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その様子を見て、驚いたのは中原だ。

「あの人は、確か・・」

記憶の奥底に眠っていた人物を思い出す。

あれは保育所に通っていた頃、仲の良かった・・友達の・・誰だった?

必死に顔を思い出そうとするが靄のようなものがかかってどうしても思い出せない。


「ここまで、きているのにな・・う~ん・・・」


頭を抱えていると近くにいた生徒の会話が耳に入る。


「ねえ、あの美人、会長のお母さまだって・・」

「へえ~・・そうなんだ」

「それって、勇人さまのってことだよね?」

「当然そうなるな・・」

「はあ~・・あんな美人が母親だなんて」

「羨ましいねえ~・・」

「「「うん・・・」」」


目を潤ませて話している内容に中原はハッとする。


会長のお母さんってことは、勇人のってことだ・・よ・・な・・・・

ん・・・?勇人のお母さん、だと・・


「会長も無事に弟さまが勇人さまが見つかって良かったよね・・」

「そうだな、佐川が弟だって噂が流れた時、きっとお優しい勇人さまだから名乗れなかったんだろうな・・」

「でも、何で最初から幸村を名乗らなったんだろう?」

「それって、きっと後継者争いに勇人さまを巻き込みたくなかったんだよ」

「そうか、だから勇人さま幸村ではなく相良を名乗ってたんだ・・」


相良、だとっ!

その名前を聞いた途端、一気に記憶が蘇った。


『あーちゃん、いっしょに遊ぼう?』

『あーちゃん、見て見て~』

『あーちゃん、行っちゃうの?』

『あーちゃん、あーちゃんっ!行かないでえええ―――っ!』


「そうか、そうだったんだ・・」


懐かしい記憶に頬を緩ませ、自分より後で出番を待つ勇人を見つめる。


「勇人さまは、あのゆうちゃんだったんだ・・」


幼い頃の思い出、もう二度と会えないと思っていた友達。

中原は一時的に都内の保育所に通っていた。

親から離され寂しくて一人で泣いていた時声をかけてくれたのは、金髪で目がクリクリしたかわいい子だった。

最初はウザくて近寄るなと遠ざけた。だが、それでも執拗に話しかけてきた。中原は無視していたが、勇人はニコニコして一人でしゃべっていた。

そのうち、砂場やブランコにつき合わされ気が付いたら声をだして笑っていた。

楽しかった―――

寂しさを忘れるぐらいに・・・


だけど、あっという間に別れの時が来た。

『イヤだ、ここにいてよ』

『無理だよ・・』

『何で、何でお別れなの?』

『・・・』

『明日も会えるよね?』



オレはあの時、言葉が出なくて首を横に振った。すると、勇人は目に涙をいっぱい溜めて、ポロポロと流した。


『やだ!明日もあーちゃんと一緒に遊ぶんだっ!』



駄々をこねる勇人に困っていると、オレの迎えが来た。


『亜矢さま、お迎えにあがりました。みなさまとのお別れはお済ですね?』

『はい・・・』


納得できていない勇人が泣くのを止め目を大きく見開く。


『あーちゃん、ホントに行っちゃうの?』


後からかけられた言葉を最後にオレは車に乗り込んだ。

『あーちゃん、あーちゃん―――っ!』


あれ以来勇人と会うことはなかった。その彼が今目の前にいる。

それが嬉しくて興奮した。


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