2 / 9
編入
しおりを挟む
ブレイド国は、世界各国の剣術文化を存命、普及させるための国立剣術学園が存在する。
完全実力主義をかかげ、ここを卒業することで、プロ剣士の資格を得ることができる。プロ剣士になれば、己が流派の剣を世に広めることができるし、道場だって構えられる。
プロとして大会に出て活躍し、たくさんお金を得ることもできる。まさに、プロ剣士は、全剣士の憧れの的となっている。
そんなプロ剣士を養成するための剣術学園は、ブレイド国の都市から東――電車やフェリーで海を渡ったケンゴウ島という島にあった。
駅からホームで改札口を通り抜け、駅から出ると都心にも引けを取らない、大都会よろしくな光景が飛び込んでくる。
「おお……ここがケンゴウ島……」
ハルノブは、初めて見る光景に、琥珀色の瞳を輝かせた。
およそ9年間――ハルノブは人里離れた山奥で、修行に明け暮れていたため、立ち並ぶ高い建物が目新しく、ついつい目移りしてしまう。
ぴょこぴょこと、特徴的な麦色の髪から生えたアホ毛が、興奮して動き回っている。
「ここに……レンちゃんが……」
ハルノブはこの数年間、ただ修行に明け暮れていた。幸い、幼馴染であったということもあり、ハルノブの両親が手紙で、勝手にレンのことを書いていくものだから、聞かなくてもレンが、去年から剣術学園に入学したことは知っていた。
免許皆伝するまでは、会わないと誓っていたハルノブは、17歳になるまでかかってしまったが……1年遅れで、ハルノブも編入という形で通えることになった。
「レンちゃん元気かなぁ……」
手紙では、「とにかくレンちゃんやばい」くらいしか書いてなかったため、どれくらい強くなっているのかは、まったか分からなかったりする。
もしかしたら、今のハルノブでも勝てないかもしれない……。
「い、いや、自身を持て僕……! じゃなかった……俺! 俺は強い男なんだから!」
ハルノブは自分にそう言い聞かせながら、手に持った地図を頼りに剣術学園の寮へ向かう。
テレテレと、都会並みに人の多い通りを数十分歩き――結論から言うと、ハルノブは迷子になった。
「あ、あれ……ここどこ……?」
山奥での生活が長く、人混みに慣れていないことも相まって、ハルノブは簡単に迷った。
ケンゴウ島には、剣士達の試合がよく行われている。それを見に来た観客達が、毎日のように訪れるとため、とにかく人が多い。
山奥の生活に慣れてしまったハルノブにとって、この有象無象は少々厳しかった。
歩けど歩けど、地図とは違った道に出てしまい、ハルノブは途方に暮れてしまう。ハルノブは地図とにらめっこしながら、寮を目指すがたどり着く気配がない。
「こ、ここがこうでこうだから……えーっと」
「あれぇ~? どうしたのかなぁー? ぼくぅ~、こんなところで?」
ふと、ハルノブは声をかけられて地図から顔を上げる。すると、目の前に綺麗な少女が膝に手をつき、ハルノブと視線を合わせるように屈んで立っていた。
肩口まで伸びた淡い水色のくせ毛ショートボブで、どこか艶かしい瞳と、艶やかな唇にハルノブは鼻の穴を広げた。
「え、えっと……剣術学園の寮に行きたくて……」
「えぇ~? 剣術学園にぃ? ぼくくん、いくつなのぉー?」
間延びした甘ったるい声音で少女は尋ねる。ハルノブはここに来て、自分が子供扱いされていることに気がつき、少しムッとしてアホ毛がピンッと立つ。
「お、俺、17歳です!」
「あはは~そうなんだねぇ~」
「信じてない!? ほ、本当です! 俺、17歳なんですよー!」
「そんなに小さいのに、17歳なわけないじゃ~ん」
「小さくないですけど!?」
たしかに、ハルノブは小さい。どこからどう見ても、ギリギリ少年に見えるくらいの身長だった。勘違いするのも無理はない。
ハルノブはまったく信じない少女に、「ぐぬぬ」と唸り声をあげる。そして、おもむろに懐から学生証を出した。
剣術学園から発行される公式の身分証明書だ。そこには、ハルノブの顔写真と年齢が、しっかりと記載されている。
学生証を突きつけられた少女は、きょとんと首を傾げた後に、目を丸して驚く素振りを見せた。
「うっそ……え? 本当に?」
「こ、これで信じて貰えましたか?」
「……うーん。まあ、そうだねぇ……これはつまり、合法ショタってことかなぁー?」
「ショタじゃないですけど!?」
一応、17歳であることは信じてもらえなかったが、かえって面倒なことになった。
少女はガシっと、少女とは思えない力でハルノブの両肩を掴む。
「あぁ~イクねぇ、毒島ぶすじまイクノっていうんだぁ~。実は、イクちゃんも剣術学園の生徒なんだぉ~。しかも、同い年!」
「え、そ、そうなんですか……?」
イクノと名乗った少女は、証拠とばかり着ている服を強調する。どうやら、剣術学園の制服らしい。
白色のセーラー服っぽいデザインで、太ももを大胆にさらけ出したプリッツスカートである。ハルノブは思わず太ももに見入ってしまうが、慌てて顔をあげた。
「くふふ……それじゃあぁー、イクが寮まで案内してあげよっか?」
「あ、はい、お願いします……」
「おっけ~。あとぉー、同い年なんだからぁ~、敬語じゃなくて大丈夫だよぉ?」
「えと、うん。わ、分かった」
「くふふ……」
イクノの意味深な笑みに、ハルノブは首を傾げながらも、これでようやく寮にたどり着けると、安堵の息を漏らした。
イクノはハルノブの手を引いて、剣術学園の寮まで先導する。ハルノブは当然のように握られた手の柔らかな感触に、鼻の下を伸ばした。
「おっと……ダメだダメだ。俺には心に決めた子がいるんだから、心を強く持つんだ……うん」
「なにか言ったぁ~?」
「ああーいや、なんでもない。うん」
ハルノブは、取り繕った笑みを浮かべて誤魔化す。イクノは不思議そうに首を傾げたが、すぐに魅惑的な微笑んだ。
「くふふ……そういえばぁ、ハルノブくんって編入生かなにかなのぉ?」
「そうそう。俺、明日から剣術学園の2年生に編入することになったんだ」
「へぇ~そうなんだぁ。だから、寮までの行き先で迷ってたんだねぇ~」
イクノ曰く、ケンゴウ島の道は入り組んでいるから、初めて来た人はよく迷ってしまうのだとか。ハルノブは自分だけじゃなかったのだと、ほっと息を吐く。
しばらく歩いていると、街中で金属音が聞こえてくる。誰かが、剣を交えているのだろう。
ハルノブが少し視線をズラせば、剣を持った人達がそこかしこを歩き、ところどころで剣を交えて争っていた。
「ここの人達って、どこでも戦ってたりするの?」
「ん~? まあねぇ。ケンゴウ島は、剣士の楽園みたいなところだからねぇ。本島だと、帯刀は許されても抜刀はできない……けどぉ、ケンゴウ島じゃあ抜刀も許されてるし、殺し合いじゃなければ、剣士同士の戦闘行為は自由なんだよぉ~」
「へえー、すごいな……」
まさに、剣術学園のお膝もというべきか。ケンゴウ島は、剣士のために存在する島であった。
ストリートファイトもケンゴウ島では名物になっているのか、道端で剣を交えている剣士の周りには、野次馬達が観客となって盛り上がっていた。
「くふふ……ハルノブくんはぁ、まだここに来たばっかりでルールとか知らないんだよねぇ?」
「……なにか特別なローカルルールがあるの?」
「まあねぇ~。でもぉ、それは明日学園で聞けるだろうしぃ、イクが教えてあげることじゃないかなぁー」
イクノはそう言って、ハルノブの手を引っ張って歩く。イクノの方が身長が高く、ハルノブと大きく歩幅が違う。ハルノブはイクノに引っ張られながら、わたわたとなんとかついていく。
しばらく歩いて、ハルノブはようやく剣術学園指定の寮に到着した。大きなマンションで、ここに剣術学園の生徒が全員住んでいるという。
「まずは寮母さんのところに行かないと」
「それならぁ、こっちだよ~ん。ほら、こっちこっちぃ~」
「あ、うん。はいはい」
イクノが寮母のところまで案内してくれるというので、ハルノブはマンションのエントランスから、エレベーターで移動。
エレベーターは11階で止まり、テレテレと歩いて、ピタリと……イクノがある部屋の前で立ち止まったので、ハルノブも足を止めた。
イクノが立ち止まったのは、1119号室と書かれた部屋の前で、表札には「毒島」と記載されている。
「えっと……ここが寮母さんの部屋とか……?」
「くふふ……そうそう~。とりあえず、入って入ってぇ~」
「え、あ、ちょっと……!」
ハルノブはイクノに背中を押され、強引に部屋へ押し込められてしまう。そして、イクノは流れるような仕草でハルノブを押し倒した。
ハルノブは、なにがなんだか分からず、馬乗りされてしまい困惑するばかり。そんなハルノブを他所に、恍惚とした表情を浮かべるイクノは、「はぁはぁ」と鼻息を荒くさせている。
「あぁぁ……なんて可愛いぃんだろぉ……。はぁぁ……今すぐ、気持ちよくしてあげるからねぇ?」
「え、ちょ、なにを!?」
「くふふ……だぁいじょうぶ……ぜーんぶ、イクちゃんに任せてくれればいいからね? ね? 合法ショタなんてレアもの、そうそうお目にかかれないしぃ、ちょこっと味見するだけだからね……?」
「ショタじゃないし! うっ!?」
いまいち、イクノの言っている意味が分からなかったハルノブだが……彼女の手が自分の太もも辺りをまさぐり始めたところで、「これはやばい人だ」と察した。
「っ!」
馬乗りされているが四肢は自由だった。
ハルノブは、イクノの両肩を掴んで上体を起こし、逆に彼女を押し倒す。
イクノは「うわおっ」と驚いた声をあげるが、すぐに舌舐めずりする。
「くふふ……なぁに? ハルノブくん、興奮しちゃっ――」
と、イクノがなにか言う前に、ハルノブは玄関を開けて脱兎の如く逃げ出した……!
「なんなんだあの女!? くっそう……! 綺麗な顔に騙された! 都会の人はやっぱり怖い人ばっかりだ……!」
ハルノブの脳裏に、いじめられていた記憶がふつふつと蘇る……それをかき消すように頭を振り、とにかく逃げなければと、エレベーター前まで走る。
さて、ハルノブに逃げられて部屋に取り残されたイクノはというと……倒れたまま目を瞬いた後に、クツクツと不気味な笑みを浮かべ、ゆらりと立ち上がった。
「くっふっふ……あっはははぁ~! 逃がさないよぉ……合法ショタくん!」
鋭い眼光を走らせ、イクノは玄関をぶち破る勢いで飛び出す。その手には、どこから取り出したのか、鞘に納められた日本刀が握られていた。
その時点で、ハルノブはエレベーター前で、カチカチとボタンを連打していたが、なかなかエレベーターが来ない。
11階ということもあるのだろうが、途中で誰かしらが乗り降りしているせいで止まってしまうのだ。
そうこうしているうちに、イクノが近づいてきていることに気づいたハルノブは――。
「ひいいい!?」
ぴょんっ……と、廊下の手すりからマンションの中庭へ跳んだ。高さ11階から、1階にある中庭に――。
11階の高さから落ちれば、普通であればひとたまりもない。だが……ハルノブは着地の瞬間、着地時に発生した衝撃を全て地面に流し、完璧な受け身を取ってみせた。
グルンっと、地面を一回転し、そのまま中庭からマンションの外へ逃走。それを見ていたイクノは、「へぇ~?」と口の端を吊り上げた。
「11階から躊躇なく飛び降りて、しかも無傷なんてぇ……結構やるねぇ~? でもぉ~、そぉれぇ、イクちゃんもできるんだよねぇ~? だって、イクちゃんはぁ――」
イクノはそう言って、ハルノブと同じように11階から中庭へ飛び降りる。そして、中庭へ綺麗に着地すると同時に、地面を蹴って逃げたハルノブを追いかける。
「くふふ……イクちゃんは、学園最強の剣士だからねぇ~!」
刹那――稲光が走ったかと思うと、数百メートルは先行していたはずのハルノブにイクノが追いついてしまった。
完全実力主義をかかげ、ここを卒業することで、プロ剣士の資格を得ることができる。プロ剣士になれば、己が流派の剣を世に広めることができるし、道場だって構えられる。
プロとして大会に出て活躍し、たくさんお金を得ることもできる。まさに、プロ剣士は、全剣士の憧れの的となっている。
そんなプロ剣士を養成するための剣術学園は、ブレイド国の都市から東――電車やフェリーで海を渡ったケンゴウ島という島にあった。
駅からホームで改札口を通り抜け、駅から出ると都心にも引けを取らない、大都会よろしくな光景が飛び込んでくる。
「おお……ここがケンゴウ島……」
ハルノブは、初めて見る光景に、琥珀色の瞳を輝かせた。
およそ9年間――ハルノブは人里離れた山奥で、修行に明け暮れていたため、立ち並ぶ高い建物が目新しく、ついつい目移りしてしまう。
ぴょこぴょこと、特徴的な麦色の髪から生えたアホ毛が、興奮して動き回っている。
「ここに……レンちゃんが……」
ハルノブはこの数年間、ただ修行に明け暮れていた。幸い、幼馴染であったということもあり、ハルノブの両親が手紙で、勝手にレンのことを書いていくものだから、聞かなくてもレンが、去年から剣術学園に入学したことは知っていた。
免許皆伝するまでは、会わないと誓っていたハルノブは、17歳になるまでかかってしまったが……1年遅れで、ハルノブも編入という形で通えることになった。
「レンちゃん元気かなぁ……」
手紙では、「とにかくレンちゃんやばい」くらいしか書いてなかったため、どれくらい強くなっているのかは、まったか分からなかったりする。
もしかしたら、今のハルノブでも勝てないかもしれない……。
「い、いや、自身を持て僕……! じゃなかった……俺! 俺は強い男なんだから!」
ハルノブは自分にそう言い聞かせながら、手に持った地図を頼りに剣術学園の寮へ向かう。
テレテレと、都会並みに人の多い通りを数十分歩き――結論から言うと、ハルノブは迷子になった。
「あ、あれ……ここどこ……?」
山奥での生活が長く、人混みに慣れていないことも相まって、ハルノブは簡単に迷った。
ケンゴウ島には、剣士達の試合がよく行われている。それを見に来た観客達が、毎日のように訪れるとため、とにかく人が多い。
山奥の生活に慣れてしまったハルノブにとって、この有象無象は少々厳しかった。
歩けど歩けど、地図とは違った道に出てしまい、ハルノブは途方に暮れてしまう。ハルノブは地図とにらめっこしながら、寮を目指すがたどり着く気配がない。
「こ、ここがこうでこうだから……えーっと」
「あれぇ~? どうしたのかなぁー? ぼくぅ~、こんなところで?」
ふと、ハルノブは声をかけられて地図から顔を上げる。すると、目の前に綺麗な少女が膝に手をつき、ハルノブと視線を合わせるように屈んで立っていた。
肩口まで伸びた淡い水色のくせ毛ショートボブで、どこか艶かしい瞳と、艶やかな唇にハルノブは鼻の穴を広げた。
「え、えっと……剣術学園の寮に行きたくて……」
「えぇ~? 剣術学園にぃ? ぼくくん、いくつなのぉー?」
間延びした甘ったるい声音で少女は尋ねる。ハルノブはここに来て、自分が子供扱いされていることに気がつき、少しムッとしてアホ毛がピンッと立つ。
「お、俺、17歳です!」
「あはは~そうなんだねぇ~」
「信じてない!? ほ、本当です! 俺、17歳なんですよー!」
「そんなに小さいのに、17歳なわけないじゃ~ん」
「小さくないですけど!?」
たしかに、ハルノブは小さい。どこからどう見ても、ギリギリ少年に見えるくらいの身長だった。勘違いするのも無理はない。
ハルノブはまったく信じない少女に、「ぐぬぬ」と唸り声をあげる。そして、おもむろに懐から学生証を出した。
剣術学園から発行される公式の身分証明書だ。そこには、ハルノブの顔写真と年齢が、しっかりと記載されている。
学生証を突きつけられた少女は、きょとんと首を傾げた後に、目を丸して驚く素振りを見せた。
「うっそ……え? 本当に?」
「こ、これで信じて貰えましたか?」
「……うーん。まあ、そうだねぇ……これはつまり、合法ショタってことかなぁー?」
「ショタじゃないですけど!?」
一応、17歳であることは信じてもらえなかったが、かえって面倒なことになった。
少女はガシっと、少女とは思えない力でハルノブの両肩を掴む。
「あぁ~イクねぇ、毒島ぶすじまイクノっていうんだぁ~。実は、イクちゃんも剣術学園の生徒なんだぉ~。しかも、同い年!」
「え、そ、そうなんですか……?」
イクノと名乗った少女は、証拠とばかり着ている服を強調する。どうやら、剣術学園の制服らしい。
白色のセーラー服っぽいデザインで、太ももを大胆にさらけ出したプリッツスカートである。ハルノブは思わず太ももに見入ってしまうが、慌てて顔をあげた。
「くふふ……それじゃあぁー、イクが寮まで案内してあげよっか?」
「あ、はい、お願いします……」
「おっけ~。あとぉー、同い年なんだからぁ~、敬語じゃなくて大丈夫だよぉ?」
「えと、うん。わ、分かった」
「くふふ……」
イクノの意味深な笑みに、ハルノブは首を傾げながらも、これでようやく寮にたどり着けると、安堵の息を漏らした。
イクノはハルノブの手を引いて、剣術学園の寮まで先導する。ハルノブは当然のように握られた手の柔らかな感触に、鼻の下を伸ばした。
「おっと……ダメだダメだ。俺には心に決めた子がいるんだから、心を強く持つんだ……うん」
「なにか言ったぁ~?」
「ああーいや、なんでもない。うん」
ハルノブは、取り繕った笑みを浮かべて誤魔化す。イクノは不思議そうに首を傾げたが、すぐに魅惑的な微笑んだ。
「くふふ……そういえばぁ、ハルノブくんって編入生かなにかなのぉ?」
「そうそう。俺、明日から剣術学園の2年生に編入することになったんだ」
「へぇ~そうなんだぁ。だから、寮までの行き先で迷ってたんだねぇ~」
イクノ曰く、ケンゴウ島の道は入り組んでいるから、初めて来た人はよく迷ってしまうのだとか。ハルノブは自分だけじゃなかったのだと、ほっと息を吐く。
しばらく歩いていると、街中で金属音が聞こえてくる。誰かが、剣を交えているのだろう。
ハルノブが少し視線をズラせば、剣を持った人達がそこかしこを歩き、ところどころで剣を交えて争っていた。
「ここの人達って、どこでも戦ってたりするの?」
「ん~? まあねぇ。ケンゴウ島は、剣士の楽園みたいなところだからねぇ。本島だと、帯刀は許されても抜刀はできない……けどぉ、ケンゴウ島じゃあ抜刀も許されてるし、殺し合いじゃなければ、剣士同士の戦闘行為は自由なんだよぉ~」
「へえー、すごいな……」
まさに、剣術学園のお膝もというべきか。ケンゴウ島は、剣士のために存在する島であった。
ストリートファイトもケンゴウ島では名物になっているのか、道端で剣を交えている剣士の周りには、野次馬達が観客となって盛り上がっていた。
「くふふ……ハルノブくんはぁ、まだここに来たばっかりでルールとか知らないんだよねぇ?」
「……なにか特別なローカルルールがあるの?」
「まあねぇ~。でもぉ、それは明日学園で聞けるだろうしぃ、イクが教えてあげることじゃないかなぁー」
イクノはそう言って、ハルノブの手を引っ張って歩く。イクノの方が身長が高く、ハルノブと大きく歩幅が違う。ハルノブはイクノに引っ張られながら、わたわたとなんとかついていく。
しばらく歩いて、ハルノブはようやく剣術学園指定の寮に到着した。大きなマンションで、ここに剣術学園の生徒が全員住んでいるという。
「まずは寮母さんのところに行かないと」
「それならぁ、こっちだよ~ん。ほら、こっちこっちぃ~」
「あ、うん。はいはい」
イクノが寮母のところまで案内してくれるというので、ハルノブはマンションのエントランスから、エレベーターで移動。
エレベーターは11階で止まり、テレテレと歩いて、ピタリと……イクノがある部屋の前で立ち止まったので、ハルノブも足を止めた。
イクノが立ち止まったのは、1119号室と書かれた部屋の前で、表札には「毒島」と記載されている。
「えっと……ここが寮母さんの部屋とか……?」
「くふふ……そうそう~。とりあえず、入って入ってぇ~」
「え、あ、ちょっと……!」
ハルノブはイクノに背中を押され、強引に部屋へ押し込められてしまう。そして、イクノは流れるような仕草でハルノブを押し倒した。
ハルノブは、なにがなんだか分からず、馬乗りされてしまい困惑するばかり。そんなハルノブを他所に、恍惚とした表情を浮かべるイクノは、「はぁはぁ」と鼻息を荒くさせている。
「あぁぁ……なんて可愛いぃんだろぉ……。はぁぁ……今すぐ、気持ちよくしてあげるからねぇ?」
「え、ちょ、なにを!?」
「くふふ……だぁいじょうぶ……ぜーんぶ、イクちゃんに任せてくれればいいからね? ね? 合法ショタなんてレアもの、そうそうお目にかかれないしぃ、ちょこっと味見するだけだからね……?」
「ショタじゃないし! うっ!?」
いまいち、イクノの言っている意味が分からなかったハルノブだが……彼女の手が自分の太もも辺りをまさぐり始めたところで、「これはやばい人だ」と察した。
「っ!」
馬乗りされているが四肢は自由だった。
ハルノブは、イクノの両肩を掴んで上体を起こし、逆に彼女を押し倒す。
イクノは「うわおっ」と驚いた声をあげるが、すぐに舌舐めずりする。
「くふふ……なぁに? ハルノブくん、興奮しちゃっ――」
と、イクノがなにか言う前に、ハルノブは玄関を開けて脱兎の如く逃げ出した……!
「なんなんだあの女!? くっそう……! 綺麗な顔に騙された! 都会の人はやっぱり怖い人ばっかりだ……!」
ハルノブの脳裏に、いじめられていた記憶がふつふつと蘇る……それをかき消すように頭を振り、とにかく逃げなければと、エレベーター前まで走る。
さて、ハルノブに逃げられて部屋に取り残されたイクノはというと……倒れたまま目を瞬いた後に、クツクツと不気味な笑みを浮かべ、ゆらりと立ち上がった。
「くっふっふ……あっはははぁ~! 逃がさないよぉ……合法ショタくん!」
鋭い眼光を走らせ、イクノは玄関をぶち破る勢いで飛び出す。その手には、どこから取り出したのか、鞘に納められた日本刀が握られていた。
その時点で、ハルノブはエレベーター前で、カチカチとボタンを連打していたが、なかなかエレベーターが来ない。
11階ということもあるのだろうが、途中で誰かしらが乗り降りしているせいで止まってしまうのだ。
そうこうしているうちに、イクノが近づいてきていることに気づいたハルノブは――。
「ひいいい!?」
ぴょんっ……と、廊下の手すりからマンションの中庭へ跳んだ。高さ11階から、1階にある中庭に――。
11階の高さから落ちれば、普通であればひとたまりもない。だが……ハルノブは着地の瞬間、着地時に発生した衝撃を全て地面に流し、完璧な受け身を取ってみせた。
グルンっと、地面を一回転し、そのまま中庭からマンションの外へ逃走。それを見ていたイクノは、「へぇ~?」と口の端を吊り上げた。
「11階から躊躇なく飛び降りて、しかも無傷なんてぇ……結構やるねぇ~? でもぉ~、そぉれぇ、イクちゃんもできるんだよねぇ~? だって、イクちゃんはぁ――」
イクノはそう言って、ハルノブと同じように11階から中庭へ飛び降りる。そして、中庭へ綺麗に着地すると同時に、地面を蹴って逃げたハルノブを追いかける。
「くふふ……イクちゃんは、学園最強の剣士だからねぇ~!」
刹那――稲光が走ったかと思うと、数百メートルは先行していたはずのハルノブにイクノが追いついてしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
独自ダンジョン攻略
sasina
ファンタジー
世界中に突如、ダンジョンと呼ばれる地下空間が現れた。
佐々木 光輝はダンジョンとは知らずに入ってしまった洞窟で、木の宝箱を見つける。
その宝箱には、スクロールが一つ入っていて、スキル【鑑定Ⅰ】を手に入れ、この洞窟がダンジョンだと知るが、誰にも教えず独自の考えで個人ダンジョンにして一人ダンジョン攻略に始める。
なろうにも掲載中
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる