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しおりを挟むトイレから戻る途中海斗に呼び止められ、引きずるように連れて来られたのはこれから始まる百メートル走の列の最後尾だった。
「何でオレが・・?」
「いいから並んでいろ」
ケガか何かした奴の代走だということはわかるけど、何でオレなんだよ?準備やなんかで忙しくてやっとゆっくりしたいたところだったのに・・
「ごめんな幸村。迫田がケガして出れなくなったんだ」
申し訳なさそうに謝られたらイヤとは言えない。
「いや、別にいいけどそいつ大丈夫なのか?」
「ああ、たいしたことはないんだけど優勝目指しているからな」
う~ん・・・確かそんなことを夏樹兄さんが言ってたよな。じゃあ、あれか夏樹兄さんのせいでオレは代走に?
「他の奴らでもよかったんじゃ?」
「確かにそうなんだけど、海斗の奴が勇人は早いからって・・」
「・・・」
海斗の奴余計なことをしやがって!
「オレ、そんなに早くねえぞ」
「へ・・そうなのか?でも今更変更はできないし・・」
少し考えてから岡田は
「まあ、いいんじゃないか?幸村なら会長も何も言わないと思うし・・」
うんうんと一人で納得した岡田は動き出した列について行った。
何だか騙された気分になったが、まあいいかと割り切って後へと続いた。
人数が多いのでグランドに入りきれず、前半後半と別れてスタートすることになっていた。
勇人は後半の最後で、きっと盛り上がるに違いないだろう。もしかして海斗はそれを狙っているのかもしれない。
最初のスタートのホイッスルが鳴ると、一斉に走り出すとともに黄色い声があがる。
「キャアアアアア―――っ」
随分離れているにもかかわらず聞こえて来る応援の声にこっちも興奮してくる。
色々あったけど、今はこうやって楽しめばいいんじゃないかと思った。オレはまだ十六歳の高校生だ。これからいくらだって道は選べるはずだ。
幸村家の人間だからというのが全てではないはずだ。
ごちゃごちゃ考えても仕方がない。
「オレは、オレの道を選んでみせるっ」
こうして勇人の迷いは消え、視界が明るく開けていくような気がした。
気が付けば前半の半分ぐらいは終わっていて、スタート地点に高坂さんがいるのが見えた。
風紀委員も生徒会も競技には参加しているのだからおかしくはないが、間地かに彼の姿を見つけて顔が赤くなった。
伸びた髪を後に流して前だけを見ている姿に周りは興奮していた。
「キャアアアアア―――っ!!」
「高坂さまあああーーーっ!!」
「頑張ってええええ―――っ!!」
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