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プロローグ
夢の世界
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カツン、カツンと硬質な足音が世界に響き渡る。
真っ白な空間には窓一つなく、同色の床と壁があるばかり。天井と壁の境目すら不明瞭なこの場所は、長く留まるに適した場所ではない。
遥か彼方。無限に続くのではないか、と思ってしまうようなその場所にいるのは一人の少女だ。
小さな足を淡い黄色のピンヒールで飾り立て、ふらつきながら白の上を行く。
ただの一言も発することなく、呼吸音さえ聞こえぬままに少女が歩き続ければ、眼前に白ではない色が現れた。
愛らしいピンク色。形状は扉。
足を進める速度は変えず、彼女は一歩一歩着実に扉へと近づいて行く。
その間、彼女は悩んだ。
不変であるこの空間に現れた異物。触れても良いのか。先へ進んでも良いのか。答えをくれる人物などここにはおらず、全て彼女自身が選ばなければならない。
とうとう扉の前に立った少女は、ノブに手を触れようとして、しかし手を下げてしまう。
この先には何があるのだろうか。
生き物はいるのか。気温は適しているのか。ここと同じ空間がまた続いているだけなのか。未知というものには、希望と不安の両方が息づいている。
頼る者のない少女に選択させるというのは、なかなかに酷な話だ。
けれども、彼女は降ろした手をギュッと握り締め、強気な目を扉へと向けた。
永久に留まり続ける停滞はゆるやかな死だ。
ならば変化という希望を掴むしかない。怯えていた心に勇気が宿る。
少女は手を伸ばし、ノブを回す。そのまま自身の体重をかければ、錆び付いた音をたてながら扉が開いてゆく。
隙間から香ったのは白の空間にあった清らかさだけを含んだ空気ではない。もっと暖かで、様々なものが混ざり合い、甘さを含んだもの。
ガチャン、と激しい音が響き、扉は完全に開かれた。
そこでようやく、少女は扉の向こう側を目に映す。
風によって舞い上がった赤やピンクの花々が黄色い空を彩っては橙色の川へと落ちていく。川辺に生えた木々はクリーム色の葉を揺らし、桜のような淡い色合いを持った小鳥達が歓迎の歌を奏でている。
暖かな色で埋め尽くされたその世界に、少女はピンヒールを脱ぎ捨てて走りだした。
柔らかな地面は彼女の小さな足を受け止め、痛みなど与えぬよう包み込む。
どこまでも行けるだろう。そんな確信が彼女の中にはあった。空に輝くルビーの太陽が自分を見守っていてくれる限り、恐ろしいものは何一つとしてここには現れない。
花を摘み、指輪と冠を作ろう。自分の分と、小鳥達の分。
喉が渇けば橙色の川から水を汲もう。
そうして、歩き続け、いつか真っ白な魚と臙脂色の亀が泳ぐ海をゆき、淡いグリーンのフクロウや薄紅色の鹿がいる小島を訪れるのだ。
期待が何処までも膨らんでゆく。少女は歩む。
その後ろ。彼女がどこまで進もうとも、あの扉はあった。白く冷たい部屋は、いつまでも少女の帰りを待っている。
真っ白な空間には窓一つなく、同色の床と壁があるばかり。天井と壁の境目すら不明瞭なこの場所は、長く留まるに適した場所ではない。
遥か彼方。無限に続くのではないか、と思ってしまうようなその場所にいるのは一人の少女だ。
小さな足を淡い黄色のピンヒールで飾り立て、ふらつきながら白の上を行く。
ただの一言も発することなく、呼吸音さえ聞こえぬままに少女が歩き続ければ、眼前に白ではない色が現れた。
愛らしいピンク色。形状は扉。
足を進める速度は変えず、彼女は一歩一歩着実に扉へと近づいて行く。
その間、彼女は悩んだ。
不変であるこの空間に現れた異物。触れても良いのか。先へ進んでも良いのか。答えをくれる人物などここにはおらず、全て彼女自身が選ばなければならない。
とうとう扉の前に立った少女は、ノブに手を触れようとして、しかし手を下げてしまう。
この先には何があるのだろうか。
生き物はいるのか。気温は適しているのか。ここと同じ空間がまた続いているだけなのか。未知というものには、希望と不安の両方が息づいている。
頼る者のない少女に選択させるというのは、なかなかに酷な話だ。
けれども、彼女は降ろした手をギュッと握り締め、強気な目を扉へと向けた。
永久に留まり続ける停滞はゆるやかな死だ。
ならば変化という希望を掴むしかない。怯えていた心に勇気が宿る。
少女は手を伸ばし、ノブを回す。そのまま自身の体重をかければ、錆び付いた音をたてながら扉が開いてゆく。
隙間から香ったのは白の空間にあった清らかさだけを含んだ空気ではない。もっと暖かで、様々なものが混ざり合い、甘さを含んだもの。
ガチャン、と激しい音が響き、扉は完全に開かれた。
そこでようやく、少女は扉の向こう側を目に映す。
風によって舞い上がった赤やピンクの花々が黄色い空を彩っては橙色の川へと落ちていく。川辺に生えた木々はクリーム色の葉を揺らし、桜のような淡い色合いを持った小鳥達が歓迎の歌を奏でている。
暖かな色で埋め尽くされたその世界に、少女はピンヒールを脱ぎ捨てて走りだした。
柔らかな地面は彼女の小さな足を受け止め、痛みなど与えぬよう包み込む。
どこまでも行けるだろう。そんな確信が彼女の中にはあった。空に輝くルビーの太陽が自分を見守っていてくれる限り、恐ろしいものは何一つとしてここには現れない。
花を摘み、指輪と冠を作ろう。自分の分と、小鳥達の分。
喉が渇けば橙色の川から水を汲もう。
そうして、歩き続け、いつか真っ白な魚と臙脂色の亀が泳ぐ海をゆき、淡いグリーンのフクロウや薄紅色の鹿がいる小島を訪れるのだ。
期待が何処までも膨らんでゆく。少女は歩む。
その後ろ。彼女がどこまで進もうとも、あの扉はあった。白く冷たい部屋は、いつまでも少女の帰りを待っている。
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