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それぞれの道

15.おやすみ

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 史料を漁るところから始めなければならなかった三人は、ホーリーが求めた墓を完成させるのに数年の時を要した。
 時間をかけただけあって、出来栄えは非常に満足のいくものであり、死した彼女もきっと喜んでくれることだろう、と思えた。

 海の見える丘に作られたのは、西洋風というらしい横長の墓石だ。クンナムと呼ばれる美しい黒の石材で作られており、ホーリーの名前と生没年、シンボルとして本が彫りこまれている。
 墓石の前には色とりどりの花が供えられており、黒を華やかに彩っていた。

 本当は花の種類にも決まりがあるらしいのだが、過去と今では手に入る種類が全く違ってしまっており、同じものを揃えるのは困難を極めた。
 三人は熟考の末、各々がホーリーに似合うであろう花を持ち寄ることにしたのだ。

 誰もが明るい色。とりわけ、黄色や橙色の花をメインに据え、間に白や紫といった色が差されている。
 花達の中心に置かれているのは、いつかのストラップだ。

 比較的美しさを保っているものと、ボロボロになってしまったものの二つが寄り添うように並べられている。

「どうだ。満足してくれてるか?」
「小まめに掃除しにくるからな」
「いつかボクらが眠ったら、キミの傍にいくのかな、何てね」

 三人は肩を並べ、墓を見つめる。

 死とは、現代人に残された唯一の眠りだ。
 このまま世界に変化がなく終わっていくのであれば、彼らの意識の終わりは死によってもたらされる。

「さあ、ホーリー。
 ゆっくり眠ってくれ」

 シオンは鞄から日記を取り出した。
 手に良く馴染むそれは、件のものだ。

 書かれていた内容は既に電子化し、三人の手元に残っている。ホーリーが託したあの発表に関しては、まだまだ三人で議論を重ねる必要があるが、それはこの儀式を終わらせ、気持ちが落ち着いてからでいい。
 時間は有限だが、眠らぬエミリオ達にはまだ猶予がある。

「さようなら。
 また、いつか」

 ライターを手にしていたマリユスはシオンから日記を受け取り、火をつけた。

 墓には遺体や遺骨をいれるらしいが、ホーリーの体は既に分解され、必要なところへと送られている。
 彼女としての形を保っていない遺体の代わりに日記は選ばれた。残された何よりも強く彼女の魂がこもっているであろう物ならば代替品と成り得るだろう。

 遺体の処理方法は様々であるらしいようだったが、墓に入れる際の一般的なものとしては土葬と火葬の二つの選択肢が用意されていた。
 彼らは火葬を選んだ。

 土の中で蝕まれるよりも、煙となって天に消えていくほうが美しい死に様に思えたのだ。

「おやすみ、ホーリー」

 エミリオの静かな声が炎の音に紛れて消えた。


END
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