。ベッドが棺桶になっていいのならね」
「冗談ですから、腰の剣を納めて下さい」
柄に手を添えている寮監から一歩下がり立ち去ろうとすると、マリナ女史はようやく視線を手許の書類に落とし、言った。
「六時は食事の時間です。なるべく遅れないようにしなさい」
「は、はい! 失礼します!」
最後に一礼すると、くるりと身を翻し、正面の大階段を寮則が許すギリギリの速度で上る。二階の200号室が、俺が寝起きする部屋だ。六人部屋だが、他の四人も気のいい奴らで結構仲が良い。
二階の廊下を、和やかに談笑しながら食堂へ向かう生徒たちをスルリスルリとかわし、西の端にあるドアを開けて飛び込んだ途端──。
「遅いよカズヤ」
という声が俺を出迎えた。
発言者は、右奥ひとつ手前のベッドに腰掛け……いやもうその領域からは半ば脱しつつある、ワタルだ。
魔術の街で出会った同性の友達であり、同じ部屋で席も隣だからかなり仲良くなった。
立ち上がり、両腰に手を当てるその姿は、一年前と比べると三センチほど背が伸び、体つきも逞しくなっている。それはそうだ、彼は今年でもう十九歳になるのだから。──と言っても、優しげな顔立ちとグリーンの瞳の輝きは、出会った頃とまるで変わっていない。この学園で学んだ一年でいろいろ嫌な目にも遭ったが、彼の真っ直ぐで強靭な魂は一切歪むことがなかった。
対して俺はどうかと言うと、人格的にはさして変わった気もしないが、恐ろしいことに体のほうは、ワタル同様に背も伸び筋肉もついている。
一年で目的の半分は終えたが、この調子だとあと三年か四年はかかりそうだ……などと頭の片隅で考えながら、俺はワタルに歩み寄った。右手でゴメンの手刀を切りつつ、謝罪する。
「悪い。だいぶ待たせたな」
「もうみんな待ちくたびれて、先に行っちゃったよ」
「そうなのか……薄情な奴らだぜ」
「別にみんなは悪くないと思うよ」
冗談めいた発言を軽く受け返すと、教材の入ったバッグを自分のベッドに放り投げる。
「それじゃ、食堂に向かいますか」
「そうだね。今日の料理はなんだろう」
「昨日は野菜中心だったし、今日は肉か魚が主菜の献立だろ」
──というような話をしながら、二人並んで部屋を出る。
同室の四人はとっくに食堂へ向かったようで、廊下にはもう生徒の姿はない。寮での朝食・夕食は、夜七時までに食べ終えるべしという規則があるだけなので、六時の開始時間に遅れても違反にはならないが、食前の創世神へのお祈りをスルーしてしまうのは躊躇われる。──あとは単純に、出来立ての料理を食べたいという願望があるだけだ。
再び最大戦速で、東の端にある大食堂を目指す。
一分足らずで大食堂に到着する。もしここに委員長がいたら、多分俺だけ長い説教を受けていたのだろうな、と考えながら、目の前のドアを押し開けると、ざわざわと賑やかな空気が俺たちを包んだ。
食堂は一、二階吹き抜けで、寮で数少ない男女共同用の施設だ。生徒百二十名の大半は男子だけ、女子だけでテーブルを囲んでいるが、中には同席してにこやかに談笑しているグループもいる。この辺は、元の世界の学校とあまり変わらない。
俺とワタルは早足に階段を下り、まずカウンターで夕食のトレイを受け取ると、隅っこの空いているテーブルにするりと滑り込んだ。直後に六時の鐘が鳴り、遅刻せずに済んだことにほっと一息。したのも束の間、突然隣にとんでもない人物が座ってきた。
特別改造された制服からは、毛量の多さが見て取れる尻尾が出ており、頭には二つの耳が生え出ている。
「サヤ……何故お前がここに」
学園内で唯一の女性友達を呼ぶと、サヤは笑顔で返してきた。
彼女もこの一年間で大分成長した。身長も俺を少しだけ超えており、身体能力も上がっている。他にも成長しているが、性格までは変わっておらず、相変わらず世話焼きで面倒見がいい。
「彼等に呼ばれたからよ」
そう言い指差す方向には、同室の男子四名が立っていた。
「私って、男子から何故か人気があるから」
「別に聞いてねーよ」
素っ気ない返事で返すと、頬を膨らませたサヤが、嫌がらせのように横脇腹を突いてきた。
「や、やめろ、くすぐったいだろ!」
側から見たらイチャつくカップルのような光景に、背後から殺意の念がこもった視線が送られる。
だが気づいてないフリをしながら、俺はただ食事の時間が来るのを待ち望んだ。
今夜のメニューは、香草ソースをかけた白身魚とサラダ、野菜のスープ、丸いパン二個というものだ。教会の食事とあまり変わらず少々意外な感じもするが、他の生徒はさして不満な顔をするでもなく、当たり前のように食べている。
これは、中都といえども暮らしは意外と質素──というわけではなく、禁書目録によって作物や家畜、獣や魚などは一日定められた量しか取ってはいけない……と、そういうことらしい。
「しかしカズヤ。今日はなんで遅れたの?」
隣で、パンをちぎりながらワタルが囁いた。
「ああ。今日は、書庫室で勉強してた」
「今日はって、あんた相変わらず時刻守ってないのね……」
頭を抱え、げんなりした顔でサヤが割り込んできた。
「相変わらずってなんだよ。人が毎回遅刻してるみたいじゃ……」
「してるでしょ、カズヤくん」
不意にそんな声が背後から聞こえ、今度は俺がげんなりした顔になる。
この声の主は──十中八九委員長だ。振り返って確認すると、少しだけ息を切らした委員長が、トレイを持って立っていた。
「あ、ユリ。遅かったじゃない」
「ごめんねサヤ。校内の見回りが長引いちゃったんだ。誰かが時刻ギリギリまで残ってたから」
聞こえよがしの台詞に、別の声が応じる。
「まあ、そう言わないであげなよ。その誰かさんにも、きっと私たちにはうかがい知れぬ苦労があるんだからさ」
その台詞に、またもや別の声が応じる。
「きっとそうだよ。その人は多分、自分を修練することに頭が一杯なんだろうね」
わざとらしいやり取りに反応すれば相手の思う壺なので、ひたすらフォークを動かす。とは言え、むかむか来るのまでは止められない。
彼女の嫌味テクニックは中々優秀だ。台詞の中で、『時刻ギリギリ』と言っているところがミソだ。この食堂には、俺以外にも何人かは校内に残っていたが、時刻ギリギリは俺だけなので、その一言で対象はきっちり限定しているというわけだ。
入学試験の時にも、嫌な奴はいた。実技試験で俺と決闘したユーグの悪知恵は中々のものだったと言えよう。それに負けじと劣らない委員長の嫌味テクニックは、いっそ感心するほどだ。
とはいえ、彼女はユーグとは比べ物にならないほどの善人ではある。クラスをまとめるルーム長に抜擢されるほどのカリスマ性や人徳性を持ち合わせているため、クラス内ではかなり人気者だ。
成績や剣術も優秀で、昨年では学年一位の座に就いている。俺は去年の総合成績では学年内で五位ではあるが、勝てる気がしない。
……でも、実際のとこはどうだろうな……。
脳裏でそう呟きながら、俺は右手のナイフを持ち上げ、磨き上げられた銀器に自分の顔を映し出した。
確かに総合成績では負けている。だが、幸か不幸か試合でぶつかったことがないので何とも言えない。季節ごとの検定試験……俺は一度も彼女と当たったことはない。
もし俺が彼女と剣を交えた時、一体どちらが…………
「……おいカズヤ、お皿もう空っぽだよ」
ワタルに肘でつつかれ、俺はやっと、自分が左手のフォークで空のサラダボウルを何度もつついていたことに気付いた。慌てて右手のナイフを下ろし、白身魚を切ろうとするが、それもいつの間にか消失している。どうやら、考え事に夢中になるあまり、一日で三番目に楽しい夕食の時間を満喫しそこねたらしい。
「考え事でもしてたの?」
先程まで嫌味を言っていたサヤに尋ねられ、俺は適当に笑いかけた。
「なんでもないさ。さぁて、俺はお先に失礼するよ」
ナイフとフォークを置くと、トレイを持って立ち上がる。
食器をカウンターに戻して食堂から出た途端、ふうっとひと息。
食事を終えた後は、就寝時間まで自由時間とされている。多くの寮生はこの時間に共同の銭湯に向かい、一日の疲れを汚れと共に落とす。
俺はあまり大多数で風呂に入るのは好まないため、就寝時間ギリギリまで入らずに、木剣片手に男女共同施設である修練室に引きこもっている。
食事の後に体を動かすのは少々嫌気が差すが、部屋に一人でいるのもつまらないし、特にやることもないため、毎日型の稽古に励んでいる。
自由時間の最中でも、自己の研鑽を怠らない真面目な生徒だとマリナ女史に思い込ませる、不真面目な目的は、ほんの少しだけある。
だが残りは、真剣に成績を上げるためでもある。
剣を扱った時間は、一年半。他の生徒よりも遥かに劣っている。そんな俺が実技で上位の成績を維持しているのは、一日も怠らずしている稽古にあった。
学園内で教えている剣技の型を、最低でも二回復習しているからこそ、実技定期試験は毎度二位を維持出来ている。
もし一日でも稽古を怠れば、取り返すのに三日掛かる。元々剣技の基本も知らない素人の俺にはこれぐらい頑張らなければ、学園内で生きていけない。
肌寒い夜風に身震いしながら、寮に隣接する専用修練場に向かった。初等修剣士の頃は狭くて屋根のない野外稽古場で木剣を振っていたが、中等修剣士の修練場は明るく広々した屋内で、誰にも気を使わず好きなだけ練習が出来る。
短い渡り廊下を駆け足で抜け、突き当たりにある扉を開けると、毎年寮生が入れ替わる度に張り替えられる床板の清々しい香りがカズヤを出迎えた。立ち止まり、胸いっぱいに吸い込もうとして、途中で息を止める。空気にほんの少し、甘い香りが混じっていたからだ。
嫌な予感がする。直感的にそう悟った。
恐る恐る修練場を見回すと、嫌な予感は現実に変わった。
広い板張りのど真ん中に陣取っていた女子生徒二人が、カズヤに気付いて振り向いた。
二人とも知ってる。とてもよく知る人物だ。とゆうか、先ほどまで一緒にいた。
一人は型の練習中だったのか、木剣を振りかぶったまま静止し、もう一人は手足の角度を調整中だったが、こちらに気付くとすぐに腕を下ろした。
面倒ごとはごめんだ、と内心で呟きながら、カズヤは軽く会釈だけして修練場の隅に向かって歩き始めた。だがやはり、面倒ごとは避けられない運命だった。
「何よカズヤ、あんたも稽古に来たの?」
声を掛けてきたのは、木剣を振り上げていた方の女子生徒──サヤだ。
ここで無視しても構わないが、それだと余計面倒になる。そうなれば稽古の時間がなくなってしまうので、カズヤは素知らぬ顔で返した。
「別に暇だから来ただけだよ。お前こそ珍しいじゃないか、こんな時間に修練場に来るなんて」
素っ気ない返答に反応したのは、サヤではなくもう一人のほうだった。
「時間が有れば修練に励む。本当、カズヤ君って真面目だね」
もう一人の女子生徒──ユリは、にこやかに笑いながら言ってきた。
サヤとユリ。この二人は親友と言っていいほど仲が良い。元々サヤは獣人族であり整った容姿から、入学してすぐ多くの男子に告白されていた。もちろん全て拒否している。
男子生徒とも最低限関わりを持ってるが、基本は同じクラス内にいる女子生徒と一緒にいる。その中でもユリとだけは、かなり友好関係が深まっていた。
ユリは俺にだけ厳しいから、極力寮内では出会いたくない存在だったのだが、まさか修練場で遭遇するとは思いもしなかった。
普段は人が全く寄り付かない場所故に完全に油断していた。ここは即座に退散して、日を改めるべきか。
いや、逃げる必要はないのか……。
別に規則を破るわけでもないし、他人に迷惑を掛けるわけでもない。ただ自己の修練に励むだけなのだから、文句を言われる筋合いはない。
カズヤはぺこりと一礼して失礼すると、再び修練場の隅を目指した。
中都近くの森から切り出された銀樫木の床板を踏んでいると、余計な思考が徐々に薄れていく。石造りの建物ばかりの中都では、新鮮な木の香りを楽しめる場所は貴重だ。
東の壁際に何本も立てられている、一人稽古用の丸太の前で足を止める。これも床と同時に取り替えられ、側面はまだほとんど凹んでいない。
木剣を両手で握り、基本の中段に構えて、呼吸を整える。
「ハッ!」
頭上に掲げた剣を、短い気合に乗せて振り下ろす。ドッ、と重い打撃音が響き、右側面を叩かれた直径三十センチの丸太が震える。
両手に心地好い手応えを感じながら一歩下がり、今度は左から剣を振り下ろす。間髪入れず右、また左。その繰り返しを続けていくうちに、カズヤの意識から木剣と丸太以外のものが消える。
カズヤが毎夜の稽古で行うのは、この左右からの上段斬り、左右からの水平斬りを合わせて四百本、昼間の実技で教わった複雑な型の復習だけだ。
無心になりながら木剣を振り続け、四百回目の打ち込みをした途端、体が自動的に停止する。
張り詰めていた呼吸を緩め、上がった息をゆっくりと整えていた、その時。
「カズヤの稽古って初めて見たけど、結構変わってるのね」
背中側から響き、ビクッと反応する。
広い修練場の隅にいるカズヤと、真ん中の彼女たちとはかなり距離があるはずなのに、こうもはっきり聞こえるということは、つまりそういうことだ。
恐れながら振り返ると、興味深そうな顔で背中姿を見るサヤとユリが、結構な至近距離にいた。
「二人とも、なんかよう?」
腰帯から手ぬぐいを抜き、まず木剣を綺麗に拭き上げる。次いで額から首筋までを濡らす汗を拭いながら、ちらりと見ながら言った。
「ちょっとね。どんな稽古してるのか興味があって、近くで観察しようと」
「別に俺の稽古は普……ちょっと特別な方に偏ってるだけだよ」
訂正を交えながら答え、型の復習を始めようとした、寸前。
「カズヤ君。私で良かったら、型の練習手伝ってあげるけど、どうかな」
ユリが、思いもよらぬ申し立てを申請してきた。
俺を毛嫌いしてるであろう彼女が、まさか型の復習を手伝ってくれるなんて、全く予想しなかった。
正直な所、かなりありがたい。委員長は実技試験一位の成績を持っており、型の演舞では満点以外見たことがない。
そんな彼女に型を教授して貰えるのは、素直に嬉しかった。普通の生徒なら、媚び諂いながら頼み込むだろう。
ただ、カズナはいかんせん普通の生徒から少し逸脱していた。
委員長の申し立てを快く承諾するつもりはある。あるのだが……。
ここで、彼の中にある生まれ持っての性が阻害していた。
男なら誰しもが持っているプライド。女子から実技を教わることは、男のプライドが許さなかった。特に学生である彼のプライドは、一般男性のそれを遥かに凌駕するほど高かった。
下らないプライドに見えるだろうが、男にとってプライドは命の次に大切なものだ。プライド無くして男を語れないと、昔誰かが唱えてた気がする。
故にカズヤは、「お気遣いなく」と素っ気なく言おうとしたが、そこで少し考え直した。
もしかしたら、これは好機なのではないだろうか。
委員長は事実、クラス内で一番の強者だ。ひ弱そうな外見とは上腹に、剣技も魔術も一級品。そんな彼女から型を伝授してもらう機会など、滅諦にない。
素早くそんな考えを巡らせ、カズヤは一度閉じた口を開いた。
「……それじゃお言葉に甘えて、一手ご教授をお願いするよ、委員長」
途端、サヤと委員長は揃って眉を持ち上げた。カズヤの反応が意外だったらしく、しばらく二人は押し黙った。
「そ、そう。それじゃ早速、そこで型を披露してみせて。まずは簡単なところから……」
「いや、委員長」
右手を小さく上げ、カズヤは慎重に言葉を選びながら言った。
「型の講評よりも、直接体感した方が良いと思うから、直接指導してくれないくれないか? いつもやってるみたいにさ」
「…………なんですって?」
委員長の顔から、戸惑いがすっと薄れる。代わりに浮き上がるのは、カズヤの真意を探る疑念だった。
「直接指導ってことは……私に決闘を挑むってこと?」
「違うよ。指導を請う立場なのに申し訳ないけど、寸止めの立ち合いだよ」
「なるほど。立ち合いを望むわけね」
委員長の申し立てに、力強く頷く。
「分かったわ。その代わり、ちゃんと受け止めてね」
言うや否や、腰帯に差していた木剣を軽やかに抜き放つ。
相当修練に使用したのだろう。俺と同じ素材なのに、刀身の側面に細かい傷が複数存在する。
サヤが数歩下がると、両足を前後に開き、右手だけを肩に担ぐように振りかぶる。周辺の空間魔素が剣の傷に吸収されるように集まっていき、青い光を放っているように輝く。
「……ハァァァッ!!」
気合声を迸らせ、委員長の剣が走った。
その直後、カズヤの右手も動いていた。左腰から木剣を引き抜きざま、真上から飛んでくる委員長の剣を、斜め下からの斬り上げで受ける。
本来は魔素の宿る剣同士の鍔迫り合いは、魔術が宿る方が勝利する。それを見越して、カズヤは抜きざまに委員長と同じ量の空間魔素を炎素に変換させ、木剣に宿した。
委員長よりも多く炎素を宿すことを一瞬考えたが、やはり剣技のみで対峙したいために不当にした。
魔術対決は五分。ここから勝敗を分けるのは、剣技が相手よりも優ってる方だ。
剣には使用者の思念が反映される。ジュウオンジとの決闘で思い知らされた持論を思い返しながら、剣に意識を集中させる。
せめぎ合う二本の刀身を包む青と赤の輝きはお互いに干渉し合い消失し、最早膂力の対決となる。
ぎ、ぎぎっ、と鈍い軋み音を発し、委員長の剣が二セン下がる。
やはり単純な力比べなら、女性は男性よりも劣っている。
毎日これよりも数倍の重量を兼ね備えた愛剣を振っているんだ。いくら成績が優秀でも、女子に負けるほど弱くはない。
このまま押し切れば勝てる。そんな確信を胸に抱き、カズヤはありったけの力で剣を振り切ろうとした。
しかし、その刹那。
交差する剣の向こうにある委員長から放たれる雰囲気が、一層強くなった。
「負ける……ものかぁっ!」
ぎしっ。今度は、カズヤの木剣が激しく軋んだ。右腕にかかる重みが倍加し、手首と肩に鋭い痛みが走る。押し込んでいた二センの距離が一瞬で取り返され、二本の木剣は最初の位置まで戻って再びせめぎ合う。
──これが、委員長の意志の力か!
ギリギリで踏み止まりながら、称賛の念を相手に送る。
まさか、押してたはずの俺が逆に押されるなんて。凄まじい執念、意志力だ。
木剣から激しく軋む音が鳴り続けるも、意識は既に剣から外れており、お互いただ眼前の好敵手にしか向けられていなかった。
二人は今、同じことを考えていた。
──負けられない。
最初の目的から大きく外れた願いであったが、すでに二人は自分達の世界に入っている。
剣からの悲鳴がどんどん強まっていき、そして。
ガコンッ!!
重たい音を修練場に響かせながら、互いの刀身が半ばからぽっきり折れてしまった。激しい衝突に耐え切れなくなってしまい、先に刀身が根を上げてしまったようだ。
二人はしばし木剣を無言で見つめると、力なく呟いた。
「……私からは、以上です。これからも精進するように」
「……ご教示、ありがとうございました」
疲弊している二人は、余計な会話をする余裕もなく、ただ一言で会話を終わらせた。
折れた刀身を拾い上げてから感謝の言葉を言い、逃げるように修練場出入口から姿を消した。
「散々な目にあった……」
木剣を肩に担ぎ、ゲンナリしながら呟いた。
修練場から逃げるように立ち去り、寝起きする部屋へと足を運んでいる。廊下には風呂上りでさっぱりした生徒が談笑しながら部屋に戻っている。多分、俺以外の男子生徒は風呂に入ったのだろう。
今ならあの広々とした風呂を一人占め出来る。そんなことを考えていると、自分の部屋に到着した。中を覗くも、珍しく誰もいない。いつもなら既にベッドの中で他愛のない会話をしているのに。
自分の私物が収納されている箪笥に木剣を入れ、代わりに変えの衣服を取り出す。
来た道を戻り、今度は修練場の反対側に隣接した施設──大浴場へ続く渡り廊下に向かう。
外に出ると短い通路が延びていて、正面が左右に分かれる。そしてその分岐の手前には、天井から純白の布が垂れ下がっている。
下半分が短冊状に裁断されている布を持ち上げてくぐり抜け、分岐点に到達する。すると左右に新たな垂れ布が現れる。
右側に下がる藍色の布には、人界語で『男』。左側の臙脂色の布には『女』。
まるで銭湯だな。この垂れ布を見る度に考えながら、『男』の布をくぐって奥へ。通路は左に折れ、その先は少し広めの部屋になっている。
大きな棚が仕切り壁のように設置された部屋には、人一人いない。
やはり、俺が委員長と立ち合いしてる間に、全男子生徒は入浴を済ませていたのか。
そそくさと服を脱ぎ、持ってきた浴衣と一緒に棚の中の籠に収めると、奥の硝子戸を開けた。
途端、真っ白な湯気が押し寄せてきて、急いで一歩前に出ると戸を閉める。
湯気が散り、その奥に現れたのは、湖を思わせる広大な湯船だった。
施設の半分をそのまま使った広大な空間。床も柱も大理石製、南の壁は巨大な一枚硝子で、中都の星空を一望出来る。学生にしては贅沢すぎる空間だ。
つい先ほどまで何十人ものむさ苦しい男子生徒が浸かっていたとは信じられないほど綺麗な湯船を眺めながら一歩ずつ近づく。
透明なお湯に片足を沈める。最初は熱く感じるが、すぐに慣れるので階段状の大理石を下り、最後の段に腰掛ける。
首までお湯に浸かると、一日の疲れと共に、思わず声が出てしまう。
「はぁ…………癒されるわぁ…………」
誰もいないため、力ない呟きが浴場全体に虚しく響いた。
そのまま泳ぐように南側の壁にまで行き、硝子越しで夜空を仰ぐ。
綺麗だ。星空鑑賞などという趣味はないが、今だけは、悪くないと思える。
大勢で風呂に入りたくないと言っていたが、実は理由はもう一つある。
この星空を、一人占めしたい。そんな、独占欲が理由でもあった。
カズヤは一週間に一度、書庫室に立ち寄った日に、一人でゆっくり湯船に浸かりながら星空を眺めていた。
幻想的な情景と疲れを癒してくれる空間。ベストマッチな空間に、俺は初見で魅了された。
以降、一週間の締めくくりとなる日は、一人疲れを癒しながら星空を眺めることを楽しんでいた。
夜空一杯に輝く星々を眺めていると、考え事や悩みなどがどうでもよくて小さなものだと思い知らされる。自分は何に悩み、苦しんでいたのかさえ忘れてしまう。
階段状の大理石に肘を乗せ、楽な姿勢になりながら天を仰ぐ。
──剣に込める思い……か。
不意に、委員長との立ち合いを思い返す。
彼女とのせめぎ合いの時、膂力ではこちらの方が優っていた。にもかかわらず、彼女は剣に込めた思いで逆境を跳ね除けた。
あの時の立ち合いは、ジュウオンジとの決闘に近いものがあった。
思いの強さ。
剣を通じる意志が、決闘において勝敗を分ける重要な鍵になる。ジュウオンジのように、最強の男としての自信が剣に宿るように、委員長の自尊心のように、この世界では、剣に思いを宿らせることが、かなり重要になってくる。
なら俺は、何を剣に宿せばいい。
自問するも、答えは出なかった。
過去に同じような話をサヤにしたが、その時は「絶対に譲れない思い」と笑いながら答えた。
譲れない思い……。抽象的な答え故に、明確な答えが見出せなかった。
異世界から無事帰還し、家族や友人と再会する。コドールの村で、セレナや教会のみんなと一緒に暮らす。
たしかに、どれも自分が望み、譲れない願いだ。だが、決定的な答えにはならない。
一体自分は、剣にどんな思いを宿せばいいんだ?
人界内で暮らしていた中で、唯一答えが見出されなかった自問は、学園に籍を置けば自動的に解決してくれると思っていた。しかし、解決しなかった。
やはり自分自身の力で答えを導き出さなければいけないのか。
満点の星空に向けてため息を吐きながら、湯船から立ち上がる。湯冷めする前にそそくさと湯船から全身を出し、体にまとわりついた水分を風素で吹き飛ばす。
持参した浴衣を颯爽と身に纏い、冷たく吹く夜風を避けるように渡り廊下を抜ける。
寮に入った瞬間、寮則を破らない範囲の速度で階段を駆け上り、200号室へ駆ける。
部屋に到着すると同時に、夜九時を知らせる鐘が寮内に重苦しく鳴り響く。
「あっ……ぶねぇ」
部屋の扉前でそう呟くと、ベッドの上で談笑していた四人の男子が驚いたように言った。
「カズヤが珍しく就寝時間の時に部屋にいるぞ」
「いつもなら遅れて来て、マリナ女史に叱られてるのに」
茶化すように笑いながら言われ、ため息を吐きながら自分のベッドに座り込む。
「俺だってやれば出来るんだよ。その気になれば、毎日一時間前には部屋の中にいるからな」
「その台詞、一週間前に寮監に言ってなかったけ?」
真正面のベッドで本を読むワタルが、肩を竦めながらツッコンできた。
「いいかワタル君。人間というのは、有言実行が中々出来ない生き物なんだよ。ついては明日のことだが、俺はちょっと用事が出来てしまい……」
「駄目だよカズヤ。その言い訳は、既にサヤさんに読まれていたから」
「マジか……」
苦悶の表情で吐き捨てるように呟くと、
「観念しろよカズヤ。別に嫌な行事でもないんだからさ」
上で話している男子生徒が言ってきた。
明日は学園が休みの休息日。それを利用して、親睦会も兼ねてクラス全員で野遊び──と言っても場所は中都から徒歩五分で着く森だが──に行く予定なのだ。
こういったクラス一丸となって執り行う行事は、毎度委員長とサヤが発案している。俺はあまり興味がなく修練に励みたいがために、あれこれ理由をつけて不参加を貫いていた。──時には逃亡した。
だが今回ばかりは、サヤによって阻止されてしまった。
「明日は朝九時に噴水広場に集合だから、遅れないように。後逃走した場合は……。って、サヤさんがいってたよ」
「おい待て。逃走した場合の後はなんだ。滅茶苦茶恐ろしいんだけど」
「知らないよ。別に親睦会なんだから参加しなよ」
「めんどくさいよ。別に俺は全員と仲良くしたいわけじゃないし」
「カズヤになくてもみんなにはあるんだよ。お前は成績がいいから、クラスの女子も話してみたいっていってたよ」
「そうなんだ……すっごいどうでもいい情報だな」
「とにかく、明日の九時だからね」
ワタルがびしりと人差し指を突き付けると、カズヤは「はぁーい」と返事をして、ベッドで横になった。
その時ワタルは、
──カズヤが逃げられないよう、明日は六時には起きてよう。
今までの彼の行動パターンから、明日早く起きて逃走する可能性がある。
彼の行動を予想出来る自分にゲンナリしながら、ワタルも同じように横になった。
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