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しおりを挟む早瀬の極上のお弁当を食べた生徒会メンバーは何事もなかったように専用のテントに入った。
夏樹は開始の合図をするため放送席へと向かうと、チラチラと目を泳がせ顔を赤くしている進行役と目が合った。
「何だ、どうした?」
「えっと、あのさっきの障害物競走で不備がありまして・・」
「不備・・?」
「はい、あ、あの・・勇人さまですが衣装を一点お忘れになりまして、順位が最下位に変更となりました」
「はあっ?どういうことだ、忘れたって何を?」
「えっと、袋の底にくしゃくしゃになっていたので気が付かれなかったようで・・その~レースの手袋が残ってました・・」
「レースの手袋・・・」
「はい、それがこれです」
手渡されたそれは確かに勇人の女王様の衣装の一部のようだ。あの中からこれを身に着ける者は見当たらない。
「はあ~・・マジかあ~・・あんな恥ずかしいおもいをしたのに失格とは・・・」
「ざ、残念ですが・・・」
申し訳なさそうに頭をさげる進行役に夏樹は苦笑した。忘れた勇人が悪いのであって彼の責任ではない。
しかし、これはさすがに勇人がかわいそうになった。
「それと、未確認情報ですがコスプレした選手を写真部が隠し撮りしていたらしいと・・」
「隠し撮りって・・つまり盗撮か?」
「はい、一応風紀委員には報告してありますのでご安心を・・」
「そうか、助かる。」
「いえ、これも親衛隊の仕事ですから」
「そうか・・しかしこれは公表しないとダメだな」
「そうですね・・」
進行役を務めるのは、早瀬の親衛隊隊長の中巻だ。彼は早瀬一筋の生徒で成績も優秀で機転も利く生徒で夏樹も認める数少ない生徒だった。
「私が公表しますので会長は勇人さまにお知らせしてください」
「わかった、頼むぞ」
夏樹は険しい顔で一旦生徒会のテントへと戻ると勇人の前に来た。
「夏兄?」
キョトンとして首を傾げる仕草に胸が痛んだが、黙っているわけにもいかない。
「勇人、残念な知らせがある・・」
「へっ・・・何?」
「あのな、さっきのコスプレだが衣装が一点残っていてな・・」
「え、残ってたって・・・何が?」
あれだけの恥をかいたのに、残ってたって何だよそれっ!
「あー、わかった。レースの手袋だ」
「レースの手袋・・・?」
拓也の言葉に夏樹も黙って頷く。
「わあー、全然気が付かなかった。」
「そうか・・それでな、言いにくいんだか・・」
「・・・・え、まさか?」
「ああ・・失格だ」
失格!え、ちょっと待って!・・失格ってことは・・・零点・・・・
「えええええ―――――っ!マジで?あんな恥ずかしい思いをしたのにいいいーーっ!!」
「ああ、そういうことだ。生徒会だからといって例外は認められない」
「だああああああああああ―――――――っっっ!!!!信じらんねえっ!あれだけ覚悟してやったってえのにっ!失格なんて、あり得ねえっっ!!!」
失格と知らされて勇人は嘆き悔しさで大声で叫んだ。
そして、ギロッと拓也を睨みつけた。
「え、ちょっと待って。それはオレのせいじゃないでしょ」
「うるせーっ!これもお前が仕組んだせいだろうがっ!」
勇人自身も八つ当たりだとわかってはいる。わかっているがやりきれない思いをぶつける相手は拓也しかいなくてじりじりと泣きの形相で拓也に近づいて行く。
「オレはクラスのためにあれを着たんだ。着たくて着たわけじゃねえんだよ!それなのに失格なんてっ!クソっ!確かにこれはオレのミスかもしれねえ!でも拓也オレはお前をっ!コラっ!逃げんなああああ―――っっ!!」
追い詰められた拓也はこれ以上我慢が出来ずテントから逃げ出した。
「もう、勘弁してよおおお――っ!」
「拓也あああ――っ!!待てええええ―――っ!!」
逃げ出した拓也を勇人は追いかけて行く。
「あーあ、行っちゃった~・・」
「コメディみたいだな・・」
ポツンと呟いた和也に他のメンバーは頷き、そして疲れ果てて本日何度目かの大きなため息を吐いたのだった。
「・・・・・・・・・・」
いつまで続くんだ、これ・・・?
と、内心思いながら・・・
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